第5話『誤解される旅人』(脚本)
〇河川敷
相馬一貴「ここって、あの三途の川?」
相馬貴宗「そうなるな」
相馬貴宗「我々が通ってきた門は 入り口みたいなものだ」
相馬貴宗「ここを渡れば、さらに冥界に近づく そして、大地は広がり続ける」
相馬貴宗「向こう岸に見えるだろ? 町らしきものが」
相馬一貴「確かにあるね」
相馬貴宗「あれは、先ほど話したように まだ現世に執着している人間の溜まり場だ」
相馬一貴「そんな場所が?」
相馬貴宗「門は通れないが、ああして現世と 少しでも近くにありたいんだ」
相馬一貴「何か悲しいね」
相馬一貴「ご先祖様はこの辺りにいたの?」
相馬貴宗「いや、俺はもっと遥か彼方だ」
相馬貴宗「そこで慎ましく生活している」
相馬一貴「そういえば、父さんに教わったな」
〇墓石
一貴「ねえ、ご先祖様はどこにいるの?」
相馬貴行「遙か彼方、我々が想像もできないような 遠くだよ」
ルル奈「凄いね!」
相馬貴行「父さんと母さんはお前たちぐらいの時 ご先祖様に会ったことがあるんだぞ?」
一貴「本当?」
ルル奈「凄い!」
相馬貴行「すごくカッコ良くて立派な人だ」
一貴「会ってみたいな」
ルル奈「うん」
相馬貴行「いいかい?」
相馬貴行「我々はこうしていられるのも ご先祖様のお陰だ」
相馬貴行「しっかりお参りするんだぞ」
相馬貴行「あの世で幸せに暮らせますようにって」
相馬貴行「遠く離れていても、”想い”は届く」
一貴「うん!」
ルル奈「はーい」
相馬貴行「そうすれば、お前たちを 見守ってくれるはずだ」
一貴「あの世で幸せに暮らせますように」
ルル奈「ますように」
相馬貴行「よく出来ました!」
〇おしゃれなリビングダイニング
一貴「音が鳴った!」
ルル奈「すごい! 今のどうやったの?」
相馬貴宗「ちょっとした術だ」
一貴「ご先祖様すごい!」
ルル奈「もっと何かやって!」
相馬貴宗「やってやりたいのは山々だが」
相馬貴宗「そろそろ帰らんとな」
ルル奈「寂しい」
相馬貴宗「大丈夫だ」
相馬貴宗「いつでもお前たちを見守ってるぞ」
一貴「お墓に会いに行くね」
相馬貴宗「俺はそこにはいないんだがな」
ルル奈「どこにいるの?」
相馬貴宗「ずっと遠くの世界だ」
相馬貴宗「だが、大丈夫だ」
相馬貴宗「お前たちとは繋がっているからな」
一貴「またね」
相馬貴宗「ああ」
〇屋敷の門
相馬邸
〇古民家の居間
相馬貴宗「現世の酒は格別だな」
相馬舞「貴宗様、現世より届け物です」
相馬貴宗「ほう」
相馬舞「お酒ですね」
相馬舞「『あの世で幸せでありますように』だそうです」
相馬貴宗「律儀な子孫だな」
相馬舞「義理堅いのは貴宗様に似たんでしょうね」
相馬貴宗「嬉しいの」
相馬貴宗「お前達の想い通じておるぞ」
〇古民家の居間
相馬舞「貴宗様、甲冑を纏われて いかがなされましたか?」
相馬貴宗「先ほどから胸騒ぎがするのだ」
相馬舞「何か一大事が迫っているのでしょうか」
誰か、あの子達を守って
相馬貴宗「あの声は遙、行ってくる」
相馬舞「いかようにして向かわれるのですか」
相馬舞「現世は遥か彼方」
相馬貴宗「遥か彼方であろうと、絆は通じている」
相馬舞「ご武運を」
〇河川敷
相馬一貴「ご先祖様、どうかした?」
相馬貴宗「いや、何でもない」
相馬一貴「そういえば、気になってたんだけど」
相馬一貴「冥界には地獄とかあるの?」
相馬貴宗「地獄か」
相馬一貴「どの神話でも、地獄とか天国って聞くけど」
相馬貴宗「地獄かどうか分からんが この世界に来れない者はいる」
相馬一貴「えっ?」
相馬一貴「そうなんだ」
相馬貴宗「この世界は最低限の秩序がある」
相馬貴宗「生前横暴な振る舞いをした者」
相馬貴宗「私利私欲しか考えられない者」
相馬貴宗「そのような者は来れないはずだ」
相馬貴宗「元々この世界にも住人がいるわけだからな」
相馬一貴「そっか」
相馬一貴「そうだよな」
相馬一貴「全員を受け入れる訳ないよね」
相馬貴宗「”狭間”もある」
相馬一貴「”狭間”?」
〇モヤモヤ
生に執着しすぎる者、後悔の念が強い者
自責に苦しむ者、絶望した者などは
暗く何も聞こえない空間に魂だけで存在し
現世と冥界の”狭間”で
囚われ続けると言われている
〇河川敷
相馬一貴「何か悲しいね」
相馬貴宗「そして、希望を見出した時解放される」
相馬貴宗「まあ、そう落ち込むな」
相馬貴宗「お前の両親とルル奈の両親は 必ずあの川の向こうにいるはずだ」
相馬一貴「うん」
相馬貴宗「そこにルル奈もいるはずだ」
相馬貴宗「さあ、渡るぞ」
相馬一貴「うん」
〇明るいリビング
吉良ルル奈「ママ! パパ! 見て!」
吉良ルル奈「制服だよ!」
吉良朱里「素敵よ、似合ってるわ」
吉良明「変な虫がつきそうで パパ不安になるぞ」
吉良ルル奈「大丈夫だよ、いつも一貴が守ってくれたから」
吉良明「本当に一貴君は頼りになるな」
吉良ルル奈「うん」
吉良ルル奈「着替えてくるね」
吉良朱里「はーい」
吉良朱里「本当に再会出来るなんて思えなかったわ」
吉良明「ああ、あと何十年も待つところだった」
吉良朱里「でも、本当に連れてきてくれるなんて」
吉良明「”菅原さん”には感謝しかないな」
〇女の子の部屋
吉良ルル奈「何も変わってない」
吉良ルル奈「私が小さい時に過ごした部屋と一緒だ」
吉良ルル奈「今は相馬の家に住んでるから 滅多に帰ってないけど」
吉良ルル奈「ママとパパに会えて 自分のうちにも戻って来れて」
吉良ルル奈「ずっと望んでいた生活が手に入ったのに」
吉良ルル奈「なんなの? この気持ち」
〇狭い裏通り
相馬一貴「すげえ」
相馬一貴「まるで現世だ」
相馬貴宗「生活はなんら変わらない」
相馬貴宗「まあ、俺からすると 現世のことは分からんがな」
相馬貴宗「こうして、生きていた世界と同じものを 作りたがるんだ」
相馬一貴「みんな、生きてることを思い出すんだね」
相馬貴宗「ああ」
相馬一貴「聞き込みしてみよう」
相馬貴宗「そうだな」
ミソノ「・・・・・・」
〇クラブ
相馬一貴「────」
店主「────」
ミソノ「・・・・・・」
〇街の宝石店
相馬一貴「────」
店主「────」
ミソノ「・・・・・・」
〇荒れた公園
相馬一貴「はああ」
相馬貴宗「まったく目撃されていないな」
相馬貴宗「というより、人が多すぎて特定が難しいな」
ミソノ「ねえ、あなた達」
相馬一貴「誰?」
ミソノ「私はミソノ」
相馬貴宗「お主、先住人か」
ミソノ「あなた達の言い方をすれば、そうね」
相馬一貴「先住人?」
相馬貴宗「この世界には我々死者が来る以前より 住んでいる者達がいる」
ミソノ「それが私たち」
相馬一貴「へえ、すごいな」
ミソノ「でしょ?」
相馬一貴「もしかしてエルフ?」
ミソノ「そうそう、私の種族ってそんなに有名?」
相馬貴宗「”魔術”に長けた種族だ」
相馬一貴「凄い!」
ミソノ「褒めすぎだって」
ミソノ「そうじゃなくて」
ミソノ「女の子探してるんでしょ?」
相馬一貴「ルル奈のこと知ってるのか!?」
相馬一貴「銀髪で一つ結びにしてる10代の女の子!」
ミソノ「多分、その子だと思う」
相馬一貴「どこにいるんだ?」
ミソノ「居住区よ」
相馬貴宗「初対面ですまないが 案内していただけないか?」
ミソノ「いいよ」
ミソノ「その代わり、お願いがあるの」
相馬一貴「お願い?」
〇空き地
相馬一貴「へえ、現世に興味あるのか」
ミソノ「そうなの」
ミソノ「魔法も何もない世界って聞いて どんな暮らしをしてるのか興味湧いたの」
相馬貴宗「だから、こんなところまで出て来てるのか」
ミソノ「そそ」
ミソノ「私たちは普段もっと奥の土地で暮らしてるの」
相馬一貴「そうなんだ 一度行ってみたいな」
相馬一貴「ところで、ミソノが見たルル奈らしき 女の子はこの辺に住んでるの?」
ミソノ「そのはずだよ」
〇レトロ喫茶
???「急に呼び出して、すまないな」
???「再会した後のことが気になって」
吉良明「いえいえ、お礼がしたかったので こちらとしてもありがたいです」
吉良明「お陰様で、ルルと再会できました」
吉良明「本当にありがとうございます」
吉良朱里「全部”菅原さん”のおかげです」
???「ああ」
〇綺麗な一戸建て
相馬一貴「ここってルルの家じゃないか」
相馬貴宗「そうなのか?」
相馬一貴「うん」
相馬一貴「ということは、ルルの両親も ここにいるってことか?」
相馬貴宗「だろうな」
ミソノ「確か、若い夫婦が住んでたよ」
相馬一貴「ほぼ間違いない」
相馬貴宗「危険だな」
相馬一貴「そっか」
相馬一貴「ルルが両親に会っていたら」
相馬一貴「この世界は居心地がいいかもしれない」
〇女の子の部屋
吉良ルル奈「このまま私はパパとママと一緒に 暮らした方が幸せなのかな」
吉良ルル奈「ん? 誰だろ」
吉良ルル奈「ママとパパは買い出しに行っちゃったし」
吉良ルル奈「私が出た方がいいのかな」
「ルル! いるか!?」
吉良ルル奈「この声は一貴!?」
〇綺麗な一戸建て
相馬一貴「出てくるかな」
吉良ルル奈「一貴?」
相馬一貴「ルル!」
相馬一貴「良かった」
相馬一貴「追いついた」
相馬一貴「ルル、帰るぞ」
吉良ルル奈「・・・・・・」
相馬一貴「ルル?」
吉良ルル奈「・・・・・・やだ」
相馬一貴「えっ? 今なんて言った?」
吉良ルル奈「やだって言ったの」
吉良ルル奈「私はもう戻らない」
相馬一貴「あの覆面野郎に何か言われたのか?」
吉良ルル奈「違う、私の意思だよ」
相馬一貴「このままだと死んじゃうんだぞ!?」
吉良ルル奈「もういいの」
吉良ルル奈「私はここでパパとママと 一緒に幸せに暮らすの」
相馬一貴「冗談だよな?」
吉良ルル奈「冗談じゃない」
相馬一貴「だったら、せめて冥界の外で 暮らせばいいじゃないか」
吉良ルル奈「もういいの」
吉良ルル奈「現世にいても辛いことばかり」
〇血しぶき
吉良ルル奈「一貴に私は必要ない」
吉良ルル奈「邪魔になるだけ」
吉良ルル奈「一貴はお母さんに頼まれただけ 私のことなんて何とも思ってない」
〇綺麗な一戸建て
吉良ルル奈「だから、もう私に構わないで!」
相馬一貴「そういうわけにはいかない!」
相馬一貴「意地でも連れて帰る!」
吉良ルル奈「私に触るな!」
相馬一貴「ルル! 嘘だろ!?」
相馬一貴「ミソノ?」
ミソノ「手伝うわ」
吉良ルル奈「隣の女の子は誰?」
相馬一貴「この子はここまで案内してくれた子だ」
吉良ルル奈「そっか、その子を守ることにしたんだ」
相馬一貴「はあ?」
吉良ルル奈「私の処女を守るとか言っといて!」
吉良ルル奈「女を見せに来たの!?」
相馬一貴「違う!」
ミソノ「やっばぁぁ」
吉良ルル奈「うるさいうるさいうるさいうるさい!」
吉良ルル奈「消えろ!」
相馬貴宗「一貴! 一旦下がるぞ!」
相馬貴宗「今のルル奈に何を言っても無駄だ!」
吉良ルル奈「消えないなら、殺してやる」
相馬一貴「そんな」
相馬貴宗「でや!」
吉良ルル奈「・・・・・・」
吉良ルル奈「ごめんね、一貴」
吉良ルル奈「そして、さよなら」
〇空き地
相馬一貴「うそだ」
相馬一貴「あのルルが『殺してやる』って」
相馬貴宗「しっかりしろ!」
相馬貴宗「あれがルルの本意だと信じているのか」
相馬一貴「ルル」
ミソノ「ダメだ、まったく聞こえてない」
相馬貴宗「不味いぞ」
相馬貴宗「この世界では精神力の強さが生命力と同じ」
ミソノ「今弱ってると言うことは危ないってこと?」
相馬貴宗「そうなるな」
相馬貴宗「とにかく体勢を整えるぞ」
〇明るいリビング
吉良ルル奈「・・・・・・」
「ただいま!」
吉良明「ごめん、遅くなった」
吉良朱里「ルルちゃんの大好きなものばかり 買って来たわよ」
吉良朱里「ルルちゃん!?」
吉良明「ルル!?」
吉良朱里「どうして、泣いてるの?」
吉良ルル奈「ママ! パパ!」
〇寂れた村
りゅーさん「おーい」
りゅーさん「ショーカ、おるんやろ?」
りゅーさん「知っとるぞ」
ショーカ「どこかで聞き覚えがある声だと思えば」
ショーカ「陛下!」
ショーカ「お久しぶりでございます」
りゅーさん「久しぶりだな」
りゅーさん「それに今は『陛下』と 呼ばれるような立場じゃない」
ショーカ「どうやってここへ? ここはなかなか遠いですよ」
りゅーさん「知り合いに馬車を融通してもらった」
ショーカ「陛下が、馬車とは・・・・・・うっ、頭が」
りゅーさん「お前に頼みがある」
ショーカ「頼みですか?」
〇結婚式場前の広場
???「そろそろか」
菅原杏子「待たせて、ごめんなさい」
???「いや、構わない」
???「それにしても、こっちの世界でも その服装か?」
菅原杏子「私、ファンタジーの服 似合わないから」
菅原杏子「”兄さん”も、その覆面は目立ち過ぎるわよ」
???「そうだな」
この冥界の描写と死生観、本当に見入ってしまいます✨
しかも、この冥界が “アレイオワ” だと考えると、作品世界への興味が倍増しますね😊
ルルちゃんの葛藤、未整理の生々しい感情が胸に刺さります…😭 そんなルルちゃんを誘った覆面さんの正体も明らかにされそうで、いっそうお話に引き付けられます✨