私たち真っ黒症候群

岸音りよ

心の色(脚本)

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岸音りよ

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〇黒
  今日、私は万引きをした

〇ゆるやかな坂道
リエ「はぁっ」

〇住宅地の坂道
リエ「はぁ、はぁ」

〇公園の砂場
リエ「ここまで来れば・・・」
リエ「バレたりしてないよね」
リエ「はぁ・・・」
  どうにでもなればいいんだ
  こんな人生──
???「ネ#え」
  突然だった
  気がつくと、目の前に人の形をした黒い化物がいた
???「#¥@%」
リエ「ひぃ〜、なにっ!?」
リエ「いてて」
  尻餅をついて倒れた私に伸びる──化物の黒い手
リエ「やめてえええええええええええ」

〇黒
  反射的に目を閉じる
  私は目一杯の力で拳を叩き込んだ
  拳が何か硬いものを捉える
リエ(倒したか?)
リエ(それともあれか?  まぶたを開けるとそこにいる的なそれか?)
男の声「おい、大丈夫か?」
  端正で機械的な声が聞こえて、そっと視界を開くと──

〇公園の砂場
  鼻血を垂らした男が立っていた
カイム「自分はカイム」
カイム「まさか初対面で奴らを殴ろうとする女がいるとは」
リエ「は・・・え、さっきの化物は? あなた誰?」
カイム「だから、自分はカイム」
カイム「”黒人間”は消した」
リエ(黒人間・・・?)
カイム「お前、人生を捨てようとしているな」
リエ「な、なんで?」
カイム「黒人間──奴らはそういう人間を狙う」
カイム「そして、色」
  指を指されて、初めて気がついた
  身体のあちこちで”小さな黒色”が点滅するように出たり消えたりしている
カイム「お前は黒人間予備軍」
リエ「っ!」
カイム「規定に従い、一週間お前の生活に張り付かせてもらう」
  こうして、うんざりする付き纏い生活の幕が開けた──

〇女の子の一人部屋
  三日後──
カイム「いいか、リエ 奴らは夜に現れる」
  カイムはクッキーを頬張りながら黒人間を倒していく
  あれから毎日黒人間が現れている
リエ「で、倒すにはその”口紅”で攻撃を加えると」
リエ「ってか、部屋にまで来るのだるい」
リエ(スッと消えてくから、血とか散らないだけマシだけど)
カイム「銃器や刃物じゃ再生される」
カイム「もちろん拳も意味がない」
カイム「奴らに有効なのは、特別な色を塗ることだ」
  人生を諦めた人間は全身が徐々に黒ずんでいく
  ──それを”黒化”といった
カイム「黒化した状態で奴らと接触すれば、容易に症状は進んでしまい──」
カイム「その人間も黒人間になってしまう」
リエ「で、なんで黒人間を倒してるの?」
リエ「黒人間って元は人間でしょ」
リエ「それを消す・・・仕事なんだよね?」
  ときに命懸けだと彼は言う
リエ(お金のためなのかな それとも恨みが?)
カイム「自分には心の色がないんだ」
リエ「心の色?」
カイム「感情がないともいう だから、心が黒に染まることがない」
カイム「奴らを狩るにはうってつけだ」
リエ「よくわからないけど、心がないんだ?」
カイム「そうだね」

〇黒
  だから、自分の生き──

〇女の子の一人部屋
カイム「・・・ま、いいか それで自分が狩らなきゃいけないんだ」
カイム「リエこそ、どうして万引きなんてしたんだ?」
リエ「えっ!」
リエ「・・・知ってたの?」
カイム「ああ」
リエ「・・・」
リエ「私、家に居場所なくて一人暮らししてるの」
カイム「虐待か?」
リエ「うん」
リエ「殴られたり、結構ひどくて」
リエ「高校出てすぐ働いて──でもうまくいかなくて、ひとりぼっちで」
リエ「全部どうでもよくなっちゃって」
カイム「・・・」
カイム「でも、生きる以上楽なんてことはない」
カイム「どうでもいいなんて、黒一色で塗りつぶしても解決しない」
リエ(そんなことわかってるよ・・・)
リエ「気をつける」
カイム「うん」
リエ「・・・」
カイム「・・・」
リエ(気まずいな 話題変えようか)
リエ「えっと、手作りなんだけど美味しい?」
カイム「クッキー、手作りなんだ?」
カイム「初めて作ってもらった」
カイム「なんか、あったかい」
  心がないと言う彼が、笑っていた
リエ(心がなくても、笑えるのかな?)

〇ゆるやかな坂道
  さらに三日後──
  カイムと普通の生活(黒人間を除く)を送るうちに、時間はすぐに流れた
カイム「明日で監査期間も終わりだ 七日間黒化しなければ、次第に治る」
リエ「鬱陶しかったけど、少しだけ楽しかったよ」
カイム「楽しい?」
リエ「あまり誰かと過ごすことなかったから」
カイム「それを楽しいっていうの?」
リエ「え? うん、たぶん」
カイム「自分にはわからない」
カイム「う・・・な」
リエ「うん?」
  小さな声で聞き取れなかったが、彼が”羨ましい”と言った気がした
リエ(そんなわけないけど)
カイム「じゃ、最後にコンビ──」
  彼が言い終わる前に、それは起こった
リエ「なに・・・この量」
黒人間「ころ#¥¥¥」
黒人間「いっッショに####死死」
  断末魔のような叫び声と共に、大量の黒人間が現れた
カイム「最後に集団で襲ってくるらしい 二十体はいるか──」
  カイムは口紅を構えて、奴らと対峙する
カイム「逃げろっ!」
  彼の咆哮を合図に、私は全力でその場を駆け抜けた

〇川沿いの道
リエ「はぁ、はぁ」
リエ「カイム、大丈夫かな」
リエ(っていうか、なんであいつの心配なんかしてるんだろ)
リエ「そもそも、あいつのせいじゃん」
  黒人間は人生を諦めた者の末路
  カイムがいなければ
  ──楽に死ねたんじゃないか?
リエ(七日間黒化しなければ、とりあえず黒人間になることは免れるらしいけど)
リエ「本当にそれでいいのカ」
リエ「生きテどうナル?」
リエ「仕事もうまク逝かず、人間関係ダッてだめ¥#@」

〇黒
  Aa・・・
  死の──
  突如現れた眩しい光に、思わず私は両腕で目を覆った
リエ「なニ?」

〇女の子の一人部屋
カイム「リエ、おはよう」
  ん、おはよ

〇ファミリーレストランの店内
カイム「すごく美味しかった」
  そう?
カイム「ごちそうさまでした」

〇女の子の一人部屋
カイム「おやすみ、リエ」
  おやすみなさい

〇川沿いの道
  涙がとめどなく溢れていた
  身体に染まりつつあった黒色が、涙に流されて消え去る
  光っているのは、自分の胸辺りだった
  ちょうど、心臓の──心の場所
リエ(ああ、そうか)
リエ「私はひとりじゃない」
  涙を拭い、カイムのいる場所へと走った

〇公園の砂場
リエ「カイム!」
  彼は人気のない公園にポツンと佇んでいた
リエ「よかっ──」
リエ「っ!」
  街頭に照らされる彼は、黒く染まりつつあった
リエ「黒化!?」
カイム「###¥¥¥@@」
リエ(なんで、感情がないはずのカイムが──)
カイム「ウ、羨まジい」
カイム「ミンナミイイナ、人と交われル」
カイム「ジヴンだけひとりボッチでェ」
リエ「・・・」
カイム「黒人間daけコロ死てイレバ」
カイム「それが生キキキ生きる意味ィ」
カイム「ソレダケしてレバ、それダケしてればァ」
カイム「生きててイイノダ¥¥」
リエ「・・・カイム」
カイム「ウルザアアアい ジヴンにハこれしかないんダァ!」
  瞬間、私はカイムを力一杯殴っていた
リエ「ずっと、生きることに苦しんでたんだ?」
  でも──
リエ「考えることを放棄して、簡単にひとつのことで、一色で全部を染めるなよ!」
リエ「カイムが言ったことでしょ!」
カイム「・・・リエ?」
リエ「私もね、生きる意味とかわからなくて」
リエ「ひとりでさ」
リエ「難しく考え込むのも辛くて」
リエ「だから、楽になりたくて」
リエ「どうでもいいやって、全部塗りつぶして思考を放棄してた」
カイム「うう」
リエ「でも、カイムと一緒にいて楽しかった」
リエ「生きてれば、まあ、なんとかなるかもなって思えた」
カイム「自分は・・・」
リエ「心がないなんて、嘘だよ」
リエ「カイムの居場所もここにあるから」
  だから、大丈夫だよ
  私たちは黒い闇を晴らす月の下で、しばらく互いを抱擁して涙を流した

〇荒廃した街
  あれから数年後の世界では──
  黒人間は世界に広まっていき、やがて人類は黒人間との戦争に身を投じていくことになる

〇空
  人間は弱い
  辛く苦しいときは、ひとつのことで心を染めたくなるものだ
  だって、その方が楽だから

〇ゆるやかな坂道
カイム「頑張ってこい」
リエ「うん!」
  けど、これだけは言える
  どんな色だって描けるから

〇コンビニのレジ
コンビニ店員「いらっしゃいませ」
リエ「すみません 少しお話があって来ました」

〇地球
  私たちは、強くなれる

コメント

  • 立ち向かうのは大変ですね。一人だと難しいことも、補い合うとなんとか乗り越えられるのかもしれません。

  • 楽な方に逃げて一色になった黒人間に対して、「色」を与えることが有効…という暗喩的な表現が素敵でした☺️口紅を構えているカイムさんを想像するとシュールですが(笑)

  • 生きてると色々な場面に遭遇して色々な選択を迫られてハードに感じる時はありますよね。逃げたくなりますが何とか頑張りぬく、タフですよね。いいストーリでした!

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