片耳うさぎ

カジキ

エピソード5 「片道」完結(脚本)

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〇田舎の病院の病室
昔の玲司「── 失礼しまーす」
昔のリリナ「──!?」
昔の玲司「──って・・・あれ?」
昔の玲司「病室、間違えたか?・・・」
昔の玲司「──ヤッベ、どこだっけあの病室・・・」
昔の玲司「ごめん お嬢ちゃん、ちょっといい?」
昔のリリナ「──は、はい・・・なんですか!?」
  ──ピラッ
昔の玲司「ここの病室の場所を知りたいんだけど、 知らねえか?」

〇田舎の病院の病室
昔の玲司「わるいな嬢ちゃん、助かったぜ」
昔の玲司「まさか、頭の数字が病室の階数を示してたなんて知らなかったぜ」
昔のリリナ「いえ・・・気にしないでください・・・」
昔のリリナ「────」
昔の玲司「ごめんな、邪魔して」
昔の玲司「教えてくれてありがとな、嬢ちゃん」
昔のリリナ「あ・・あの・・・」
昔の玲司「──ん、なんか呼んだ?・・・」
昔のリリナ「いえ・・・なにも・・・」
  昔のリリナ
  今、ここで引き止めたらこの人に迷惑が掛かります・・・
  昔のリリナ
  ──それに・・この人は”私のお見舞い”に来たわけじゃない
  昔のリリナ
  前に比べて、一人でいる事にも慣れてきま
  した・・・
  昔のリリナ
  ──もう・・・
昔の玲司「あ、そうだ、そうだ──」
昔の玲司「──これやるよ  ホイッ」
昔のリリナ「──!?」
昔の玲司「教えてもらった、お礼だ」
昔の玲司「──じゃあな」
  ──ガラッ
昔のリリナ「・・・・・・」
昔のリリナ「────りんご?」
昔のリリナ「──あ、ありがとう」
  ・・・・
昔のリリナ「あの人も居ないのに何言ってるのかな・・・ わたし・・・」
昔のリリナ「・・・・」
昔のリリナ「────」
  ──パタン

〇田舎の病院の病室
  カァー カァー
昔のリリナ「・・・日が落ちてきましたね」
昔の玲司「そうですね・・・」
昔のリリナ「な、なんでいるですか!?」
昔の玲司「なんでって・・・一応りんごに書いておいたんだけど」
昔のリリナ「りんごに・・・?」
昔のリリナ「・・・『また来る』」
昔の玲司「──それに病人に皮付きのりんごは食べにくいだろ」
昔の玲司「りんご、借りてもいいか?食べやすいように 切ってやるよ」
昔のリリナ「どうぞ・・・」

〇田舎の病院の病室
  ──カリカリッ カリカリッ
昔のリリナ「・・・ご友人には、会えましたか?」
昔の玲司「おう!おかげさまでな」
昔のリリナ「それは・・・よかったです」
昔のリリナ「・・・・」
昔のリリナ「あ、あの・・・」
昔の玲司「──よしっ、うまくいったぁぁ!!」
昔の玲司「まな板なしでりんご切るの難しすぎだろ」
昔の玲司「こんなのアニメだったら、簡単そうに切れるのによお・・・」
昔の玲司「やっぱりすごいわ、アニメキャラって・・・」
昔の玲司「で、──なんか言いかけたか?」
昔のリリナ「いえ・・・」
昔のリリナ「・・・いただきます」
  ──カリッ
昔のリリナ「────」
昔の玲司「どうだ、美味しいか?」
  ぽたっ  ぽたっ
昔のリリナ「─────」
昔のリリナ「お・・・おいしい・・・です」
昔のリリナ「ありがとう・・・ございます・・・」
昔の玲司「──ど、どうした、どうした・・・」
昔の玲司「そんなにリンゴがうまかったのか・・・」
昔のリリナ「──違う──いや、違わなくて・・・ えっと・・・私──」
昔の玲司「──ま、まあ落ち着いてくれよ」
昔のリリナ「ずっと・・一人で・・・誰も来なくて・・・」
昔のリリナ「つらくて・・・寂しくて・・・」
昔のリリナ「何年も・・・何年も、ここで・・・」
昔のリリナ「でも隣の部屋は・・・」
昔のリリナ「楽しそうで・・・笑顔で・・・」
昔のリリナ「わたしも・・・」
昔のリリナ「──私にも" お見舞い" 来て欲しかった」
昔の玲司「──!!」
昔のリリナ「──わたしも・・・わたしにも・・・」
昔の玲司「・・・・」
昔の玲司「わかった・・・わかったから・・・」
昔の玲司「とりあえず落ち着いてくれ・・・」
昔の玲司「──落ち着くまでここにいてやるから」

〇田舎の病院の病室
昔の玲司「落ち着いたか・・・」
昔のリリナ「はい・・・すみません・・・」
昔の玲司「──いいって、いいって、気にすんな」
昔のリリナ「・・・・」
昔の玲司「──それより、どうだった?」
昔のリリナ「──どう・・・だった?」
昔の玲司「──ほら、りんごだよ りんご」
昔の玲司「──大号泣しながら、うまい、うまいって ばりむしゃ食べてただろう」
昔のリリナ「・・・あれは、違くて」
昔のリリナ「りんごなんて・・・初めてで・・・」
昔の玲司「──マジで!りんご、初めて食べたのか」
昔の玲司「じゃあ、じゃあ、牛肉を食べたことは?」
昔のリリナ「─! いいえ・・・」
昔の玲司「子供の活力"ケチャップ"やトマトとかも?」
昔のリリナ「一度もないです・・・」
昔の玲司「へえ──、世界には変わった人がいるもんだな・・・」
昔の玲司「──ちょっと、試しに俺の顔、触ってみてもらってもいいか?」
昔のリリナ「──なぜですか!?」
昔の玲司「いや──、トマトの力を見せてやろうと思ってさ」
昔の玲司「なんか、トマトにリコピンっていう肌の老化を防ぐ効果あるらしくて」
昔の玲司「──俺を触って、トマトの偉大さを実感してもらおうと思ってさ」
昔のリリナ「────」
昔のリリナ「・・・・わかりました」
昔のリリナ「・・・・」
昔の玲司「どうよ、ツルツルすぎてビビったろ」
昔のリリナ「・・・ザラザラしてますよ」
昔の玲司「──ヒゲだよ、ヒゲ、男の勲章!!」
昔の玲司「ちょっと間がわるくて見せられそうにないが 剃れば、摩擦係数ゼロの肌があらわに・・・」
昔のリリナ「──ふふふ」
昔の玲司「────」
昔の玲司「まあ、落ち着いてくれたならいいや」
昔の玲司「やっぱり、笑顔が一番だよな」
昔のリリナ「あ、あの・・・・」
昔の玲司「──なに?」
昔のリリナ「どうして、私のところに来たのですか?」
昔の玲司「ああ── それは・・・」
昔の玲司「別に、特別変わった理由なんてねえよ・・・」
昔の玲司「ただ、俺が話をしたかっただけ」
昔の玲司「俺にとって、おしゃべりが大好きなの」
昔の玲司「──それだけだよ」
昔のリリナ「──つまり、誰でもよかったんのでは」
昔のリリナ「・・・・」
昔の玲司「──違う違う、建前だよ、建前上の話!!」
昔の玲司「知らない男が小さい女の子に会いたくて来ちゃった、とか言ってたらヤバいだろ・・・」
昔の玲司「俺は、小さな子供が暗い顔をしてたから、 心配だったの」
昔のリリナ「暗い顔・・・ですか?」
昔の玲司「俺から見ても、思い詰めてんだろうな──って感じるぐらい、暗〜い顔してたぜ」
昔のリリナ「そういうのって、気がつけるのですか?」
昔の玲司「──そんなの簡単だよ、、自分と比べたら すぐよ!!」
昔のリリナ「そういうものなのですか?」
昔の玲司「そんなもん、そんなもん」
昔の玲司「やってみたら、君でも気がつけるよ」
昔のリリナ「・・・分かりました、機会があればやってみたいと思います」
昔の玲司「うん、ぜひやってみてくれ」
昔の玲司「さてと、いろいろと聞き足りない事あるかもだけど、そろそろ帰るよ」
昔のリリナ「────」
昔の玲司「そんな、寂しそうな顔すんなよ」
昔の玲司「俺、結構暇な時間ができることがあるから、この病室にまた来るよ」
昔のリリナ「また、来てくれるんですか!?」
昔の玲司「おう!せっかくの”縁”だしな、俺的にも 大切にしておきたい」
昔の玲司「しかも、いろいろと食べ物とか知らないらしいし」
昔の玲司「適当に食べられる物を持ってくるから、試食会でもしようぜ」
昔のリリナ「・・・・」
昔のリリナ「──はい!!」
昔の玲司「──それじゃあ、ええっと・・・」
昔の玲司「そういえば、君の名前聞いてなかったわ」
昔の玲司「お嬢ちゃん、なんていう名前なんだ」
昔のリリナ「──リリナです」
昔の玲司「リリナちゃんね、オッケー 忘れないようにメモしておくね」
昔の玲司「ちなみに、俺の名前は、荒川 玲司 (アラカワ レイジ)」
昔の玲司「俺は君のことを、ちゃん付けして呼ぶから 玲司”くん”って、呼んでもいいぜ」
昔のリリナ「玲司さんって、呼びますね」
昔の玲司「俺のリクエストは、見事スルーかよ」
昔の玲司「まあ、これからよろしくな、リリナちゃん」
昔のリリナ「──はい、玲司さん」

〇大きい病院の廊下
昔の玲司「あれが、佐藤さんの生き霊か・・・」
昔の玲司「はあ──、確かにどこか面影を感じる姿では、あったなあ・・・」
昔の玲司「毎度のことだけど、気乗りしねえなあ」
昔の玲司「・・・・」
昔の玲司「──あああ!うだうだ言っても仕方がねえ」
昔の玲司「早いところどうにかするしかねぇ・・・」
昔の玲司「まずは、親しくなって・・・それから──」
リリナ「──玲司さん」
昔の玲司「──!?」
昔の玲司「──どうしたの?リリナちゃん」
昔の玲司「お見送りに来てくれたの、ありが──」
リリナ「──玲司さん」
昔の玲司「ど、どうした・・・?」
リリナ「────」
リリナ「──また面白い話、聞かせて下さいね」
昔の玲司「お、おう・・・分かった、任せろ」
リリナ「────」
リリナ「──ありがとうございます」
昔の玲司「────!!」
昔の玲司「あれ?リリナちゃん・・・」
昔の玲司「──面白い話かあ・・・・」
昔の玲司「ついでに考えておくか・・・」

〇総合病院
佐藤さん 「本当にありがとうございました、玲司さん」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「いえ・・・対応が遅れ、長い間お辛い思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「──本当にね」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「もし霊のせいで、佐藤に何かあったら呪殺してやろうと考えたわよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──霊をですか?」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「──あんたを!!」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「でも、佐藤を助けてくれてありがとう・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──いえ、羽瀬川さんが付きっきりで 佐藤さんの看病していただいたおかげです」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「羽瀬川さんがいなかったら佐藤さんの体は、より危険な状態になっていました」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「こちら方からもお礼を言わせてください」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──本当にありがとうございました」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「そ、そう・・・」
佐藤さん 「──玲司さん」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「はい、なんでしょうか」
佐藤さん 「こちら、受け取っていただけますか?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「── ”千羽鶴”じゃないですか」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「どうしたんですか、これ?」
佐藤さん 「実は、小さい頃から風邪を引いた時に、鶴を折ってしまう癖がありまして」
佐藤さん 「今回の入院の際に作ったものです」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「とても、上手に鶴を折られるのですね」
佐藤さん 「そして玲司さん、お願いがあります」
佐藤さん 「こちらを、生き霊さんのために供養していただけませんか」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──!!」
佐藤さん 「今回、辛い思いをしたとは言っても、生き霊さんが悪いとは考えていません」
佐藤さん 「私たちが命をいただくように、生き霊さんたちにも生きるための事情はあると思います」
佐藤さん 「ですが、私が生きるために生き霊さんに 可哀想な事をしてしまいました」
佐藤さん 「ですので、これを彼女に──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──きっと、リリナも喜びますよ」

〇通学路
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────」

〇田舎の病院の病室
  プスッ ・・・プスッ・・・
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「は・・はは・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「一人・・・たった、”一人”の女の子すら 救えねえんだな、俺は──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「なにが、これさえ飲めば救われるだぁぁあ」
  ──カティーン カラン カラン・・・
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「はぁ、はぁ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「なあ・・・神さま」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「罰を受けるなら俺だけでいいだろ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──俺は、子供を殺してきた」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「この仕事を始めた時から、霊も救える方法を 知っていた・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「知っていながら──分かっていながら 何人も殺してきた・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「今回、彼女が死んだ原因も、俺の用意した ”りんご”のせいだ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──俺みたいな奴こそ、死ぬべきだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「彼女は、この狭い病室で閉じ込められてきた」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「子どもにとって、たった一年でも一生に感じたはずなのに・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「何年も、何年も、何年も・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「”ひとりぼっち”だった・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「そんな子が死ぬべき理由って、なんなんだ!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「俺の性根が気に入らないなら罰しろ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「命で償えって言うなら人生だってくれてやる」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──俺の差し出せる物なら、なんだって」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──ただ、リリナの人生を返してくれよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「なあ・・・頼む・・頼むよ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──神さま」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──こんな物があったから!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「─────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──ぷっ、はははは」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「出会った頃のお返しか・・・」
  「また来ますね」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「また、会えるのか・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「会ってくれるんだな・・・俺みたいな奴でも」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「分かったよ、リリナ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──今度は、俺が待つよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「君が俺を待ってくれていたように」
「──何年でも、何十年でも」

〇通学路
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──ありがとな リリナ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──さてと、霊も見えなくなっちまったし、新しい仕事でも探すか・・」

〇大きい病院の廊下
  リリナ
  ──また面白い話、聞かせて下さいね

〇通学路
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「せっかくだし、絵本でも書いてみるか・・・」
  ──リリナに読んでもらうために

コメント

  • すみません、めちゃ遅れましたが読みました!
    失ったものも多い、切ない物語だったけど、玲司はきっと前を向いて生きて行くんだろうと思います!
    いい話でした!

  • 優しさが心に沁みる良いお話でした!!
    生き霊といえど失ってしまうのは切ないですね!
    懸命に彼女のために頑張った玲司も素敵です♡
    その優しさを活かして、新しい道を行ければ良いなぁと思いました😃
    タップノベル盛り上げましょう、私のも覗きに来てくださいね(*゚▽゚)ノ

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