第5話 ナサニエル家にはもう戻れない(脚本)
〇城の客室
チュン、チュン──
エリカ「んん・・・」
エリカ(もう、朝なのね)
エリカ「ねぇ、バン・・・」
エリカ「・・・バン?」
昨夜、確かに感じた温もりはそこには無かった。
エリカ(あれは、夢・・・?)
コンコン──
──ガチャ
エリカ「ああ、良かった! 夢じゃなかったんだわ!」
エリカ「ねぇ、こっちに来てモーニングティーを・・・」
エリカ「・・・・・・」
エリカ「バン・・・・・・?」
バン「お嬢様、すぐにお召し換えを」
バン「国王様がエリカ様をお呼びなのです」
エリカ「・・・ロイド様ね」
〇洋館の階段
謁見の間に向かう足はとても重たい。
エリカ(ロイド様が国王様におっしゃったんだわ)
エリカ(バンはいつも止めてくれたのに──)
エリカ(なぜ好きだと言ってしまったの?)
エリカ(最初から分かってた・・・ なのに、自分の気持ちばかりを優先して──)
エリカ(ああ、本当にバカだ。 『好き』なんて、軽く口にしてはいけなかったのに)
ぐるぐると思考が同じところを巡る。
エリカ(私だけの問題じゃない)
エリカ(バンだって、 ナサニエル家のみんなだって、)
エリカ(没落貴族? 国外追放? それだけでは済まないかもしれないわ)
後悔で視界が滲む。
体がガタガタと震える。
いつもならさっと腰を支えてくれるバンも、
今ばかりは私に触れなかった。
〇謁見の間
謁見の間──
ジャック「国王様、二人がお見えです」
国王「なぜここに呼ばれたのか、分かるな?」
エリカ「ええ、それは私が・・・」
バン「全て私の責任です」
バン「ロイド様にはとんだ非礼をはたらいてしまいました」
バン「全て私の責任なのです。処分なら私が・・・」
エリカ「違います、国王様!」
エリカ「私がバンを好きだと言ったしまったから・・・」
エリカ「『今だけ恋人でいたい』だなんて言ったから・・・」
バン「全ては私の不徳の致すところです」
エリカ「バン、貴方は悪くないじゃない!」
バン「エリカ様も悪くはないではないですか!」
エリカ「違うわ! 悪いのは私! 隠さなきゃいけなかったのに──」
バン「何をおっしゃるんです!? 私はエリカ様の──」
???「・・・・・・プッ」
???「あははっ!」
ロイド「ジャック、うるさいぞ」
ジャック「ごめんごめん、つい」
ジャック「でも兄貴だって肩震わせてたじゃん?」
ロイド「・・・仕方ないじゃないか。 あんなもの見せられたら・・・」
エリカ「あ、あの・・・」
バン「これは一体・・・」
国王「二人がお互いを想い合っていることは、 よく分かった」
国王「よって、この国の王子は・・・・・・」
国王「バン、そなたに決定する」
エリカ「国王様、一体どういうことなのです・・・・・・?」
国王「エリカよ・・・」
国王「そなたは私の娘なのじゃ」
国王「王妃が亡くなって久しいことは知っているな」
エリカ「ええ・・・」
国王「18年前のあの日、アイツは命懸けでそなたをこの世に送り出してくれた──」
〇西洋の城
18年前──
〇貴族の部屋
エリカ「おぎゃあ、おぎゃあ」
国王「ああ、エリカ・・・そなたは宝物だ」
国王「エリーの遺してくれた、かけがえのない・・・」
ナサニエル伯爵「陛下・・・」
国王「なあ、親友よ・・・ひとつ頼みがある」
ナサニエル伯爵「私にできることなら」
国王「・・・エリカを預かってくれないか?」
ナサニエル伯爵「何を・・・」
国王「つらいんだ・・・ 苦しんでいるエリーを思い出す」
ナサニエル伯爵「だが、この子はプリンセス・・・」
国王「頼む。一生のお願いだ!」
ナサニエル伯爵「・・・」
国王「そうだ、お前の子ども・・・彼らのどちらかを将来王子にすると約束する!」
ナサニエル伯爵「いいのか? そんなこと・・・」
国王「今のままの私では、この宝物を壊してしまいそうなんだ・・・」
国王「双子は王宮で預かり、王子として育てよう」
国王「だから・・・・・・」
ナサニエル伯爵「・・・分かった。旧友の頼みだ」
国王「ありがとう・・・」
〇謁見の間
エリカ「そんな・・・」
国王「エリカ、とても美しい娘に成長したのだな」
国王「アイツにそっくりだ」
バン「畏れながら陛下、私は一介の使用人、さらには捨て子の身・・・」
バン「身分も血統も何もないのです」
国王「そんなものより、大切なものがある」
国王「お互いを思う心だ。 いかなるときも、愛し合い支えあうことができるなら──」
国王「信念を持って、お互いを愛し敬うことが出来るなら──」
国王「この国を愛し、守ることができる。 かつての私がそうだったようにな」
バン「しかし・・・」
国王「案ずるな。伯爵が私にエリカの様子を報告してから、ずっと考えていたことだ」
国王「それに、バンを養子に迎え育てたのはナサニエル伯爵。お前だって立派なナサニエル家の息子だろう?」
「国王様・・・・・・」
国王「わしはもう行くぞ。 仕事が山ほど溜まっていてな・・・」
国王「優秀な王子に手伝ってもらいたいくらいだ」
エリカ(私がプリンセスで、バンが私の王子様・・・)
国王様が部屋から出ていかれると、私
はへなへなと床に座り込んだのだった。
うわあああ! 2人ともよかったね!!! 予想外のハッピーエンドで嬉しいです! そして、最終話はバレンタインデーなのですね。楽しみにしています!