譲れない戦い(脚本)
〇お台場
〇テレビスタジオ
(・∀・ )「ウェーイ! 6月の蒸し暑い中、今日もお昼のなんでも討論ショーの時間がやってきました」
(・∀・ )「最近、同期の結婚が続いて、ご祝儀貧乏まっしぐら。この番組の弁当だけが生命線になってる司会者です」
(・∀・ )「この番組は、分かり合えない二組の、ありとあらゆる議論を、司会の私が解決に導いてゆくバラエティです」
(・∀・ )「解決できたことないだろって? うるさいよ」
(・∀・ )「本日の議題はこちら」
(・∀・ )「『言う事を聞いて欲しい娘さんと、それを拒否し続けるお父さんの討論』です」
(・∀・ )「いつの時代も父と娘は分かり合えないね。いいよ、徹底討論していこう。では、北沢さん親子、どうぞ」
〇テレビスタジオ
( ・∀・)「今日は親子でご参加ということで。それで、どちらがお父さん?」
父「確認しなくても分かるだろ」
( ・∀・)「いやぁ、TVって多様性に敏感だから。見た目おっさんの娘だったらどうしようかと思って」
( ・∀・)「お父さんは、男やもめながらも、娘さんを立派に育てあげたそうで。見かけによらず凄いですね」
父「私がしてやれたことなど、大したことありませんよ」
( ・∀・)「やっぱり」
父「そこはお世辞でも『ご謙遜を』ぐらい言えよ」
( ・∀・)「娘さんは、幼い頃から家事と勉強を両立し、なんと難関大学の医学部に現役合格。わー、すごい」
娘「父の背中を見てきたから、ここまでこれたんだ」
( ・∀・)「またまた、ご謙遜を。本当は大した背中じゃないんでしょ?」
父「そこで謙遜を使うなよ」
( ・∀・)「さて、仲の良い親子に見えるお二方ですが、討論したいことがあるそうで」
( ・∀・)「娘さんの贈り物を、お父さんが受け取ろうとしないとありますが」
娘「そうなんだ。進学で上京するのを機に、今までの感謝を込めて贈り物をと思ったんだが・・・」
( ・∀・)「お父さんは受け取る気がない?」
父「えぇ。娘が立派に育ってくれた。それだけで、もう十分です」
( ・∀・)「謙遜ですね。まだまだ欲望に塗れてギラついているくせに」
父「もう、謙遜って使わないでくれる?」
( ・∀・)「じゃあ、贈り物が気に入らなかったの? スイーツ? エステ? プチ整形?」
父「そういうんじゃなくて、その・・・相手を」
( ・∀・)「え?」
娘「再婚相手を見つけてきたんだ」
( ・∀・)「お父さんの再婚相手、見つけてきちゃったの?」
娘「そうだ」
父「俺にその気はないと言っても、ぐいぐいと押してきて困ってるんだ」
( ・∀・)「それでこの番組で白黒つけようと?」
娘「ここで言い負かして、逃げ道なくそうと思って」
( ・∀・)「わお、パワフル!」
( ・∀・)「OK! それじゃあ、どっちの主張が通るのか! 論戦スタート・・・の前にCMです」
〇法廷
(・∀・ )「さあ、父と娘の譲れない戦いが今、開廷です!」
( ・∀・)「まず、娘さん。なんでお父さんの贈り物に再婚相手を選んだの?」
娘「人の欲望は、富や名誉、愛、快適さと言われている。それを時間やお金をかけず、努力もせずに達成するにはどうすればいいか?」
娘「あらゆる計算の末、たどり着いた答えは一つ、それが奥さんだ!」
( ・∀・)Σ「確かに!」
父「いや、他にもあると思うぞ」
娘「まず名誉」
娘「今までは、私が食事の買い出しをしていたが、これからは父がやらないとならない。そしたらどうなると思う?」
( ・∀・)「100%奥さんに逃げられたと思われる」
娘「その通り!」
父「なんでだよ」
父「そもそもご近所だから、事情を話せば──」
娘「そんなの誰も信じない。いや、面白ければ真実なんて必要ない。それが世間! それがおばちゃん達!」
父「おい、やめろ! お前がご近所さんをどう思ってるか、筒抜けだぞ!」
娘「次に愛! これは言うまでもないね」
父「話聞けよ」
娘「今までは私がいたから良かったが、これからはそうはいかない」
娘「父は、これからは毎晩、電気のついてない家に帰って、一人寂しく涙をこらえてビールをぐいっとやるんだ」
父「それは上京して一人暮らしを始めた若者のイメージだから。お前の未来だからな」
( ・∀・)「そうそう。むしろ中年のおっさんなんて、独りになったら家に熟女を連れ込み放題とか妄想してるから」
父「しねぇよ! 中年のおっさんに対する偏見をTVで垂れ流すなよ」
娘「気を取り直して、最後は快適さ。家事は私がしてたから、父一人じゃ何もできないだろう」
父「そこはまあ反論できないが」
( ・∀・)「男やもめに蛆がわくっていうもんね。末期になると自分の体で養殖まで始めるじゃん」
父「それ人生の末期だから」
父「お前ら、中年男性への偏見酷くない?」
娘「残念だが、これが世間一般の独り身へのイメージなんだ」
父「育て方間違えたかな?」
娘「私は、父にそんな辛い思いをして欲しくない一心で、マッチングアプリで父になりすまし、再婚相手を探したんだ」
父「娘が結婚詐欺師みたいなことやってたんだけど?!」
( ・∀・)「そうだよ。マッチングアプリなんてダメだよ」
( ・∀・)「あんなのサクラか非モテか、結婚詐欺師しかいない、魑魅魍魎の巣窟なんだよ?!」
父「お前ら、世の中への偏見酷すぎない?」
( ・∀・)「偏見じゃないよ、実体験だよ!」
父「・・・なんか、ごめん」
娘「父さんは、本当に一人でやってけると思ってるのか?」
父「あぁ。余計な心配するな」
( ・∀・)「蛆虫養殖したりしない?」
父「しねぇよ。親子の会話に入ってくるな」
( ・∀・)「ただいまー。娘のいない生活にも慣れたもんだな」
父「勝手にシミュレーション始めるなよ」
( ・∀・)「一人で寂しい時期もあったが、なんとかなるもんだな。それもこれも、蛆助、蛆美、蛆郎、蛆々、蛆以下略達のおかげだ」
父「人様の今後を、蛆虫で染めないでくれる?」
娘「まさか、奥さんより蛆虫がいいのか?」
父「人間の方が好きに決まってるわ!」
( ・∀・)「人間ね、分かった」
( ・∀・)「ただいまー。娘のいない生活にも略。さて、飯を炊いてと、おかずは何にするかな。よし、今日はお気に入りの熟女DVDにするか」
父「何のおかず用意してるの?」
( ・∀・)「ただ娘以下略。食事もとったし、風呂も入ったし、寝るか」
( ・∀・)「・・・変わり映えのない毎日。この人生、何の意味があるんだろう?」
父「平穏と虚無をごっちゃにするんじゃねぇ」
( ・∀・)「ねぇ、こんなので本当に一人でやってくつもり?」
父「全部、お前の想像だろが」
( ・∀・)「心配する娘さんの気持ちも考えてあげなよ。普通、再婚相手何て探してくれないよ?」
父「やらないのが普通なんだよ」
父「・・・だが、まあ、娘もいつのまにか、俺を心配するくらい、大きくなってたんだな」
父「小学校の頃、夏休みの自由研究に、6年連続で自作ポエム集を提出していた娘が・・・」
娘「あれは観察記録であって、ポエムじゃないんだが?!」
( ・∀・)「何の観察記録?」
娘「花、星、雲、空、虹、風だ」
( ・∀・)「ポエムじゃん! 題材のチョイスがポエムじゃん! 小学生女子が花とか星見て書くものなんてポエムだけだから」
父「中学生の頃、怪我もしてないのに眼帯付けたり、手に包帯巻いたりしていた娘が・・・」
娘「医療関係の練習をしてただけなんだが。自分で試してみただけなんだが?!」
( ・∀・)「当時、名乗っていた名前は?」
娘「開闢の深淵『午前零時のディープ・ワン』」
( ・∀・)「厨二病ですね。お大事に」
父「高校生の頃は──」
娘「ま、待った! つい最近の話はナシだ! これ以上、娘の黒歴史を晒すのはやめてくれ!」
( ・∀・)「いやいや、父親の再婚相手を見つけてくる時点で相当なものだと思うよ、ディープ・ワンさん」
娘「昔の名前はやめてくれ! お願いだから!」
娘「私の負けだー! もう再婚しろとか言わないから、やめてくれー!」
〇テレビスタジオ
( ・∀・)「いやー、娘さんの序盤の攻勢から一転、お父さんが鮮やかなカウンターを決めましたね」
父「私はただ娘の思い出を語っただけなんだが」
娘「親の思い出話ほど、子供にとって危険なものはないんだよ」
( ・∀・)「親戚の集まりがあると、暴露合戦やられるよね」
父「ともかく、これで再婚話はチャラでいいんだな?」
娘「仕方ない。でも、毎日、ちゃんと生存確認の電話をすること」
( ・∀・)「蛆虫育てないこと」
娘「偏った食事をしないこと」
( ・∀・)「出会い系に登録しないこと」
娘「それから・・・」
( ・∀・)「人生の意味を考えないこと」
父「だから、お前が親子の会話に割り込むな!」
( ・∀・)「おっと、そろそろお別れの時間のようだ」
( ・∀・)「お父さんとのお別れは寂しいけど仕方ない。一人になっても達者でくらせよ」
父「お前も独り身だろうが」
( ・∀・)「あー、そのことなんだけどさ」
( ・∀・)「お父さんの再婚相手だった人、紹介してもらえない?」
なんてアグレッシブなキャラクターたち…