本能寺さんはクソ野郎

和久津とど

第19話 本能寺さんの復讐(脚本)

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〇学校の昇降口
本能寺令「はぁ・・・」
  私はため息をついて、くたびれた上履きを脱いだ。
本能寺令(やっと終わった)
  学校は嫌いだ。
  勉強も運動も全然出来ないし、教室にいても嫌がらせをされる。
  友達なんかいない。楽しいこともなくて、ひたすら辛くて悲しいだけ。
  授業が終わって家に帰れること。
  小学生の頃の私にとって、それだけが希望だった。
倉重徹「うっわ、どしゃ振りじゃん」
  背後から聞こえてきた声に、私はビクっと身体を震わせる。
  私にとっては、この倉重という男の子が一番怖い人だった。
倉重徹「最悪。傘忘れたんだけど」
男子小学生「ダッセー!  天気予報見てこなかったのかよ」
倉重徹「うるさいなあ。いいよ、借りるから」
  そう言って、彼は今まで存在しないかのように扱っていた私を見る。
倉重徹「本能寺さん。傘、貸してよ」
  私は持っていた雨傘をぎゅっと握りしめる。
本能寺令「でも私、これしか持ってない」
倉重徹「貸して?」
  それはお願いというより、もはや命令だった。私が逆らえないことを、彼はよくわかって言っている。
  逆らったら彼を中心としたイジメが、ますますひどくなるに決まっているのだ。
  だから私は震える手で、自分の傘を差しだした。
倉重徹「やったー! 傘ゲット!」
  礼も言わずに、彼は私の傘をさして、友人と笑いながら外に飛び出していく。
本能寺令「傘、なくなっちゃった」
  こういうことは何度もあった。
  もうランドセルを傘代わりにして、走って家に帰ろう。憂鬱な気分で下駄箱を開くと、そこにあるはずの靴がない。
  ああ、また盗られたんだ。
本能寺令(上履きで帰ったら先生に怒られるし、また裸足で帰らなきゃ)

〇学校沿いの道
  よたよたと外に出た。
  冷たくなった土の感触が、靴下ごしにぐちょりと伝わる。
  冷たい雨を浴びながら何歩か歩くと、頬に温かいものがツーっと流れてくるのを感じた。
  涙なんかこぼしても、意味がないって分かっているのに止まらなかった。
  泣いたって、誰も助けてなんかくれやしないのに。

〇学校の廊下
玉宮守「そろそろ時間だな」
  本能寺と話したい。
  そう倉重に頼まれ、俺は3人で会話できる場を設けた。
  嫌がるかと思った本能寺も、意外とアッサリ了承した。
倉重徹「悪いな、遅れた!」
  約束の時間に少し遅れて、倉重が姿を現した。本能寺のまとう空気が、ピリリとこわばる。
倉重徹「本能寺さん・・・ごめんっ!」
  本能寺と顔を合わせるなり、倉重は小さく頭を下げた。
倉重徹「小学生の頃に、ずいぶん嫌な思いをさせたって、ようやく気付いたんだ」
倉重徹「だから今日はそのことを謝りたくて。 本当にごめん」
本能寺令「それは、反省してるってこと?」
倉重徹「もちろん! オレ、昔はちょっと調子に乗ってて、たくさん嫌な思いをさせちゃったと思う」
倉重徹「今ここで許してくれなくてもいいんだ。 だけど、その償いはしたくて」
本能寺令「どういう心変わりなの?」
倉重徹「今の本能寺さんを見てると、昔の自分が恥ずかしくなったんだ」
倉重徹「過去は変えられないけど、その埋め合わせは出来ると思ってる」
倉重徹「オレはこれから本能寺さんと仲良くしていきたいんだよ」
倉重徹「ダメかな?」
  倉重の綺麗な正論に、俺は横で感心してしまった。
  イジメの被害者がどう思おうと、こう持ちかければ、とりあえず会話が出来るような関係性になれるだろう。
  そこから積み重ねて良好な関係を築いていく。
  倉重はそういうことが出来るヤツだ。
  だがしかし倉重に誤算があったとすれば、相手が本能寺だったということだ。
本能寺令「へぇ。じゃあ私へのイジメの内容、全部言ってみて?」
倉重徹「え、全部?」
本能寺令「当然! 反省してるんでしょ。 だったら全部言えるはずじゃない?」
倉重徹「いや、全部はさすがに難しいというか」
本能寺令「はああああ!?」
本能寺令「傘とか文房具とか服とか靴とか縦笛とか5000万円とか取られたんですけどぉ!?」
本能寺令「こっちは細部まで全部覚えてるっていうのに、そっちが全く具体的に言えないってどういうつもり!?」
本能寺令「反省の色がこれっぽっちも感じられない!」
倉重徹「そ、それは」
玉宮守「いや、さすがに5000万円はウソだろ」
本能寺令「私の精神的被害をお金に換算すると、それぐらいってこと!」
本能寺令「もう全っ然、話にならない! 詫びるなら、誠意ってモノを見せて欲しいんだけど!?」
倉重徹「わ、分かった!  本能寺さんの怒りはもっともだよ!」
倉重徹「だったら、どうしたら許してくれるかな?」
本能寺令「今すぐ頭をバリカンで丸刈りにして、般若心経(はんにゃしんぎょう)を丸暗記」
本能寺令「寺に入って5年修行して、滝の上からダイブしながら4回転」
本能寺令「自分がクソ虫ということを校内放送で嗚咽(おえつ)をもらしながら叫んで、そして身体中に重りを巻き付けて」
  カッと目を見開いて本能寺は叫ぶ。
本能寺令「東京湾に沈めッ!」
倉重徹「死ねとッ!?」
本能寺令「簡単にいうとね」
  グイっと親指を下に向けて、本能寺は笑顔で告げる。
本能寺令「顔も見たくねえんだよ、とっとと失せろ☆」
倉重徹「あ、あははは、あははは」

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