いわく鑑定士

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〈シワを許さない〉アイロン(脚本)

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〇時計台の中
鑑定士「この世には〈いわく〉を抱えた 呪いの品が存在します」
鑑定士「私はそんな〈いわく〉付きの品専門の鑑定士」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、 一体おいくらになるのでしょうか・・・」

〇時計台の中
鉄也「よろしくお願いします・・・ ぐすっ・・・」
鑑定士「・・・」
鑑定士「・・・どうぞ、ご自由にお使いください」
鉄也「あ、ありがとうございます・・・」
鑑定士「では、このアイロンにまつわる〈いわく〉を お聞かせください」
鉄也「はい・・・」

〇職人の作業場
  白石クリーニング 作業場
香織「廃業!? 何考えてんの!?」
鉄也「残念だけど・・・」
鉄也「『この業界に、未来はない』」
鉄也「・・・って、まとめ記事が」
香織「ネットの情報を鵜呑みにしないの!!」
鉄也「でも実際、経営厳しいわけじゃん?」
鉄也「プレス機も壊れちゃったし、 潔く廃業するのがよくね?」
香織「ウチの親から継いだ店なんだけど!?」
香織「鉄也だって「大船に乗ったつもりで任せてください!」って言ってたじゃない!」
鉄也「そのときはほら、ノリっていうか」
香織「ノリぃ!?」
鉄也「やっぱ結婚許してもらいたかったから 好感度上げとかなきゃじゃん?」
香織「だからって適当言っていいわけないでしょ!」
鉄也「俺も頑張りたかったよ?」
鉄也「でもさ、続けるったって、 プレス機なしじゃ営業できないだろ?  シワシワの服を渡すわけにもいかないし」
香織「それは・・・何か方法を・・・」
鉄也「で、買い替え資金もないと」
香織「鉄也が無駄遣いばっかりしてるからでしょ!」
鉄也「無駄? 俺はいつだって 香織が喜んでくれるように──」
香織「はぁ・・・。大体やめてどうするの」
鉄也「それは、ほら・・・仮想通貨とか?」
香織「はぁ!? そんなのギャンブルと一緒よ!  もういい!」
鉄也「香織? それは──」
香織「今日から私がプレス機よ!」

〇職人の作業場
香織「う~ん、スチームの熱と 服を滑らせるこの感触、気持ちいい~!」
鉄也「おっ、ご機嫌だな」
香織「ほら、音も素敵でしょ? 手間暇をかけるっていいね!」
鉄也「うんうん。楽しそうでよかったよ」
福田の声「香織ちゃーん! 鉄也くーん!」
鉄也「お、貴重なお客様のご来店だ」

〇クリーニング店内
福田「全部手作業でアイロンを?  それは大変ねぇ」
鉄也「でも本当、 楽しそうにやってるんですよね~」
福田「顔、にやけてるわよ」
鉄也「へへ、サーセンっす」
福田「でも、ずっとこのままってわけにも いかないでしょう?」
鉄也「そうなんすよね~。 ここは宝くじでも買って購入資金を・・・」
福田「これは香織ちゃんも苦労するわ」
鉄也「え~、じゃあどうすれば?」
福田「いるじゃない。 見るからに太っ腹な客が目の前に!」

〇風
福田「クタクタになってた旦那のハンカチも!」
福田「すぐにシワになる子供の制服も!」
福田「私のとっておきのコートも!」

〇クリーニング店内
福田「まるで新品ね!  こんなに綺麗な洗濯物、初めて見たわよ!」
香織「たくさんご注文いただけたから 張り切っちゃいました」
福田「助かるわぁ。これからはぜ~んぶ 香織ちゃんにお願いするわね!」
香織「本当ですか? 嬉しい!」
福田「頑張んなさいよ! みんなにもバッチリ宣伝しておくからね!」
  その日から香織の仕事の丁寧さが口コミで広まって、
  徐々に仕事が増えていったんです。

〇ホテルのレストラン
鉄也「やっぱたまには贅沢もしないとな!」
香織「早く帰ってアイロンをかけなきゃ・・・」
鉄也「あれ、飲まないの? ワイン好きだろ?」
香織「あ、ごめん。こういうとこ 久しぶりだから、緊張しちゃって──」
???「おいおい・・・勘弁してくれよ!」
「ッ!?」
ウェイター「申し訳ございません!  すぐに拭くものを──」
大河原「あー、いいって。もうこれダメだから」
大河原「このスーツはなあ、 水に弱い生地を使った特注品なんだよ」
大河原「弁償しろとは言わねえよ?  ただ誠意ってもんをだな・・・」
鉄也「ひえ〜・・・こわ・・・」
香織「クリーニング屋の出番ね!」
鉄也「え、香織? ちょ、待って!!」

〇超高層ビル
  後日

〇豪華な社長室
大河原「・・・合格だ」
香織「やったあ!」
大河原「最初は変な女だと思ったが、 なかなか腕は確かじゃねえか」
大河原「改めて。俺は大河原譲治。 紳士服バイヤーをやっている」
大河原「見ての通り、世の中には なかなか難儀な服を作る職人がいてなあ」
大河原「どうだ? その腕、試してみるか?」
香織「もちろん!」
大河原「決まりだな。じゃあ契約成立の握手でも」
香織「はい!」
鉄也「・・・ははっ! 香織、 アイロンは置かないと握手できないだろ~」
大河原「それがお前の手だってか。 仕方ない、旦那で我慢してやるよ」
鉄也「あ、はい!  よろしくお願・・・痛だっ!?」
大河原「ちょっと待ってな。 定期契約の書類を用意するから」
鉄也「痛ってえ~!  手ぇ握り潰されるかと思った~!」
香織「ねえねえ、今のうちにここにある服 アイロンかけちゃっていいかな?」
鉄也「え、さすがに勝手にやるのは──」
香織「いいよね! じゃあ早速──」
鉄也「待って待って!  お願いだから大人しくしてくれよ〜!」

〇職人の作業場
香織「・・・はい、では金曜日に。 よろしくお願いします」
鉄也「また取材?」
香織「うん。視聴率いい番組みたいだし、 客入りも増えそうね!」
鉄也「この調子ならプレス機も買えそうだな!」
香織「え? そんなのいらないでしょ」
鉄也「は? なんで?」
香織「なんでって、私のアイロンがけの腕が 買われてるんだから」
鉄也「えぇ? でも絶対 プレス機があったほうが楽だよ」
香織「楽なんかしたって仕方がないでしょ?」
鉄也「でも今まではそうやってきたし・・・」
香織「はいはいこの話はおしまい」
香織「じゃ、私はアイロンがけの続きがあるから、鉄也は取材の準備よろしくね」
鉄也「ちょ、香織・・・!」
鉄也「っとと・・・ はい! 白石クリーニングで・・・」
鉄也「大河原さん? ・・・はい。 はい・・・・・・」

〇ダイニング
鉄也「そんなに急いで食べなくても」
香織「うるさいわね。まだ仕事が 残ってるんだから・・・ゲホッ、ゴホッ」
鉄也「はい、お水」
香織「ゴク、ゴク・・・ん、ありがと」
鉄也「あのさ・・・ ちょっと働きすぎじゃないかな」
香織「今までが楽をしすぎだったのよ」
鉄也「大河原さんからクレームの電話があったよ」
香織「クレーム?」
鉄也「『デザイン部分のシワも伸びて台無しだ!  契約は解消だ!』って」
香織「そう。残念な人ね」
鉄也「えぇ? でもこっちのミスだし」
香織「ミス? そんなわけないでしょ。 シワは全部綺麗に伸ばさなきゃ」
鉄也「香織・・・やっぱちょっとおかしいよ」
鉄也「仕事熱心なのはいいことだし感謝もしてるよ。でも度が過ぎてるっていうか」
鉄也「それに・・・最近化粧品使ってるの見たことないし、美容院だって」
香織「忙しいんだから仕方ないでしょ? 頑張ってるんだから応援してよ」
鉄也「うん・・・でも心配なんだよ。ずっとアイロンかけてるから猫背になってるし」
香織「やっぱり? 嬉しい!」
鉄也「嬉しい?」
香織「最近アイロンがけしやすくなったと思ってたの! きっと身体が適応したのね!」
鉄也「それって、 他のことに支障が出てるんじゃ──」
香織「よし、ごちそうさまでした」
鉄也「え、カレー好きだろ?  まだ半分以上残ってるのに」
香織「今はアイロンのほうが好きなの。 それじゃ、また明日」
鉄也「はぁ~。どうしたもんかなぁ・・・」
鉄也「・・・そうだ!」

〇クリーニング店内
香織「鉄也! これ、どういうつもり!?」
  俺は香織がアイロンがけをしなくてもいいように、
  ニット限定キャンペーンを勝手に始めたんです。
鉄也「香織はちょっと頑張りすぎだからさ、 俺からのサプラ〜イズ!」
鉄也「もうシワのある服ばかり見なくても──」
香織「ふざけないで!!」
香織「鉄也はいつも勝手なことばかり!」
鉄也「だからそれは香織のために──」
香織「だったらなんでこんなことができるの!? ひどすぎる!!」
鉄也「そんなに怒る?」
香織「ほら、やっぱりわかってない! もういい! さようなら!」
鉄也「・・・なんだよ。 喜んでくれると思ったのに」

〇空

〇クリーニング店内
鉄也(香織が好きそうな店だな)
鉄也(お、デリバリーもある。 じゃあ晩飯はここで)
鉄也(既読もついてないか。 まだそっとしといたほうがいいのかな・・・)
福田「鉄也くん早く来て!」

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コメント

  • あざみさんこんにちは!
    うわー!スチルも相まって、すっごいすっごい怖かったです〜😭
    段々とエスカレートしていく様がなんとも鳥肌物です。好きなのは旦那がちゃらんぽらんなはずなのにまともに見えてきて、しっかり者のかおりが異常になって見え方が逆転するところです!

    私ももう少し肩の力を抜いたほうがいいかもな😂

  • スチル楽しみにしていました!恐ろしい形相でした…すごい…!キャラクターがどんどん具体化されて魅力的になっていく様子を素晴らしいなと思いながら拝見しておりました✨

  • 「スチル予定」表記の時からスチル楽しみにしてました。あんな顔になってたんですね。
    アイロンに薬物のように取り憑かれていく様がとても不気味で、価格が他の商品より高めになるのも納得な依存具合でした。だんだんと変わってく妻、怖かったです

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