Kennel ZERO

wakakasa

この街で...(脚本)

Kennel ZERO

wakakasa

今すぐ読む

Kennel  ZERO
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇空
  17時
  バイト先を早めに出て

〇繁華な通り
  三軒茶屋の駅に向かう

〇大きい交差点
  世田谷通りに出たところで

〇雷
  激しい衝突音と
  人々の悲鳴が聞こえた
  見ると人だかりができている

〇大きい交差点
A「車が歩道に突っ込んだ!」
C「誰か救急車呼んで!!️」
B「おい!しっかりしろ!」

〇黒背景
  いつもなら野次馬の列に顔を列べるのだが
  今日はそうはいかない

〇渋谷駅前
  渋谷で幼馴染と待ち合わせをしているからだ

〇白
  俺は白井拓人(しらいたくと)
  二十歳
  上京して二年になるが

〇東京全景
  未だにこの街には馴染めない

〇渋谷の雑踏
  人の多さ

〇渋滞した高速道路
  車の多さ

〇血しぶき
  毎日話題に上る事故や事件の多さ

〇ストレートグレー
  だが、いつも
  馴染んだ振りをしている俺がいる

〇ハチ公前
  今日の待ち合わせ場所はハチ公前

〇クリーム
白井拓人「一番わかりやすいから18時にハチ公前で─」
  他の場所も知ってはいるが・・・
  ・・・どう説明していいかわからない

〇歩道橋

〇駅の出入口

〇雲の上
  俺は翼を持っていた
  上京したのは
  その翼を広げて空高く羽ばたくためだ

〇学園内のベンチ
  高校1年の時、
  俺はファッション雑誌のオーディションを受けて
  グランプリを獲得した

〇地図
  その時、
  主催の芸能事務所のプロデューサーに言われた

〇オーディション会場
プロデューサー「君は翼を持っている」
プロデューサー「その翼で──」
プロデューサー「この世界を自由に羽ばたいてみないか」

〇おしゃれなリビングダイニング
父「どうするんだ拓人」
母「私たちは、あなたがやりたいことを応援したいのよ」
  両親は反対しなかった
  俺も芸能界に憧れていた
  しかし同時に俺は──

〇教室
  始まったばかりの高校生活も楽しみたかった

〇渡り廊下
  そして俺は

〇階段の踊り場
  グランプリ獲得という勲章を胸に

〇フェンスに囲われた屋上
  高校生活を謳歌した

〇散らかった職員室
  TVの取材はたくさん来たし

〇テレビスタジオ
  地元のTVにも何度も出演した

〇アート
  地元では俺は既にスターだった

〇改札口

〇地下鉄のホーム

〇駅のホーム
  急行をやり過ごし

〇電車の座席
  17時28分の各駅停車に乗り渋谷に向かう
  渋谷までは二駅だ
  待ち合わせには余裕で間に合う
  帰宅ラッシュが始まり、車内は結構混み合っている
  これだけ人がいるのに
  誰も俺のことを知らない

〇電車の中
  いったい俺は何をしてきたのだろう?

〇土手

〇桜の見える丘

〇桜並木
  高校卒業と同時に

〇東急百貨店
  俺は上京した

〇芸能事務所の受付
  オーディションの時の芸能事務所のプロデューサーは
  社長になっていた
  事務所には誰もが知っているタレントが
  数多く在籍していた
  俺はそこでデビューに向けて数か月
  レッスンを受けることになった

〇空
白井拓人(俺が空高く飛び立つ日は)
白井拓人「間もなく訪れる!」

〇空
  ・・・そう

〇空
  思っていた・・・
  しかし・・・
  ・・・俺は翼を広げることが出来なかった

〇稽古場
  同じレッスン生の中には
  俺よりも素晴らしい翼を持っている奴が
  たくさんいた
  また
  何もない背中から突然翼が生え
  そのまま飛び立っていく奴もいた

〇白
  ある日──
  俺は、社長とレッスン講師の話を耳にした

〇施設の男子トイレ
プロデューサー「白井拓人はどうだい?」
レッスン講師「普通ですね、社長」

〇不気味
白井拓人「普通ってどういうことなんだ?」

〇不気味
白井拓人「普通じゃいけないのか?」

〇不気味
白井拓人「俺は異常でなきゃいけないのか!」

〇黒
白井拓人「俺っていったい何なんだ!?」

〇黒
  それ以来俺は翼を畳んでしまった
  ・・・自分を守るために・・・

〇電車の中
  今俺は何をしている?
  生活のためにバイトに明け暮れ
  バイトで疲れ

〇オーディション会場
  ・・・たまに貰うオーディションでも
  ・・・翼を広げられず

〇焼肉屋
  今のバイト先に決めたのは
  先輩俳優たちがよく来る場所だと耳にしたからだ

〇黒
  ・・・姑息な・・・

〇土手
  ・・・地元に帰ろうという考えが頭を過ぎったこともあった・・・

〇見晴らしのいい公園

〇田舎の学校
  しかし幼馴染が俺の後を追って来る
  小さい時からいつも俺のあとを追っかけてきた

〇学園内のベンチ
  俺と同じ高校に入学し
  俺と同じく
  芸能界に憬れ、上京してくる

〇東京全景
  この街で彼女と一緒に暮らす約束をしている

〇時計

〇駅のホーム
  渋谷に着いた
  開いた扉から大勢の人たちと一緒に吐き出された

〇広い改札
  彼女はもう着いているだろうか?
  ハチ公前がちゃんとわかっただろうか?
  俺は両手で軽く自分の頬を叩いた

〇地下街
  これから一緒に暮らしてゆく彼女に
  情けない姿は見せられない
  これまでの俺と訣別するいい機会だ

〇黒
  どうなったっていい

〇雲の上
白井拓人「俺は俺の翼を広げ 大きく羽ばたこう!」

〇階段の踊り場
  俺は地上に向かう階段を駆け上がった!

〇渋谷ヒカリエ
  地上に出るとバサバサという音が聞こえ
  俺の体が宙に浮いた
白井拓人「え?」
  俺の背中で翼が大きく羽ばたいている

〇白
  目の端に真っ白な翼が映り込んだ

〇空
  俺の身体はみるみる高く舞い上がっていく

〇宇宙空間
  空は夜の帳が下り
  星々が瞬き始めている
白井拓人「何て清々しいんだ!」

〇渋谷の雑踏
  スクランブル交差点が見える
  ハチ公前は?
  彼女は?
  みどりは!?

〇ハチ公前
  いた!
  もう来ている!
  俺を待ってくれている!

〇東京全景
白井拓人「ごめんみどり! もう少しこのまま飛んでいたいんだ!」
  だから・・・・・・

〇宇宙空間
  ・・・ごめん・・・

〇カラフルな宇宙空間
  ・・・・・・・・・

〇渋谷の雑踏

〇渋谷のスクランブル交差点

〇ハチ公前

〇雑踏
  ・・・彼は来なかった・・・
  17時以降、何度も電話をしてみたが・・・
  ・・・つながらなかった
  いろんな人たちが
  私の前を通り過ぎて行った
  わたしをどこかに連れて行こうとする人もいた

〇ハチ公前
  私は頑なにこの場所を動かなかった

〇幻想
  明け方
  母から連絡があった
  たっくんが交通事故で亡くなったと・・・
  ・・・・・・・・・
  ・・・私の心は泣かなかった
  たっくんは亡くなってなんかいない

〇空
  今は大空を羽ばたいている
  いつかきっと私の前に舞い降りて
  わたしを同じ高みへと連れて行ってくれる

〇東京全景
みどり「たっくん 私それまでこの街で頑張る!」

〇ハチ公前
  ただ・・・
  なぜか涙だけがぼろぼろと零れ落ちた・・
  ふと振り返ると・・・
  ・・・ハチ公が優しく私を見つめていた
  私は涙を拭い
  ハチ公に微笑みを返した

〇空
  6時45分

〇風
  ──私は歩き始めた──

〇渋谷駅前

〇SHIBUYA SKY

〇東京全景
  (おわり)

コメント

  • ジーンときました🥲
    普通じゃダメなのかというセリフから「芸能界」という華やかな場所で戦う彼の葛藤のようなものが見えました😭

  • ひとりひとりが違う翼をもっているってことなのかなぁと考えながら読みました。最後に、主人公が翼を大きく羽ばたかせ願いを叶えることができたと思ったら意外な結末、、、だけど、彼は、大好きな彼女が大きな翼を羽ばたかせるために出逢った、運命のような存在だったことがわかり、感動しました。

  • 自分って一体何なのかな、とか、人の期待に応えようともがく自分、同感できるところが沢山ありました。どうしていいかわからずただ流されながらな主人公の気持ちがよく伝わってきました。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ