本能寺さんはクソ野郎

和久津とど

第16話 本能寺さんの理由(脚本)

本能寺さんはクソ野郎

和久津とど

今すぐ読む

本能寺さんはクソ野郎
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇教室
  本能寺が学校に来なくなって、一週間が経った。
  学校に欠席の連絡をしていないらしく、本能寺に何かあったのかと教師から聞かれた。
  アイツがどんな考えで学校を休んでいるか、分からない。
  ただ、小学生時代の本能寺を思うと、元気に明るく通学していた今までの方が不思議だ。
玉宮守「勉強、全然はかどらないな」
  邪魔者はいなくなったのに。
  ポッカリと空いた隣の席が、視界の端にちらついていた。
  いまひとつ集中出来ないまま午前の授業が終わり、小柴が俺のクラスに訪ねて来た。
小柴育美「玉宮くん、来てください。お話があります」
  そう言った小柴の顔には、静かな怒りが秘められていた。

〇物置のある屋上
  屋上にやって来るなり、小柴は俺に詰め寄った。
小柴育美「本能寺さんに、何をしたんですか?」
玉宮守「別に何も。 話しもしなくなったから、それが原因かもな」
小柴育美「どういうことですか、それは?」
玉宮守「アイツなんかと、関わりたくなかったんだよ」
玉宮守「だからしばらく無視してた。 そうしたら学校に来なくなったんだよ」
小柴育美「なっ! そんなの、あんまりじゃないですか!」
  小柴は怒りを露わにして叫ぶ。
小柴育美「それじゃ、玉宮くんの無視が原因で不登校になったってことですよ? 本能寺さんが心配じゃないんですか!?」
  口では友達ではないとは言っていたが、かなり本能寺のことを心配しているようだった。
  だが、俺は違う。
玉宮守「どうでもいいよ、あんなやつ。 こっちは勉強で手いっぱいなんだ」
玉宮守「本能寺に構ってる余裕はないし、俺からアイツにかけてやれる言葉もない」
小柴育美「たしかに、本能寺さんは困った人です。 玉宮くんにも散々迷惑をかけた」
小柴育美「でも、だからってこのまま放っておいていいはずがありません!」
小柴育美「傷つけた自覚があるんなら、本能寺さんと直接会って話してください!」
玉宮守「お前が話せばいいだろ」
小柴育美「もう家には行きました。 でも、会ってもくれませんでした」
小柴育美「私じゃダメなんです。 やっぱり、玉宮くんじゃないと」
玉宮守「どうしてそうなるんだよ」
小柴育美「昔、本能寺さんは、玉宮くんのことをヒーローのみたいに話していたました」
小柴育美「困った人を助けるのが、ヒーローの仕事でしょう?」
  ヒーローなんて大袈裟な表現を聞いて、俺はハッと鼻で笑う。
玉宮守「俺なんかがヒーローだって? どこがだよ」
小柴育美「本能寺さんはずっと憧れている男の子がいるって話してたんです。その人に救われたんだって」
小柴育美「これまでの経過を考えると、明らかに玉宮くんのことですよ!」
玉宮守「救われた?」
  小柴の言葉に、不意に古い記憶が蘇る。
玉宮守「そう言えば・・・」
小柴育美「何か、思い出したんですか?」
玉宮守「ちょっと待って、いま思い出すから!」
  鋭い目線で問い詰める小柴から一歩後ずさりつつ、俺はようやく探り当てた本能寺の記憶を語り始めた。
玉宮守「確か、小学校4年に上がった頃だったかな」
玉宮守「友達に押しつけられて、話したこともない不登校の同級生の家に、プリントを届けたことがある」
小柴育美「それが、本能寺さん?」
玉宮守「今思えば、そうだったんだと思う」
玉宮守「正直、名前も思い出せないんだ。 そのときまで顔を合わせたこともなかったし」
  話したこともない女子にプリントを届けるなんて、面倒なことを引き受けたのは、ちょっとした功名心からだった。
玉宮守「不登校の同級生を励まして、俺の力で再び登校できるようにしてやろうって思った」
玉宮守「そのときの俺は自分が天才で万能だと信じてて、そのくらい簡単なことだって考えてたんだ」
小柴育美「想像できます」
  小柴は納得の表情で深々とうなずく。
玉宮守「ソイツはイジメだの家庭の事情だので、人生が終わったみたいな暗い顔をしてた」
玉宮守「内容は覚えてないが、俺はソイツを励ます為に、あれこれ話をした」
  少しずつ記憶が蘇ってくる。
  きっと実際のそれは、励ましとはかけ離れた知ったかぶりの知識披露だったと思う。
  だが、相手は真剣に俺の話に耳をかたむけ、ときには涙ぐんでいた。
玉宮守「別れ際は何度も何度も礼を言われて、俺はうまくいったと確信してたんだ。 また新たな伝説を作ってしまった、なんてさ」
  だがその後、その女子が再び登校してくることはなかった。
  俺は自分の説得が失敗に終わったと悟り、その女子のことを記憶から消去した。
小柴育美「その子が、本能寺さんだったんですか・・・」
  小柴は眉根を寄せて小さく首を振ると、改めて俺に向き直った。
小柴育美「だったらなおさらです。玉宮くんの本心がどうであれ、そのときの行動がその後の本能寺さんの支えになったんです」
小柴育美「今度も、本能寺さんを助けてあげてください」
玉宮守「今の俺にはムリだ。 昔の万能感満点だった俺とは違う。 あのときみたいに口八丁で励ませないって!」
  ましてや、相手はあの本能寺なんだ。
  断固拒否する俺に、小柴がさらに詰め寄る。
小柴育美「なんでそんなに自信をなくしてしまってるんですか? 今の玉宮くんだって十分天才気取れますよ!」
玉宮守「無茶言うな! 一度ボキボキに折られた自信は、そう簡単に元には戻らねえんだよ!」
  つい怒鳴ってしまった俺を責めもせず、小柴は俺に続きをうながした。
玉宮守「・・・小柴のクラスに倉重って居るだろ?  アイツに勝負を挑まれたんだよ」
玉宮守「5年生の終わりごろだったかな。 俺は当然楽勝だと思ってたけど、コテンパンに負けた」
小柴育美「その勝負は、体育とか?」
玉宮守「いいや、全科目だ。得意の算数も理科も、ものの見事にぜーんぶ負けた」
玉宮守「本当の天才は倉重の方だった訳だ」
  俺は深いため息をついた。

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第17話 本能寺さんの過去

成分キーワード

ページTOPへ