渋谷で茶会を~松永久秀と荒木村重~

おば3は見ていた

渋谷でお茶会を~松永久秀と荒木村重~(脚本)

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〇Bunkamura
  ここは、渋谷の東急本店前である。
  荒木村重は待ち合わせの10分前に着いていた。
久秀「よお!お待たせ!」
  松永久秀が、すっかり現代風の格好をして現れた。
村重「ご無沙汰をしております」
久秀「なんだよ!固い挨拶は抜きでいこうや!」
村重「はっ」
久秀「もうせん、持ってきてくれたか?」
村重「これに用意してござりまする」
久秀「よおし、じゃ、茶会始めっか」
村重「はっ」
  村重は、Bunkamuraの入口のスロープを降りた辺りにもうせんを広げた。
久秀「上出来、上出来」
  久秀は、手に提げていた、紙袋から菓子を取り出した。
久秀「さっき、そこのヨクモクとやら申す、バテレンの好みそうな菓子を求めてきた。茶菓子にしようぜ」
村重「恐れ入ります」
久秀「これを商っておる小娘が、薄いクッキーを巻いた、歯触りの良いものだと言ってたけど、村重殿はクッキーって知ってる?」
村重「いえ、おそらく、私達がおりました戦国時代には、まだなかったものではないかと思われまする」
久秀「おお、そうか。楽しみだなあ!」
  村重は持っていたカバンから、炭を出し、火を起こす用意を始めた。
  久秀は、風呂敷包みを広げ、茶釜を取り出す。
  と、村重の目が大きく見開かれた。
村重「こ・・・これは!」
久秀「おお・・・平蜘蛛じゃ」
村重「やはり、名品と天下に名高い平蜘蛛!」
久秀「そうよ、信長が欲しくて欲しくて仕方ない代物だぜ!」
  平蜘蛛で湯を沸かしていると、警備員が来た。
警備員「お客様、ここで火を焚かれるのは、ご遠慮ください」
  久秀は、無言で脇に置いてあった包みから太刀を取り出し、スラリと抜いた。
久秀「何か、御用かな?」
  警備員は、走って逃げていった。
  村重が久秀に聞いた。
村重「今の者は何と申したのですか?」
久秀「分からん。わしらの時代とは、言葉も違っておるのであろう」
村重「何か威圧的な雰囲気でございましたな」
久秀「この、久秀に無礼であろう!太刀を抜いたら、コソコソと逃げていったわ!」
村重「久秀殿、湯が沸きました」
久秀「おお、では」
  村重は、小さなふくさを開き、茶碗を取り出した。
久秀「村重殿、それは唐草文染付茶碗か?」
  村重は、ドヤ顔でうなづいた。
  村重が亭主で、茶をたて、久秀に振舞う。
  久秀は、茶をいただき、唐草文染付茶碗を四方八方から愛でる。
  Bunkamuraの入口に赤色灯がいくつも回り出した。パトカーの前に鋼鉄の盾を立てて、拡声器でがなり始めた。
警察官「そこの二人、そこは、火気厳禁です。刀の所持も禁止されています。今すぐおとなしく、投降しなさい」
  村重は、自分のお茶をゆっくりと飲みほした。
村重「赤いランプが、美しゅうございますな」
久秀「うむ。わしらの時代にあれがあれば、奇襲攻撃に使えたのになあ」
村重「久秀殿、今日は夢がかないましたな」
久秀「おお。わしらは、平和な世で茶会を開き、ゆっくりと時を過ごしたかったのだ」
村重「あの信長に逆らったとて、裏切り者の汚名を着せられるいわれはないわ!」
久秀「ふん!わしもだ!信長こそが、天下の大悪人!」
  二人は顔を見合わせて大笑いをすると、茶会の後片付けを始めた。
村重「バテレンというのは、美味い物を食うておるのでございますなあ」
久秀「美味かったなあ。意外と茶にも合ったし」
村重「誠に」
  二人が、赤色灯の海に向かって歩きながら、次はどこにするか相談をしている。
村重「やはり、桜の時期に、さくら坂でというのが夢でございます」
久秀「うむ。なかなか難しいな」
警察官「確保!」
  機動隊が二人に向かって駆け寄った。
  もみくちゃになる人の山が解かれた時、二人の姿はなかった。
  完

コメント

  • 高齢者ぶち上げ、社会に物申す話とも読めたりします。
    最後は権力への反抗かとも。勝手な深読みは置いといて、
    やっぱ、松永さんのキャラ立ってますねぇ。おもしろかった、感謝、

  • タイトルから「2人がお茶するのかな?」とは思ったのですが、まさかこんなアグレッシブだとは想像できませんでした😂笑
    最後確保されて終わるのがまた良いですね🙆‍♀️笑

  • 信長を裏切り、かつ数寄者と高く評価された松永久秀と荒木村重が現代の渋谷で茶会という、とんでもない発想力に脱帽です。テンポよく笑ってしまうストーリーに楽しませてもらいました。

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