第15話 オズワルドの裁定【前編】(脚本)
〇魔法陣のある研究室
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さん、【ルーカス】は?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「・・・繋がらない」
霧生華清(きりゅうかせい)「アドルフさんの仕業ですか」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「おそらくな」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「気象干渉装置【オズワルド】」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「その名のとおり天を操り──」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「この島を生かすことも滅ぼすこともできる」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「──諸刃の剣」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「決して使わせてはならない」
霧生華清(きりゅうかせい)「無論です」
霧生華清(きりゅうかせい)「遺物はヒトと争わせ、万物の命をすり減らす」
霧生華清(きりゅうかせい)「もう二度と使われないように封印します ──永遠に」
キース・フォスター「先生に同意だ」
キース・フォスター「【オズワルド】を止めに行こう」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ああ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「向かおう、首都ジンへと──」
〇宮殿の門
首都ジン
ブラフマン宮殿前
アメリア・コールマン「お尻痛ーい!」
アメリア・コールマン「こうなったら代価はたんまり貰うから 覚悟しててよね!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ありがとう、美しいお嬢さん」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ほら、華清も」
霧生華清(きりゅうかせい)「ありがとうございます、アメリアさん」
霧生華清(きりゅうかせい)「また一段とお綺麗になりましたね」
アメリア・コールマン「あらやだ、お代はまけないわよ?」
アメリア・コールマン「まさか双子だったなんて」
アメリア・コールマン「お礼の件、楽しみにしてるわ♥」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「心得た」
霧生華清(きりゅうかせい)「承知しています」
アメリア・コールマン「じゃーねー!」
キース・フォスター「Mr.キース、先生にあまりヘンなことを──」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「さて、地下牢へ向かおう」
霧生華清(きりゅうかせい)「正面突破ですね!」
キース・フォスター「待て待て待て!」
キース・フォスター「どうやって入るつもりだ!?」
キース・フォスター「正面から行けば捕まっちまうぞ!?」
霧生華清(きりゅうかせい)「自ら捕まって地下牢に侵入するんですね?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「冴えているな、華清」
キース・フォスター「親子揃って何を言っている?」
キース・フォスター「目的の牢に投獄される確証はないんだぞ?」
「あ──」
キース・フォスター「・・・先生の爺さんに違いないようだな」
キース・フォスター「まあいい、策ならある」
霧生華清(きりゅうかせい)「裏口ですか?」
キース・フォスター「いや?」
キース・フォスター「手駒がいるじゃないか」
〇牢屋の扉(鍵無し)
ハロルド・ムーア少尉「まさか地下牢の奥に遺物があるとは」
キース・フォスター「トゥダイ モトゥクラシ」
キース・フォスター「だね」
ハロルド・ムーア少尉「灯台下暗し」
キース・フォスター「むぅ」
手下「ムーア少尉、ここで何を──」
手下「そ、その者は司令官が追っていた──!?」
ハロルド・ムーア少尉「早く行け」
キース・フォスター「あんた、何も説明していなかったのか」
ハロルド・ムーア少尉「一刻を争うのだろう?」
ハロルド・ムーア少尉「私はパラディス国のため最善を尽くすのみ」
ハロルド・ムーア少尉「さあ」
キース・フォスター「恩に着るよ」
手下「ムーア少尉! これは一体──!」
ハロルド・ムーア少尉「オーケー、少しおしゃべりしよう」
〇近未来の通路
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「こちらだ」
キース・フォスター「Mr.キース、やはり貴方はダッドと共に?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ああ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「共に旅をした」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ゲイルは何も憶えていなかったろうがね」
キース・フォスター「【アイゼイヤ】か」
キース・フォスター「ダッドは遺物を使ったことを後悔していたのか?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ああ、ゲイルは罪悪感に苛まれていた」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「過ぎたる技術は滅びを招く──」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「かつて私たちは【オズワルド】の裁定に 身を委ね──」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「戦争を終わらせる代わりに多くのものを 失った」
霧生華清(きりゅうかせい)「それが・・・『パラディスの悲劇』」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「私たちは遺物を使うという本当の意味を 考えるべきだったのだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さん・・・」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「だが、私は──後悔していない」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「私たちはあの時の最善の行動をとった」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「為すべきことを為したのだよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「為すべきこと──」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ときにアイク」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「君は【ヒューゴ】を吞み込んだと聞いたが」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「身体に異常はないのか?」
キース・フォスター「いや、異常なんて──」
〇レンガ造りの家
ゲイル・カーター「古代パラディス人は【ヒューゴ】を チップ状にして」
ゲイル・カーター「体内に埋め込んでいた」
ゲイル・カーター「だが、他人の情報を体内に取り込めば 拒絶反応が起こる」
ゲイル・カーター「やがて脳内回路が焼き切れ、最終的に──」
何故、そのような危険なものを体内に?
ゲイル・カーター「危険性よりも機能性を重視したからだろう」
ゲイル・カーター「これは人間が人間であるための証明なんだよ」
〇近未来の通路
キース・フォスター(人間が人間である証明・・・?)
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん、大丈夫ですか?」
キース・フォスター「ああ、問題ない」
キース・フォスター「また少し、記憶が蘇っただけだよ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「私の記憶、か」
キース・フォスター「なに、心配いらない」
キース・フォスター「医者に診てもらったが異常はなかった」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「そうか」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「もし何か異常があれば言ってくれ」
キース・フォスター「ああ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「先に進もう」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「『彼』が待っている」
キース・フォスター(なぁ)
キース・フォスター(【オズワルド】で何をするつもりなんだ?)
〇黒
(なぁ、教えてくれよ──)
〇VR施設のロビー
【オズワルド】「実行マデ 残リ 五十分」
キース・フォスター「アドルフ!!」
アドルフ・フォスター大佐「よォ」
アドルフ・フォスター大佐「遅かったじゃねェか、坊主」
霧生華清(きりゅうかせい)「アドルフさん、やはり貴方が──」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「黒幕か」
アドルフ・フォスター大佐「勢揃いだねェ」
キース・フォスター「そいつが何だかわかっているのか?」
アドルフ・フォスター大佐「ああ」
アドルフ・フォスター大佐「気象干渉装置【オズワルド】」
アドルフ・フォスター大佐「天を操る、さながら『神様』ってヤツだね」
キース・フォスター「そいつは『神様』なんかじゃない」
キース・フォスター「ヒトがつくった出来損ない──紛い物だよ」
アドルフ・フォスター大佐「押し問答する気はないよ」
アドルフ・フォスター大佐「お?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「華清!」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい!」
アドルフ・フォスター大佐「よっと」
アドルフ・フォスター大佐「東洋のモノノフは容赦ないねェ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「腐っても軍人、というわけか」
霧生華清(きりゅうかせい)「アドルフさん、何故?」
霧生華清(きりゅうかせい)「【オズワルド】で何をするつもりなんですか?」
アドルフ・フォスター大佐「勿論、イイコトだよ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「良いこと、だと?」
アドルフ・フォスター大佐「ああ」
アドルフ・フォスター大佐「この島を──沈める」
霧生華清(きりゅうかせい)「この島を──!」
キース・フォスター「沈めるだと!?」
霧生華清(きりゅうかせい)「モニターに映像が・・・!」
〇島
〇島の家
〇堤防
〇VR施設のロビー
キース・フォスター「『パラディスの悲劇』の再来だ・・・」
アドルフ・フォスター大佐「悲劇じゃない」
アドルフ・フォスター大佐「元凶を断つだけ」
キース・フォスター「『元凶』だって?」
アドルフ・フォスター大佐「ケイレブがそうだったように」
アドルフ・フォスター大佐「軍の連中は独善的で好戦的だ」
アドルフ・フォスター大佐「『パラディスの悲劇』がなければ」
アドルフ・フォスター大佐「より多くの命が失われていた」
キース・フォスター「『パラディスの悲劇』を正当化するつもりか?」
アドルフ・フォスター大佐「正当化?」
アドルフ・フォスター大佐「馬鹿言うなよ」
アドルフ・フォスター大佐「あんなものは──悪だよ」
アドルフ・フォスター大佐「だが、そんな悪のおかげで収まったものもあるだろう?」
霧生華清(きりゅうかせい)「パラング戦争・・・」
アドルフ・フォスター大佐「あれは──【オズワルド】の裁定だよ」
〇島
「神が司る島──パラディス島」
「世界中の植生が集約されている特異な島」
「その正体は【オズワルド】の裁定を下された、先人たちの夢の残骸」
「この島の特異性こそが人々の認識を歪め」
「誇りを優位性と勘違いさせ」
「敗戦したばかりの東洋国へと宣戦布告」
「無益な争いを生んだ」
〇VR施設のロビー
キース・フォスター「『パラディスの悲劇』が【オズワルド】の 裁定だって?」
アドルフ・フォスター大佐「毒を以て毒を制す、と言うだろう?」
アドルフ・フォスター大佐「かつて古代パラディス人はより良い世界を夢見て」
アドルフ・フォスター大佐「【オズワルド】に意志を託した」
アドルフ・フォスター大佐「その結果、この島の自然環境は滅茶苦茶になり」
アドルフ・フォスター大佐「ヒトが住めなくなった」
アドルフ・フォスター大佐「何故だと思う?」
キース・フォスター「ヒトがより良い世界に不要だった・・・?」
アドルフ・フォスター大佐「さすが賢いな、坊主」
アドルフ・フォスター大佐「古代パラディス人は遺物を創り」
アドルフ・フォスター大佐「神様気取りで世界をつくり変えようとした」
アドルフ・フォスター大佐「おこがましいと思わねェか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「過ぎたる技術は滅びを招く」
アドルフ・フォスター大佐「遺物は存在そのものが悪だよ」
アドルフ・フォスター大佐「そんなものに滅ぼされるヒトもまた、ね」
霧生華清(きりゅうかせい)「古代パラディス人が滅びたのは自業自得だと?」
アドルフ・フォスター大佐「そうだよ」
アドルフ・フォスター大佐「ヒトは学習しない生き物だ」
アドルフ・フォスター大佐「【オズワルド】の危険性を知りながら」
アドルフ・フォスター大佐「目先の脅威を恐れ、身を委ねた」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「そう、私たちはもっと考えるべきだった」
霧生華清(きりゅうかせい)「ですが、それは戦争を止めるためで・・・」
アドルフ・フォスター大佐「ああ」
アドルフ・フォスター大佐「【オズワルド】のおかげで戦争は終わった」
アドルフ・フォスター大佐「一万人もの犠牲の上に平和を手に入れた俺たちは」
アドルフ・フォスター大佐「紛れもなく悪人だろう?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「だから、島ごと沈むべきだと?」
アドルフ・フォスター大佐「悪は滅びるべきだからねェ」
キース・フォスター「話にならないね」
キース・フォスター「【オズワルド】! 停止だ!」
【オズワルド】「アクセスコード ヲ 認識デキマセン」
【オズワルド】「コンソール ニ アクセスコード ヲ セット シテクダサイ」
キース・フォスター「何っ!?」
霧生華清(きりゅうかせい)「コンソール?」
キース・フォスター「アドルフが陣取っているあの台座のことだろう」
アドルフ・フォスター大佐「というワケだ」
アドルフ・フォスター大佐「気に食わないなら、かかってきな」
霧生華清(きりゅうかせい)「穏便には済まないようです」
キース・フォスター「それなら──」
???「フォスター大佐ッ!」
霧生華清(きりゅうかせい)「ハロルドさん!」
キース・フォスター「遅かったじゃないか」
アドルフ・フォスター大佐「ムーア少尉」
ハロルド・ムーア少尉「動くなッ!!」
ハロルド・ムーア少尉「国家反逆罪に問われている!」
ハロルド・ムーア少尉「大人しく投降しろッ!」
アドルフ・フォスター大佐「・・・はァ」
アドルフ・フォスター大佐「法なんて意味を為さねェよ」
アドルフ・フォスター大佐「こいつは裁定だ」
アドルフ・フォスター大佐「人類にとってより良い未来を紡ぐため」
アドルフ・フォスター大佐「【オズワルド】が選び取った未来なのさ」
ハロルド・ムーア少尉「もっともらしく言っているが」
ハロルド・ムーア少尉「これは【オズワルド】の裁定ではない!」
ハロルド・ムーア少尉「フォスター大佐、貴方の傲慢だ!」
ハロルド・ムーア少尉「裁きは法によって為されるのがヒトの道!」
アドルフ・フォスター大佐「法じゃ過去は裁けねェ」
アドルフ・フォスター大佐「ヒトの業まで裁くのは不可能だよ」
ハロルド・ムーア少尉「だから自ら裁くと?」
ハロルド・ムーア少尉「それが傲慢だと言っている!」
キース・フォスター「ハロルド・・・」
ハロルド・ムーア少尉「貴方の正しさは誰が証明する!」
ハロルド・ムーア少尉「法に背いた私刑こそ『罪』であると 何故気づかない!?」
ハロルド・ムーア少尉「貴方は気に食わないものを排除したいだけ!」
ハロルド・ムーア少尉「人間の業そのものだ!」
霧生華清(きりゅうかせい)「こ、この揺れは──!」
ハロルド・ムーア少尉「撃て!」
キース・フォスター「撃つなッ!」
〇黒
〇VR施設のロビー
キース・フォスター「【メイナード】・・・!」