1話 星を眺める会(脚本)
〇血しぶき
なぜ私達の関係は崩れてしまったんだろうか。
もしかして、私があの時勇気を振り絞って行動したからだろうか。
そのせいで彼女は追いつめられて焦って狂った。
・・・。
いや違う、もしかすれば彼女は元から・・・。
〇大きな木のある校舎
〇学校の部室
真波繭美「・・・」
私は真波繭美(まなみまゆみ)。
中学三年生で文芸部に所属している自称文学少女だ。
今は一人で部室を独占して静かに本を読んでいる。これはこれでいい。けれど・・・。
真波繭美「ううっ、蒸し暑い 少し窓を開けよう」
〇田舎の学校
部室の窓を全開にした。
すると夏の最後の試合に向けて練習する運動部の子達の声が聞こえてくる。とてもキツそうだ。
そんな様子を二階の文芸部室の窓から見下ろしながら、私は備品の扇風機のスイッチを全開にして風邪を全体に送った
こうして涼しい環境を作り、他の子達の練習する声をBGMにして、優雅に過ごす。これぞ文芸部の贅沢な楽しみ方なのだろう。
〇学校の部室
真波繭美「ふぅ、これで少しが環境がマシになったところで、さっそくこの本の続きを読もうかな」
今から読む本は、以前千円札の肖像だった夏目漱石の書いた小説『こころ』だ。
そしてこの夏目漱石という人物。小説の他に有名なエピソードで、愛してると言う英語を『月が綺麗ですね』と翻訳したという
真波繭美「うーん。夏目漱石さんは愛してるを月が綺麗と訳したんだろう。月が夜空に輝いて綺麗だからかな?うーん・・・あっ、そういえば!」
今日は七夕の日だ。確かそれにあやかって、天体観測が趣味の先生が一人『星を眺める会』というイベントを特別に開いてくれる。
真波繭美「七夕の日に星を見る。なんだかロマンチックでいいなぁ。イベントに興味があるけど・・・うぅ、参加しずらい」
私は人見知りだからこういうイベントには参加したくても中々できない。本当にこの性格が恨めしい。少し私には勇気が欲しい。
斯波鎖百合「繭美ちゃん待たしてごめんね。今日掃除当番で部活に参加するのが遅くなっちゃった」
真波繭美「あっ、鎖百合ちゃん。掃除当番お疲れ、もしかして一人で掃除してたの?」
斯波鎖百合「ううん、蓮君が気を使ってくれて、掃除当番じゃないのに私を手伝ってくれたの」
沼地蓮「・・・」
真波繭美「あ、あの・・・蓮君も、お疲れ様です」
沼地蓮「・・・ん」
真波繭美(相変わらず無口だなぁ蓮君)
おしゃべりで明るい鎖百合ちゃんと無口だけど気が利いて優しい蓮君。二人とも私の幼馴染であると同時に数少ない文芸部員だ。
斯波鎖百合「ねえねえ繭美ちゃん。今日は何を読み聞かせしてくれるの?」
真波繭美「そうだね、えーと・・・」
文芸部の活動は、私がチョイスした小説を二人に読み聞かせしてあげる事だ。
斯波鎖百合「今日はどんな話が聞けるのかな(ワクワク)」
地味な活動だけど、鎖百合ちゃんには意外にも好評らしい。けれど蓮君の方は・・・。
沼地蓮「zzz・・・」
斯波鎖百合「あー、また蓮君寝ちゃってるね」
斯波鎖百合「けど気にしないで繭美ちゃん。蓮君が言ってたけど繭美ちゃんの声が心地よくてつい寝ちゃうって言ってたから」
真波繭美「わ、私の声が、心地いい・・・」
斯波鎖百合「それに蓮君って文武両道で何でもできて、すごい男の子でしょ。だからここ最近他の部活から助っ人の依頼が多くて疲れてるみたい」
真波繭美「そうみたいだね・・・」
蓮君は実はスーパー男子だ。本当に優秀で何でもできてろくに練習もしてない競技でも短時間でコツを掴んで、その大会で優勝する
しかも、噂だが蓮君は学校以外で何か事件等を解決しているらしく、国の偉い人にも感謝されているらしい
だから私と鎖百合ちゃんにとって蓮君は、身近にいる憧れのヒーローだったりするのだ。
斯波鎖百合「あはは、蓮君ってば、いっもクールなのに今は無防備に寝顔を私達に晒しちゃってるよ」
真波繭美「そうだね。ということはもしかしてこの文芸部は蓮君の憩いの場だったりして・・・」
斯波鎖百合「違うよ」
真波繭美「えっ・・・鎖百合、ちゃん?」
斯波鎖百合「私達三人の憩いの場だよ!」
真波繭美「えっ・・・あ、そうだね」
何故か一瞬、鎖百合ちゃんを『遠く』に感じた気がしたけど、気のせいかな?
斯波鎖百合「繭美ちゃん、私早く読み聞かせの続きが聞きたいな」
真波繭美「う、うん・・・えーと、あっ!」
何故か動揺して鎖百合ちゃんの前に読み聞かせ途中の小説を落としてしまった。
斯波鎖百合「えーと何々・・・夏目漱石。確か明治時代の人で・・・あっ、そういえばこの人で何か有名なエピソードがあったような」
真波繭美(あっ、もしかしたら鎖百合ちゃん『月が綺麗ですね』のエピソードを知ってて思いだしそうなのかも)
真波繭美(けど、なんか思い出させたくない気がする)
真波繭美「あっ、そう言えば今日天体観測があるみたいなんだけど行かないかな!?」
真波繭美(あーどうしよう。いくらなんでも誤魔化すの下手過ぎだよ。急に天体観測なんて不自然すぎる)
沼地蓮「・・・天体観測・・・行くよ」
蓮君がシャベッタアアアア!!
〇黒背景
こうして私の下手な誤魔化しがきっかけで思わぬ事態に発展した。
〇宇宙空間
〇宇宙空間
『星を眺める会』にて
せっかくなら風情を楽しもうということで、先生が浴衣を着てきても良いと言った。なのでこうして三人とも浴衣姿だ
斯波鎖百合「えへへ。蓮君、鎖百合の浴衣どう思う?」
沼地蓮「ん・・・可愛い」
斯波鎖百合「えへ、えへへへ。蓮君が可愛いって言ってくれたぁ」
真波繭美(ううぅ・・・やっぱり鎖百合ちゃんにかなわないなぁ)
鎖百合ちゃんはアイドルにも劣らない可愛い存在だ。なので蓮君とお似合いだ。
だから私みたいな地味な女の子はここに必要ないのだ。
真波繭美「・・・」
沼地蓮「繭美・・・浴衣、似合ってる」
真波繭美「えっ、あ、ありがとう蓮君」
真波繭美(蓮君、私の事も見ててくれたんだ)
胸が感動と嬉しさで高鳴る。
教師「おーいお前たち、そろそろ望遠鏡で星が見えるぞ」
〇宇宙空間
真波繭美「うわあ、本当に綺麗」
教師「よかったなお前たち。運が良いぞ。だいたいこの時期は梅雨で星空なんか見えやしないが今日は晴れててよく見えるぞ」
真波繭美「そうなんですね。(私もしかして今ツイてる!?)」
沼地蓮「繭美。俺も見たい」
真波繭美「えっあ、うん・・・どうぞ」
蓮君が私のすぐ隣で望遠鏡をのぞき込む。その時の横顔がすごく真剣で見ているとドキドキしてくる
真波繭美「蓮君・・・月が綺麗だね」
気が付けば私は自分でも驚くほどスラリと自分の気持ちを声に出して伝えていた。
沼地蓮「繭美・・・」
真波繭美「な、何かな?」
沼地蓮「今綺麗なのは月じゃなくて星だ・・・」
真波繭美「・・・」
真波繭美「そ、そうだよね。何言ってるんだろう私。あはは・・・」
斯波鎖百合「ねえ二人ともズルい! 私にも星空みせてよ、ぶぅーぶぅー!」
斯波鎖百合「ねえ蓮君、一緒に見ようよ」
沼地蓮「うん・・・」
沼地蓮「繭美も一緒に──」
真波繭美「あ、私はもう沢山見たからいいよ」
その後、何だかいたたまれなくなって私は二人の側を離れる事にした
教師(真波・・・)
教師「元気だせよ・・・(先生は国語の教師だからお前が頑張った事はわかったぞ)」
こうして『星を眺める会』は無事に終わり、感動と一緒に苦い思い出もできた
続く
男女3人の幼馴染としての友情、そして恋心が織り交じり、更には学生特有の思春期の心が合わさったぐちゃぐちゃな感情が伝わってきます。懐かしくも辛い、そんな気持ちになります。
居るんだよね。性格が対照的な友達が同じ人を好きになる
ことも。地味で目立たない娘はいつも控えめた。男の子はどっちが好きなのか気になるよ。
男女の友情のなかにこういう秘密ってあったりするけど、3人で三角関係になってしまうと辛いな。友達として大切な存在、それを壊したくないけど素直に喜べない、自分自身も認めたくないようで薄々気づいている恋心、そういうのが文章から手にとるようにわかりました。
続きが気になります。