もう1つの本物(脚本)
〇SHIBUYA109
ショウ「ここが仮想空間の渋谷・・・。 本物そっくりだな」
アキ「アハハ!お兄さん、今どき仮想空間なんて誰も言いませんよ!」
アキ「あっ、急に話しかけてごめんなさい。 私はアキっていいます。 お兄さんはメタバース初心者ですか?」
ショウ「え?ああ、そうだよ。 そうか。今はメタバースっていうのか・・・」
急に話しかけてきた彼女は
パジャマみたいな服を着ていた。
アキ「お兄さん、アバターは若いけどけっこう歳だとか? あっ、答えたくなかったらいいですよ!」
ショウ「いや、構わないよ。 僕はショウ。 20年くらい休眠処置を受けてたんだ」
アキ「え!?それってあれですか?難病の治療法が見つかるまで体を冷凍するっていう?」
ショウ「はは。冷凍じゃないよ。 でも、老化しにくいのは本当だね。 先月に治療を終えたんだ」
アキ「へーっ。だからここにも慣れてないんですね。じゃあ、私が案内します」
ショウ「え?いいのかい? 僕たち、初対面だけど・・・」
アキ「この世界じゃ体に危害を加えたりできませんよ。 じゃあ、ハチ公前に行ってみましょうか」
〇ハチ公前
ショウ「あっ!ハチ公がいる! でも周りのお店は僕の記憶と全然違うな・・・」
アキ「ふふふ。お店なんてメタバースでなくてもあちこち替わりますよ」
ショウ「あっ、それもそうだね。 ところで、変わった服装の人がちらほらいるけど、なんで?今日はハロウィンじゃないよね?」
アキ「え?あんなの普通ですよ。 ここでは服装や外見なんて自由に変えていいんです。私のこれもパジャマですし」
ショウ「それ、パジャマだったの!? あっ、甲冑着てる人もいる・・・」
ななし「おや?私に何か御用ですか?」
ショウ「い、いいえ!」
ななし「そうですか」
ショウ「よかった・・・。 ジロジロ見たから怒られるかと思ったよ」
アキ「大丈夫ですよ。あの話し方はたぶん紳士モードの自動アバターですから」
ショウ「自動アバター?それって人が操作してないって事?」
アキ「はい。用事が重なったり、面倒な事はそっちにさせるんです。アバターを増やす人もいますよ」
アキ「ほら、こんな風に♪」
ショウ「うわっ! なんか怖いからやめてくれ!」
アキ「あはは!メタバースじゃこんなの普通ですよ」
ショウ「凄い世界だなあ・・・」
〇渋谷マークシティ
ショウ「このビルも本物そっくりだな・・・」
アキ「違いを見つける方が難しいですよ。 次はどこ行きます?モヤイ像?渋谷駅?」
父「アキ、こんな所にいたのか!」
ショウ「うわっ!」
いきなり人が瞬間移動してきたから僕は驚いた。
母「もうすぐ映画が始まるわよ」
アキ「あっ!そういえばお父さんたちと約束してた! お兄さん、ごめん。 もっと案内したいけど・・・」
ショウ「大丈夫だよ。 渋谷自体は知ってるんだ。 現実とそっくりなら迷わないよ」
アキ「それもそっか。 じゃあ、バイバイ!」
〇ハチ公前
ショウ「かなり歩き回っちゃったな。 どこも現実とそっくりだ・・・」
ショウ「事故や事件に遭わないし、感染症もない。たしかに素敵だけど・・・」
アキ「あれ?ショウさんだよね?」
ショウ「アキちゃんか。昼はありがとう。もうご両親は家に帰ったのかい?」
アキ「あはは!最初から両親は家にいますよ。 ログアウトしただけです」
ショウ「ああ、そうだったね。 でも、君も帰らないのかい?」
アキ「私は帰らないというか帰れませんから」
ショウ「は?帰れないって・・・?」
アキ「ショウさん、昼間に甲冑を付けたアバターと会いましたよね?」
ショウ「え?ああ、自動アバターってやつだろう?」
アキ「もしも登録した本人が死ぬとアバターはどうなると思います?」
ショウ「アバターは・・・消えるんじゃないのか?」
アキ「いいえ。アバターは残ります。 もしも娘を失った両親が彼女そっくりのアバターがあると知ったらどうすると思います?」
ショウ「ええと、娘のアバターを見てみたいと思うかも・・・待ってくれ・・・まさか・・・」
アキ「ふふふ。気づきました? 私も自動アバターです。外のアキは事故で死んじゃいました」
アキ「両親はとても悲しんでたけど、こっちの私が生きてて喜んでくれたし、自動アバターの自由意思レベルを最大にしてくれました」
ショウ「あの両親が・・・でも、君は・・・」
この時、僕が受けた衝撃と感情は上手く言葉にできない。ただ、彼女には失礼だけど、とても怖いと思った。
アキ「私は偽物ですか?いいえ。私もこの世界ももう1つの本物です。外の人たちは死ぬけど、この世界で生き続ける事ができるんです」
ショウ「ま、待ってくれ! この世界は運営会社が管理してるんだろ?システムに異常が出たり、サービスが終了したら・・・」
アキ「大丈夫ですよ。データはここ以外にも保存してますし、両親は別の手段も用意しているそうです」
ショウ「別の手段って・・・あっ!」
僕の前からアキは消えた。
それからメタベースに何度か行ったけど、彼女には会えなかった。
〇渋谷のスクランブル交差点
あれから1年経った。僕は現実の渋谷にいる。
ああ、この言い方は彼女が怒るかな。
本当にデータをあちこちに保存してるなら彼女は不死の存在だ。
事故も病気もない。いわば、人類の夢だ。
僕が休眠してた間に両親はすごく老いた。
もしも2人が死んでアバターが残ったら僕は会いたいと思うだろうか?
あるいは僕もアバターになってあの世界で両親と生き続けたいと思うだろうか?
わからない。
でもそれを願う人もいるだろう。
ショウ「え・・・?」
ショウ「今のは・・・」
僕は彼女を追いかけた。
アキ、君は外の世界で動く体を手に入れたのか?
君は・・・未来の僕らなのか?
内容が現代実際にあるバーチャルでのもうひとつの世界にリンクしていて、不思議さや恐怖もありながら、リアリティがありました。オンラインでどんな自分にもなれるし、作ったキャラになりきって、好きなように生きられる時代。現実世界とオンラインの中の区別がどんどんなくなって、どちらかが死んでもどちらかが生きている、そんなアンバランスさがよく表現されていて、とても興味深い作品でした。
仮想空間のアバターって、本人のようで本人じゃないって感じがしました。
歪みを上手く表現してらっしゃるなぁと。
たぶん、ショウさんの感覚がまともな気がしますが、この世界で生きていくにはかわらないといけないのかもしれない。
深いお話です。
こんにちは!福山詩と申します🙇♀️
考えさせられるお話でした。人の価値観は色々で幸せや納得の形も落としどころも色々で、だけど今の環境を大切にしていきたいと思える作品でした!
世界観が非現実と現実の丁度いいバランスで入り込みやすかったです!