宮ノ前バス停(改稿版)(脚本)
〇黒
〇黒
我が名は宮ノ前バス停である
〇農村
昭和46年よりこの地に立って以来、
〇農村
一年365日、雨の日も風の日も
雪吹きすさぶ日も休むことなく村の営みを見守ってきたところである
〇農村
ものも言えぬ身なれど、村の安寧に寄与してきたとの自負は大いにあるのである
〇田舎のバス停
うむ、そんな事を語っているうちにバスが到着したようである
今日の乗客は山田のヨネさん一人だけであったか
息災そうで何よりである
・・・
今は風の音ばかりが響くこの村は、かつては村人の声で溢れていたのである
〇田舎のバス停
村の女性「今度、うちの娘が嫁に行くことになったのよう」
山田よね「あらぁ、それはよかったよなぁ」
うむ、祝着である
村の男子校生「あの・・・ユミちゃん」
村の女校生「なに?」
村の男子校生「今度、町まで映画見にいかねぇ?」
村の女校生「・・・」
村の女校生「うん・・・いいよ」
村の男子校生「ほ、ほんとうに!?」
村の女校生「うん!」
初いのである
喜ばしや健全なる若人の恋路
タケシ「ヨシオ、何して遊ぶー?」
ヨシオ「それじゃ、バス停登り競争!」
む?
ヨシオ「オレが先!」
止めよ
登るな!
タケシ「あー、ズルいぞおっ くらえ!」
蹴るでない!
まったく、このタケシという小童、手のつけようがない悪餓鬼だったのである
──とまぁ、かつてはこの村も活気にあふれていたのである
〇田舎のバス停
いつの頃からであろうか
村からは若者の姿が減り
年寄りばかりが目立つようになったのは
〇田舎のバス停
そして今では、その年寄りすらもあまり見かけなくなってしまったのである
時の移ろいには抗えぬ事は承知
されど、隔世の感ありなのである
〇黒
そしてその理は我が身にも例外ではないのであった
〇黒
バス会社の男性「いよいよこの日が来たな」
バス会社の男性「本路線は、事業整理のため、9月1日をもって廃止となります」
バス会社の男性「それにともない、宮ノ前バス停も撤去いたしますのでご了承ください・・・か」
日に2本ほどのバスですら乗客がまばらな現状では、いたしかたないところであろう
老兵は去るのみなのである
〇黒
そして今日、その日はやってきたのである
〇田舎のバス停
今出発したのが、最後のバスであった
これをもって、我が役目は終了となるのである
バス会社の男性「よし、それじゃトラックに乗せるか」
バス会社の男性「ずいぶん年季が入ってますね」
バス会社の男性「そりゃそうだ、君が生まれる前からここに立ってたんだからな」
バス会社の男性「それじゃ横にしますよ」
バス会社の男性「ゆっくり上げるぞ」
〇農村
どうやら、長年親しんだこの風景も見納めのようである
〇空
横になるのはいつ以来であろうか
まんざらでもない心地なのである
空というのは、随分と広いものだったのであるな
バス会社の男性「固定終わったな 出発しよう」
いよいよ、さらばである
〇黒
「すみません、ちょっと待ってください!」
〇田舎のバス停
バス会社の男性「なんでしょう?」
山村たけし「私は、山村たけしといいます」
山村たけし「今は東京に住んでますが、元々はこの村で育ったんです」
バス会社の男性「はあ、それでいったい・・・」
山村たけし「村のバスが廃止になって、宮ノ前バス停も撤去されると聞いて、なんか居ても立っても居られなくて」
山村たけし「あの、このバス停、引き取らせてくれませんか?」
山村たけし「費用がかかるなら私が負担しますから」
山村たけし「どうか担当の部署に取り次いでもらえないでしょうか!?」
〇黒
はて、山村たけし
たけし・・・
タケシ・・・
あの、悪餓鬼タケシであるか!?
なんという事であろうか
あのハナ垂らしの小童が、すっかり大きくなったものである
〇黒
〇大衆居酒屋
男性客「それじゃ」
女性客「かんぱーい!」
我が名は宮ノ前バス停である
タケシは東京で居酒屋の店主になっておったのである
何やら「昭和レトロ」などと称して、まずまず繁盛しているようである
我はこの店の玄関に据え置かれ、第二の役目に就く事となったのであった
存外、その処遇には満足しているのである
ここはかつての村のように賑やかであるし──
女性客「わー、シブーい」
女性客「映えるー」
我はなかなかの人気モノとなっているのであった
しからば、我は再びこの場所の安寧のために働くのみである
・・・
〇黒
まあ、バスが来ることがないのが、少し残念ではあるが・・・
〇黒
〇黒
〇黒
〇黒
主人公がバス停(!)もさることながら、めちゃくちゃピッタリな再就職先なのが素晴らしいなと😇
今のレトロブームという時勢とも合っているという……。
たけしぃ……!
自分専用でも認められなかったんですか😢キャラとして喋ってますけどね~💦顔のついた差分とかあれば良かったのかな。
「処分されると思ったらリメイクされて新天地」という展開を想像していましたが、よりハートフルで良かったです😊
感動です‼ちょっと訛りのある感じの声が、とても良かったです。胸に響きました‼
独自性が凄い。今まで見たことのないタイプの作品だと思うので、これが作れること自体がもう素晴らしい‼目の付け所が違うと思いました。しかも1年前から考えてたって、ホント凄いですね…f^^*)