第八話「純愛。だよ」④ 〜半径500メートル〜【急】(脚本)
〇中規模マンション
〇団地のベランダ
〇高層マンションの一室
ガムテ「・・・」
はい
ガムテ「もしもし」
ガムテ「ごめん、外にいたから──」
ガムテ「電話に出れなくて」
〇洋館のバルコニー
ミオ「私の方こそ──」
ミオ「夜分にごめんなさい」
何かあったの?
ミオが電話をくれるなんて──
ミオ「・・・」
ミオ?
ミオ「誰か好きな人でも──」
ミオ「できたのかしら?」
えっ!?
な、なんでそんなこと・・・
ミオ「喜んでないから」
ミオ「私の電話・・・」
ミオ「ちょっと遅かったのかなって」
ミオ・・・
何を言ってるの?
ミオ「私ね」
ミオ「あなたとやり直そうかなって──」
〇高層マンションの一室
ガムテ「えっ」
ガムテ「私と──」
今週末にでも──
会って話せないかしら?
2人きりで
ガムテ「・・・」
ガムテ「いいよ。日曜日だね」
ガムテ「うん」
ガムテ「うん・・・」
ガムテ「わかった」
ガムテ「おやすみ」
ガムテ「・・・」
ずっと
願っていたこと──
そのはずなのに
ガムテ「どうして・・・」
ガムテ「あっ」
ガムテ「肉まん・・・」
〇コンビニ
「あ・・・」
「ぁぁ・・・ぁぅぅ・・・」
〇コンビニのレジ
ナオトラ「ぅ・・・あぅぅ・・・」
ナオトラ「こ・・・ここここ」
ガムテ「これ?」
肉まん
ガムテ「食べたいんですか?」
ナオトラ「うん・・・」
〇公園のベンチ
ナオトラ「はい」
ナオトラ「半分こ」
ガムテ「ありがとうございます」
ガムテ(半分・・・?)
ガムテ(4分の1・・・かな)
ナオトラ「ふふっ」
ナオトラ「肉まん」
ガムテ「こういうの──」
ガムテ「買うの初めてだったり?」
ナオトラ「ふふっ、そうじゃないの」
ナオトラ「わっちね──」
ナオトラ「こうやって、半分こするの」
ナオトラ「夢だったの」
ガムテ「変な夢〜」
〇高層マンションの一室
カッチカチに冷めた肉まん
ガムテ「・・・」
ガムテ「ナオトラ・・・さん」
本日のクローズダウン現代──
ガムテ「あっ」
ガムテ「テレビ・・・」
〇高層マンションの一室
ガムテ「テレビ出演?」
ナオトラ「一緒にリアタイ視聴しましょう!」
ナオトラ「予約完了っ」
ナオトラ「ガムテさんと違って──」
ナオトラ「わっちはテレビの中でも美人です」
ガムテ「へぇぇ〜」
ガムテ「うちのテレビは4Kですから」
ガムテ「毛穴までバッチリ映りますよ」
ナオトラ「まっ──!?」
〇高層マンションの一室
ガムテ「・・・」
3週にわたり特集を組みました──
女傑たちの素顔!
トリを飾るのは──
〇大企業のオフィスビル
女将軍こと
ナオトラ社長
〇高層マンションの一室
「まさに雲の上の人!」
「別世界の住人。その素顔に迫ります──」
〇団地のベランダ
〇団地のベランダ
そうだ
ナオトラさんは──
住む世界が違う人・・・
〇街の全景
翌日も
そのまた次の日も──
雨の日は続いた
〇開けた交差点
けれど
ナオトラさんは──
姿を見せなかった
〇スーパーマーケット
〇スーパーの店内
ガムテ「・・・」
おっちゃん「・・・」
おっちゃん「張り合いが・・・ねぇな」
でかおじ「背脂」
おっちゃん「そう言われると、そうだな」
おっちゃん「あの金髪の姉ちゃん」
おっちゃん「何日も姿を見ねえな」
でかおじ「ラード」
おっちゃん「マジかよ」
おっちゃん「失恋・・・ってコト?」
でかおじ「鶏油」
おっちゃん「・・・」
ガムテ「失恋・・・」
「ひゃっ──!?」
ガムテ「・・・」
おっちゃん「お、おう。姉ちゃん」
おっちゃん「これやるから」
おっちゃん「元気だせ!」
焼きそば(男の塩味)
ガムテ「あ・・・」
ガムテ「ありがとうございます・・・」
ガムテ「でも、食欲なくて・・・」
ガムテ「すみません・・・」
おっちゃん「んん・・・」
でかおじ「蝦油・・・」
〇開けた交差点
思えば
不思議な関係だったな
私はナオトラさんの
携帯の電話番号すら知らないのだから
〇街中の道路
ナオトラさんは
渡り鳥のように
雨宿りをしていただけ──
〇ゆるやかな坂道
雨が止んだら
ナオトラさんは飛び去っていく
私は──
「何の成果も──」
ナオトラ「得られなかった?」
ガムテ「ナオトラさん!?」
ナオトラ「こんばんは」
ガムテ「え・・・」
ナオトラ「なんだか久しぶりですね」
ナオトラ「さぁ、今日こそカレー粉禁止です!」
ガムテ「え?」
ナオトラ「ふふっ、行きましょう」
ナオトラ「雨が強くなってきたし」
ガムテ「・・・」
ガムテ「はい」
〇団地のベランダ
〇高層マンションの一室
ガムテ「ええ──!?」
ガムテ「これ・・・ナオトラさんが!?」
ナオトラ「ふふっ、いっちょあがり!」
ガムテ「あっ」
※ ナオトラの指
痛々しいほどに絆創膏だらけ
ガムテ「その手・・・」
ガムテ「傷・・・ですか?」
ナオトラ「あぁ──」
ナオトラ「ちょっと料理の修行をね」
ナオトラ「張り切り過ぎちゃいました」
ガムテ「・・・」
ナオトラ「ね、食べてみて?」
ガムテ「・・・いただきます」
ガムテ「・・・」
ナオトラ「・・・」
〇団地のベランダ
「美味しい・・・」
「ほんと・・・?」
「本当に美味しいです」
「あぁ〜〜〜〜ッ!!(声にならない声)」
「カレー粉かけたらもっと・・・!」
「絶対ダメッ──!」
〇高層マンションの一室
〇団地のベランダ
〇高層マンションの一室
ガムテの人生が凝縮されたような
陰惨な味のコーヒー
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「ん〜」
ガムテ(『美味しい』)
ガムテ(今日はそう言う気がするぅ〜)
ナオトラ「・・・」
ガムテ(言うぞ、言うぞ、ほら言うぞ〜)
ナオトラ「まずい」
ガムテ「そうかぁ〜」
ナオトラ「でも・・・」
ナオトラ「ほっとする」
ガムテ「マズイのに?」
ナオトラ「うん」
ナオトラ「不味くていいの」
ナオトラ「わっちは好き」
ガムテ「変なの」
ナオトラ「ここ何日も」
ナオトラ「ガムテさんのコーヒーが飲めなくて」
ナオトラ「すごく・・・」
ナオトラ「寂しかった」
ガムテ「ナオトラさん・・・」
ナオトラ「明日も、明後日も・・・」
ナオトラ「また、こうして一緒に──」
ガムテ「うん」
ガムテ「明日・・・」
ガムテ「ッ!」
〇洋館のバルコニー
ミオ「会って話しましょう」
ミオ「私たちの今後を」
〇高層マンションの一室
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「そ、そうだ!」
ナオトラ「わっちの修行の成果」
ナオトラ「まだまだ序の口です!」
ナオトラ「明日は何がいいかな──」
ガムテ「ナオトラさん・・・」
ナオトラ「パスタもいいですね」
ガムテ「ナオトラさん、聞いてください」
ナオトラ「中華もやれちゃいます」
ナオトラ「災害級の高火力で──」
ガムテ「ナオトラさん」
ナオトラ「わっちね」
ナオトラ「もっとガムテさんの喜ぶ顔が──」
ガムテ「────」
〇中規模マンション
「もう──」
「会えません」
「ナオトラさんとは」
〇高層マンションの一室
ガムテ「明日はもう・・・」
ガムテ「ありません」
ナオトラ「・・・!」
ガムテ「私、ヨリを戻すことになったんです」
ガムテ「恋人だった人──」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「私、ナオトラさんのこと」
ガムテ「大好きです」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「でも」
〇大企業のオフィスビル
私と
ナオトラさんとじゃ──
住む世界が違う・・・
違いすぎる
〇高層マンションの一室
ナオトラ「ッ!」
ガムテ「ナオトラさんだってそう思っ──」
ナオトラ「そればっかり!」
ナオトラ「何よ、いつもいつも」
ナオトラ「住む世界が違う・・・?」
ナオトラ「わっちとあなたと──」
ナオトラ「どう違うって言うんですか!」
ガムテ「そんなの」
ガムテ「全部ですよ・・・」
ナオトラ「全部・・・?」
ナオトラ「そうやって!」
ナオトラ「アナタが壁を作ってるくせに!」
ガムテ「ッ!」
ガムテ「・・・」
ガムテ「私のせいだって言うの!?」
ガムテ「あなただって!」
ガムテ「私をバカにしてるじゃないですか!」
ナオトラ「ッ!」
〇並木道
私の人生は──
薄暗くてしみったれてて
〇おしゃれなキッチン(物無し)
まるで──
苦くてまずいコーヒーみたい
〇高層マンションの一室
ガムテ「ナオトラさんもそう言ったでしょう!」
ガムテ「あなたはバカにされるようなことなんて」
ガムテ「何もない人生でしょうッ!?」
ガムテ「それでも、私とあなたが──」
ガムテ「同じだって言うんですかッ!?」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「ごめんなさい」
ガムテ「えっ」
ナオトラ「傷つけてしまって・・・」
ナオトラ「ごめんなさい・・・」
ガムテ「・・・」
ガムテ「なんですかそれ・・・」
ガムテ「やめてくださいよ」
お願いだから──
言い返してよ
ナオトラ「わっちは」
ナオトラ「大手総合商社・カマクラ商事社長」
ナオトラ「女将軍」
ナオトラ「成功者」
ナオトラ「・・・そうですよね?」
ガムテ「・・・」
ナオトラ「わっちはそう見えるのでしょう?」
〇ハイテクな学校
誰もが──
わっちにラベルを貼り付けるんです
〇大学
みんなが見てるのは──
わっちではない
わっちに貼られたラベル
〇大企業のオフィスビル
わっちはそれを知っているから
ずっと演じていたんです
大企業を継ぐ者・女将軍・憧れの人
〇並木道
そうじゃないと
わっちには何の価値もないから
ラベルの剥がれた──
本当のわっち。なんて・・・
〇高層マンションの一室
ガムテ「え・・・」
ナオトラ「ガムテさんを傷つけてしまったこと」
ナオトラ「本当にごめんなさい・・・」
ガムテ「・・・」
ナオトラ「でも」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「わっちのことも・・・」
ナオトラ「見て欲しかったの」
ナオトラ「バカにしたっていいから」
ナオトラ「ラベルなんて剥ぎ取って──」
ナオトラ「ありのままのわっちを」
ガムテ「そんな・・・そんなの・・・」
ガムテ「今さら──」
ガムテ「もう・・・」
ガムテ「遅いよ・・・」
〇団地のベランダ
〇中規模マンション
〇マンションの共用廊下
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「ぅぅ・・・」
〇高層マンションの一室
ガムテ「・・・」
ガムテ「バカ・・・」
ガムテ「私も・・・ナオトラさんも・・・」
〇部屋の扉
大声での号泣は近所迷惑なので
お風呂で泣くことにした
ガムテ「あっ」
〇玄関内
ガムテ「傘・・・忘れてる」
ガムテ「びしょ濡れ・・・」
〇玄関内
ナオトラ「ぺぷしっ!」
ナオトラ「さぶぅ〜」
ナオトラ「びしょ濡れ美人」
ガムテ「お風呂入れますから」
ガムテ「上がってください」
〇白いバスルーム
ガムテ「これ、使ってください」
ナオトラ「ありがとう」
ガムテ「あの、ナオトラさん」
ナオトラ「はい」
ガムテ「失礼ですけど」
ガムテ「お金持ちですよね?」
ガムテ「大企業の社長さんだし」
ナオトラ「えッ!?」
ナオトラ「なんですか!?」
ナオトラ「金銭とカラダを要求ってコト?」
ナオトラ「そのためにお風呂をッ!?」
ガムテ「水風呂にしますよッ!?」
ナオトラ「えっち」
ガムテ「疑問に思ったんです」
ガムテ「どうして」
ガムテ「半額戦線に従軍してたんですか?」
ナオトラ「わかりません」
ガムテ「え?」
ナオトラ「なんでかな」
ナオトラ「引き寄せられたような?」
ナオトラ「あなたとめぐり会うため。なんてね」
ガムテ「変な人・・・」
ナオトラ「ふふっ」
〇部屋の扉
「この髪ってどうやって洗うんですか?」
「ん?洗いませんよ?」
「・・・ほどきます」
「ッ──!?」
〇玄関内
ガムテ「変な人・・・」
ガムテ「あっ」
ガムテ「ミオ・・・」
ガムテ「・・・」
また笑ってる
〇公園のベンチ
ふふっ
夢だったんです
こういうの
〇おしゃれなキッチン(物無し)
なんでかな
とても楽しいです
〇白
ガムテさんと
一緒にいるだけで
ガムテ「・・・」
〇玄関内
〇ゆるやかな坂道
ガムテ「ナオトラさん・・・!」
〇街中の道路
〇黒
「ナオトラさん・・・!」
〇開けた交差点
ナオトラ「・・・」
「ナオトラさんッ──!!」
ナオトラ「ッ!」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「来ないで・・・!」
ガムテ「ナオトラさんッ!」
〇車内
「待ってくださいッ──!」
〇開けた交差点
ガムテ「ナオトラさっ──」
ガムテ「あっ!?」
〇黒
・・・
コケた
何やってんだろ、私・・・
・・・
笑っちゃうよ
〇並木道
ガムテ「バカみたい」
ガムテ「・・・」
ガムテ「あっ」
いま
私の立っている場所は──
〇白
”半径500メートル”
踏み出せなかったあの場所から
今は外に立っている
〇並木道
ガムテ「私・・・」
ガムテ「!」
〇並木道
ガムテ「あ・・・」
ガムテ「ナオトラさん」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「笑っちゃいますよね」
ガムテ「いい歳して」
ガムテ「こんな雨の中」
ガムテ「あなたを追いかけて──」
ガムテ「痛っ!」
ガムテ「・・・」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「えっ、このハンカチ・・・」
ナオトラ「あとで──」
ナオトラ「消毒しないとね」
ガムテ「・・・」
ガムテ「うん」
〇街の全景
〇街の全景
夏が終わり──
〇銀杏並木道
木々が色づく季節となり──
〇昔ながらの銭湯
私も新しく仕事をはじめた
〇浴場
ガムテ「ツルピカ」
おっちゃん「いい仕事してるぜ、姉ちゃん」
ガムテ「親方」
ガムテ「給料アップリーズ」
おっちゃん「・・・」
おっちゃん「HAHA」
ノーサンキュー
〇銭湯の脱衣所
ガムテ「看板娘の給料安すぎぃー」
ガムテ「ん?」
カマクラ商事の──
〇SHIBUYA SKY
ワークライフバランスを重視していると?
ナオトラ「はい」
ナオトラ「企業利益の追求は無論ですが」
ナオトラ「何より」
ナオトラ「大切な人との時間を──」
〇銭湯の脱衣所
ナオトラ社長
なんだか雰囲気変わりましたよね?
髪型変えました?
ガムテ「・・・」
〇銀杏並木道
紅葉の帳がおりる頃──
私の心もまた
錦に染まったように、感じる
ガムテ「給料代わり・・・ってコト?」
焼き芋(ネットリしたやつ)
ガムテ「・・・」
「ガムテさん」
ガムテ「あっ」
ナオトラ「おまたせ」
ガムテ「ナオトラさん」
ナオトラ「えっ、焼き芋?」
ガムテ「うん」
ガムテ「これが私の給料なんです」
ナオトラ「じゃあ半分こ。ね!」
ガムテ「あげませんよ?」
ナオトラ「ッ──!?」
それはきっと
彼女のおかげ──
〇公園のベンチ
ナオトラ「ふふっ」
ガムテ「帰りましょうか」
ガムテ「ナオトラさん」
ナオトラ「うん」
ナオトラ「一緒に」
ガムテ「はい」
いまは、ふたり
〇街の全景
そんなふうに
思っている
〇黒