チョコレート勝負!(脚本)
〇ケーキ屋
女性「──このチョコレート美味しそう!」
少女「こっちのは可愛い!」
〇空
「世間はバレンタインで盛り上がってるのに・・・」
〇ラーメン屋
〇立ち食い蕎麦屋の店内
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「なんで俺の店は客がいないんだ?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「ラーメン屋には関係ないからだろ・・・」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「けどよ、向かいの店を見てみろよ」
〇ケーキ屋
〇立ち食い蕎麦屋の店内
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「あんだけいるなら、一人くらいうちに寄ってもおかしくないだろ?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「しょっぱいだけのラーメンで、千円取るからじゃない?」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「しょっぱい方が美味いだろ」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「限度があるんだよ・・・あの塩気は致死量超えてるよ・・・」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「けど、あのラーメンは俺の魂だからな・・・」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「──そうだ、偵察にでも行ってみるか!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「は? どこに?」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「向かいの菓子屋だよ! なにかヒントがあるかもしれねえ!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「親父? ち、ちょっと待てよ──」
〇ケーキ屋
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「見たこともねえ菓子がいっぱいだな!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「恥ずかしいから騒ぐなよ」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「お、見ろよ! これなんかは俺でも作れそうじゃないか?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「作れるわけないだろ。ラーメンだってまともに作れないのに・・・」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「──聞き捨てなりませんね、お客様」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「ここに並んでいるお菓子は、すべて私の考案したレシピで作っています」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「世界最高峰のパティシエである、 この”樫筑瑠”の門外不出のレシピでね!」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「へー、でもこのチョコなんて簡単そうじゃねえか?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「──おい、やめろって!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「ご、ごめんなさい。うちの親父、味覚とか頭がおかしいから・・・」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「・・・いや、そこまで言われたらこちらにもプライドがありますからね」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「本当に作れるというなら、ぜひとも作ってもらおうじゃありませんか!」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「おう、いいぜ! なんなら俺の方が美味いもん作れるかもな!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「ちょっと!?」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「ずいぶん自信があるようですね・・・ では、せっかくですし勝負といきましょう」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「2月14日に世界的な美食家”西園寺斉賀”様をお招きする予定です」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「そこで用意したチョコを食べてもらい、勝敗をつけてもらおうじゃありませんか」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「考え直せって、親父!」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「大丈夫だって、勝ったら店の宣伝にもなるしよ!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「ラーメン屋なのにチョコの宣伝してどうすんだよ!?」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「もしやあなたは、向かいのラーメン屋の店主ですね?」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「それなら──あなたが負けたら、その店の権利書をいただきましょう!」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「受けて立つぜ!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「受けて立つな! 負けたらどうするんだ!?」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「大丈夫だって、勝ったら店の宣伝にもなるしよ!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「だから、それメリットじゃねえって!」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「くくく、バレンタインが楽しみですよ!」
〇立ち食い蕎麦屋の店内
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「どうするんだよ、あんな勝負受けて・・・」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「なあ、今からでも謝りに行こう? 今なら指一本くらいで許してくれるよ」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「バカ野郎! 息子の指を犠牲になんかできるか!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「ボクの指じゃなくて、お前の指に決まってるだろ!」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「──まあ、安心しろよ。俺には秘策がある」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「秘策?」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「お前がチョコを作るんだよ!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「ぼ、ボクが!?」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「俺はチョコなんて作ったことがねえ! 産まれてからラーメン一筋だからな・・・」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「産まれてこなければよかったのに・・・」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「でもお前はほら、前に菓子を作ってきたことがあっただろ?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「・・・それ、調理実習のクッキーのこと?」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「クッキーもチョコも変わんねえだろ?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「味覚だけじゃなく、目までおかしいのか?」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「つーわけで、今回の件はお前に任したぞ!」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「俺はラーメンの材料を買ってくるからよー」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「あ、おい親父──」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「・・・指じゃなくて、首なら許してくれるかな?」
〇学校の校舎
〇教室
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)(首を差し出すのは簡単だけど、その後の生活がな・・・)
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)(かといって、美食家を唸らせるようなチョコを用意できるわけないし・・・)
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「葉くん? なんだか今日は元気がないね・・・?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「──あ、彩子ちゃんか。ちょっと悩みがあってさ」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「どんな悩みなの? 彩子に聞かせて?」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「嫌いな子がいる? それとも先生が嫌? 学校の外の人は難しいけど、葉くんのためなら──」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「いや、そういうのじゃないんだ」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「なんていうか・・・特別なチョコが欲しいんだよ」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「・・・バレンタインだから?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「え? まあ、確かにバレンタインも関係してるね・・・」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「特別ってことは、やっぱり手作りの方がいいのかな?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「うーん・・・そうかも・・・」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)(美食家に市販のものを出してもなぁ)
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「──分かった。彩子、頑張るね!」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「え、ちょっと、彩子ちゃん?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「・・・なにも相談できてないのに」
〇黒背景
2月14日、当日
〇学校の下駄箱
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)(結局、なにもできてない・・・いったいどうしたら・・・)
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「──あれ、なんだろこれ?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「こ、これだ!」
〇ケーキ屋
樫 筑瑠(カシ ツクル)「──今日はご足労いただき、ありがとうございます」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「なに、筑瑠くんの菓子が食べれるなら、いつだって飛んで来るさ」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「光栄です。本日はバレンタインらしく、チョコレートを用意しておりますので」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「・・・バレンタインチョコ、か」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「どうかしましたか?」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「あ、ああ、いや・・・なんでもないよ。 楽しみじゃな!」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「──待たせたな!」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「ようやく来ましたか。逃げ出したかと思いましたよ」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「悪いな。学校が終わるのを待ってたからよ」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「・・・学校?」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「おうよ! お前の相手は俺じゃねえ!」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「俺の息子、葉だからな!」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「話には聞いておったが、筑瑠くんの勝負相手が子供とは知らんかった・・・」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「・・・私も初耳ですよ。まったく、呆れてものも言えない」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「まあ、向かいからラーメンの臭いが消えるのはありがたいですがね」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「・・・それはどうかな?」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「ふん、子供の作るチョコに負けることなどありえないね!」
〇ケーキ屋
樫 筑瑠(カシ ツクル)「さっそく審査してもらいましょうか!」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「──これが私のチョコレート、筑瑠スペシャルです!」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「これは・・・」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「──美味い!」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「幾重にも重なったフレーバーが、まるで爆発するように口の中に広がっていく!」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「カカオの配分も申し分ない・・・ これこそ、至高のチョコレートじゃ!」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「──ありがとうございます」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「聞いた通りだ! きみにこのチョコを超えるものが作れるとは思えない」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「降参するなら今のうちだよ?」
〇ケーキ屋
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「・・・確かに、”ボク”には作れないかもね」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「では、降参ということかな?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「いや、ちゃんと食べて決めてもらうよ」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「お? 包装までしてあるのか・・・」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「もしや、作れなかったから市販品でも用意したのかな・・・?」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「──こ、このチョコレートは!?」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「え?」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「なんと、なんというものを出してくれたんじゃ・・・」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「これに比べたら、他のチョコレートなどカスみたいなものじゃ・・・!」
樫 筑瑠(カシ ツクル)(ば、バカな!? いったいどんなチョコを──)
樫 筑瑠(カシ ツクル)「・・・た、ただのチョコレート?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「そうだね。パティシエさんの作ったような工夫のあるチョコじゃないよ」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「たぶんだけど、溶かした市販のチョコを型に入れて固めただけのモノさ」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「そんな、まさしく子供が作ったようなチョコじゃないか!」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「少年・・・いったいどこでこれを・・・?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「──ボクの下駄箱だよ」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「そうか・・・孫は、きみに作っていたのか・・・」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「ど、どういうことだ・・・!?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「西園寺って名前を聞いて、もしかしたらって思ったんだ」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「ボクのクラスの彩子ちゃん── ”西園寺彩子”ちゃんと関係があるじゃないかってね!」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「その通り・・・彩子はワシの孫じゃ」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「そしてお爺ちゃんにとって美味しいものといえば・・・」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「孫の手料理!」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「そ、そんな・・・!」
西園寺 斉賀(サイオンジ サイガ)「この勝負──少年の勝利じゃ!」
樫 筑瑠(カシ ツクル)「バカな・・・味も技術も、すべて私が勝っているはずなのに・・・」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「大事なのは味じゃない・・・」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「食べる人を思いやる心なのさ!」
〇立ち食い蕎麦屋の店内
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「・・・客が増えてない」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「だから、宣伝になるわけないって・・・」
「ごめんくださーい!」
味温地 塩平(アジオンチ ショッペイ)「お、なんだよ来たじゃねえか!」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「葉くんいますかー?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「あれ、彩子ちゃん?」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「ねえ、葉くん・・・彩子のチョコ、どうしたの?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「え? あー・・・」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「彩子の作った特別なチョコ・・・お爺ちゃんなんかにあげたでしょ?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「さ、彩子ちゃん? あれは仕方なかったっていうか・・・」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「次は当てるよ?」
味温地 葉(アジオンチ ヨウ)「ちょっと、親父も説明して──もう逃げてる!?」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「せっかく葉くんのことを思って作ったのに・・・」
西園寺 彩子(サイオンジ サイコ)「葉くんの──バカァ!」
〇空
「ごめんなさーい!」
会話が楽しくてぐいぐいと読んでしまいました!
葉くんのツッコミが冴え渡ってますね。笑
孫の手作りチョコに、かなうチョコはあまりないような気がします!
葉くんの辛辣すぎるツッコミ、親子の掛け合いに笑いました🤣
奇策でまさかの勝利、からのオチの展開も面白かったです!
彩子ちゃん、さいこちゃんなのが笑えました。季節にも相応しいお話で、楽しく気軽に最後まで読むことができました。登場人物の名前が特に良かったです。