第16話 オズワルドの裁定【後編】(脚本)
〇VR施設のロビー
ハロルド・ムーア少尉「何!?」
【メイナード】「重大ナ インシデント ヲ 感知シマシタ」
【メイナード】「タダ今 ヨリ 排除シマス」
「ぐわぁぁぁぁぁぁああああああッ!!」
霧生華清(きりゅうかせい)「ハロルドさん!」
ハロルド・ムーア少尉「ぐうっ・・・!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「重症だ、すぐに手当てしなければ」
キース・フォスター「何故【メイナード】を・・・!?」
キース・フォスター「あの時、確かに止めたはずだ」
アドルフ・フォスター大佐「再起動させた」
アドルフ・フォスター大佐「単純な話だろう?」
キース・フォスター「馬鹿言うな!」
キース・フォスター「遺物の再起動には『アクセスコード』が 必要だッ!」
キース・フォスター「だが『アクセスコード』は俺の腹ん中──」
キース・フォスター「そ、そいつは──!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「・・・『オリジナル』の形見か」
アドルフ・フォスター大佐「そ、お前がオリジナルと交換した紛い物」
アドルフ・フォスター大佐「紛い物なら奪われても問題ないと考えたみてェだが──」
アドルフ・フォスター大佐「曲がりなりにも【ザッカリー】は遺物だ」
アドルフ・フォスター大佐「同じく遺物である【ヒューゴ】なら」
アドルフ・フォスター大佐「そっくりそのままコピーできる」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「だが、権限までは移行できない」
アドルフ・フォスター大佐「そう」
アドルフ・フォスター大佐「だから、軍の奴らも見逃した」
アドルフ・フォスター大佐「坊主が持つオリジナルにも固執しなかった」
アドルフ・フォスター大佐「だが、権限なら後からつければいい」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「何?」
アドルフ・フォスター大佐「Mr.キース、自分の情報にロックをかけただろう?」
キース・フォスター「そうだ、俺たちは【エルヴィス】に 締め出されて──」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・停止していない」
アドルフ・フォスター大佐「そういうこと」
アドルフ・フォスター大佐「【エルヴィス】を使って紛い物の 【ヒューゴ】にアクセスコードを付与した」
アドルフ・フォスター大佐「永年樹は土の下だが──」
アドルフ・フォスター大佐「【ルーカス】で移動すれば問題ない」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「逆手に取られたか」
アドルフ・フォスター大佐「周到さが仇となったな、Mr.キース」
アドルフ・フォスター大佐「お前はもう、用済みだよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さん!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「かすり傷だ、問題ない」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「だが、【メイナード】が見張っていては 抵抗もできない」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「膠着している間にも【オズワルド】は──」
【オズワルド】「実行マデ 残リ四十分」
キース・フォスター「アドルフ」
キース・フォスター「島を沈めたところで悪は滅びないよ」
アドルフ・フォスター大佐「だからって悪を認める気もねェんだろ?」
アドルフ・フォスター大佐「お前はアレだ」
アドルフ・フォスター大佐「リアリスト気取りのニヒリスト」
アドルフ・フォスター大佐「やりてェことも成し遂げてェことも」
アドルフ・フォスター大佐「アレコレ言い訳して諦めちまってるんだ」
キース・フォスター「俺は・・・」
アドルフ・フォスター大佐「本当は家族を取り戻したい」
アドルフ・フォスター大佐「だが、諦めた」
アドルフ・フォスター大佐「『遺物』っつう『手段』はあったってのに」
アドルフ・フォスター大佐「もっと夢を見ろよ、坊主」
アドルフ・フォスター大佐「人生なんて、あっという間だぜ?」
キース・フォスター「・・・その言葉、そのまま返すよ」
キース・フォスター「『パラディスの悲劇』で大事なものを 失ったというのなら」
キース・フォスター「何故その大事なものを──」
キース・フォスター「──弟を取り戻さない?」
キース・フォスター「何故『パラディスの悲劇』を繰り返そうとする?」
キース・フォスター「これじゃあ、まるで──」
アドルフ・フォスター大佐「復讐・・・か?」
アドルフ・フォスター大佐「そんなものに意味なんてねェ、って?」
キース・フォスター「意義はある」
キース・フォスター「だが、やり方が間違っている」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん・・・?」
アドルフ・フォスター大佐「やり方、ねェ」
キース・フォスター「親の仇だって、家族の仇だって」
キース・フォスター「実行犯や共犯者を懲らしめたところで 何の解決にもならない」
キース・フォスター「悪には親玉がいる」
キース・フォスター「そいつを叩かない限り悪は滅びない」
キース・フォスター「だがね」
〇漁船の上
戦争の指導者だって、遺物の創設者だって
そういう奴らは、いの一番に逃げ出すのさ
周りの人間もそいつを生かそうと躍起になる
自らの命に替えてでも
そいつさえいれば何度だってやり直せるから
そうだよ、何度だって繰り返されるんだ
〇VR施設のロビー
キース・フォスター「あんたはやり方を間違えている」
キース・フォスター「悪が憎いなら」
キース・フォスター「『パラディスの悲劇』が憎いなら」
キース・フォスター「遺物なんて頼るべきじゃなかった」
キース・フォスター「憎き仇を頼っちまったら」
キース・フォスター「自分さえも許せなくなっちまう」
キース・フォスター「あんたは──ヒトを頼るべきだったんだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「ヒトを、頼る・・・」
アドルフ・フォスター大佐「確かに俺は弟の──ダニーの復讐を誓った」
アドルフ・フォスター大佐「それこそが俺の標(しるべ)になった」
アドルフ・フォスター大佐「だがね、俺は手段を間違えちゃいねェ」
アドルフ・フォスター大佐「遺物でこの島を葬り去る」
アドルフ・フォスター大佐「それが最も単純な因果の断ち切り方だ」
キース・フォスター「何故わからない!?」
キース・フォスター「あんたと同じ想いをする人間を生むかもしれないんだぞ!」
アドルフ・フォスター大佐「だからこそ、全て消し去るのさ」
アドルフ・フォスター大佐「恨みつらみが無くなるまで、なァ」
キース・フォスター「あんたは──!」
キース・フォスター「・・・狂っている」
キース・フォスター「何故・・・何故『家族』に相談しない?」
キース・フォスター「一人だけ残っていたじゃないか」
霧生華清(きりゅうかせい)「残された、家族・・・」
アドルフ・フォスター大佐「家族、ねェ」
アドルフ・フォスター大佐「坊主、お前が言ったんじゃねェか」
アドルフ・フォスター大佐「仇を頼っちまったら自分を許せなくなる ってよ」
キース・フォスター「仇・・・?」
霧生華清(きりゅうかせい)「一体、どういう──」
キース・フォスター「そいつは・・・!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ゲイルの手記」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「アイク、耳を貸すな」
キース・フォスター「どういう意味だ?」
アドルフ・フォスター大佐「昔話を聞かせよう」
アドルフ・フォスター大佐「お前の大好きな『家族』のハナシ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「耳を塞げッ!」
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さんッ・・・!?」
来年、アイクは14になる
戦争が続けば兵役を課せられるだろう
今、戦火に投入されれば間違いなく・・・
それは何としても阻止したい
あの子を守るためなら悪魔にだって
魂を売ろう
戦争を終わらせるためなら遺物にだって
縋ろう
たとえ如何なる犠牲を払うことに
なろうとも──
キース・フォスター「・・・どういう、意味だ?」
アドルフ・フォスター大佐「【オズワルド】は一万人の命と引き換えに戦争を止めた」
アドルフ・フォスター大佐「引き金を引いたのはゲイル・カーターだが」
アドルフ・フォスター大佐「きっかけを与えたのは──お前だよ、坊主」
キース・フォスター「俺の・・・せい?」
アドルフ・フォスター大佐「そうだよ」
アドルフ・フォスター大佐「お前は一万人の命の頂点に立っている」
アドルフ・フォスター大佐「その重みがわかるか?」
霧生華清(きりゅうかせい)「キ、キースさんのせいでは──!」
アドルフ・フォスター大佐「なら、爺さんに聞けばいい」
アドルフ・フォスター大佐「何故【オズワルド】を求めたか」
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さん、違いますよね?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「・・・彼の言うとおりだ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ゲイルはアイクのために遺物を探し始めた」
霧生華清(きりゅうかせい)「で、ですが!」
霧生華清(きりゅうかせい)「犠牲が出るなんて知らなかったんですよね?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ああ、知らなかった」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「だがな、華清」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「それは言い訳にならないのだよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「え・・・?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「私たちは戦争を止めるため遺物を求めた」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「そして【オズワルド】を使い犠牲者を出した」
霧生華清(きりゅうかせい)「ですが、それは皆のために──」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「その『皆』の中に犠牲者は入っていない」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「【オズワルド】が無ければ生きられた命もあったかもしれない」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「私たちはヒトの生き死にを決めてしまったのだよ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「愛する者のために──」
霧生華清(きりゅうかせい)「それなら自分も同罪です!」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん一人のせいじゃ──!」
アドルフ・フォスター大佐「そうだよ」
アドルフ・フォスター大佐「俺もお前もこの島の者全員、罪人だ」
アドルフ・フォスター大佐「だがね、俺が見つけた『標』は坊主だ」
キース・フォスター「俺が・・・『標』?」
アドルフ・フォスター大佐「ああ」
アドルフ・フォスター大佐「暗闇の中で見つけた一筋の光」
アドルフ・フォスター大佐「俺はワラにもすがる想いでそいつに 飛びつき──奪った」
アドルフ・フォスター大佐「親も、仇も、家も、遺志すらも」
アドルフ・フォスター大佐「残されたもの全部、な」
キース・フォスター「まさか、山賊を射殺したのは・・・?」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「口封じ、か」
キース・フォスター「農園は・・・?」
アドルフ・フォスター大佐「訓練場にするよう打診した」
キース・フォスター「そんな・・・!」
アドルフ・フォスター大佐「お前がいたから、俺は奪うことにした」
アドルフ・フォスター大佐「お前がいたから、島を沈める決心がついた」
アドルフ・フォスター大佐「全部お前のせいなんだよ、坊主」
キース・フォスター「俺が、いたから・・・?」
キース・フォスター「そんな、馬鹿なッ・・・!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「子に罪はない」
アドルフ・フォスター大佐「Mr.キース、お前も同罪だよ」
アドルフ・フォスター大佐「ヒトの命を天秤にかけた」
アドルフ・フォスター大佐「偽善者だ」
霧生華清(きりゅうかせい)「何故ですか、アドルフさん?」
霧生華清(きりゅうかせい)「何故そこまでできるんですか!?」
霧生華清(きりゅうかせい)「仮にもキースさんの家族なら──!」
アドルフ・フォスター大佐「家族だったから、だよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「え・・・?」
アドルフ・フォスター大佐「3年間、坊主と同じ屋根の下で過ごしたが」
アドルフ・フォスター大佐「愛しいと思ったことは──ない」
霧生華清(きりゅうかせい)「ですが、自分たちを国外へ逃がしてくれました!」
霧生華清(きりゅうかせい)「トゥゾーリで自分に『取引』を持ち掛けてきたのだって──」
霧生華清(きりゅうかせい)「この国を滅ぼすつもりだったからではないんですか!?」
アドルフ・フォスター大佐「逆だよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「逆・・・?」
アドルフ・フォスター大佐「愛しい子なら共に死ぬ」
アドルフ・フォスター大佐「ひとりぼっちは可哀想だろう?」
アドルフ・フォスター大佐「赤の他人と心中だなんて御免だよ」
〇暖炉のある小屋
アドルフ・フォスター少佐「おっ、こいつは美味い」
アドルフ・フォスター少佐「これなら安心して嫁に出せるねェ」
アドルフ・フォスター少佐「ま、誰にもやらねェがなァ!」
アドルフ・フォスター少佐「照れ隠しはよせよ〜!」
アドルフ・フォスター少佐「おいおい、鉄の味になっちまったよ」
ウソだ
〇草原の一軒家
アドルフ・フォスター少佐「坊主」
アドルフ・フォスター少佐「ここは──お前の帰る場所だよ」
アドルフ・フォスター少佐「絶対に、捨てるなよ?」
ウソだ
〇VR施設のロビー
キース・フォスター「ウソだウソだウソだウソだァァァ!!」
キース・フォスター「あんたは俺の!」
キース・フォスター「俺はあんたの──!」
アドルフ・フォスター大佐「そう──仇だよ」
アドルフ・フォスター大佐「お前のせいで島が沈む」
アドルフ・フォスター大佐「最高だねェ」
キース・フォスター「あ・・・あぁ・・・」
キース・フォスター「ああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアぁぁぁぁぁぁァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!」
アドルフ・フォスター大佐「俺はな、坊主」
アドルフ・フォスター大佐「その顔がずっと見たかったんだ」
【オズワルド】「実行マデ 残り三十分」
アドルフ・フォスター大佐「さァて、今度は何を奪ってやろうか」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「動くな、華清!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「【メイナード】は人命救助用に開発された」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「こちらから攻撃しなければ──」
アドルフ・フォスター大佐「【メイナード】、人に仇為すモノへと鉄槌を」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「華清!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ぐうっ!」
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さん!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「かすり傷だ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「アイクを頼む」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい!」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん! 立ってください!」
霧生華清(きりゅうかせい)「このままだと──!」
霧生華清(きりゅうかせい)「くっ!」
アドルフ・フォスター大佐「鬼ごっこは嫌いじゃないぜ?」
霧生華清(きりゅうかせい)「【メイナード】、どうして・・・!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「【ケイラ】を止めたな?」
霧生華清(きりゅうかせい)「【ケイラ】?」
〇近未来の開発室
「細胞再生装置【ケイラ】」
「如何なる傷も再生可能な医療装置」
「【メイナード】は【ケイラ】がもつ生体認識機能を用いて」
「人間を識別している」
〇VR施設のロビー
霧生華清(きりゅうかせい)「ですがナゥサでは【メイナード】に 人間と判断されました」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「お前は腕を切除するために【ケイラ】を 再起動したはずだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「ですが【ケイラ】は既に停止しています」
霧生華清(きりゅうかせい)「順番が・・・おかしい」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「時系列は不明」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「だが、遺物の機能は明白だ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「【ケイラ】が停止した今」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「我々を人間と判断する方法は──ない」
霧生華清(きりゅうかせい)「そんな・・・!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「遺物は互いに機能連動している」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「正規の順番で停止しなければ」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「異常動作を引き起こすおそれがある」
霧生華清(きりゅうかせい)「では、【ケイラ】を再起動すれば──」
アドルフ・フォスター大佐「【オズワルド】以外、遺物は全て止まっている」
アドルフ・フォスター大佐「【ルーカス】もなァ」
霧生華清(きりゅうかせい)「打つ手なし、ですか」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「いや、打つ手なら──」
アドルフ・フォスター大佐「遺言は済んだかな?」
アドルフ・フォスター大佐「Mr.キリュー」
アドルフ・フォスター大佐「君はよくやってくれた」
アドルフ・フォスター大佐「坊主に寄り添ってくれて、ありがとよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「え──?」
アドルフ・フォスター大佐「じゃあな」
霧生華清(きりゅうかせい)「しまっ──!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「華清!」
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さんッ!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「華清・・・!」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「アイクを・・・」
紀伊州接吉(きいすつぐよし)「ゲイルの、願いを・・・どうか・・・!」
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さん・・・?」
霧生華清(きりゅうかせい)「お祖父さんッ・・・!」
キース・フォスター「俺のせいで、みんな死ぬ」
キース・フォスター「俺が、いたから?」
キース・フォスター「俺が、生まれてきたから・・・?」
アドルフ・フォスター大佐「そうだよ」
アドルフ・フォスター大佐「お前がいたから悲劇が起きた」
アドルフ・フォスター大佐「お前の相棒も大事なものを失った」
キース・フォスター「先生・・・Mr.キース・・・」
アドルフ・フォスター大佐「俺が憎いか?」
アドルフ・フォスター大佐「己が憎いか?」
アドルフ・フォスター大佐「なら──」
アドルフ・フォスター大佐「自分でカタをつけるといい」
キース・フォスター「アドルフ・・・」
キース・フォスター「俺がいなくなれば、お前は満足するのか?」
キース・フォスター「ああ、わかったよ」
キース・フォスター「ひとりぼっちは、かわいそうだもんな」
〇黒
今行くよ、俺の帰る場所に──
〇VR施設のロビー
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん!」
キース・フォスター「な──!」
アドルフ・フォスター大佐「・・・そいつは、ズルいよ」
霧生華清(きりゅうかせい)「何を──」
霧生華清(きりゅうかせい)「何をやっているんですかッ!?」
アドルフ・フォスター大佐「いいぜ」
アドルフ・フォスター大佐「お望みどおり踊り狂おう」
アドルフ・フォスター大佐「【メイナード】」
霧生華清(きりゅうかせい)「隠れて!」
霧生華清(きりゅうかせい)「くっ・・・このままだと、もたない」
霧生華清(きりゅうかせい)「どうする・・・どうする・・・?」
キース・フォスター「先生・・・」
キース・フォスター「もういい」
キース・フォスター「もう、いいんだよ」
キース・フォスター「俺たちがいなくなれば島の平穏は保たれる」
霧生華清(きりゅうかせい)「アドルフさんの計画に裏がないと」
霧生華清(きりゅうかせい)「本気でそう思っているんですか?」
キース・フォスター「そいつは──」
霧生華清(きりゅうかせい)「アドルフさんはキースさんのことを よく見ています」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんは──諦めたがっている」
霧生華清(きりゅうかせい)「失うことを恐れているんです」
霧生華清(きりゅうかせい)「だから、自ら手放す」
アドルフ・フォスター大佐「隠れてないで、出ておいで」
アドルフ・フォスター大佐「時間いっぱい、遊ぼうぜェ?」
〇VR施設のロビー
霧生華清(きりゅうかせい)「心中するつもりですか!?」
アドルフ・フォスター大佐「ンなことしねェって」
アドルフ・フォスター大佐「こいつは祝砲だよ」
アドルフ・フォスター大佐「どうせなら、華々しく散ろうぜェ?」
キース・フォスター「先生」
キース・フォスター「この状況を打破したくても」
キース・フォスター「Mr.キースは・・・もう、いない」
キース・フォスター「俺たちに打つ手は・・・ない」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・諦めることは簡単だと思います」
霧生華清(きりゅうかせい)「でも──」
キース・フォスター「先生!」
キース・フォスター「もう、やめてくれ」
キース・フォスター「俺のせいで一万人もの命が失われた」
キース・フォスター「道連れなら俺だけで十分なんだ」
キース・フォスター「・・・お願いだ」
キース・フォスター「お願いだよ、先生」
キース・フォスター「いなくならないでくれ・・・!」
霧生華清(きりゅうかせい)「・・・自分は、決していなくなりません」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんを失うつもりもありません」
霧生華清(きりゅうかせい)「──貴方を守ると誓ったから」
キース・フォスター「守る・・・」
【オズワルド】「実行マデ 残リ二十分」
アドルフ・フォスター大佐「【メイナード】」
【メイナード】「インシデント ヲ 排除シマス」
【メイナード】「半径十メートル以内ニ 入ラナイデクダサイ」
霧生華清(きりゅうかせい)「足りないものは補い合えばいい」
霧生華清(きりゅうかせい)「過ぎたものは分け与えればいい」
霧生華清(きりゅうかせい)「楽しいことも、辛いことも」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分たちは一人じゃなくて──二人だから」
キース・フォスター「キリュー・・・」
【メイナード】「高エネルギー砲──発射」
〇VR施設のロビー
???「何だ? 諦めちまったのか?」
アドルフ・フォスター大佐「な・・・に・・・!?」
アドルフ・フォスター大佐「【メイナード】!」
【メイナード】「生体反応 発見」
【メイナード】「対象範囲ヲ 修正シマシタ」
アドルフ・フォスター大佐「生体反応だと!?」
アドルフ・フォスター大佐「だが、【ケイラ】は──!」
キース・フォスター「生体管理端末【ヒューゴ】」
キース・フォスター「人間が人間であるための証明」
キース・フォスター「そんなものを取り込んでいたら」
キース・フォスター「人間であることは自明、だろう?」
アドルフ・フォスター大佐「【メイナード】は手出しできない、か」
キース・フォスター「あんたは俺に引き金を引かせることで」
キース・フォスター「【メイナード】に防衛行動を取らせようとした」
キース・フォスター「俺を始末するために」
アドルフ・フォスター大佐「・・・あくまで抗うのか、坊主」
キース・フォスター「ありがとう、先生」
キース・フォスター「おかげで目が覚めた」
霧生華清(きりゅうかせい)「強く絞め過ぎましたか?」
キース・フォスター「いや、優しいくらいさ」
キース・フォスター「さぁアドルフ、断罪の時間だ」
キース・フォスター「ダリルたちを手にかけた罪」
キース・フォスター「無関係の人間を傷つけた罪」
キース・フォスター「そして、この島を沈めようとしている罪」
キース・フォスター「共に償おうぜ?」