第10話 修司とデート(脚本)
〇一戸建て
7月6日(土)
午後2時前、修司が花奈を迎えにやって来た。
水杉花奈「お待たせ」
吉岡修司「じゃあ、行こうか」
水杉花奈(こうして、修司が家にやって来るなんてよくあることなのに、今日はやっぱり緊張するな・・・)
いつもより言葉数が少ない花奈を見て、修司が苦笑する。
吉岡修司「花奈、そんなに緊張しないで。 いつもどおりで行こうよ」
水杉花奈「うん。そうしたいんだけど・・・」
水杉花奈(やっぱり、デートだと思ったら緊張しちゃうよ・・・)
吉岡修司「まあ、そんな風に意識してくれるのはすごくうれしいんだけどね」
水杉花奈「修司・・・」
〇映画館の入場口
修司が花奈を連れてきたのは、映画館だった。
吉岡修司「花奈、先週から始まった映画、観たいって言ってたから」
水杉花奈「覚えててくれたんだ」
水杉花奈「でも、わりとシリアスな恋愛ものなのに、修司の趣味じゃないんじゃない?」
吉岡修司「たまにはいいかなって」
吉岡修司「自分じゃ観ないようなのを観る、せっかくのチャンスだと思ってね」
水杉花奈「修司ってば、ポジティブだね」
吉岡修司「というか、花奈と一緒に観れるなら極論、なんでもいいんだけど」
水杉花奈「そ、そんな風に言われると、どう返したらいいのか・・・」
吉岡修司「ハハッ、困らせてごめんね。 でも、それが僕の本音だから」
はにかみながら微笑む修司を見て、花奈はどんな顔をすればいいのかわからなかった。
吉岡修司「ねえ、前に花奈と映画を観に来たのって・・・」
水杉花奈「えっと、確か小学生の時だったよね。 謙弥と3人で」
水杉花奈「・・・なんのアニメだったっけ?」
水杉花奈「がんばっておこづかいを貯めて行った覚えはあるんだけど」
吉岡修司「そうそう。花奈は欲しい文房具を我慢したって言ってたね」
微笑む修司に、花奈は目を丸くする。
水杉花奈「そんなこと、よく覚えてるね! 懐かしい・・・」
吉岡修司「本当、ついこの間のような気がするのに・・・」
水杉花奈「もう、10年くらい前のことじゃない?」
吉岡修司「そうやって考えたら恐ろしいね」
水杉花奈「はは、言えてる・・・」
水杉花奈(あの頃は、デートで修司と映画に来るなんて考えたこともなかった・・・)
〇映画館の座席
映画を見終えた花奈は軽く目頭を押さえてから、修司の方を見た。
水杉花奈「修司、どうだった?」
吉岡修司「面白かったよ。ラブロマンスっていうの? そういうのも、いいかもしれないね」
水杉花奈「本当?」
水杉花奈「身分違いのラブストーリーだったから、やっぱり切なくて、ちょっと泣いちゃった」
吉岡修司「うん。 僕も少しうるっときたシーンがあったよ」
吉岡修司「ほら、主人公の女の子が馬車に乗って・・・」
水杉花奈「そう、そこなの!」
水杉花奈「本当は会いたいのに立場上仕方なく・・・見てるだけでつらかったんだけど」
吉岡修司「でも、そう考えれば・・・僕たちは幼馴染みでよかったよね」
水杉花奈「どうして?」
吉岡修司「小さい頃からずっと一緒だったから相手のことはもちろん、お互いの家族のこともよく知ってる」
吉岡修司「だから、僕たちは大丈夫だね」
優しく微笑む修司を、花奈ははっとして見つめた。
水杉花奈(修司は映画を観て、自分たちのことをそういう風に思ってたんだ・・・)
吉岡修司「さてと、少し休憩しない? この近くに純喫茶があるみたいなんだけど」
水杉花奈「へえ、純喫茶! 行ってみたいな」
〇レトロ喫茶
マスター「いらっしゃいませ」
土曜の午後ということもあり、店内は混雑していたが、2人はどうにか窓際の席に着くことができた。
吉岡修司「他に、恋愛ものでおすすめってある?」
水杉花奈「えー、どうかなあ?」
しばらくはまだ映画の話をしていた花奈と修司だったが、注文していたクリームソーダとカフェオレがテーブルにやって来ると
ふと花奈がつぶやいた。
水杉花奈「クリームソーダと言えば・・・」
吉岡修司「えっ、何?」
水杉花奈「覚えてない? 小学校・・・2年生くらいだったかな」
水杉花奈「クリームソーダの色で修司と謙弥が・・・」
吉岡修司「・・・ああ、思い出したよ!」
吉岡修司「確か、僕が言い出したんだよね」
吉岡修司「幼稚園の時に、おじいちゃんに連れられて喫茶店に行ったんだけど、その時に青色のクリームソーダを飲んだって」
水杉花奈「うん。そうしたら、謙弥が『クリームソーダは緑色に決まってるだろ』って決めつけてね」
吉岡修司「そうそう。僕もムキになって言い返したなあ」
水杉花奈「今になって思い出しても、修司があんなに熱くなるのって珍しいよね」
吉岡修司「その時には、おじいちゃんはもう亡くなってたからね」
吉岡修司「なんだか、おじいちゃんとの大事な思い出を否定されたみたいで悲しくなったんだ」
吉岡修司「だから、つい」
水杉花奈「なるほど、そうだったんだね」
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