エピソード6 「両愛」(脚本)
〇書斎
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
──うん・・・うん・・・
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
あまり、無茶なことはしないでくれよ・・・
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
・・・おう、ちゃちゃッと終わらせて
すぐ向かうから
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
──そっちも、そっちで頑張ってくれよ
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
──じゃ
──ピッ
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──よしっ! やるぞ──!!」
──トゥルル トゥルルル
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──んあ? はい、はい、はーい」
──ガチャッ
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
──もしもし、荒川です。
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
──!?
〇おしゃれなレストラン
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──あれから7年ぐらいかあ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「すっかりおじさんって、年齢かあ・・・」
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
俺の名前は、荒川玲司 28歳
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
霊媒師としての仕事ができなくなってから、早くも7年経とうとしていた
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
仕事をしていた時の貯金がそこそこ残っていたから、しばらく生活には困らなかった
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
──でも、このまま無職というわけにもいかないから、新しく仕事を探した
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
とはいっても、今まで霊媒師の仕事しかしてこなかったから普通の働き方を知らなかった
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
普通に考えたら、ハ○ーワークに直行すべきだと思ったのだが──
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
俺は、”リリナ”との約束である──
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
── 面白い話を作りたかった
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
そのための本を作る仕事──”絵本作家”になった
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
人生で初めて自分からやりたいと思った仕事
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
じゃんじゃん作って、全世界の子供たちから
ちやほやされる存在になろうと思っていた
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
──思っていたのだが・・・
編集者「──おいおい、レイジ〜」
編集者「早く、ちゃちゃッと書いてくれよ〜」
編集者「感傷に浸ってないでさ〜」
荒川 玲司(あらかわ れいじ)
──この鼻につく、クソ野郎の名前は、
『山内 拓実(やまうち たくみ)』
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)
中学からの友達で、いま働いている出版会社の”社員”兼──
──俺の、”敵”(編集者)である
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──るっせえよ、すぐ書けるもんじゃねえだろ、もともと・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──というか、連続で本を書かせるなんて、鬼みたいなスケジュール管理なんだよ!! マネジャー出てこい!!」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──俺だよw」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──知っとるわ!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──せっかく、早めに本を書き切ったのにまた仕事を持って来やがって」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──今日が大事な日だって知ってただろ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──俺の人生で、最も」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「ご苦労さんで〜す、お疲れさんで〜す」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──よし、殺す バキッ (ペンが折れる音)」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「・・・でも、仕事ならしゃあねえ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──絵本作家は、ただ書くだけだ」
〇おしゃれなレストラン
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「はぁ・・・はぁ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「な、なんとか書き切った・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「ご苦労さ〜ん」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「やっぱ、土壇場にやらせると強いな── 絵本作家・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──このまま、もう一つ作品いっとく?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「いかねえよ!!」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──冗談だってw」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「じゃ、確認させてもらうよ」
〇おしゃれなレストラン
ピラッ・・・ ピラッ・・・
山内 拓実 (やまうち たくみ)「・・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──ひとつ、聞いてもいいか?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「なんだよ?」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──なんで、バカっぽい話を書くんだ?」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「いやだってさ・・・話が単純すぎて話が 見えるって言うかさ・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──こんなの子供にとって、つまらねえんじゃねえか?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「そうかもな・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「最近だったら、子供が頭を使う話の方が親御さんにも受けがいい・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「親のニーズに合わせていくのが絵本作家として、腕の見せ所じゃねえのか?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──ああ、」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──金儲けという点ではな」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「確かに、買うのも読み聞かせるのも親だ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「だから、親が買いたそうな物に仕上げるのは分かる・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「でもよ・・・読むのは”子供”なんだぜ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「── 子供が読んで楽しめる」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「それがこの本の価値そのものだろ」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「内容が難しすぎて理解できない子たちだっているかもしれない」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「俺はそんな子供でも理解できるようにしたい」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「それに俺は、バカっぽい本しか書かねえし、 書けねえ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「頭の使う本は他の作家にでも頼んでくれ」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「────」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──ハハハッ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「んだよ・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──いやっ、昔は霊のことで頭一杯だったお前が、絵本に熱が入ったこと言えるんだなと思って」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「色々あったんだよ、色々・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「まあ、影があった昔のお前よりいいんじゃね」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「なんか、まっすぐ生きてるって感じがするよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──陰陽師だから陰と関わってるのは当然だろ」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「嫌、そういうことじゃなくて・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「まあ、いいや・・・また、新しい絵本でも考えといてくれよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──へいへい、分かりましたよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「だったら、本の資料になりそうな物を持ってきてくれよ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ネタになるかもしれないし」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──了解、家にある要らない本でも持ってくるよ」
プルルル プルルルッ
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「やべっ、無駄話してる場合じゃなかった」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「────」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「早く行ってやれ」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「確認してみても大丈夫そうだし、このまま 会社に持ってくよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「おう、頼んだぞ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「あと、許可なく仕事取ってくる癖やめろよな」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「はいはい、善処しまーす」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「こいつ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──まあいいや、じゃあな」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「────」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「はあ・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「これでアイツも家族持ちかあ・・・」
山内 拓実 (やまうち たくみ)「──俺も、恋人でも探すかな」
〇病室のベッド
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ハア ハア・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──悪い、遅れた」
佐藤さん 「──玲司さん」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「遅い、何やってんのよアンタは!!」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「こんな時に仕事ってどんな神経してんの!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──いててててて、ギブギブギブッ!!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──悪い悪いって、全国の子供たちの為に働いてたから勘弁してくれ」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「あら〜、生まれてくる子供より他の子を優先できるなんて、寿と一緒にアンタの葬式もしないとだめかしら〜」
佐藤さん 「──二人とも!!ここ病院だから、うるさくしたら ──ウッ!!」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「──佐藤 !!」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「こんなことしてる場合じゃない、アンタも 早く来なさい!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──お、おう」
〇病室のベッド
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「陣痛の間隔はどうなってる?」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「だいぶ、短くなってきている」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「──もうすぐ" 生まれてくる"わよ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「─── そうか」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「もし来なかったら、絞めてやろうと思ったけど、間に合ってくれて良かったわ・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「羽瀬川にも色々と助けられた、ありがとう」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「礼なんていいから──佐藤の手、握って あげなさい」
佐藤さん 「───ウッ!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「── 優さん!!」
佐藤 優 (さとう ゆう)「ハア ハア、玲司・・・さん・・・」
佐藤 優 (さとう ゆう)「──ウッ・・・アッ!!」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──頑張れ! 頑張れ! 優さん」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「頭が見えてきているわよ、力を入れて!佐藤」
佐藤 優 (さとう ゆう)「──ウッ・・・アッ、アアア」
佐藤 優 (さとう ゆう)「ハア・・・ハア・・・」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「呼吸を整えて、もう一回、力を入れて」
佐藤 優 (さとう ゆう)「玲司さん・・・手、握っていてくれませんか」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ああ、握ってる・・・いつまでも握り続ける」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──だから、頑張ってくれ!! 優さん!!」
佐藤 優 (さとう ゆう)「────」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「──息を吸って、一気に行くわよ!!佐藤」
佐藤 優 (さとう ゆう)「──は・・・はい!!」
佐藤 優 (さとう ゆう)「──ウッ・・・あッ、あああああッ!!!」
──おんぎゃあ おんぎゃあ!!
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「──生まれたわよ!! 元気な女の子が」
佐藤 優 (さとう ゆう)「はあ・・・はあ・・・良かった・・・」
佐藤 優 (さとう ゆう)「──生まれてくれて、本当に良かった」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──よく頑張ってくれた、優さん」
佐藤 優 (さとう ゆう)「こちらこそ、ありがとうございます」
佐藤 優 (さとう ゆう)「玲司さん、この子のお名前どうしますか?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ええっと・・・この子の名前は───」
赤ちゃん
──あっ、あっ
佐藤 優 (さとう ゆう)「──どうしたの? これが欲しいの」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──りんご?」
佐藤 優 (さとう ゆう)「なんでだろう、りんごが気になるのかな?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「俺も、抱いてみていいか」
佐藤 優 (さとう ゆう)「────うん」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「これが、俺たちの子供──」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「元気に育ってくれよ」
赤ちゃん
──きゃつ きゃっ
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──なんだ、くれるのか?」
赤ちゃん
──レイ・・・シィ・・
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「───!?」
赤ちゃん
──レイシィ リンゴ・・スキ・・・
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「・・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「そっか・・・そうだったのか・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)
── ” 君” だったのか
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「どうしたの、急に泣き出して!?」
佐藤 優 (さとう ゆう)「──泣かせてあげて」
羽瀬川 優子 (はせがわ ゆうこ)「佐藤・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──あ"あ"あ"・・・あ"あ"あ"あ"・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)
あの時、薬を飲ませたからか・・彼女の
生き霊だからか・・・原因はわからない
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)
──でも、本当に神という者が存在するなら、心から感謝いたします
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)
” もう一度”、彼女に会わせてくれて・・・
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「ああ・・・俺はりんごが大好きだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「好きで、好きで・・・たまらない男だ」
佐藤 優 (さとう ゆう)「──────」
佐藤 優 (さとう ゆう)「玲司さん、この子のお名前どうしますか?」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「この子の・・・名前・・・」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──” リリナ”・・・リリナです」
佐藤 優 (さとう ゆう)「リリナちゃんか・・・いい名前だね」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「リリナ・・・聞かせたい話があるんだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「──これ、俺が書いた話なんだ」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「だから、聞いてほしい・・・リリナに」
佐藤 優 (さとう ゆう)「──聞かせてあげて」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)「────」
荒川 玲司 (あらかわ れいじ)
『あるところに 変な男と 少女がいました...