好きの在処

夏名果純

第2話 吉岡修司(脚本)

好きの在処

夏名果純

今すぐ読む

好きの在処
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇病室(椅子無し)
水杉花奈(階段から落ちたこと、よく覚えてないって思ってたけど・・・)
水杉花奈(告白されたなんて大事なことまでまったく覚えてないなんて)
水杉花奈「あーっ、なんで覚えてないんだろ!」
  検査の合間、病室で花奈は頭を抱えていた。
水杉花奈(何か思い出せないかなあ。 ヒントとかない?)
水杉花奈「・・・スマホ!」
  花奈はスマホを取り出すと、まずはメッセの画面を開く。
水杉花奈(明日香に何か話してないかなあ)
水杉花奈(・・・これ、階段から落ちたっていう、その前の日・・・)
  花奈『明日、がんばってくるね!』
  明日香『花奈もついに彼氏持ちかー、羨ましいぜ、このこの~!』
水杉花奈「何よ、この会話!」
水杉花奈(大事なことが何も書かれてない・・・)
水杉花奈(でも、明日香の感じだと、謙弥と修司、どっちかとは付き合うつもりだったってこと?)
水杉花奈「あー、わからない! 覚えてない!!」
  ため息をついてメッセの画面を閉じた時、花奈が気づいた。
水杉花奈「あれ、これって何のアプリだったっけ?」
  見慣れないアイコンがホーム画面にある。
水杉花奈「DIARY・・・日記?」
水杉花奈(私、日記なんて書いてた覚えがないけど・・・)
水杉花奈(うーっ、自分のスマホなのに気味が悪い)
  とりあえず、開いてみようとそのアイコンを指で押した。
  すると、「パスワードを入力してください」という画面が出てくる。
水杉花奈「パスワード?」
水杉花奈(誕生日とかかな・・・違う。 他は何だろ?)
  花奈は思いつく限りの英数字を入力してみたが、そのどれもが「違います」とはじかれてしまった。
水杉花奈(え~っ、他に何があるの!?)
  花奈が再び頭を悩ませていると、ドアがノックされて看護師さんがやって来た。
看護師「水杉さん、そろそろ次の検査の時間ですよ」
水杉花奈「はーい!」

〇病室(椅子無し)
  結局、その日の夜になっても、花奈は何も思い出せずにいた。
水杉花奈(日記アプリも、いろいろパスワードを入れてみたけど、どうしたって開かない・・・)
水杉花奈「なんなのよ、なんで思い出せないのよ」
水杉花奈「自分のスマホなのに。 つい一昨日のことなのに」
水杉花奈「・・・よく知ってる謙弥と修司のことなのに」
  思い出せないことが苦しくて、何もかもが不安で怖くなって・・・。
  花奈は病室でひとり涙をこぼしてしまった。
  その時、半開きになっていた病室のドアが勢いよく開かれた。
吉岡修司「花奈!」
水杉花奈「・・・えっ?」
  修司は苦しそうな表情で花奈に近づくなり、花奈の身体を力強く抱きしめた。
吉岡修司「ごめん! 花奈、ごめん!」
  絞り出すような修司の声が、花奈の耳に届く。
水杉花奈「えっと、修司・・・?」
吉岡修司「僕が花奈を落としたんだ!」
水杉花奈「修司・・・」
吉岡修司「僕のせいで、花奈が苦しむことになってしまって・・・」
水杉花奈「そんな、気にしないで。 泣いたりしてごめんね」
吉岡修司「花奈が謝ることなんて、何もないよ!」
水杉花奈「・・・・・・」
水杉花奈(そっか)
水杉花奈(私、自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃってたけど、修司は修司で苦しんでたんだ)
水杉花奈(修司だけじゃない、謙弥もすごく心配してくれてる)
水杉花奈(私がくよくよしてたら、2人が気にしちゃう・・・)
水杉花奈「修司、もう大丈夫だから。 今ので、ちょっとスッキリしたよ!」
水杉花奈「だから・・・」
吉岡修司「無理しなくていいよ、花奈。 泣きたいなら泣いて」
吉岡修司「強がったりしないで。 花奈には花奈のままでいてほしい」
水杉花奈「・・・修司、優しいね」
吉岡修司「別に、誰にだって優しいわけじゃないよ」
吉岡修司「花奈だから、僕も優しくしたいって思うんだ」
水杉花奈(修司に・・・この人に、告白されたんだな、私)
  修司の体温があったかくて、それに誘われるようにして花奈の口からは本音がこぼれてしまう。
水杉花奈「正直、いろいろと記憶がないのが怖いの・・・」
吉岡修司「うん」
水杉花奈「・・・何も覚えてない」
水杉花奈「その、修司が気持ちを伝えてくれたことも」
吉岡修司「それ、誰かから聞いたの?」
水杉花奈「明日香に教えてもらった」
吉岡修司「そうか。気にしなくていいよ」
吉岡修司「覚えてないなら、僕は何度だって花奈に気持ちを伝えるから」
水杉花奈「修司・・・」
吉岡修司「それって、何度でもチャンスがあるっていう風に、前向きに考えることもできるしね」
  修司は花奈から少し身体を離して、微笑んでみせる。
吉岡修司「それはきっと、謙弥だって一緒だと思うよ」
吉岡修司「ちょっと悔しいけどね」
水杉花奈「うん、ありがとう。 そういえば・・・」
吉岡修司「何?」
水杉花奈「いつも私が泣いてると、修司は励ましてくれたよね」
吉岡修司「小さい時の話だね」
吉岡修司「さっき、久しぶりに花奈の涙を見たから、ちょっとうろたえたよ」
水杉花奈「そっか・・・いつも心配してくれてありがとね」
  花奈が照れたように笑うと、修司も柔らかく笑った。
吉岡修司「泣きたくなったら、それより先に僕のところへ来てよ」
吉岡修司「そうしたら、思う存分泣いていいんだよ」
水杉花奈(修司・・・)
水杉花奈「いつまでも落ち込んでたってしょうがないと思うから、なるべく笑ってるね」
水杉花奈「・・・それでも、つらくなった時は話聞いてくれる?」
  花奈も修司につられるように微笑んだ。
吉岡修司「もちろんだよ。いつでも話して」
  力いっぱいにうなずいて、修司はもう一度花奈の身体を強く抱きしめた。
  その後、ゆっくりと身体を話されて花奈が顔を上げると、修司はとても優しい表情をしていた。
  やがて、修司がはっと時計を見る。
吉岡修司「もう面会の時間が終わるね」
水杉花奈「本当だ、また看護師さんが来ちゃうね」
吉岡修司「名残惜しいけど、今日は帰るよ」
水杉花奈「うん、来てくれてありがとう」
吉岡修司「じゃあね。花奈、また明日」
  修司は最後にもう一度ぎゅっと花奈を抱きしめてから、病室を出ていった。
水杉花奈(修司はやっぱり優しいな・・・)
  修司のことを思い浮かべて優しい気持ちになった、その時。
  コンコン、と少し乱暴な音でドアがノックされた。
水杉花奈「はい!」
水杉花奈(看護師さん?  それか、修司が何か忘れ物でも──)
川崎謙弥「よぉ・・・」
水杉花奈「!? 謙弥・・・」
  謙弥はいつもとは違い、なんだか不機嫌そうにむすっとしている。
水杉花奈(もしかして、今の修司との・・・)

次のエピソード:第3話 川崎謙弥

成分キーワード

ページTOPへ