サイコパス鎖百合ちゃん

れこん

2話 『K』(脚本)

サイコパス鎖百合ちゃん

れこん

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〇学校の部室
  七夕の日の告白は失敗に終わった。それもそのはず
  だって『月が綺麗ですね』なんて告白の仕方は、ある特定の小説家の知識が無いと分からない
  だから私はまず初めに、思いを寄せる彼に気づいてもらえるように知識をつけさせることにした
真波繭美「──というわけで、この夏目漱石さんって本当に後世に影響を与えた偉大な小説家なんです」
沼地蓮「zzz・・・」
真波繭美(相変わらず蓮君はいつも読み聞かせの時は寝てるなぁ)
真波繭美(でもそれって、私の声が心地いいからなんだよね、えへへ)
斯波鎖百合「あっ、わかった!」
真波繭美「な、何が分かったの?」
  もしかすれば鎖百合ちゃんは『感が鋭い子』だから私の意図に気が付いたのかもしれない。そんな不安がよぎった
斯波鎖百合「繭美ちゃんさぁ・・・」
斯波鎖百合「今、猫が飼いたいんでしょ!」
真波繭美「えっ、猫!? えーと、どうしてそう思うんの?」
斯波鎖百合「吾輩は猫である──ってね。それに関連してみたの」
斯波鎖百合「ふふ、それに最近繭美ちゃんが夏目漱石さんばかりチョイスするから鎖百合、繭美ちゃんの心を推理してみたんだけどどうかな?」
真波繭美「鎖百合ちゃんすごい。そうなんです。けど家で猫はやっぱりダメみたいで」
真波繭美「だから未練がましく今日の読み聞かせは夏目漱石の『吾輩は猫である』なんです」
斯波鎖百合「えっ、当たっちゃった。自分で言うのもなんだけど、鎖百合ってもしかして推理力あるかも!?」
真波繭美「そうみたいだね」
  何やってるんだろう私は。醜い。大切な幼馴染に嘘をつい出し抜こうとしている。
  これじゃあまるで私は、『こころ』に登場する親友『K』を出し抜こうとした『先生』の立場だ
斯波鎖百合「さてと、今日の部活も終わりだね」
真波繭美「そうだね。蓮君、起きてください。もう部活は終わりだよ」
沼地蓮「zzz・・・っ!」
沼地蓮「繭美か・・・済まない、また心地良くて寝てた」
真波繭美「そ、そうなんだ・・・」
真波繭美「・・・って、今日という今日は寝てた事は許さないよ。だから罰として蓮君に文芸部部長として課題を出すね」
  夏目漱石『こころ』
沼地蓮「・・・これを読んで、理解を深めればいいのか??」
真波繭美「そ、そうだよ」
斯波鎖百合「ねえ、課題って私にもあるのかな?」
真波繭美「勿論。むしろこの課題を文芸部の夏休みの課題にしようと思うんだ。だから二人とも一周間以内に読み終えてくれるかな?」
真波繭美「こっちが鎖百合ちゃんの分の小説」
斯波鎖百合「わぁ、私の分も用意してくれてたんだ。どんな内容かなー楽しみ。さっそく帰って読んでみるね」
  ああっ、本当に私は醜い女だ
  彼の方に渡した小説にはある細工を施した。
  それは小説の登場人物のイニシャルを私のイニシャルにわざわざ変更して渡したのだ
  一方もう片方の小説
  こちらには何も施さずに渡した。
  そうだ、あと一つだけ細工を施したんだった。
真波繭美(蓮君ならきっと気が付いてくれるね・・・)
  『読み終わったら、夏休みに一人で文芸部室に来て』
  そうメモをした栞を彼の本に忍ばせておいた

〇学校の部室
斯波鎖百合「それじゃあいつものように皆で帰ろう!」
真波繭美「ごめん鎖百合ちゃん。私この後用事があるから蓮君と二人で帰ってて」
斯波鎖百合「えっ、繭美ちゃん用事があるんだったら蓮君と二人で手伝うよ??」
真波繭美「えーと、大丈夫だから気にせず帰って」
斯波鎖百合「うーん・・・なーんか急に繭美ちゃんが他所余所しく感じるんだよね。もしかして鎖百合達に何か隠し事してる?」
  今日の鎖百合ちゃんはなんだか感が鋭い。まるで見透かされているようで心臓がドキドキする
沼地蓮「繭美・・・もし本当に隠し事していて辛いんだったら、俺を頼れ」
真波繭美「う、うん・・・ありがとう。でも大したことじゃないよ」
真波繭美「単純にこれから部長の役目として、夏休みの部室の申請に行くだけだから。隠し事なんて全然ないよ。だから二人は先に帰ってて」
斯波鎖百合「なーんだ、安心した。それじゃあお言葉に甘えて先に二人で帰ってるね。行こっ蓮君」
真波繭美「・・・」
  これでいい。だって私は鎖百合ちゃんを出し抜いて蓮君を手に入れようとしている
  だから用事があるなんて嘘をついて、二人きりで帰らせてあげるのは私の贖罪の行動。けど・・・
真波繭美「『こころ』が痛い・・・」
  こうして部活が終わり。すぐに夏休みがやって来た

〇野球のグラウンド

〇田舎の学校

〇学校の部室
真波繭美「あーどうしよう!今日は課題提出の日だけど、まさか鎖百合ちゃんが急な用事で来れないだなんて」
真波繭美「と、ということはだよ。必然的に今日は蓮君と二人きりって事だよ」
真波繭美「あーもう、あんな細工するんじゃなかったよ。気まずい。絶対にもう蓮君は気づいてるよね」
真波繭美「緊張が収まらない・・・そ、そうだこんな時こそ恋愛小説を読んで予習して落ち着こう・・・って、それじゃ余計ドキドキしちゃう!」
真波繭美「こういう時、どうすればいいんでしょうか、教えてください。夏目漱石先生!」
真波繭美「──ってあなたは違います!一つ前の千円札の方です!」
  野口英雄『・・・』シュン
真波繭美「・・・何やってんだろう私。こんな所蓮君に見せられないな」
  こんな不審な行動をしたり、好きな小説を読んだりして私は彼が来るのを今か今かと待った

〇学校の部室
真波繭美「もうとっくに私の渡した小説とメモの栞も見てる筈なのに・・・」
真波繭美「・・・どうして・・・どうして来てくれないの、蓮君」
  私はフラれたんだ。その事実で『こころ』が痛い。そして涙が本に零れて滲む
真波繭美「これは・・・私が幼馴染を出し抜いた罰なんですか」

〇学校の部室
  まだ終わりじゃない。きっと彼の事だから忙しすぎて読み終えるのが遅いだけ、万が一もある筈
  諦めきれなかった私は夏休みの間、夜遅くまで毎日文芸部室に通って彼を待ち続けた
  しかし、あとから聞いた話によると蓮君は夏休みを鎖百合ちゃんとほとんど過ごしていたらしい。
  しかも蓮君、どういう訳か夏休みの間に、他県から引っ越してきたワケ有の子を手助けして交流を広めて仲良くしているらしい
  蓮君って何かの物語の主人公なのかな
真波繭美「そっかぁ・・・そうだよね。私はヒロインじゃなくてモブキャラだから」
真波繭美「だから早々に退出しなくちゃいけないよね。しょうがないよね。だってモブなのに三人の絆を壊しちゃったんだもん」

〇学校の部室
  こうして私は蓮君達と関わりを持つのをやめた。その際文芸部の活動も終わりにした。丁度受験シーズンもあるのでこれでいい
  私の恋と夏が終わった
  続く

次のエピソード:3話 裏切りのチョコの味 前編

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