ドゥエッロー【決闘】(脚本)
〇黒
ドゥエッロー【決闘】
酒は時間にあらがう、一つの術だ
酒を飲む時だけ、無情に進む人生が──
それは確かに、ゆっくりと進んでいく
〇黒
〇シックなバー
23時45分──
アイギナ「指定した時間だ」
アイギナ「アイツが逃げたか賭けないかい?」
アイアコス「賭けにならないだろ・・・」
アイアコス「アイツが遅れてくるのはいつものことだ」
アイギナ「自分の命が掛かってるのに 緊張感のない話だよ」
アイアコス「そういう奴さ──」
アイアコス「良い意味でも、悪い意味でもな」
アイギナ「次の注文はどうするんだい?」
アイアコス「少し待ってくれ」
アイアコス「アイツもそろそろ来る頃だ」
アイギナ「いらっしゃい、待ってたよ バックス──」
バックス「少し待たせたか?」
バックス「まぁ、どうでも良いか、時間なんてよ」
アイアコス「吸うか?」
バックス「禁煙してたんだが、断るのも悪いな」
アイアコス「何度も聞いたセリフだな 禁煙は何度目だ」
バックス「そんなもん、毎日してるから覚えてないぜ」
アイアコス「続けてこその禁煙だろ?」
バックス「心外だな。毎日、続けてるよ」
アイアコス「辞めて諦めてを繰り返してるのは禁煙とは言わん」
バックス「フゥッ──」
バックス「どうして人から貰ったタバコってのは旨いんだろうねぇ」
アイギナ「一息ついてる所悪いが、時間がない」
アイギナ「始めさせてもらうよ」
バックス「良いぜ──」
アイギナ「じゃあ、始めよう」
アイアコス「では、語ってくれ。 ファミリーを抜ける理由を」
アイアコス「俺が生きるべきか審判する」
バックス「落ち着いてタバコくらい吸わせろ。 せっかく楽しんでるんだ」
アイアコス「言っておくが、0時になれば撃ち殺す」
アイアコス「それがここでのルールだ」
バックス「だが、まだ10分以上も残ってるんだ」
バックス「のんびり行こうぜ」
バックス「アイギナ、ウィスキーのロックをダブルで」
アイギナ「銘柄は何を?」
バックス「アルバだ──」
アイギナ「趣味が良い」
バックス「──夜明けに乾杯」
アイアコス「お前が夜明けを迎えられるか決めるのは俺だ」
バックス「お前はただの審判者だよ、アイアコス」
バックス「それを委ねられているのは、俺の行動だ」
アイギナ「夜明けの名前を持つアルバを選んだのは、自信の表われかい?」
バックス「そういうことだ」
バックス「まぁ・・・あと飲まなきゃ、やってられん」
バックス「嫌だねぇ、アル中ってのは」
バックス「飲まないと手が震えて仕方ねぇ・・・」
アイアコス「行き過ぎた行動は良くないってだけの話しだな」
アイアコス「酒も人生も、節度を持って向き合うのが肝要(かんよう)だ」
バックス「それで人生を楽しめるなら、問題ないさ」
バックス「だけど、それじゃ物足りないんだよ」
バックス「時には大きく羽目を外したい時もあるのさ」
アイアコス「学校から解放されて自由になったガキじゃあるまいし」
アイアコス「慎みと節度を持って生きる歳じゃないのかね、俺達は」
バックス「そいつはファミリーの若い連中に聞かせてやってくれ」
バックス「語ってくれたら、ボスも喜ぶぜ」
アイアコス「興味はないぜ、いくらボスが喜ぼうとな」
バックス「アイギナ、お代わりをくれ。 同じ物で良い」
アイギナ「あいよ──」
アイギナ「手の震えを止める為に飲む──」
アイギナ「覚悟は決めてるみたいだね」
バックス「それが俺達の生き方だっただろ」
バックス「いつの間にか、こじんまりとしたバーのマスターなんかに収まりやがってよ」
バックス「なぁ、シルバー・ピジョン」
アイギナ「捨てた名前だよ」
アイギナ「今は、ただのバーのマスターさ」
アイギナ「銃を向ける相手が違うんじゃないかい?」
バックス「耄碌(もうろく)したのなら、もう少し人間らしく慌てて見せるぜ」
バックス「いくら取り繕(つくろ)っても、中身までは変えられないのさ」
バックス「俺も、アンタも、アイアコスも」
アイアコス「俺達は人間性を失った、人殺し──」
アイアコス「それは事実だ」
バックス「それで飯を食って来たんだ。 いつまで経っても変わりゃしないさ」
アイギナ「アイアコス、銃を抜くらいして欲しいね」
アイアコス「おもりは俺の仕事じゃない」
アイアコス「自分のケツは自分で拭くもんだ」
アイギナ「残り5分──」
アイギナ「どうするんだい?」
バックス「俺達に必要な時間は数秒だ」
バックス「まだ慌てることはないさ」
バックス「アイギナ、また同じのを──」
バックス「タバコも、もう一本もらえるかい?」
アイアコス「良いぜ。これから永い禁煙が待ってるんだ、吸ってけよ」
バックス「スゥッ──」
アイギナ「ほらよ──」
バックス「かー―っつ。 酒もタバコも旨いのが良くねぇんだよな」
バックス「体に悪いものは大体、旨いモンばかりだ」
バックス「スリルも同じだ。命を脅(おびや)かすくらい体に悪いのに、辞められやしない」
アイアコス「それには同感だ。 だからこそ、節度は大事にしないとな」
アイアコス「ソイツを長く楽しみたいなら、余計にだ」
バックス「だが、少しずつ満足できなくなっちまう」
バックス「同じ量、同じ質じゃ物足りなくなっていく」
アイギナ「それが原因で破滅していく人間は多い」
アイギナ「業が深いね、欲望も快楽も」
バックス「アンタ等が現状に満足できてることが不思議でたまらねぇな」
バックス「それでよく満足できるもんだ 秘訣でもあるのかい?」
アイアコス「節度を守ってるだけさ」
アイアコス「この先に待っているのは、墓の穴だ」
バックス「どうせ人間、いつかは終わりが来るんだ」
バックス「より強い刺激と快楽に浸った方が人生楽しめる。なら味わっていかないと損だろ?」
アイギナ「バックス、アンタの周りで変わったことは何一つ見つけられなかった」
アイギナ「ファミリーを抜ける理由は一つもない」
アイギナ「しかしアンタはファミリーを抜けると申し出た」
アイギナ「自分の命を天秤にかけてまで、ね」
アイギナ「ようやく納得がいったよ」
アイギナ「アンタがより強い刺激を求め続けていたのなら、合点がいく」
アイギナ「アイアコスとの決闘が望みだったんだね」
バックス「俺はそういう人間だ」
バックス「お前らも、同じだと思っていたんだがな・・・」
アイアコス「刺激が欲しくなるのも分かるさ。 手を伸ばすかどうかは別としてな」
アイアコス「だが、そいつが自分を破滅へと誘う(いざなう)のさ」
アイアコス「手を伸ばした時点で、お前に明日はない」
バックス「いつかは明日が来なくなる。 そいつが早いか遅いかだけの話しさ」
バックス「俺は少しのスリルを得る為に、死を前借りするだけだ」
バックス「飽き飽きした人生を過ごしていくよりは、人間らしい生き方ができると思ってね」
アイギナ「理想の生き方ってのは何だろうね」
アイギナ「難しい問いだ」
アイアコス「それぞれの生き方と死に方があるだけだ」
バックス「俺達は若さも、未来も無くなった」
バックス「残ったのは今まで歩いて来た足跡だけだ」
バックス「それを懐かしんで過ごしていくだけの人生に満足できるか?」
バックス「俺には無理なのさ」
アイギナ「人に誇れる、真っ当な生き方をしてこなかった罰だね」
アイアコス「そうやって生きるしか能がなかったんだ」
アイアコス「今さら悔やんだところどうしようもない」
アイアコス「生きることが全てだと思わんが、わざわざ生きる理由を手放す気にもなれない」
アイアコス「少なくても俺はな」
バックス「お前と違って、人生を諦めた人間にはなりたくないんだよ、俺は──」
バックス「後は骨しか残されてないが、骨の髄(ずい)までしゃぶりつくそうと思ってるわけだ」
アイギナ「味わい方としては、品がないね」
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オッサンたちの背景が気になりすぎる。
何の組織に所属して、どんな役職についてるのか…
色々想像を掻き立てますね。
タイトルが午後の死なので、誰かしら死んじゃうんでしょうか。ドキドキ。
声がキャラクターに合っていてすごくカッコいいです!
わー! 立ち絵を使ってもらいありがとうございます✨
セリフ回しが全部カッコよくて、もっと二人のやり取りを見たくなりました!ラストの哀愁漂う空気感もザ・ハードボイルドという感じで胸に染み入って大好きです😊
わー!このお話もかっこいいですね!✨☺️
緊張感がこのお話の極上のエッセンスになってます!!✨あと、やはり福村さんの立ち絵ががっちりバッチリハマってますね!!あとシュウさんの立ち絵もハマってますね✨😆スチルもバッチリ合っていて、ドキドキしながら読みました✨