土壇場の奇跡 -渋谷大衆居酒屋のゴミ-(脚本)
〇ライブハウスの入口
渋谷センター街、いかがわしいお店が立ち並ぶ中
柄の悪い連中が酒片手にせっせと出入りしている
ここは”渋谷土壇場”
厄介者も 過激派も 音さえ良ければ概ね歓迎のライブハウス
〇ライブハウスのステージ
『二十面相』
イロモノ扱いされることもあるが 音は極上
圧倒的な演奏力と音圧、おどろおどろしくも文学的で美しい日本語詞
唯一無二の世界観を持つ ジャパニーズロックバンド
リョウコ「最高ーー!!」
イオリ(沁みすぎて今日も泣いちまった)
やっしー「三味線みてえなギターソロ、渋い」
─刺さる人にはとことん刺さる
〇ライブハウスのステージ
田嶋「渋谷土壇場、10周年おめでとう」
田嶋「記念すべき日に誘っていただけて光栄だ」
田嶋「土壇場がずっと評価してくれていたからこそ 今の私たちがいる」
田嶋「──やりきったよ」
田嶋「二十面相は本日をもって解散する」
田嶋「次の曲で終わります─『伝え話』」
〇ライブハウスの入口
イオリ「───」
イオリ「─ぐ」
イオリ「ぐああぁ〜〜!!!」
イオリ「おっ、おではにぢうめんそうが!だいすきだ!!」
リョウコ(あのハゲの人、ライブ中も泣いてたな)
やっしー「おいそこのあんた泣くなよ!なんか俺まで・・・くっ・・・」
〇ライブハウスの入口
リョウコ(ハゲとモヒカンが大号泣・・・地獄絵図だ・・・)
うわあああん
リョウコ「あの〜、お兄さん方大丈夫?アタシも今日は二十面相目当てで来たんだ」
リョウコ「雨降ってきたし 3人で飲みに行かない?」
・・・
〇大衆居酒屋
ギャハハハハ!!!
リョウコ「それハードコアあるある」
やっしー「だろ!?あれは笑ったぜ」
イオリ「音楽の話ができるっていいな」
茜「お客様〜そろそろラストオーダーです」
〇大衆居酒屋
やっしー「ビールあと3つ、って俺らしか客いねえ」
リョウコ「わ!アタシ ビールとハイボール!あとナッツあります?」
イオリ「熱燗2つとエイヒレと塩辛お願いっす」
茜(いやめっちゃ頼むやん・・・)
リョウコ「大丈夫!速やかに飲みます!」
茜「は、はぁ・・・」
〇渋谷のスクランブル交差点
リョウコ「あ〜美味しかった〜」
やっしー「店員のねーちゃん、ラストオーダーあたりから俺らのことゴミを見るような目で見てたな」
イオリ「ああ、会計の時もレシート長すぎて引いてたぜ」
〇大衆居酒屋
『ゴミを見るような目』
〇渋谷のスクランブル交差点
リョウコ「でもホント楽しかったよ」
やっしー「二十面相がくれた縁だ、また遊ぼうや」
イオリ「おう!仲間ができて嬉しいぜ」
やっしー「音楽の趣味が合うならバンドとかやりてえな」
リョウコ「──やりたい!!アタシベース弾けるよ」
リョウコ「友達いなくてバンドはやったことないけど」
やっしー「俺はギターなら」
イオリ「ちょうどいい、俺ドラム齧ってんだよ 今度セッションしてみるか」
リョウコ「これってバンド結成!?バンド名決めなきゃ!!」
〇音楽スタジオ
リョウコ「──」
リョウコ「今のどう?」
やっしー「リョウコのボーカル、すげえパンク向きだよな!」
イオリ「二十面相みたいなバンドやりたかったけどパンクも気持ち良いな」
リョウコ「ジャンルはちと違うけどさ、アタシらSTiNGは二十面相のスピリッツを受け継いでるってことで!」
パンクバンド『STiNG』
S(渋谷)
T(大衆)
i(居酒屋)
N(の)
G(ゴミ)
彼らの音楽への真っ直ぐな姿勢とピュアな衝動は 刺さる人にはとことん刺さった
〇黒
──あれから10年
〇ライブハウスの控室
──渋谷土壇場 楽屋
STiNGライブ終演後
イオリは苦労して髪の毛を生やした
店長「ゴミども〜おつかれ、ちょっといい?」
店長「──」
店長「土壇場を閉店することにした」
店長「もともと古いビルだから結構ガタがきててね、修繕は現実的じゃないし 移転も金がかかる」
やっしー「金が問題ならバンド集めて土壇場救済ライブやるよ!!売上全部渡す!!」
店長「サンキュな」
店長「でもさ 移転したら『渋谷土壇場』とは別モンだろ?土地、建物、客層、全部引っくるめて気に入ってたんだよ俺は」
・・・
〇大衆居酒屋
イオリ「で、土壇場ラストナイト出るよな?」
うん
ああ
やっしー「店長にあんな顔されちゃな 俺らの育てのハコの最後を見届けるぜ」
イオリ「だな」
リョウコ「あの、アタシやりたい曲があって──」
茜「はーい ゴミーズ、ラストオーダーだよ」
リョウコ「わっ!茜さん!」
茜「驚きすぎだよ、早く帰れ!」
〇ライブハウスの入口
渋谷土壇場ラストナイト
STiNGは本日のトリ
〇ライブハウスのステージ
リョウコ「土壇場!ありがとう!」
リョウコ「次の曲で終わります─『伝え話』」
リョウコがやりたかった曲は 二十面相の『伝え話』のカバーだった
〇ライブハウスのステージ
店長「みんな今日は──いや」
店長「今まで本当にありがとう」
イオリ「店長・・・」
リョウコ「みんな泣かないでよ 店長これからは姉妹店にいるんでしょ?まだまだお世話になります!」
やっしー「おい!大変だ!!」
〇ライブハウスのステージ
リョウコ「え」
イオリ「──もしかして」
〇ライブハウスのステージ
〇ライブハウスのステージ
田嶋「ライブ拝見したよ」
池田「久しぶりに心が揺さぶられたよ」
田嶋「10年前、私たちは燃え尽きた 何か不都合があったわけでもなく ただ急にプツリと」
乾「君たちが受け継いでくれたんだね」
──
店長「実は俺が田嶋さんに連絡したんだ」
店長「二十面相がきっかけでここまで成長したやつらがいる」
店長「そして同じように今STiNGに憧れてるやつらもいる」
店長「どちらにも知ってもらいたかった」
田嶋「己を貫くことは時に心を消耗し 時に何者かに変化を与える」
田嶋「良かったら近くで飲み直さないかい?」
行きます!!
〇SNSの画面
その後、SNSでは二十面相の再結成と
同時に二十面相×STiNGのスプリットCDが発表され、界隈に衝撃が走った
あの渋谷土壇場ラストナイトの後、いつもの大衆居酒屋で驚くほどホイホイと話は進んだのだ
〇レンタルショップの店内
茜「お、これって」
『怪人が生み出した偉大なゴミ』
茜「あいつら」
〇ライブハウスのステージ
奇跡は語り継がれる
〇黒
終
バンド話ってだいたい勢いで終わっちゃうじゃん。
うわーっとでて、うわーっと叩かれて、でも、うわーっと売れて終わるって。
だから正直嫌いだったんだけど。
でもさ、このお話はストーリー性がいい。
素敵なお話だった。
胸熱な展開でした🥲好きなバンドが解散してしまうのも、その場所がなくなってしまうのも、どちらも経験をしたことがあるのでとてもグッとくるものがありました😭
バンギャ時代を思い出してノスタルジックにひたりながら読ませて頂きました。月日がたっても音楽は色褪せないし、ファンの心には永遠に残っている。好きだったバンドの復活は本当に嬉しい!!共感して、当時の興奮を思い出して、ライブに今すぐ行きたくなりました。