エピソード1(脚本)
〇幻想空間
僕は、事故にあってからずっと
成仏出来ずに、空をさまよっている。
6年間ずっと・・・・・・。
大切な人達が
“ 僕のせい ”で
心が苦しくなっているのではないかと思い
・・・・・・
その僕の姿を見て、心配してくれた神様が
「クリスマスの日だけ、地上に戻ってもいいよ!」
と、言ってくれた。
〇黒
〇幻想空間
つきちゃん(どうしようかな)
つきちゃん(クリスマスの日、地上に戻れる)
つきちゃん(1日だけ・・・・・・)
つきちゃん(・・・・・・)
とにかく考えた。
クリスマスは、あっという間に近づいてきた。
〇黒
僕は動き出した。
〇男の子の一人部屋
まずは、寝ている双子の兄、ようの意識に入り、お願いをした。
〇幻想空間
つきちゃん「よう、久しぶり」
ようちゃん「お、つきだ」
つきちゃん「元気か?」
ようちゃん「おう」
つきちゃん「・・・・・・」
つきちゃん「よかった! 突然だけど、ようにお願いがあるんだ・・・・・・」
話したい事は、沢山あったけれど
余計な事を言ってしまいそうになったから、とりあえず伝えたい事だけを伝えた。
まず、僕の部屋に入り、本棚にある表紙が黒くて、中が真っ白で何も書かれていない本を、3冊探してくれと頼んだ。
それから『2021年、クリスマス。僕達は、17時ちょうどに駅前で待ち合わせをして、喫茶ボヌールへ向かう』
と、最初のページに書いて、こっちの名前は書かずに、宛名だけを書いた封筒に入れて
それをそっと、あやかと、りかの家のポストに入れ、あと1冊はようが持っていてほしい。
と、伝えた。
それから、クリスマスパーティーをする約束をして
つきちゃん「じゃあクリスマスの日に会おう」
ようちゃん「あぁ」
夢の中から出ていった。
〇男の子の一人部屋
ようちゃん(つき、夢に出てきてくれたんだなぁ)
ようちゃん(ありがとなぁ)
〇男の子の一人部屋
朝
ようちゃん「夢の中につきが出てきたけど、妙にリアルだったなぁ」
ようちゃん「多分、夢の話だから、本、ないと思うけど・・・一応つきの部屋、調べてみるか」
〇本棚のある部屋
ようちゃん(つきの部屋、久しぶりに入ったけど)
ようちゃん(何も変わってなくて、今もまだここで過ごしている感じがする・・・・・・)
ようちゃん(・・・・・・)
ようちゃん(よし、探してみるか)
ようちゃん(本いっぱいあるなぁ)
ようちゃん(真面目な本ばっかり)
本棚をあさってみた。
ようちゃん「ほんとにあった!!」
頼まれた本が3冊あった。
〇男の子の一人部屋
部屋に戻り、頼まれた文章を書いた。
ようちゃん「よし、これを、ふたりの家のポストに入れればいいんだな」
〇黒
〇黒
幸せを届けに。
この物語は「小説に書かれた日、」のもうひとつのお話。
クリスマスの日の、つきちゃんの物語。
〇黒
クリスマスの日、夜中
まず、僕はあやかと、りかの意識に入り込み
僕が事故にあって亡くなった日の記憶を
今日1日だけ、忘れてもらう事にした。
〇女性の部屋
〇女の子の一人部屋
〇男の子の一人部屋
朝
つきちゃん「本当に地上に来れたんだ・・・・・・」
ようちゃん「いきなり登場かよ!びっくりしたっ!」
ようちゃん「つき・・・・・・」
ようちゃん「久しぶり!」
つきちゃん「久しぶりだな」
ようちゃん「変わってないな!」
つきちゃん「幽霊だからな」
つきちゃん「ようは、少し老けたな」
ようちゃん「ははは」
6年ぶりにあっても、昨日まで一緒にいたように感じた。
だって、生まれてからずっと一緒にいたのだから。
ようちゃん「今日、仕事休みもらえてよかったわ」
つきちゃん「ありがとな」
ようちゃん「何でも頼んでや」
つきちゃん「そして、ごめんな」
ようちゃん「いや、あやまる意味分からないから!」
つきちゃん「・・・・・・」
つきちゃん「ずっと、あやまりたかったんだ」
つきちゃん「急にいなくなったりして・・・・・・」
ようちゃん「つきは悪くない」
つきちゃん「・・・・・・」
つきちゃん「父さんは元気?」
ようちゃん「今日も元気に仕事行ったわ」
ようちゃん「あれから、俺の健康、めちゃくちゃ気にしてくれるようになって、バランスいい飯も作ってくれてるわ」
僕がいなくなった後、母さんは心が病み、僕を追って、亡くなったらしい。
ようは今、父さんとふたり暮らしをしている。
つきちゃん「ほんと、ごめんな」
ようちゃん「あやまるな!」
つきちゃん「お、おぅ」
〇走行する車内
ようちゃん「あのふたり、来るかな?」
つきちゃん「来るわ。自信ある」
ようちゃん「仕事とかで来れないとかないかな」
つきちゃん「あのふたりなら、来る」
ようちゃん「つきがそう言うなら、来るわ」
つきちゃん「あのふたり、今日だけ僕が亡くなった記憶消えてるからよろしく」
ようちゃん「え、そうなの?なんで?」
つきちゃん「あの日、僕のせいでクリスマスパーティー出来なかったから、まずそれをやりたいんだ」
つきちゃん「記憶が残ったままだと、あの日やるはずだった楽しいクリスマスパーティーは出来ない」
つきちゃん「あやかとりかはきっと、僕が事故にあったのは自分のせいだと、それぞれ思って そうだから」
つきちゃん「僕の幽霊姿を見ると、余計に罪悪感いっぱいになる。そして、その気持ちのままきっと1日が終わってしまう」
つきちゃん「そうなったら、誰も楽しめない」
ようちゃん「そっか、分かった」
ようちゃん(でもあのふたり、次の日になって思い出したらどう思うんだろう)
ようちゃん「あと、あの本なにかに使うの?」
つきちゃん「ふふふ」
ようちゃん「秘密か」
〇スーパーの店内
ようちゃん「えっと、ケーキの材料と、肉と」
ようちゃん「とりあえず、俺が食べたいもの入れるわ」
つきちゃん「おぅ」
つきちゃん「あ、これも」
ようちゃん「え? つき、甘いの飲むっけ?」
つきちゃん「いや、あやか、これ好きだから」
ようちゃん「そうだっけ?」
つきちゃん「高校の時からいちごオレ、ほぼ毎日飲んでた」
ようちゃん(相変わらず記憶力凄いな。あやかの事だからなのもあるか)
〇走行する車内
ようちゃん「もう、まっすぐ、ボヌール行っていいか?」
つきちゃん「うん」
〇雪山の山荘
昼
ようちゃん「冬は店閉めてるみたいだから、雪積もってるなぁ」
つきちゃん「除雪して、昼ご飯食べたら準備開始だな」
準備を進めた。
〇カウンター席
ようちゃん「お、もう暗くなってきた。時間あっという間だな」
つきちゃん「そうだな」
ようちゃん「そろそろ待ち合わせ場所に行こうか」
つきちゃん「だな」
〇走行する車内
〇雪に覆われた田舎駅
〇雪に覆われた田舎駅
りか「えっ! なんでふたりがいるの?」
ようちゃん「久しぶり!」
つきちゃん「元気か?」
りか「うん。元気・・・それよりなんでいるの?」
ようちゃん「あ、あやかだ」
りか「あやかー! 久しぶりー!」
昔と変わらない空気だった。
あやか「怪しい人達がいたらこっそり帰ろうと思っていたけれど、みんながいて良かった」
あやか「ちょっとドキドキして楽しかった!」
つきちゃん(やっぱり来てくれた)
〇走行する車内
4人は、ボヌールへ向かった。
〇雪山の山荘
〇カウンター席
3人が笑ってくれている。
僕も、とても久しぶりに心から笑えた。
つきちゃん(僕が選んだ、いちごオレ飲んでくれてる。まだ好きなんだな。良かった)
〇部屋の扉
僕は、やらないといけない仕事があるからと言い、荷物がまとめられていた部屋に入った。
つきちゃん(鞄の中、失礼します)
3人の鞄をあさり、本を取り出した。
つきちゃん(1時間で書ける文字、僕だと1800文字くらいかな・・・・・・)
つきちゃん(今日の思い出の話と、それぞれ喜びそうなフィクションの物語も書きたいから1冊、10万文字として・・・・・・)
つきちゃん(と、考えた結果、これを使う事になった)
つきちゃん(当日好きな事に1回だけ使っていいよ!と神様に言われた魔法)
つきちゃん(自分の為に使いなと言われたけれど)
つきちゃん(これは自分の為でもあるのかもな)
魔法を唱えると一瞬で、頭の中に蓄積されていた物語が書けた。
最後の1ページは直接書いた。
つきちゃん「よし、間に合った」
つきちゃん「残りわずかな時間、大切なみんなと過ごすか」
〇白
ちなみに、
ようには、戦国時代の熱い話を
りかには、胸キュンラブストーリーを
そしてあやかには、ふわふわ系ファンタジーの物語を書いた。
〇黒
〇カウンター席
つきちゃん(この空間)
つきちゃん(幸せだ)
つきちゃん(幸せだ)
つきちゃん(幸せだ)
同時に、寂しい気持ちも込み上げてきた。
〇カウンター席
1分早く進んでいる、ここにある時計が
ちょうど0時のとき、そっと電気を消した。
〇カウンター席
それから、みんながいた場所にそれぞれ本を置いた。
〇カウンター席
電気をつけると同時に
僕の姿は・・・・・・
消えた。
それぞれが、僕について語ってくれている。
つきちゃん(・・・・・・)
あやか「今日は、ありがとう」
つきちゃん(こちらこそ)
ドアを開け、外に出た。
〇青(ダーク)
つきちゃん(あ、かあさんがすぐ上にいる気配がする)
〇黒
辛くなった時とか、僕の書いた小説読んで
幸せな気持ちになってくれたら、いいな。
〇青(ダーク)
ようちゃん(つき、結局周りの事しか考えてなかったな)
ようちゃん(辛い時とか、これみたら元気出そうだわ)
ようちゃん「幸せを、ありがとう」
〇白
手書きで書いた言葉は、
ようが、
あやかが、
りかが、
幸せになってほしいから
ささやかですが
プレゼントを贈ります
〇黒
心があったかくなるようで切ないお話でした。
こうしてこの世界から消えても記憶として残って、ずっと思われるのはすごく嬉しいです。
夢で亡くなった人と会えるととても嬉しいですが、起きた後とても寂しくなるのは私も同じです。
前のお話から続けて読みました。タイトルが読点で終わっているのがこれから起こることが気になってすごくいいなと思ったので、このお話のタイトルの句点で3人に(つきちゃんにも)たしかに幸せが届いたと確認できた感じがします。前のお話に不足は感じなかったですが、仕掛け人のつきちゃん側の視点を読めたことで想いの強さや満足感がよりくっきり見えてよかったです。
静かに進む優しいお話でした。
悲しさもあるのですが、すごく作り込まれていて、みんなに優しさを残すあたりなど目が潤みました。