国立特養ほほえみ

くらり

ほほえみ(脚本)

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〇東急ハンズ渋谷店
  私はおばあちゃんと一緒に途方もなく長い列に並んでいた。
  国立特別養護老人ホームの受付列だ。
  出来たばかりの施設で病院も併設されている。
  もちろん食事、入浴、娯楽施設、個室完備で月15,000円ということで、普段は静かな宇田川に熱気が立ち込めていた。
  詳しい部屋数などは分からなかったが、目の前にそびえる建物と長蛇の列を見比べると、もう定員も間近なのでは・・・と思えてくる
おばあちゃん「本当に入れんのかね」
おばあちゃん「あんた、ちょっと聞いてきてよ」
おばあちゃん「あと寒いから、マフラーか何かも買ってきて」
私「うん、分かった。ちょっと待っててね」

〇おしゃれな受付
私「あの、あと何人くらい受付出来るか伺いたいんですけど・・・」
受付の女性「わかりません」
  女性はうつむきそっとつぶやく
私「え?」
受付の女性「分かりません!お待ちになれないのならお引取りを!」
  今度はすごい剣幕で言ってきた。
  なんなんだあの人・・・
  仕方がないのでマフラーを買って列に戻ることにした。

〇建物の裏手
  ん・・・あれは・・・?
  私の視線は一点に釘付けになった。
  建物の壁が不自然に黒くなっている。
  もっと近づいてみると、それは長方形にくり抜かれたために出来た影だと分かった。

〇地下室への扉
  下へ続く10段程の階段の下にドアがあり、staff onlyの文字。
  普段ならそんな所に入ったりしない。
  でも施設の見取図がもしかしたら貼ってあるかも。
  この施設は個室だから部屋数を数えれば受付可能人数も予想できそうだ。
  おばあちゃんに「分からなかった」と言うのも気が引けるので、ちょっとだけ覗かせてもらおうとドアを開けた。

  暗かった。しかも狭い。
  ドアを閉めたら完全な闇だ。
  仕方ないのでスマホのライトを起動した。
  すると、目の前に施設の案内図が見えた。
私「よかった・・・」
  ・・・
  ・・・
  見れば見るほど不可解な図だった。
  外観から想像するに10階はありそうな建物と思っていたが、案内図では1階と2階しか書かれていない。
  図の中で1階は先程行った受付、食堂、コンビニ、薬局が配置されている。
  あれ・・・
  本当にコンビニはあったかな。
  視線を動かし2階の図を見ると、こちらは個室らしき区切りがきちんと書かれていた。
  片側は15部屋、もう片側は14部屋。
  階段がある分部屋数は少なくなっているようだ。
  階段・・・?
  少なく見積っても8階以上ある建物で、しかも高齢者施設。
  エレベーターではなく階段・・・なんでなんだろう。
  思考がまとまる前に目は次の文字を追っていた。
  ”地下”
  広大な空間が書かれているにも関わらず、説明はたったの2文字。
  つま先が何か出っ張りを捉えた。
  スマホを向ける。
  指で押すと取っ手が出てくるタイプの地下倉庫の扉のようなものが見えた。
  恐怖よりも好奇心が勝った。
  はやる気持ちを抑えしゃがむと、取手を引いた。

〇地下に続く階段
  どこまででも階段が続いていた。
  土の中に吸い込まれていく感覚に陥る。
  しかし階段は唐突に終わりを迎えた。
  全体が見えなくても大きさが分かるほど広い部屋に出た
私「なに、これ・・・」

〇地下の避難所
  目に飛び込んで来たのは人
  人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人
  沢山の老人が積み重なり”山”となっていた。
  白目を剥いている者、口から泡を吹いている者、様々な状態だが一つだけ共通していた。
  死んでいる
  しかしその空間には、まだ生きている人の息遣いや熱気が感じられた。
  手を触れれば温かいのだろう
  鼻を突く線香の香、遠くから聞こえるお経
  しかし意識が自分に集まってくると気がついた
  お経は私の足元から聞こえていた
  ラジカセから垂れ流されていた
  人間の尊厳が徹底的に踏み躙られた空間で、申し訳程度の供養が行われているのがおかしかった

〇建物の裏手
  外に出ると日光が眩しかった
  受付のお姉さんは、守りたかったのだろうと唐突に気がついた
  全てを知っていたから、追い返したかったのかな
  列に戻る途中、雑貨屋の前を通った
  冬物らしい、落ち着いた色合いのマフラーが売っている
  買わなかった

〇東急ハンズ渋谷店
おばあちゃん「遅いよ!マフラーは?」
私「買ってこなかった」
おばあちゃん「全く、糞の役にも立たないね」
おばあちゃん「あんたは生まれた時からそうだよ」
  いつもなら言っていた。”ごめんなさい”と
私「大丈夫。もう必要ないから」

コメント

  • イラストのせいもあってタップノベルに可愛らしいイメージがあったのですが、こういう事もできるしハマるんだなと感動しました!
    世相にもマッチするエグみが最高でした!

  • 主人公の女性の最後の一言もたいがいですが、読み終えた後にタイトルを思い返すと…あ~これ国立なんかぁ…ってなりますね 笑
    受付のお姉さんは特異な存在で、主人公の女性みたいに口には出さなくても内心ではお年寄りを…という人が「普通」な世界線なのかな…など、読了後も色々考える楽しみが残る作品でした!

  • 意味がわかると怖い話のような、後からぞくっとくるストーリーでした🤦‍♀️個人的にはこう言うの大好きなので面白かったです!
    そして最後の作者コメントにもハッとしました🤭そうなんだろうなと改めて思いました😌

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