第15話 本能寺さんの天敵(脚本)
〇学校の廊下
本能寺令「どうしようかな、これから」
期末テストが終わり、私はぼうっとした頭で歩いていた。
あれから玉宮くんは目も合わせてくれず、全然話が出来ていない。
そうなるのも当然だろう。
私は、彼との約束を破ってしまったのだから。
それがたとえ、事故だとしても。
倉重徹「本能寺さん」
本能寺令「あ」
声をかけて来た男子生徒を見て、身体がこわばってしまった。
だってその人は、忘れたくても忘れられない人だったから。
倉重徹「やっぱり本能寺さんだ!」
倉重徹「いやー、久しぶり。 小学生以来だね。オレのこと覚えてる?」
本能寺令「う、うん。倉重(くらしげ)くんだよね?」
倉重徹「そうそう! 覚えててくれて嬉しいなあ! ホント綺麗になったよね本能寺さん」
倉重徹「最初、全然気づかなかったよ。 女の子は変わるって本当だね」
本能寺令「う」
ダメだ。この男と話していると小学生の頃を思い出して、だんだん息が苦しくなってくる。
あの頃にいい思い出なんかない。
あるのはただただ、気持ち悪さ。
不快感が湧き出て口から出てきそうだ。
倉重徹「大丈夫? なんだか顔色が悪いよ」
本能寺令「ひっ」
倉重が顔を覗き込んできて、思わず後ずさった。
倉重徹「あ、あはは。 もしかして、怖がらせちゃった?」
やばい。気持ち悪い。逃げたい。
なのに、足がすくんで動かない。
玉宮守「なにやってんだ? お前たち」
本能寺令「た、玉宮くん」
救いの神が現れた。助けを求めるように、玉宮くんの後ろにサッと回る。
玉宮くんは一瞬迷惑そうな表情をしたけど、すぐどうでもいいと言わんばかりにそっぽを向いた。
倉重徹「もしかして、仲良いの? 2人って?」
玉宮守「ただのクラスメイトだよ」
倉重徹「へぇ、そうなんだ。 だったら3人でちょっと話さない? 昔のよしみでさ」
本能寺令「え、知り合いなの?」
玉宮守「ああ、倉重とは友達だ」
本能寺令「ごめん! 私、もう行くね!」
せっかく玉宮くんと話せる機会だったけど、たまらず私はその場を走り去る。
玉宮くんが悪い訳じゃない。
でも、綺麗なものが汚された気分だった。
あの男とだけは、一秒だって一緒に居たくなかった。
〇学校の廊下
倉重徹「あはは、オレ、やっぱり嫌われてるのかな?」
玉宮守「お前、あいつに何かしたのか?」
俺、玉宮守が問いかけると、倉重は少し弱ったようにして愛想笑いを浮かべる。
倉重徹「ちょっと昔さ。小学校の頃、本能寺さんとは同じクラスだったんだよ」
玉宮守「は? 稲石小のか?」
倉重徹「もちろん。その時の本能寺さんは、暗くって友達もいないような地味~な子で、結構浮いてたんだ」
玉宮守「あいつが?」
明るくて派手な今とは、丸っきり逆の印象だ。
倉重徹「そうそう。だからちょっと、イタズラしちゃってたんだよね。上履きや筆記用具を隠したり壊したりして、泣かせてさ」
倉重徹「今思うとちょっと可哀想だったかなって」
イタズラ、どころじゃない。
聞く限り、完全にイジメだ。
本人もそれは薄々分かっているのか、申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
倉重徹「それが原因か分からないけど、ある日から不登校になっちゃってさ」
倉重徹「いつの間にか別の小学校に移ってたみたいなんだよね」
玉宮守(ああ、そこで小柴のいる学校に移ったのか)
倉重徹「本能寺さん、いまは明るくて美人で180度タイプ変わったから。まさかあの子と同一人物とは、思いもしなくて」
倉重徹「昨日、友達と小学校時代の話をして、ようやく気付いたんだよね」
玉宮守「そっか。それで? 本能寺と話してどうするんだ?」
倉重徹「まずは謝りたいな。 昔のことで傷つけちゃってたみたいだから」
倉重徹「知り合いなんだろ? 取り持ってよ」
玉宮守「考えておくよ」
倉重は悪いヤツじゃない。
ただ、ちょっと強すぎるだけだ。
弱い人間を追い詰めてしまう残酷さもあれば、それをカバーする優しさもある。
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