本能寺さんはクソ野郎

和久津とど

第18話 私のヒーロー(脚本)

本能寺さんはクソ野郎

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〇ファンシーな部屋
玉宮守「ああああああ! なんて約束をしてるんだ、俺は!?」
  小学生時代の痛い思い出を振り返り、俺は本能寺の部屋で頭を抱えていた。
玉宮守(本能寺に自信をつけさせて、何とか外に出してやろうと思って言った約束が、まさかここまで未来の俺を苦しめることになるとは!)
玉宮守(なんてバカな俺!)
本能寺令「たしかに、どんな手を使ってでも倒していいなんて、初めて聞いた時はビックリしちゃった」
  本能寺はそう言って、やわらかく微笑む。
本能寺令「でも、その言葉に私は救われたんだ。 やっぱり玉宮くんは変わってないね」
玉宮守「いや、どう見ても変わっただろ。 もうあんなバカなガキじゃないぞ」
本能寺令「ううん、そうじゃない」
本能寺令「まだ宇宙飛行士を目指してるし、運動は苦手でも勉強はずっと1位を取り続けてるもん」
本能寺令「やっぱり玉宮くんは、凄いままだよ」
  俺のことだというのに、本能寺はまるで自分のことのように自慢げに話し、そして眉根を下げた。
本能寺令「だけど、私はダメなんだ。相変わらず他人にどう接すればいいのか分からないし」
本能寺令「イジメられないように先手を打って、どうしても攻撃的になっちゃう」
本能寺令「他人と関わるのを避けちゃう」
  本能寺は一度そこで言葉を切り、小さくため息をついた。
本能寺令「そんなだから、玉宮くんにも嫌われちゃった。強くなれたと思ったんだ」
本能寺令「でもやっぱり、この部屋に引きこもって学校を休んでた時と変わらないんだよ、私は」
  諦めたように語る本能寺に、俺は声を掛けられなかった。
玉宮守(俺は本能寺の言うような凄い人間じゃない)
玉宮守(弱い自分を許容して、出来る限りのことをしてるだけなんだ)
玉宮守(本当は薄々、宇宙飛行士になんてなれないって、なんとなく心の隅で諦めてる)
  だが、そんな本音はコイツの前では言えない。
  本能寺が見ているのは、何でも出来ると思い込んでいた小学生時代の俺の幻影なのだ。

〇黒
倉重徹「アハハハハハハハ!」

〇ファンシーな部屋
  フラッシュバックしたのは、小学生の頃に受けた嘲笑。
  倉重にコテンパンに負けて、クラス中から冷笑を浴びた。
  未だにあの笑い声が、身の程を知れと呪いのように心を蝕んでいる。
玉宮守(それをきっかけに俺の肥大化したプライドは、粉々に崩れ去った)
  成長するために必要な痛みだったと自分に言い聞かせているが、同時に何か大事なものを失ったようにも思えてならなかった。
玉宮守(俺と本能寺は、そういう所が似ているのかもしれない)
玉宮守(周囲との軋轢(あつれき)の中で、否が応にでも変わらざるを得なかったところが)
  こんな時、昔の俺ならどうするか。
  本能寺がイメージしている、ヒーローの玉宮クンなら・・・。
  ある考えが頭に浮かび、すっと腑に落ちた。
玉宮守(ああ、そうか。俺はきっと)
玉宮守「・・・本能寺、行くぞ」
本能寺令「え、どこに行くの?」
玉宮守「外」
  そう言って、俺は本能寺の手を引いて外に出た。

〇川に架かる橋
  本能寺の手を引いて、俺は街の中をずんずん進む。
本能寺令「た、玉宮くん、急にどうしたの?」
玉宮守「勝手に引っ越しするなよ!」
本能寺令「えっ?」
玉宮守「小学生の頃!  学校で顔を合わせるの、待ってたんだぞ!」
玉宮守「あの時の俺は、こうやってお前と家の外で会いたかったんだよ!」
玉宮守「なのに何も言わずに消えやがって!」
本能寺令「急に何!? 親が離婚したんだから、しょうがないでしょ!」
玉宮守「そんな事情知らん! 俺は、つまらなそうな顔をしてたお前に、いろんなものを見せてやりたかったんだよ!」
玉宮守「一緒に勉強して、遊んで、普通に友達として過ごしたかったんだ!」
本能寺令「た、玉宮くん?」
  俺は足を止め、本能寺を振り返った。
  握った手にグッと力を込める。
玉宮守「俺は、お前にひとりで努力して欲しいなんて、思ってなかったんだよ」
本能寺令「あ」
  本能寺の瞳から、ツーっと涙がこぼれた。
本能寺令「でも、私、玉宮くんに勝たなくちゃって、ずっと思ってて」
本能寺令「玉宮くんに認められたくって」
玉宮守「スゲーよ、お前は。 勉強も出来るし、運動だって俺よりずっと凄い」
玉宮守「最近まで、あの時の女の子がお前だなんて気付かなったぐらいだ」

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