11話(脚本)
〇見晴らしのいい公園
鈴木「ここは・・・・・・」
鈴木がたどり着いたのは街全体が見下ろせる小山の上の公園
香織は後ろを向いたまま公園の中に立っていた
鈴木「・・・・・・ふー」
鈴木が息を整えて香織に近づこうとした。その時だった
一輝「鈴木君!」
鈴木「一輝・・・・・・さん、一輝さん!」
一輝が鈴木の後ろから追いかけて来ていた
一輝「なんとか追いついたよ。良かった」
鈴木「一輝さん。大丈夫だったんですか?」
一輝「パンドラちゃんのおかげで、なんとかね」
一輝「あの薬がなかったら、今頃やられてたよ」
鈴木「それで、その・・・・・・パンドラさんはどうしたんですか?」
一輝「彼女、僕を助ける時に怪我したみたいで」
一輝「介抱しようと思ったんだけど、先に鈴木君と大吾さんの元へ向かえって」
一輝「そしたら道中で鈴木君を見かけて、慌てて追いかけてきたんだ」
鈴木「なるほど・・・・・・そうだったんですね」
一輝「鈴木君、大吾さんは?」
鈴木「大吾さんは怪我をしちゃって、手当てはしたんですが、まだここには・・・」
一輝「怪我!? 大丈夫なのそれ?」
鈴木「はい。ただすぐには動けないようだったので僕が先に出てきたんです」
鈴木「香織ちゃんを見つけたので」
鈴木がそう言って香織の方を指さす
一輝「香織ちゃん!」
一輝「よかった。無事だったんだね」
一輝は安心しきった様子で、香織の元へ駆けていく
鈴木「ちょっと、一輝さん待って」
鈴木が間を抜けていく一輝を制止しようするが、それは聞こえてないようで
一輝が後ろから香織の手を掴む
一輝「さぁ、ここは危険だ。お父さんの所へ帰ろう」
香織「・・・・・・・・・・・・」
香織がポケットから何かを取り出す
それはアイスピックのように見えた
鈴木「一輝さん。香織ちゃんから一旦離れて下さい!」
鈴木が大声で一輝を制止しようとする
しかし
一輝「どう・・・・・・して」
鈴木「一輝さん!」
一輝は刺され、その場に倒れた
〇見晴らしのいい公園
鈴木「くっ・・・・・・」
鈴木(なんで・・・・・・どうしてこんな事が)
鈴木「君は本当に香織ちゃんなの?」
香織「・・・・・・・・・・・・」
香織が無言で持っている凶器を構え直す
鈴木「ねぇ、やめようよ香織ちゃん」
鈴木「もうこんな事はやめてよ・・・・・・」
鈴木「お願いだから」
鈴木はそう訴えたまま、その場から動かない
香織はゆらりと動いたかと思うと、その速度を上げ鈴木に向かっていく
凶器の先端が鈴木の目の前まで迫る
その時だった
凶器が鈴木の腹部ギリギリの所で勢いを失ったように止まっている
いや、止まったというよりその場の時間が制止したように、香織は瞬き一つしていなかった
パンドラ「なにやってる鈴木! 死にたいのか!!」
鈴木「パンドラ・・・・・・さん」
パンドラは空になった薬瓶をもっていた
パンドラ「やはり、一輝を一人で行かせるべきではなかった」
パンドラ「ワシがもう少し早く到着していれば」
パンドラが倒れている一輝を見てつぶやく
鈴木「すみません・・・・・・僕は」
パンドラ「反省は後じゃ、一旦体制を立て直すぞ」
ヴァイト「体制を立て直すだって。僕が・・・・・・そんな機会を与えるとでも?」
パンドラ「お前は!?」
ヴァイト「錬金術師というのは薬がなければ何も出来ない。魔術師としての格は最低辺じゃないか」
ヴァイト「なのにどうして僕がこんなことまでしないといけない」
ヴァイト「くだらな過ぎてコイツら皆殺しにしたくなるよ」
パンドラ「お前は誰じゃと聞いている!」
ヴァイト「名前? 名前なんて価値の無い物さ」
ヴァイト「君も僕も変わらない、どうせ死に向かう者なんだからね」
ヴァイト「でも、死に直面する最後の一時」
ヴァイト「その相手が僕であるというは美しいね」
ヴァイト「君たちは僕の名前を聞いて命を落とすわけだ」
パンドラ「お前が・・・・・・この惨事を生み出した元凶じゃな」
ヴァイト「『ヴァイト・トラヴィス』・・・これは君たちにとって始まりの名前であり、終わりの名前でもある」
ヴァイト「じゃあ、終わりを始めようか」
ヴァイト「この世界の終わりを」
〇見晴らしのいい公園
鈴木「駄目ですパンドラさん。囲まれてます!」
パンドラ「ちっ・・・・・・まだこんなにいたとは」
ヴァイトが出てきて数分も経たない内に
二人は数十人の人間に囲まれていた
ヴァイト「ここは言ってみれば、僕の手のひらの中」
ヴァイト「君たちはもう捕らえられた」
ヴァイト「もう終わりだ」
ヴァイト「僕は、余計な事は嫌いだからね」
ヴァイト「さっさと終わらせようか」
パンドラ「お前、ただの魔術師ではないな」
パンドラ「周りの人間に何をしたんじゃ」
ヴァイト「・・・・・・・・・・・・」
ヴァイト「君たちは・・・人格についてどう思う?」
鈴木「人格・・・・・・?」
ヴァイト「僕はね。何よりも無駄なものだと思ってるんだ」
ヴァイト「人格を持つ人間は無駄な行為、無駄な考えで無駄な時間を消費し死ぬ」
ヴァイト「それになんの意味がある?」
パンドラ「お前、何が言いたい?」
ヴァイト「いいかい、何度も言わせないでくれよ」
ヴァイト「今質問してるのは、僕だ」
パンドラ「・・・・・・・・・・・・」
パンドラ「人格は人の人生が反映された集大成と言ってもいい」
パンドラ「それがどんな姿でも、すべてに価値がある」
パンドラ「無駄なものではない」
パンドラ「お前ら・・・・・・呪術師にとってはそうでないかもしれんがな」
鈴木「呪術師? それって」
ヴァイト「錬金術師程度でも流石に気づいたかい?」
ヴァイト「今更気付いた所でどうしようもないけどね」
鈴木「パンドラさん・・・・・・呪術師ってどういう事ですか」
パンドラ「もしやとは思っておったんじゃ」
パンドラ「魔物に加え人を操る術・・・・・・それは通常の魔術では不可能じゃ」
パンドラ「何か特別な能力でなければ、成立させる事は出来ん」
パンドラ「ワシも聞いた事がある程度で、直接会うのは初めてだったが・・・・・・」
パンドラ「呪術師が、ワシと同じようにこの世界に現れていたとはな」
鈴木「そんなどうして!? パンドラさん以外になんて・・・・・・」
ヴァイト「どうして? それは愚問だね」
ヴァイト「全てはパンドラさん。君を捕まえるためさ」
パンドラ「なにっ?」
〇見晴らしのいい公園
ヴァイト「君が居なくなったおかげで、こっちはちょっと困った事になってるんだ」
パンドラ「そんなもの、ワシの知った事ではない」
ヴァイト「知った事ではない?」
ヴァイト「まさか君・・・・・・忘れちゃったの?」
パンドラ「何の事じゃ」
ヴァイト「ふふふ・・・・・・はははははは!」
ヴァイト「なるほどなるほど。そういう事ね」
ヴァイト「ホントに余計な事をしてくれたよ。アイツは」
ヴァイト「じゃあ何で君はこの世界にいるのか分かってないんだね」
鈴木「パンドラさんを呼んだのは僕です」
鈴木「パンドラさんは自分の意思でこの世界に来たわけじゃありません」
鈴木「だから、少しだけ記憶に曖昧な部分があって」
ヴァイト「君は・・・・・・・・・ああ」
ヴァイト「君が余計な事をしてくれたのか、なるほど」
ヴァイト「じゃあ、さようなら」
ヴァイトが合図を送ると、取り巻きの一人が飛び出し鈴木へ向かう
パンドラ「鈴木!」
パンドラが鈴木を両手で押し、飛びかかってきた男の腕を払う
パンドラ「くっ」
しかし体格差があるせいか、男は倒れず間髪入れずにパンドラへ拳を繰り出す
それをパンドラは身を翻してかわす
ヴァイト「へぇ、最低辺の錬金術師のくせに意外とやるじゃないか」
パンドラ「何が最低辺じゃ、黙って聞いておれば馬鹿にしおって」
鈴木「すいませんパンドラさん。僕・・・・・・」
パンドラ「油断するな鈴木。奴の狙いにお前は入っとらん」
パンドラ「アイツは容赦なくお前を消すぞ」
鈴木「でもパンドラさん。この人数相手じゃ逃げられませんよ」
パンドラ「分かっておる。分かっておるが・・・・・・」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「パンドラさん。僕に考えがあります」
パンドラ「鈴木?」
鈴木「この状況、なんとかなるかもしれません」
〇見晴らしのいい公園
パンドラ「鈴木、お前・・・・・・」
鈴木「大丈夫です。僕はまだまだですけど錬金術自体は使えるんですから」
パンドラ「わかった」
パンドラ「どちらにしろ、迷っている余裕はないからの」
パンドラ「お前に任せる」
鈴木「はい!」
ヴァイト「はぁ」
ヴァイト「これ以上時間をかけるのも面倒くさいんだよね」
ヴァイト「もういいや、パンドラが生きてれば何とでもなるでしょ」
ヴァイト「みんな全員でかかっていいよ」
ヴァイト「あぁ男は殺していいけど、女は殺さないようにね」
二人の周りを取り囲んでいた人間が一斉に動き出す
理性を失った彼らは全速力で二人に走っていく
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木(今だ!)
鈴木「止まれ!!」
鈴木の音声が空間を伝わり周囲一帯に広がっていく
それはこの場にいる人間には十分聞こえる声量だった
そして
二人に襲い掛かろうしていた者たちは声の命令の通りに全員『止まっていた』
鈴木「パンドラさん今です!」
パンドラ「任せろ」
鈴木がパンドラに薬瓶を放り投げる
それを受け取ったパンドラは周りを取り囲んでいた人達に素早くその薬を浴びせていく
薬を浴びせられた人たちはその場で完全に静止していた
鈴木「よかった・・・・・・・・・ごほぉ!!」
鈴木はそれを見て安心したのも束の間、よろけ片膝を着き大きく咳き込む
口からは血が流れだしていた
パンドラ「鈴木!」
薬をかけ終えたパンドラが慌てて鈴木の元へ戻る
パンドラ「お前・・・・・・ワシに嘘をついていたな」
鈴木「はは・・・・・・」
鈴木「ごほっ、ごほっ」
鈴木はパンドラへ作り笑いを見せた
鈴木「姉さんへ渡した薬を改良して『名前を言わずに命令を行使できる』ようにはなったんですけど・・・・・・」
鈴木「以前試しに使ってみたら僕、倒れちゃって」
鈴木「それからは使ってなかったんです」
パンドラ「対象を指定せず声の届く範囲であれば命令を強制させる」
パンドラ「強力な薬だ。じゃがな」
パンドラ「強い薬というものは・・・・・・飲み過ぎればその身を滅ぼすんじゃ」
パンドラ「鈴木・・・・・・すまない」
鈴木「はは・・・・・・やめてください」
鈴木「そんなのパンドラさん・・・らしくない」
鈴木「鈴木はそのまま項垂れたように首を下ろし目をつぶった」
〇見晴らしのいい公園
ヴァイト「・・・・・・っはぁ! はぁ、はぁ」
鈴木の声から数秒後、離れた所で様子を見ていたヴァイトも身動きが取れるようになる
ヴァイト「なるほど・・・・・・錬金術というのは面白いね」
ヴァイト「男の声で周りの動きを止め、パンドラが薬をかけて銅像を作り上げる」
ヴァイト「見事な連携じゃないか」
パンドラ「・・・・・・お前の手の者の動きは止めた」
パンドラ「もう終わりじゃ」
パンドラ「覚悟、してもらうぞ」
ヴァイト「覚悟だって?」
ヴァイト「君はもしかして、呪術師は対象を呪い操るだけの力しかないと思ってるのかな」
ヴァイト「言ったじゃないか。僕は君たちのような最底辺の錬金術師とは違うんだ」
ヴァイト「呪術の力は呪いの力。呪いの力で対象を支配するのはむしろ応用」
パンドラ「応用じゃと?」
ヴァイト「ああ、そうさ。僕が呪術師として力を見出したのは自分自身を呪った時だ」
ヴァイト「自分がどうなってもいいと、なさなけない自分を滅ぼす覚悟で呪うんだ」
ヴァイト「それは覚悟の無いものが受ける呪いとは違う」
ヴァイト「本来の呪いは全てを捧げる覚悟があってこそ成立する」
ヴァイトがナイフを取り出す
ヴァイト「うぅ・・・・・・」
ヴァイト「痛い・・・・・・痛い!」
ヴァイト「痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたい」
言葉は呪文のように繰り返され、ヴァイトは痛みで激しく動き回る
肩から流れる血があたりに飛び散り、ヴァイトの周りに広がっていく
しかし段々と、その傷がふさがっていく
パンドラ(魔力が集まっている、じゃと?)
ヴァイトの周りには、パンドラの目に見える形で魔力が集まっていた
パンドラ(自分を呪い死すら厭わない覚悟。それがこやつの力を底上げした?)
パンドラ(まだ、こんな力を隠し持っていたとは)
ヴァイト「はは、ははははは」
ヴァイト「さて、逆に聞こうか」
ヴァイト「もう終わり・・・・・・なのは果たしてどちらかな?」
パンドラ「くっ・・・・・・」
ヴァイトが跳躍しパンドラに襲い掛かる
大吾「まったくここは本当に現代の日本かよ」
大吾が間に入り両手を前にして攻撃を受け止める
しかし受け止めきれずにそのまま後ろに倒れた
パンドラ「大吾!」
大吾「お前らみたいな超人は、俺らの手には負えないな」
大吾「だけど、俺はこの街の人間を守るために生きてるんだ」
大吾「部外者にはもう手出しさせねぇよ」
ヴァイト「雑魚が、邪魔をするな」
ヴァイト「力を持たない人間の意思など、所詮はまやかし。時間の無駄だ」
大吾「あんたは人間を操ってさぞ満足かもしれないけどな」
大吾「そんな力がなくたって、俺は逃げも隠れもしない」
ヴァイト「なるほど・・・・・・それは大層な言葉だ」
ヴァイト「だが、これでもそんな事が言えるかい」
一輝「大吾・・・・・・さん」
一輝の周りを魔力が漂い包みこむ
大吾「一輝!」
一輝「・・・・・・・・・・・・殺す」
一輝を包みこんだ物は呪いの力だった
精神も肉体も支配され大吾に遅いかかる
絶体絶命な状況の中、試練はまだ終わる気配を見せなかった