ダイオー人

栗スナ

大横長者 その二(脚本)

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〇居酒屋の廊下
僧「ええと・・・昼だというのに暗いな・・・ 厠(かわや)はどこじゃろ」
僧(ここをまっすぐ行けば外へ出られるかな・・・)
僧「行ってみるか・・・」
僧(・・・・・・)
僧(ん。このふすまから音が聞こえるぞ・・・)
僧(人がいるのかな・・・)
僧(少し開いているな・・・ 覗いてみるか)

〇地下室
  部屋の中は薄暗く、土間のようでそこに灯りがぽつりとともっていた
  部屋の隅には影があった

〇居酒屋の廊下
僧(あれ。何をやっているんだろう)

〇地下室
影「うまいのう うまいうまい・・・」

〇居酒屋の廊下
僧(あの者は手で何を食っているんだ あれは血ではないか・・・)
僧(・・・・・・ まずいものを見てしまった・・・)
僧(ここは引き返そう・・・)
僧(しまった)
僧(音を立ててしまった!)

〇地下室
影「誰ぞ 誰ぞそこにおるのか」
影「・・・・・・」
影「おかしいな 確かに今音がしたが・・・」
影「ちょっと見てくるか」
女「わたしでございます」
影「何だお前か 食事の邪魔をするな せっかく屋根裏で太ったねずみを捕まえたというのに」
女「申し訳ございません」
影「そうだ 食事に夢中ですっかり忘れていた」
影「あの坊主はどうした まだいるか」
女「まだ大広間にいると思いますが・・・」
影「まあどうせ結界を張ったからのう・・・逃げられぬわ」
影「筋の入っていそうなうまそうな肉じゃった」
影「今晩は泊めてやると言っておけ 床の用意を」
女「はい。かしこまりました」
影「食事がそろそろ終わりだ、もう灯りをつけてくれんか」
女「はい」
影「明日が楽しみじゃ・・・」

〇地下室
  僧 (・・・あれは!!)
  灯りがつくと、一匹の大蛇が横たわっていた
大蛇「ふむ・・・」
大蛇「あいつを食うために腹を空かせて置かねばならん わたしはここで一寝入りする」
女「ではわたしはこれにて」
大蛇「うん もう行け」

〇居酒屋の廊下
僧(えらいことを聞いてしまった)

〇屋敷の大広間
僧(まいったな・・・)
僧「どうしよう」
僧(このまま屋敷を抜け出したいが、結界を張ったと言うし・・・無理じゃろうか)
女「お坊様」
女「旦那様は急用ができてしまいまして、しばらく会えません 今日はここにお泊り下さい」
僧「あ、ありがとうございます・・・」
僧「で、ですがわしは・・・そろそろお暇を・・・」
女「・・・」
僧「・・・」
女「さきほど」
女「見ていましたね」
僧「え!!」
僧(しまった 驚いてしまった)
僧「何のことですか」
女「・・・」
女「一度お助けしました」
女「今度は坊様がわたしをお助け下さる番ですよ」
僧「・・・」
僧「気づいていたのですか」
女「はい ですのでお助けしました」
僧「・・・あなたはなぜこの屋敷から逃げないのですか」
女「・・・」
女「人には役目がございます わたしにはわたしの役目が」
僧「・・・役目?」
女「それより」
女「今夜食事が出されます 金の杯に入った水は飲んではいけません 茶色の杯に入った水は飲んでも大丈夫です」
女「お坊様は法力をお持ちですね」
僧「わしにはそんな力はない」
女「おありです あなたが思う以上に強い力がございます わたしにはそれが分かります」
僧「わしは・・・」
女「千里の術で見させてもらいました 以前お寺で修行され、師匠と喧嘩して抜け出したのでしょう」
女「そして旅暮らしの生活を送っている・・・」
僧「よくそれを・・・」
女「外には結界が張られています もう逃げることはできません」
僧「・・・やはりそうですか」
女「すでにお気づきのはずです」
女「今宵、長者は下界へ行きます それには長者の持つ右の目と左の目がなくてはなりません」
僧「・・・長者はこの世の者ではないのですね」
女「さようです。異形の者です 今宵は満月。長者が月に一度下界へ帰る日なのです」
女「右の目の場所はすでに見つけました あとはこれを隠し、その後下界への出入り口の周囲に塚を三つ掘って死者の供養をします」
僧「塚・・・ 死者とは?」
女「この屋敷で長者に喰われ、亡くなった者のことです。その塚をつくってほしいのです その者たちの魂が屋敷を彷徨っているので」
僧「下界への入口・・・それはどこに」
女「さきほどの部屋にあります」
女「それを封じなくては下界からどんどん異形の者が現れてくるでしょう」
僧「・・・」
女「遺骨を入れ、写経の一文を書いてともに葬るのです 坊様は経を二十九枚書いてくださりませんか」
僧「二十九枚?」
女「この屋敷で長者に喰われた者の数です」
女「それが終わり次第、念仏で下界への入口をふさぎます。協力願えますか」
僧「・・・助けてもらった恩がある。わかりました」
女「気を強く持ってください では・・・あとで使いを出して筆をお持ちします」
女「丑三つ時にさっきの部屋までお越しください そこで待ち合わせて始めましょう」
僧「わかった」
女「いいですか 丑三つ時ですよ」
僧「わかりました」
女「では 泊まる部屋まで案内します」

〇古民家の居間
僧「・・・」
男「筆と紙をお持ちしました」
僧「わかった」
男「では」
僧「では一枚ずつ経を書いてしまうか・・・」
僧「よし、一枚できた・・・」
僧「あと二十八・・・」
僧「いそがねば」

〇古民家の居間
僧「ふう・・・」
僧(二十枚かけたぞ)
男「お食事をお持ちしました」
僧「あ、はい」
僧(あ・・・)
僧「そういえばどっちを飲めと言っていたっけか・・・ 経を書いていたら忘れてしまった」
僧「どちらを飲めばいいのでしたっけ?」
男「え・・・何がですか」
僧(この者は知らないようだ・・・ 気づかれるとまずいかもしれん)
僧「いや。何でもない」
男「では失礼します」
僧(困ったな)
僧(のども渇いているし・・・)
僧(あ、思い出したぞ たしか・・・金の杯だ。こちらが安全と言っていたはず)
僧「よし」
僧「見事なものだな。異国の物か」
僧「ああ。うまい」

〇古民家の居間
僧「さて、食事も済んだ 経の続きをやってしまおう」
僧(よし・・・できた)
僧(む。何やら急に眠気が・・・)
僧(まさか、逆であったか 杯を間違えた?)
僧「うう」
僧「・・・」
僧「・・・」

〇古民家の居間
僧「ぐーぐー」
僧「ぐーぐー」
僧「ぐーぐー」
僧「ん・・・」
りゅう「人よ 人の子よ」
りゅう「起きよ 約束の時間ぞ」
りゅう「起きるのだ!!」
僧「ん・・・」
僧「夢・・・?」
僧「あ、まずい・・・ もう行かなくては!」

〇地下室
女「遅い・・・」
女「早くしないと長者が帰ってきてしまう・・・」
僧「すまぬ 遅れてしまった」
女「来てくださいましたか では始めましょう」
女「すでに片方の目は隠したので、長者はもう新しい入口はつくれません あとはここの入口の渦をわたしたちの念仏でふさぐだけです」
僧「これが入口か。何と奇っ怪な・・・」
女「経を書いてきてくれたようですね」
僧「ああ」
女「では今からこの地面に穴を掘り、その経を入れて塚を作りましょう」
女「入れたら土をかぶせて少し盛り上げ、庭の石を上にのせておきます それを塚とします」
僧「わかった」
女「長者が戻るまであと二刻ほどです 急いで三つ塚をつくりましょう」
女「この鍬(くわ)を使ってください」

〇地下室
僧「よし、急いで掘ろう!」
僧「よし、掘れた! あとはここの経を入れて・・・埋める・・・そして石をのせる・・・と」
僧「これでよし 次じゃ!」
僧「どっこいしょ」
女「戻る前に掘らないと・・・」
女「ふう・・・ ふう・・・」
  坊様と侍女が協力し合ったのでこうして二刻経たぬうちに三つの塚ができ上がった

次のエピソード:大横長者 その三

コメント

  • むかし読んだ怪談や昔話を思い出しました‼
    民話から謎解きSFまで、ジャンルを横断しているようで面白いです。
    この後、僧はどうなるのかゾクゾクしますね😱

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