大横長者 その三(脚本)
〇地下室
女「では坊様 念仏を唱えて穴をふさぎましょう」
僧「わかった わしにできることなら何でもやる」
女「南無南無南無・・・」
僧「南無南無南無・・・」
すると不思議なことに入口がどんどん小さくなっていった
だが、しばらくすると
僧「ん。何じゃ 空気が変わった・・・」
女「まずい 長者が帰ってきます! 念仏を絶やさないで下さい」
僧「南無南無・・・」
女「南無南無・・・」
大蛇「戸口はどこじゃ~・・・! 戸口が見えん・・・戸口、戸口、戸口・・・ああ 戸口じゃ~!!」
大蛇「さては誰かわたしの右目を隠したな! 誰ぞ 誰ぞ」
僧「南無南無・・・」
女「南無南・・・」
大蛇「おや・・・ ここに小さな灯りがある ここが戸口じゃなあ!!!!!」
女「まずい! 長者が出てきます」
僧「南無南無・・・ 南無南無・・・ 南無南無・・・!」
すると大蛇の頭が穴の中から出て、ぎょろりと二人をにらんだ
大蛇には右の目がなかった
大蛇「お前たちか。わたしの右目を隠したのはー!! よくも裏切ったな!!」
僧「南無南無・・・!」
女「もはやここまでか・・・」
大蛇「喰ってやるー!!」
その時だった
霊「長者・・・長者・・・」
霊「よくも」
霊「ここから来させんぞ」
霊「戻れ、戻れ」
大蛇「何だお前たちは!邪魔するな!! わたしの食糧の分際で」
大蛇「ぐあああああ!」
坊様と侍女には二十九体の亡者たちが蛇を押し込めている姿が視えたそうな
女「今です。坊様!」
僧「うむ」
僧「南無南無・・・ 南無南無・・・」
女「南無南無・・・ 南無南無・・・」
亡者たちと念仏の力が功を奏したのか、大蛇の頭が引っ込み、出入り口が消えていった
辺りは静かになり、出入り口も亡者たちの姿も消えていたそうな
僧「消えた・・・」
女「やりましたね」
女「坊様、ありがとうございました ではわたしはこれにて」
女「・・・」
すると女の姿が変わり、鳥の姿になったそうな
僧「何と・・・」
坊様は家の者を興して事情を話し、朝になって村人を呼んで話を聞かせた
家の者たちに事情を聞くと、各地からさらわれてきた者であったことがわかった
〇風流な庭園
朝
長者の屋敷の庭
僧「・・・というわけなのだ」
村人「そんなことが・・・」
村人「長者がそんなことをしていたなんて・・・」
僧「これからはこの屋敷を解体し、亡くなった者をとむらいましょう」
坊様は一部始終を一通り話すと、疲れを感じて奥の部屋で少し休むことにした
〇古民家の居間
僧「やれやれ これで一安心だな」
僧「ぐーぐー」
僧「ぐーぐー」
りゅう「坊様。例を申す」
あなたは・・・昨夜の・・・?
りゅう「わしはこの地にいた龍である 長者により封印されていたが、この度それを解くことができた」
りゅう「これも坊様たちのおかげじゃ」
りゅう「重ねて頼みがある・・・ わしをまたこの地でまつってくださらぬか」
え・・・
りゅう「そうすれば、闇の者たちがこの地に来れぬように抑えよう」
僧「うーん・・・」
僧「お告げか」
〇集落の入口
村では二十九人の塚を改めて作り直し
そして竜神の塚もつくってまつったそうな
こうして村はまた平和になり、
下界から来る者もなくなった
さらわれた者たちは村に残ったり
故郷を目指して旅立ち、
あの坊様はこの地にとどまり
熱心に修行を続け、立派な坊様になったそうな
おしまい
〇畳敷きの大広間
住職「というこの小山寺に伝わる昔話でした」
熊元治(くまもと おさむ)「めっちゃ迫力あったなー・・・」
東北空耳(ひがしきた くうじ)「いや、すげーわ 楽しかった」
信者「こんな話があったとはね」
住職「この話のかなめは・・・」
住職「大横のような者がいたら近づかず、相手にせず離れるのが一番」
住職「言っても無駄ですからね 世の中にはそういう人もいますから」
信者「しかしみんなで止めることも大事なことでは?」
住職「そうですな」
住職「大横を最初に受け入れてしまったことや、気づかずにのさばらせてしまったことが大きい」
住職「ですから言っても聞かない者にはまず相手にせずやはり離れるべきなのかと思います」
高の木千穂(たかのぎ ちほ)「ふうん」
岩手ひかり「なんか冷たい気もするけど」
住職「ははは」
住職「おおごとにしたくなければそうするのがいいという話だよ」
住職「じゃ、これで終わりとします」