好きの在処

夏名果純

第1話 ふたりの幼馴染(脚本)

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夏名果純

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〇学校の廊下
  6月18日(火)
  昼休み──
  花奈(かな)はひとり、屋上へと向かっていた。
水杉花奈(さすがにドキドキしてきたな・・・)
水杉花奈(でも、今日返事するって決めたんだから)
水杉花奈「よし、行くぞ!」

〇階段の踊り場
水杉花奈(あっ、いたいた!)
水杉花奈(・・・あれ?)
  階段を見上げると、屋上の扉の前で謙弥(けんや)と修司(しゅうじ)が何やら言い合っている。

〇屋上の入口
川崎謙弥「はぁっ? お前っていっつもそうだよな。 勝手に決めつけんなよ」
吉岡修司「別に決めつけたわけじゃないよ。 だって、実際そうだよね」

〇階段の踊り場
水杉花奈「またケンカしてるし・・・」
水杉花奈(最近、ちょっと多くない?)
水杉花奈(あの2人、昔はもう少し仲よかったと思うんだけどなあ)
水杉花奈(とにかく、早く止めないと!)
  花奈は急いで階段を駆け上がっていく。

〇屋上の入口
水杉花奈「ちょっと、2人とも!」
吉岡修司「いい加減にしなよ。 僕の方が花奈のこと・・・っ!」
水杉花奈「・・・あっ!?」
  花奈が止めに入ろうとした時。
  バンッ──
  修司が振り上げた手が、花奈の身体に勢いよくぶつかった。
水杉花奈「きゃあっ!」
吉岡修司「えっ、花奈!?」
川崎謙弥「あ、おい!?」
  修司と謙弥が気づいた時には、花奈は宙に舞い──。

〇黒
  6月19日(水)
  痛た・・・。
  何これ、頭がズキズキする・・・

〇病室(椅子無し)
水杉花奈「・・・・・・」
水杉花奈(えっ、ここ・・・どこ?)
川崎謙弥「あっ、おい! 花奈、目が覚めたのか!?」
吉岡修司「花奈!」
  まだぼんやりしている花奈の顔を、謙弥と修司が心配そうにのぞき込む。
水杉花奈「・・・謙弥と修司?  私、どうしたんだっけ?」
水杉花奈「ここって・・・?」
川崎謙弥「病院だ。覚えてないのか?  階段から落ちたんだ」
水杉花奈「えっ、私が・・・?」
川崎謙弥「ああ。修司の手が当たったみてえでな」
吉岡修司「・・・・・・」
  修司は気まずそうにうつむいている。
川崎謙弥「俺たち、花奈を待ってたのに、つい言い争いになっちまって」
川崎謙弥「・・・おい、修司。お前もなんか言えよ」
吉岡修司「花奈、ごめん!」
吉岡修司「丸一日、目を覚まさなかったから、本当にどうしようかと思った・・・」
水杉花奈「ねえ。 私、2人に会いに行こうとしてたの?」
川崎謙弥「ああ、そうだぜ」
川崎謙弥「返事を聞かせてくれるって言うから待ってたんだ」
水杉花奈「返事? えっと、何の返事だった?」
「えっ?」
水杉花奈「私、意識をなくす前のこと、何も覚えてない・・・」
  首をかしげる花奈に、謙弥と修司は困ったように顔を見合わせた。
吉岡修司「・・・と、とにかく花奈の母さんに伝えないと!」
吉岡修司「今、出ていったとこだからすぐに戻ってくるだろうけど」
川崎謙弥「ああ。それと、ナースコール!」
  花奈のそばで、謙弥と修司が慌ただしく動く。
  ──花奈は念のため、二日ほど検査入院することになった。

〇病室(椅子無し)
  その日の夜、花奈の母が帰ると、入れ替わりで今度は修司がやって来た。
吉岡修司「花奈、調子はどう?」
水杉花奈「修司、また来てくれたの?」
吉岡修司「今、塾の帰りなんだ。 やっぱり気になって・・・」
  花奈が5歳で今の家に引っ越してきた時、先に右隣に住んでいたのが吉岡修司(よしおかしゅうじ)だった。
  いつも優しくて穏やかな修司。
  小さい頃、私が泣いていると、そっと寄り添ってくれた。
  一緒にいると、ホッと安心できる・・・それは今でも変わらない。
水杉花奈「ありがとう、心配してくれて」
水杉花奈「主治医の先生からも問題ないって言われたよ」
吉岡修司「なら、よかった。それでさ、あの・・・」
  修司がじっと花奈の顔を見つめる。
水杉花奈「うん、何?」
吉岡修司「花奈・・・」
  修司が何か言いかけた時、病室のドアがノックされた。
看護師「失礼します・・・って、あら。 面会時間はもう終わりですよ」
吉岡修司「すみません! すぐ出ます。 ・・・それじゃあ花奈、また来るよ」
水杉花奈「うん。でも、無理しないでね」
  修司は小さくうなずいて、病室を出ていった。
水杉花奈(修司、何を言おうとしてたんだろ・・・?)

〇病室(椅子無し)
  6月20日(木)
  翌朝、まだ早い時間に病室のドアがノックされた。
  花奈、入るぞー
水杉花奈「謙弥!」
水杉花奈「あれ、学校は?」
川崎謙弥「学校は今から行くけど、その前にちょっとだけな!」
  花奈が引っ越してきた一年後、左隣に越してきたのが川崎謙弥(かわさきけんや)だ。
水杉花奈(謙弥は修司とは対照的で、男らしくてちょっとガサツ)
水杉花奈(小さい頃はすぐ近所の子とケンカして、泥だらけになっていたっけ)
水杉花奈(その分、いざという時にはとても頼りになる)
  タイプが違うから、時にはぶつかり合う時もあるけど、同い年の3人で仲良く一緒に過ごしてきた。
川崎謙弥「それにしたって、検査入院で個室ってすげーよなあ」
  謙弥が病室を見渡して感心したように言う。
水杉花奈「大部屋が満室で今、個室しか空いてないんだって」
水杉花奈「確かにラッキーだよね!」
川崎謙弥「・・・ハハッ、そうだな!」
  謙弥が笑顔で、突然花奈の髪をくしゃりと撫でる。
水杉花奈「えっ、何?」
川崎謙弥「・・・いや、もう大丈夫みたいだな!」
水杉花奈「謙弥・・・。 うん、元気は元気なんだけど」
水杉花奈(一晩経っても、やっぱり記憶がぼんやりしてるんだよね・・・)
川崎謙弥「花奈・・・?」
  その時、再びドアがノックされた。
看護師「朝ごはんですよー・・・って、今度はあなた?」
看護師「今は面会時間外ですよ」
川崎謙弥「ヤベッ! 学校も遅れるわ・・・」
川崎謙弥「そんじゃあな!」
水杉花奈「う、うん。気をつけてね!」
  謙弥は慌ただしく病室を出ていく。
  その後ろ姿を見つめながら思う。
水杉花奈(謙弥とも修司とも、出会ったのはまだ幼稚園に入る前だったのに、気づくと私たちももう高校2年か・・・)
水杉花奈「本当、あっという間だよね・・・」
看護師「何か言いました?」
水杉花奈「あっ、いえ。何も!」
看護師「朝ごはん、ここに置いておきますねー」
  その後も、朝食を食べながら花奈が2人の顔を思い浮かべていると、スマホが鳴った。
水杉花奈「あ、明日香(あすか)からメッセだ・・・」
  松木明日香(まつきあすか)は、花奈のクラスメイトで友人だ。
  明日香『大丈夫?
  階段から落ちて、頭打ったって聞いたけど』
水杉花奈「『大丈夫だよ! お医者さんも問題ないって』」
  明日香『よかった。
  で、2人には返事できたの?』
水杉花奈(返事・・・)
水杉花奈「『ねえ、返事って何のこと?』」
  明日香『覚えてないの?』
  明日香『花奈、謙弥くんと修司くんから告白されてたじゃん』
水杉花奈「・・・えっ、告白!?」

次のエピソード:第2話 吉岡修司

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