3話 裏切りのチョコの味 前編(脚本)
〇学校の部室
あの夏が終わり2月になった。そして私は目立たない生活を送っていた。
真波繭美「もうすぐ卒業で、文芸部も廃部だなぁ。けど仕方ないよね、私しか活動してないんだし・・・」
実は私は文芸部の活動を終わらせていなかった。なぜなら幼馴染にフラれて、きまづくなり、居場所がここにしかないからだ
真波繭美「そういえば蓮君、また色んな所で活躍してたなぁ。この前も人助けをして表彰されてたし・・・」
真波繭美「本当にこの学校──いや、この街全体の人気者だよ・・・あはは、すごすぎるよ」
蓮君はスーパー男子に磨きがかかり。その周辺では沢山の出来事が起こっていた。それはもう詳細を話せば長編小説ができる程だ
そして、そんな彼の側にいていつも支えているヒロインは勿論鎖百合ちゃん。彼女は蓮君のお似合いのパートナーだ。
真波繭美「本当に二人とも私が誇れる幼馴染だよ・・・。 それなのに私は──」
新聞部「すみませーん! 新聞部なんですけど。 スーパー男子生徒の沼地蓮について取材させてください」
真波繭美「ええ、いいですよ」
何か訳ありの女子生徒「突然すみませーん! 私、蓮先輩にどうしても助けてほしいことがあるんですぅ!だからどうか蓮先輩に私を紹介してくださーい」
えーと、わかったから一旦落ち着いてくれるかな・・・あはは
私は──蓮君へ接触したい人達の橋渡し役に成り下がっていた
そして、その役目を終えると、再び目立たなくなった
〇まっすぐの廊下
(私・・・今のままで本当にいいのかな。このまま蓮君と疎遠のまま卒業するの嫌だな)
恋する女子生徒「ねえねえ、もうすぐバレンタインデーじゃん。私、憧れの先輩に手作りチョコ渡そうと思うんだ~」
恋する女子生徒の友人「ええー。あんた不器用だったよね。なのに手作りなんかできんの?」
恋する女子生徒「できなーい。だから一緒に作るに手伝ってよ~。どうせそっちも先輩に作って渡すつもりだったでしょ~?」
恋する女子生徒の友人「くっ・・・そ、そうだよ。あーもうわかったよ。一緒にチョコつくってやるから」
そうか、もうすぐバレンタインデーだ。好きな男子にチョコを送って気持ちを伝えれるチャンスの日
真波繭美「ねえ、繭美。チャンスだよ。また鎖百合ちゃんを出し抜いて、蓮君にチョコを渡してあの夏のリベンジしようよ」
ダメ、バレンタインデーの話を耳にしてから、心の中に黒い部分の私が出てくる
真波繭美(ダメだよ私。もう未練はないから・・・。けど義理チョコくらいなら渡してもいいかな)
真波繭美「いやいや、馬鹿なの私。義理チョコなんて蓮君はいらないよ。本命を渡しなって」
真波繭美(ダメだよ!鎖百合ちゃんに悪いし・・・)
真波繭美「大丈夫大丈夫・・・だって鎖百合ちゃんって──」
真波繭美「──馬鹿で出し抜き易いから。それなのに蓮君を取られてあんたの方がよっぽど馬鹿ね」
ハッとして、自分が醜い考えを持っていた事に気が付いた。それでいたたまれなくなって、私は文芸部室に逃げ込んだ
〇学校の部室
真波繭美「ううっ・・・私は本当に最低。大切な幼馴染なのに、あんな風に思っていたなんて」
真波繭美「痛い・・・こころが、痛いよぉ・・・」
沼地蓮「繭美・・・じゃまするぞ」
沼地蓮「──っ、泣いて、いるのか?」
真波繭美「えっ、蓮君・・・どうしてここに!?」
沼地蓮「そんな事はどうでもいい。泣いてたのか!?」
真波繭美「あっ・・・えーと、ち、違うよ!泣いてなんかないよ」
なんで泣いてないって嘘をついたんだろう。そのまま本当の事を言って慰めてもらえばよかったのに
沼地蓮「そうか・・・なら良かった。だったら久しぶりに繭美の読み聞かせが聞きたい」
真波繭美「えっ、良いけど。どうして?」
沼地蓮「繭美の声を聴くと安らぐからだ。最近──いや、いつも俺の周りで色んな出来事が起こって癒しが欲しい気分なんだ」
沼地蓮「だから、頼む」
真波繭美「そ、そこまで言うんなら・・・けど、どうせまた寝ちゃうんだよね」
沼地蓮「うっ・・・そこは本当に済まない。けど本当にお前の声は俺にとって心地いいんだ」
真波繭美「わ、わかったから!それじゃあ久しぶりに読み聞かせしてあげるね」
私が読み聞かせを始めると、蓮君はすぐに目を瞑った。
けど、それは寝ているんじゃなくて、集中して私の声に耳を傾けているのだった
そして、私は自分の声を出すだびに、彼に存在認められている気がして、満ち足りた。
真波繭美「──なのだった・・・おしまい」
沼地蓮「繭美、とても良かった。やっぱり俺はお前の声が好きだ」
真波繭美「──っ・・・だ、だったどうして」
やめなさい繭美。せっかくいい雰囲気なのに壊さないで。それ以上彼に聞いたらダメ──
真波繭美「だったら、なんで夏休みに私の所に来てくれなかったの!?ちゃんとあの小説に挟んだ『栞』を見たんでしょ!?」
言ってしまった。ずっとずっと彼に尋ねたかった事を・・・。これで答えを聞いて、私達の関係は崩壊してしまう
沼地蓮「栞? いったい何の事だ」
真波繭美「えっ?私が夏休み前に渡した小説に挟んでたでしょ?」
沼地蓮「そんなものは挟んでなかったぞ」
沼地蓮「それと、文芸部の活動に参加できなかったのは『ある事件に巻き込まれて』、お前をどうしても巻き込んでしまいそうだったからだ」
真波繭美「『ある事件』・・・あっ、それってもしかして噂で聞いた他県からの転校生の件?」
沼地蓮「その通りだ。あと夏が終わってから繭美は俺達に他所余所しい、だから心配してたんだ」
沼地蓮「それで今日やっと暇を見つける事ができて繭美が悩んでないか話を聞きに来ることができたんだ」
沼地蓮「そこでだ繭美、もし俺でよければお前の悩みを聞かせてくれ!」
真波繭美「ううん大丈夫!もう、今さっき解決したよ。ありがとう蓮君。私を見ててくれて」
沼地蓮「ん・・・そうか、なんだかよくわからないが、繭美が笑顔になったならそれでいい」
暮内紅葉「蓮!あんたこげな場所におったん。はよウチと一緒に帰ろうや」
暮内紅葉「んっ?蓮、あんた何でこんな地味な女と一緒に居るん?」
沼地蓮「地味とかいうな。繭美は俺の大切な幼馴染だ」
暮内紅葉「ほーん。まっ、どうでもええけん行くで!」
蓮君は突然来た女子に無理やり連れ去られて行った。
多分さっきのあの子は、蓮君が言った、夏のトラブルで知り合った子なのだろう。けどそれよりも・・・
真波繭美「よかった。私まだフラれて無いんだ。しかも大切な幼馴染って言ってくれた」
私はまだ自分に勝機がある事を確信した。
〇学校の部室
あの日からバレンタインデーまでの間。嬉しいことに蓮君はずっと文芸部に来てくれて、私の読み聞かせに耳を傾けてくれた。
〇まっすぐの廊下
斯波鎖百合「あれ?蓮君今日もどこにも居ない・・・どこに行ったんだろう」
暮内紅葉「くっ・・・放課後蓮と遊ぼう思うとったのに──ムカツクわ!」
勿論この二人には文芸部の活動が再開したことは伝えていない
〇学校の部室
こうして私はいっきに蓮君との失われた時間を取り戻した
〇大きな木のある校舎
そして2月14日、バレンタインデー。この日に蓮君に一人で文芸部室に来るように私は伝えた
〇まっすぐの廊下
真波繭美「よ、よーし。今日こそは蓮君にちゃ、ちゃんと気持ちを伝えよう」
※ハートではなく、三日月型のチョコ
真波繭美「あ、あはは。私って本当に懲りないな。普通チョコはハートの形で渡すものなのに」
真波繭美「あの七夕の日を引きずって、わざわざチョコで『月が綺麗ですね』って伝えようとしてる」
まわりくどいと思うけど、これが私らしいやり方だと思う。そうしたうえで思いをぶつける事ができれば後悔はしないと私は思った
「よ、よし行くぞ・・・お待たせ蓮君」
私は勇気を振り絞って、彼の待つ放課後の文芸部室の扉を開いた
〇学校の部室
真波繭美「えっ、どうして?」
恋のライバル──斯波鎖百合は今日の事を知らない筈なのに
斯波鎖百合「あっ、繭美ちゃん、待ってたよ」
斯波鎖百合「それと、蓮君には今日の文芸部は急遽お休みにするって繭美ちゃんの代わりに伝えといたから来ないよ」
真波繭美「私はそんな事一言も言ってない!酷いよ繭美ちゃん!」
斯波鎖百合「そんな事どうでもいいからさぁ。チョコあるんでしょ?見せてよ」
鎖百合ちゃんの圧がすごい。その圧に負けて私はせっかく作ったチョコを鎖百合ちゃんに見せてしまった。
真波繭美(酷い、せっかく可愛くチョコを梱包したのに・・・それを破くなんて)
斯波鎖百合「へぇ、三日月型のチョコなんて変わってるね。もしかしてこれってあの時の『月が綺麗ですね』にかけてるのかな?」
真波繭美「鎖百合ちゃん・・・気が付いてたの?」
斯波鎖百合「うん勿論!だから・・・覚悟はできてるよね?」
私は、大切な関係が壊れて行くのを感じた。
後編へ続く
ついに鎖百合ちゃんが動く…!
ドキドキしながら読んでいます。
そして、鈍い、鈍いよ〜、蓮くん!