第11話 本能寺さんの友達(脚本)
〇保健室
本能寺が俺を脅迫していたのは、接点を持って仲良くなりたかったから。
その種明かしを聞いて、俺は呆気にとられて座り込んでいた。
玉宮守(たしかに、やたらとベタベタしてきたり、家に呼んだりしたのが、仲良くなる目的だったと思えば辻褄は合うな)
玉宮守(ハハ、アホらし・・・)
今まで不可解だった本能寺の行動も、納得できるような気がする。
玉宮守「せっかく接点ができても、嫌がらせしてたら仲良くなれるわけがないだろうに」
本能寺令「私はとっても楽しかったから、玉宮くんも同じ気持ちかなって思ってたんだ」
玉宮守「はい?」
本能寺令「イタズラが決まったときの慌てふためく姿とか、勉強で出し抜いたときの悔しがる顔とか!」
本能寺令「そんな玉宮くんの姿を知ってる女の子、私だけでしょ?」
本能寺令「それが、すっごく嬉しくて、楽しくて!」
本能寺は、瞳にうっすら涙を浮かべながら言いつのる。
しかし、女の涙ごときに簡単に騙される俺じゃない。
玉宮守「お前の気持ちとやらは分かったけどさ」
玉宮守「なんで俺が、嫌がらせを受ける当本人のこの俺が、楽しい気持ちになると思うわけ?」
玉宮守「俺は最低最悪の毎日だったんですけど」
本能寺令「だって、他の誰にも見せないカッコ悪いところや情けないところを、私だけに見せてくれるんだよ?」
本能寺令「それって、玉宮くんも私に心を許してくれてるってことじゃない?」
玉宮守「全然違う! 不可抗力だ!」
本能寺令「そうかなぁ。私だったら、嫌いな人に自分の弱いところなんて見せないよ?」
玉宮守「そ、それは確かに・・・って、なに説得されそうになってんだよ俺は!」
慌てて自分に言い聞かせる。
相手は涙目の美少女じゃない。
悪魔だ、悪魔の本能寺なんだ。
本能寺令「玉宮くんと交流できて、仲良くなれて、私は毎日幸せだったよ?」
本能寺令「玉宮くんもそう思ってたんでしょ?」
潤んだ目で俺を見上げる本能寺。
玉宮守(なんとなく理解した。 コイツ、今だけはウソを言ってねえ)
玉宮守(本気で俺も楽しんでたと思ってるんだ)
イジメや悪口、暴力など、人を虐げる行為が好きな人間は世の中に一定数いる。
本能寺はたぶん、そういう連中とは違う。
ただ、根本的に人との接し方を知らなさすぎる。
特に、自分が好意を持つ相手に対しては。
〝人間にあるべき優しい感情が欠落していて、人というより悪魔として見た方がいい〟そう話していた小柴の言葉を思い出す。
玉宮守(仲良くなりたいと思っても普通の会話では楽しめず、コミュニケーション方法が嫌がらせしか思いつかないのかもしれない)
玉宮守(なんて悲しい生き物なんだろうか)
本能寺令「玉宮くん? 変な顔してどうしたの?」
玉宮守「どう育ったらこうなるのかなって考えてた」
本能寺令「それどういう意味!?」
玉宮守「まあいい、お前の言葉に嘘がないなら、俺と仲良くしたいだけなんだよな?」
本能寺令「うん!」
玉宮守「それなら、もし俺が仲良くするって言ったら、嫌がらせ全部やめるのか?」
本能寺令「えっ!? そ、それは! う、う~ん!」
玉宮守「悩むのかよ!!」
本能寺令「だって、玉宮くんにイタズラするの楽しくって」
玉宮守「言っとくがな!」
玉宮守「嫌がらせを続ける限り、絶対お前とは仲良くしないからな!」
本能寺令「えええっ!?」
本能寺令「わ、分かった! じゃあもう、やめる!!」
玉宮守「本当か?」
本能寺令「うん、もうしない! 」
本能寺令「玉宮くんが仲良くしてくれるなら我慢するから!」
玉宮守「マ、マジかよ。 悩みの種がこんなアッサリ解決するのか」
玉宮守「言ってみるもんだな」
本能寺と仲良くするのは正直イヤだし、本心ではまだまだ許せない。
だが嫌がらせが終わるのなら、多少のことなら我慢できる。
本能寺令「それで玉宮くん。 本当に仲良くしてくれるの?」
玉宮守「まあ、約束を守るなら友達になってやるよ」
本能寺令「ト、トモダチ!? 本当!?」
玉宮守「お、おう」
本能寺はよほど嬉しかったのか、ぐいっと体を寄せてくる。
俺はあまりの接近ぶりに少したじろいだ。
本能寺令「トモダチって一緒にご飯食べたり、お出かけしたり、そういうのだよね!」
本能寺令「アニメでよく見る!」
玉宮守「そうだけど、もしかしてお前マジで友達いないの?」
本能寺令「うん! 」
本能寺令「だってみんな、ちょっとからかっただけで、すぐ余所余所しくなるんだもん」
玉宮守「例えばどんな風に?」
本能寺令「え~、勉強教えてって言われて、〝幼稚園からやり直したら?〟って答えたりとか」
玉宮守「酷すぎるわ! そんなの避けられるに決まってるだろ!」
本能寺令「そうかな? あっ、でも育美ちゃんは平気そうだったよ」
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