読切(脚本)
〇見晴らしのいい公園
土曜日の昼下がり、若葉と真司はランチのあと、渋谷区立宮下公園まで散歩に来ていた。
若葉「いい天気だね。それにここ、すっごくいいよね。都会のオアシスって感じで」
真司「・・・」
若葉「どうしたの?さっきから黙り込んで・・・」
真司「あのさあ、終わりにしたいんだ」
若葉「終わりにしたいって・・・何を?」
真司「俺たちの関係・・・」
若葉「何それ?なんの冗談!?全然、笑えないよ」
真司「ずっと前から考えてた。ごめん、今日まで切り出せなかった」
若葉「ずっと前って、具体的にいつ?何時何分?何でそうなるわけ?」
真司「他に好きな人ができた」
若葉「それ、ストレートすぎない?」
真司「若葉は遠回しな言い方、嫌いだろ?」
若葉「時と場合によるよ。それこそTPOだよ。あっ、もしかして相手は社長令嬢とか。それだったら、少しは納得できるけど」
真司「普通の女の子だよ。 ごめん・・・」
こうして若葉は真司にフラれたのであった。
〇見晴らしのいい公園
それから数日後
〇カウンター席
失恋の傷を癒すため、若葉は人気のスイーツパーラーでやけ食いを敢行していた。
若葉(あー、もう。何なのよ。どうやったらこのポッカリ感、埋めれるわけ?腹が減るわ~、腹が立つ~)
若葉「30を間近にした女の2年を何だと思ってるのよ~。真司のバカ、カバ、バカ。真司なんて、死んじゃえばいいのよー」
「えー、なになになに・・・ 失恋だよね、あれ? 怖──い ホントに死んじゃえって、願ってる?」
〇渋谷駅前
若葉「朋ちゃん、久しぶりー。 ねえ、ねえ、聞いてよ」
「真司の話?」
若葉「そうそう。もう知ってるの? 情報、早くない」
「大変だよね~。 自動車事故でしょ」
若葉「えっ、何それ?」
「何それって、真司の話でしょ。 とりあえず命に別状はなかったらしいけど、かなりヤバかったらしいね」
若葉「ごめん、朋ちゃん。あいつが事故ったって何!?」
それから若葉は朋に真司と別れたことを告げた。
若葉「朋ちゃん、わたし、どうしよう・・・」
「どうしようっていったって、別の女がいるんでしょ。だったら、若葉の出番ないじゃん」
若葉「そうじゃなくて、わたしさあ、「真司なんか死んじゃえ」って、願っちゃったんだよね。もちろん、冗談だよ」
「・・・」
若葉「そしたらホントに事故るなんて・・・わたし、死神に憑りつかれてるのかなあ」
「ちょっと落ち着きなよ。いくらあんたがそう願ったって、死神がいるわけじゃないし・・・ただの偶然だよ」
「それにさあ、あんたが願ったことが実現するなら、「金持ちになりたい~」って願ってみたら」
若葉「朋ちゃん、笑えないよ。わたしのせいで誰か死んだら、生きていけないよ。死にたくなるよ」
「あんたの話がホントなら、今のヤバくない?」
若葉「何が?」
「若葉、今、自分で「死にたい」って言ったよね?」
若葉「言ったけど、それがどうかした?」
「危な──い!! 避けろ!!」
「若葉? わかば──!?」
〇渋谷駅前
男「危ないなあ、もう」
男「大丈夫?怪我はない?」
若葉「はい・・・大丈夫・・・多分」
男「青信号とはいえ、横断歩道でスマホはやめた方がいいんじゃないかな」
男「あってはならないことだけど、青信号に車が突っ込んでくることだってある」
男「とにかく怪我がないならよかった」
若葉「よくないよ。どうしてこんなことが起こるの?」
男「???」
若葉「「真司なんか死んじゃえ」って願ったら、アイツが事故に遭って、わたしが「死にたい」とか言ったら、今度は車がわたしに・・・」
男「パニックに陥っているのはわかるんだけど、シンジって誰?死んじゃえとか死にたいとか穏やかじゃないね」
若葉は男に真司との別れの経緯を説明した。
若葉「わたし、絶対、死神に憑りつかれてるよ。だってさあ、こんな偶然あるわけないじゃん」
男「たしかに恐ろしい偶然だよね。でも、君はひとつ大事なことを見落としてるんじゃない?」
男「今の話を聞く限り、君の元カレは命を落としてない。それに君だってそうだ」
男「死神がいるとしたら、彼は2つのミッションを失敗したことになる。随分、マヌケな死神だよね」
男「見た感じ、傷もなさそうだけど、服とか擦り切れちゃったね。そこは命の恩人ということで、許してくれないかな」
若葉「あの・・・助けてくれてありがとうございました」
男「どういたしまして。じゃあ」
若葉「あのう・・・今、ワタシ、こんなんで・・・泣いたから化粧とかグチャグチャだと思うし・・・」
若葉「だから、あの、もしご迷惑じゃなかったら、後日、食事を奢らせてもらえませんか。命の恩人として」
男「死神に憑りつかれてるんじゃなかったっけ?」
若葉「ごめんなさい、迷惑ですよね・・・ わたし、なに言ってるんだろ・・・」
男「喜んでお付き合いしますよ。死神に憑りつかれてる女性と食事なんて、なかなか面白そうだ」
若葉「もう────」
おしまい
本当に偶然だったのかなぁ?と思いつつ、ラストのハッピーエンドの予感で温かい気持ちになりました。
でも、いきなり別れ話を切り出されたらああなりますよね。
最後の男性の「死神に〜」というOKの出し方が
とてもお上手でキュンとしました😌
ある意味運命的な出会いに、
今後の2人の行く末が気になりますね🙆♀️
最後、心が、ぽっとあったかくなるような未来の期待を感じさせるハッピーエンドでよかったです♪死神いるのかなぁ。まぬけな死神って言ったときに「え、俺のこと!?」といいたそうに後ろからチラッっとあらわれる死神に思わずくすっとなりました。