本能寺さんはクソ野郎

和久津とど

第14話 本能寺さんの失敗(脚本)

本能寺さんはクソ野郎

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〇教室
  期末テスト当日。
  私、本能寺令は高らかに宣言する。
本能寺令「玉宮くん、ついに決着をつける時が来たね!」
玉宮守「は? なんの?」
  玉宮くんは不思議そうに眼を細めていた。
本能寺令「は? じゃなーい!  テストの合計点で勝負だよ!」
本能寺令「私が勝ったら玉宮くんは罰ゲーム続行ね!」
玉宮守「はあ!? お前、それナシって言ったろ!」
本能寺令「違いまーす! イタズラはもうしないって言ったけど、勝負のことは何にも言ってないよ!」
本能寺令「だからこの勝負はそのまま続行! 私が勝ったら、玉宮くんの小学校時代の名言でからかっちゃうからね♪」
玉宮守「この野郎!  分かったよ、勝てばいいんだろ勝てば!」
玉宮守「その代わりテスト期間中、絶対に邪魔だけはすんなよ!」
本能寺令「もちろん邪魔しないよ~」
本能寺令「でも私の妨害が結構効いてたみたいだけど、調子はどう、玉宮くん? 私に勝てると思ってる~?」
玉宮守「ハッ、まったくだよ。 こっちはこの一週間、寝る間も惜しんで勉強する羽目になったんだからな」
玉宮守「挽回するのは大変だったが、いいラストスパートになった。 期末テストぐらいワケねーよ」
本能寺令「キャー! すごい自信たっぷり♪  結果が楽しみだね~♪」
玉宮守「もう一度言うが、邪魔だけはするなよ。 そしたら絶対俺が勝つ!」
本能寺令「もちろん!  正々堂々、真剣勝負だよ玉宮くん!」
玉宮守「何が真剣勝負だよ! 一週間前まで妨害しまくってたのに、まったく・・・」
  そう言って、玉宮くんは教室の外に向かって歩き出す。
本能寺令「あれ、どこ行くの? もうテスト始まるよ?」
玉宮守「トイレだよ。付いて来るなよ」
本能寺令「了解~、スッキリしてきてね~」
玉宮守「うるせー」
  手を振って玉宮くんを見送る。
  玉宮くんに告白してから一週間弱。
  お互いにこれぐらいの軽口は叩けるようになっていた。
本能寺令(勝負とは言ったけど、私はあんまり自信ないんだよね)
  この一週間、玉宮くんが気になってほとんど勉強出来なかった。
  一方、玉宮くんは必死に勉強してて、私のことなんて頭になさそう。
本能寺令「不公平だな・・・」
  こんなにソワソワしてるのは私だけなのかもしれない。
  小さくため息をつくと、周囲のクラスメイトが驚いた顔で私の方を見た。
男子生徒「それ、本能寺さんが言っちゃう?」
女子生徒「才色兼備の本能寺さんに不公平って言われたら、あたしたちの立場ないってば~」
本能寺令「そ、そんなことナイナイ!  今回、ほんっと自信なくて!」
  慌てて作り笑顔で首を振り、席を立つ。
  とりあえず、今はひとりで気持ちを落ち着かせたかったから。

〇学校の廊下
  ソワソワする気持ちを抑えきれずに廊下に出た私は、大きく深呼吸した。
本能寺令(告白の返事は期末テストの後、かあ)
本能寺令(もし玉宮くんと付き合えたら、きっと毎日楽しいだろうな)
  告白してからというもの、玉宮くんの話し方がちょっと柔らかくなった気がする。
  これは私にとって、大きな希望だ。
本能寺令(イタズラしてた時よりも、ずっと気軽に話せるようになったもん! これが友達効果なんだね!)
  テスト直前だというのに、自分でもすごく浮かれているのを感じる。
  玉宮くんと話せるようになってからずっと楽しかったけど、告白してからはそれに輪をかけてワクワクが止まらなかった。
本能寺令(本当はテストより、告白の方が気になってる!)
本能寺令(ああっ、でも、テストで負けて悔しそうにしてる玉宮くんの顔も見てみたい・・・)
教師「何してんだ、本能寺! テスト始まるぞ! 教室入れー!」
  しまった、つい我を忘れてひとりで盛り上がってしまった。
本能寺令「まずはテスト!  正々堂々、全力を尽くして玉宮くんに勝つ!」

〇教室
  教室に戻ると、自然と玉宮くんの席に目が行った。
本能寺令(まだお手洗いから戻ってないんだ)
  空の机を見ていると、ふいにイタズラ心が浮かんできて、無意識に玉宮くんの筆箱を手に取っていた。
本能寺令(ハッ!? 危ない危ない。 いつものクセで、筆箱にイタズラ仕掛けようとしてたよ)
本能寺令(我慢しろ私! ここで約束破ってイタズラなんかしたら、絶対に嫌われちゃう!)
  出し抜きたい。蹴落としたい。
  ブワっと湧き上がってくる激しい気持ちを押し殺しつつ、私は玉宮くんの筆箱を机の上に戻す。
本能寺令(よしよし。堪えてえらいぞ私! 正々堂々、本気でやって勝てるのが一番だよ)
  やるからには勝ちたい。
  その気持ちと同時に、心のどこかで玉宮くんが勝つことを望んでいる私がいる。
  私が憧れていた玉宮くんは、あれだけ嫌がらせを受けてもやっぱり凄かったと、そう思わせて欲しいから。
  だからテストの点数で勝っても負けても、私の勝ち。この不公平さ、玉宮くんに理解できるかしら。
本能寺令「フフ、どうなるか楽しみ♪」
  教師が教室に入ってきて、私は席についた。
  その時、玉宮くんの机を少しだけ揺らしてしまった。
  バキッ!
  教室の騒々しさに紛れて消えたその音を、私は気にも留めていなかった。
  それが、崩壊の音だとは知らずに。

〇教室
本能寺令「んー! 終わったあ!」
  期末テスト初日が終わった。
  私は思いっきり背筋を伸ばす。
本能寺令「ねえねえ玉宮くん、どうだった?  私はけっこう手応えアリだよ!」
玉宮守「ああ、よかったな」

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