〇散らかった職員室
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「──失礼します。太陽先生はいらっしゃいますか？」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「おう、九冬か。授業の質問か？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「はい。前の授業の──」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「あ、すみません。お昼の途中だったんですね」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「ああ・・・ちょっと食べるのが遅くなってな。別に気にしなくていいぞ？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「い、いえ、私の質問より、先生のお昼ご飯のほうが大事ですから！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「そんな大層なもんでもないが・・・」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「悪いな。手が空いてる時、俺から声をかけるから」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「先生から・・・は、はい！　いつまでも待ってますね！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「そ、そんなに待たせるつもりはないぞ・・・？」

〇学校の廊下
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）（ふふ、太陽先生から話しかけてもらえる・・・！）
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）（先生がお昼まだでよかった・・・なんて、ちょっと良くない考えね）
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）（──それに、先生のお弁当って市販のものだったわ）
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）（大丈夫かしら？　もっと栄養のあるものを食べてほしいな・・・）
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「私がお弁当を作ってこよう──とか考えてそうだね！」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「ま、真昼さん!?　 ・・・私、口に出してた？」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「いや、そんな顔してたから」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「どんな顔よ・・・」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「太陽ちゃんにお弁当あげるの？　 大胆だねー！」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「た、太陽先生には健康でいてほしいだけよ！」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「でもね、それを見逃すわけにはいかないんだよ・・・」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「は？　先生に不健康でいてほしいの？」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「おっと、思いもよらない怒りを買ってる」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「──そうじゃなくて、吹雪ちゃんがお弁当を作ったらどうなると思う？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「・・・結婚？」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「飛躍し過ぎ！　真冬の姫君のことだよ！」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「吹雪ちゃんが料理までできたら、また姫君度数が上がっちゃうじゃん」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「知らない数値が上下してる・・・」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「──というわけで、私もお弁当作るね！」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「ま、真昼さんも？　なんでそうなるの!?」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「吹雪ちゃんだけでなく、私の姫君度数も上がれば姫君ランキングに変動はないからね」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「変な概念を増やさないでくれる？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「だいたいお弁当が何個もあったら、太陽先生が食べきれないでしょ」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「──では、どれを食べるかは太陽さんに選んでもらおう」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「選ばれた者が真冬の姫君としてアピールできる・・・文句はないね？」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「よし、勝負だ。吹雪ちゃん、晴空ちゃん！」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「・・・まあ、いいわ。勝てばいいのよね」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「おお、九冬さんも乗り気とは意外だね！」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）（こういう形式なら、太陽先生に堂々と食べてもらえるし）
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「ちなみに、太陽ちゃんの好物はハンバーグとか揚げ物全般だよ」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）（子供っぽい好物で可愛い・・・お弁当に入れたら喜んでくれるかしら？）
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「──いやいや、お弁当だし栄養バランスや彩りも考えなきゃ」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「──栄養バランス？　彩り？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「な、なによ？　必要なことでしょ」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「くくく・・・いや、吹雪ちゃんは実に優秀な恋する乙女だと思ってね・・・」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「なにを含みのあることを・・・」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「いやぁ、明日のお昼が楽しみだね！」

〇大きな木のある校舎

〇大きな木のある校舎

〇散らかった職員室
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「話は聞いてたが・・・本当に作ってきたのか・・・」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「この一戦で真冬の姫君として差がつくんだから、ちゃんと審査してね！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「理屈はまったくわからんが、ようは食べたいものを選べばいいんだな？」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「・・・選ぶのはお弁当だからね？」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「分かってるわ！」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「──それでは、ボクの提案から聞いてもらおうか！」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「ボクの提案するランチ、それは──”かっこいい女、昼の流儀”だ！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「弁当の提案に、流儀・・・？」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「まず、おしゃれな見た目でがっつり食べられる、クラブハウスサンドをメインに添える」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「流行りのタピオカを入れた、ヘルシーなパッションピーチティーで喉を潤す」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「一緒に食べる友達のために、シェアできるお菓子も欠かさない」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「SNS用にみんなと一緒に写真を撮れば──」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「完成！　どうだい、素晴らしいランチだっただろう？」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「お前は女子か!?」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「かっこいい女だよ？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「男でしょ・・・」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「ともかく、かっこよかろうが俺に合ってない」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「ダメだったかな・・・”週刊かっこいい女を作る”の通りにしたんだけど・・・」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「そんなディアゴ〇ティーニを買うんじゃない・・・」

〇散らかった職員室
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「私は普通のお弁当ですから」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「まあ、九冬なら安心して聞いてられるな」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「お弁当の内容は、先生の好きなハンバーグをメインにしてます」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「あとは彩りを考えて、卵焼きにポテトサラダ、それから野菜炒めも入れてみました」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「栄養もあるし、きっと先生にも満足してもらえると思います！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「うんうん、弁当ってのはこういうもんだよなぁ・・・」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「──食べてる最中は、付きっ切りでお世話もします！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「ん？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「私が食べさせてあげますし、お口が汚れたら綺麗にもします！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「九冬？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「そしたら先生は「まるで恋人みたいだな」なんて・・・ふふ・・・」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「九冬？　おーい!?」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「──す、すみません。私、なにか変なこと言ってました？」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「なんか、ぶつぶつ言ってはいたが・・・？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「そ、そうですか・・・」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「えっと、最後は私と写真を撮っておしまいです！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「なんで!?　九冬とも撮るのか!?」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「え？　そ、その・・・”週刊かっこいい女を作る”に書いてあって・・・？」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「だから、なんだその雑誌？　 流行ってんのか・・・!?」

〇散らかった職員室
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「九冬の弁当だな」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「ちょっと!?　私の提案も聞いてよ！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「・・・じゃあ、真昼のは？」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「よくぞ聞いてくれました・・・これが、私のお弁当だー！」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「こ、このお弁当は──」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「唐揚げに焼きそばにハンバーグ・・・！」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「太陽先生の好物だらけ・・・でも、栄養も彩りもあったもんじゃないわ！」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「甘いよ・・・栄養や彩りなんて思いやりは、勝利に結びつかない・・・！」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「審査員が太陽ちゃんなら、ともかく食べたい弁当を作るのが最適解なんだよ！」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「た、確かに私のお弁当は先生というより、先生の健康を考えている・・・！」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「配慮をしないことでニーズに応える・・・」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「お弁当に思いやりを持ち込んだ時点で、私の勝ちは決まってたのさ！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「──まあ、食べるなら九冬の弁当かな」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「なんで!?」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「いや、晴空の弁当は軽過ぎるし、お前の弁当は重過ぎるだろ・・・」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「九冬の弁当はちょうどいいし、野菜もあって体に良さそうだからな」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「太陽先生・・・！」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「そんな・・・」
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「こんなに重い弁当、私も食べれないのにどうすれば!?」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「お前も食えないのかよ・・・」

〇学校の廊下
常夏 真昼（トコナツ マヒル）「──クラスのみんなに分けてこよーっと！」
秋野 晴空（アキノ ハレソラ）「真昼ちゃん、ボクも食べていいかな？」

〇散らかった職員室
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「──お、美味いな！」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「本当ですか!?」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「ああ、好きな味だよ。ありがとうな、九冬」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「いえいえ・・・ふふ・・・！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「そういえば、九冬の昼はどうした？ なにか食べないのか？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「あ、そうですね・・・忘れてました・・・」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「それなら、一応俺も作ってきたんだが・・・食べるか？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「先生の!?　て、手作りですか？」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「お、おう・・・お前らが作るっていうから、俺も触発されてな・・・」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「これは・・・」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）（美味しい・・・私が作ったのよりずっと美味しい気がする・・・！）
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「──太陽先生」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「お、おう。どうだ？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「お弁当返してください！」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「え？」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）（は、恥ずかしい！　私のお弁当なんて食べてもらうようなレベルじゃなかった！）
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「まさか、まずかったのか!?　まず過ぎて、こっちの弁当が食べたくなったのか!?」
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「え、いや、美味しいです。だからこそというか・・・」
常夏 太陽（トコナツ タイヨウ）「いや、美味いならいいだろ？　それとも、やっぱりまずいんじゃ・・・」

〇大きな木のある校舎
九冬 吹雪（キュウトウ フブキ）「いいから、返してくださいー！」