いわく鑑定士

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〈正確に鳴り続ける〉メトロノーム(脚本)

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〇時計台の中
鑑定士「この世には〈いわく〉を抱えた呪いの品が存在します」
鑑定士「私は、そんな〈いわく〉付きの品専門の鑑定士」
鑑定士「さて、本日の〈いわく〉は、一体おいくらになるのでしょうか・・・」

〇時計台の中
京子「私はずっと、娘のために全てを捧げてきたんです!」
京子「それなのに、どうして・・・」
鑑定士「それではお聞かせください。 このメトロノームにまつわる〈いわく〉を」

〇豪華な客間
京子「またズレた!」
京子「何やってんのよ、このグズ!」
リカ「ご、ごめんなさい、ママ・・・」
京子「譜面に書かれたテンポで、譜面に書かれた通りに鍵盤を押す」
京子「そんな簡単なことがどうして出来ないの!」
リカ「頑張ります!」
京子「頑張るのなんて当たり前!」
京子「完璧に弾けなきゃ意味無いのよ、このバカ!」
  ピアニストの私は、夫とはリカが2歳の時に離婚しました。
  それ以来、ずっと己の腕一つでリカを育ててきました。
京子「ママはね、ピアノを弾いてリカをここまで育ててきたの。すごいでしょ?」
リカ「はい、すごいです」
京子「男になんて頼ってはダメよ。 あなたも自分一人の力で生きるの」
京子「そのためにピアノを弾く」
京子「それが使命なの、分かるわね?」
リカ「はい」
京子「このメトロノームをあなたにあげる」
京子「常に持ち歩いて、常に鳴らし続けなさい」
京子「リズムを体に染み込ませて、ピアノのために生きるの」
リカ「ありがとうございます、大切にします」
京子「いい子ね。あなたの将来は明るいわ」
京子「さあ、練習を再開しましょう」
  全てはリカのためでした。
  リカだって、きっと分かってくれていたはずです。

〇おしゃれなリビングダイニング
京子「どうしてメトロノームを鳴らしていないの?」
リカ「え」
リカ「痛っ!」
京子「常にメトロノームを鳴らすようにって言ったでしょ!」
京子「だったら食事の時も鳴らしなさいよ」
京子「メトロノームに合わせて食べなさいよ!」
リカ「でも、それは・・・」
リカ「うっ!」
京子「口応えをするな!」
京子「ねえ、あなたはこの前のコンクールで2位だったわよね」
京子「この意味が分かってる?」
京子「2番目に上手、じゃないの」
京子「負け、ってことなの」
京子「負けた人間が、のうのうと飯食ってる場合じゃないでしょ」
京子「全部ピアノに捧げなさいよ」
リカ「はい、ごめんなさい・・・」
  ピアノは勝つか負けるかの世界なんです。
  負けた人間には価値が無い。
  リカは勝つ側に行かなくちゃいけなかった。

〇シックな玄関
京子「リカ、どうしたの!」
京子「泥だらけで、服もボロボロで・・・」
リカ「ごめんなさい・・・」
京子「何があったの? 言いなさい!」
リカ「帰る途中、クラスの子に襲われました」
京子「!?」
リカ「私のこと、気持ち悪いって」
リカ「いっつもメトロノーム持ち歩いてて、頭おかしいって」
リカ「ランドセルとか、靴とか取られちゃって・・・」
京子「・・・え、メトロノームは?」
リカ「メトロノームも取られちゃっ──」
リカ「きゃあっ!」
京子「何やってんのよ、グズ! 間抜け!」
京子「メトロノームだけは何があっても死守しなさいよ!」
リカ「そんな・・・。 私、こんなひどい目に遭ったのに・・・」
リカ「ううっ・・・!」
京子「泣き言を言うな」
京子「ピアノへの想いが足りないから襲われたりすんのよ」
京子「今すぐ取り返してきなさい」
京子「メトロノームが止まる時、あんたも死ぬと思いなさい!」
リカ「・・・ああ、そうか」
リカ「死んだら、止めていいんだ」

〇女の子の部屋(グッズ無し)
京子の声「リカ? 部屋にいるの?」
京子の声「メトロノームの音が聞こえないけど、何して──」
京子「きゃああああっ!」
  リカは首を吊って死んでいました。
  足元には止まったメトロノームが置いてありました。

〇葬儀場
坊主「般若波羅蜜多心経観自~」

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