鈴木は人気配信者を目指し最強の錬金術師と契約する

司(つかさ)

最終話(脚本)

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〇見晴らしのいい公園
鈴木「はぁ、はぁ・・・・・・っはぁ」
鈴木(意識が朦朧とする)
鈴木(このままじゃ、いけないって分かってるのに)
鈴木(今が大事な時だってわかってるのに)
鈴木(どうして身体が動かないんだ)
パンドラ「くっ・・・・・・くそっ」
  鈴木の目の前をボロボロの状態になったパンドラが転がっていく
鈴木(パンドラさん・・・・・・無茶だ)
  パンドラは立ち上がり、ヴァイトに向かっていくが
  その攻撃は届かず吹き飛ばされる
パンドラ「・・・・・・・・・・・・」
鈴木(ダメだ・・・このままじゃパンドラさんが)
ヴァイト「もう、お終いかなパンドラ」
ヴァイト「やはり錬金術師はその程度」
ヴァイト「君の魔力自体は強力だ。しかし錬金術は薬が使えなければ意味がない」
ヴァイト「もっとも、そんな時間は与えないけどね」
ヴァイト「最後はせめて苦しまずに・・・・・・呪ってあげるよ」
パンドラ「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「呪った方が・・・・・・安全だからでしょ」
鈴木「錬金術を使われると面倒だから、あなたは・・・・・・本当はパンドラさんを恐れてる」
ヴァイト「ほぅ・・・・・・君は、まだ立ち上がれるとはね」
鈴木「僕は、立ち上がらないといけないんですよ」
ヴァイト「は? 君が立ち上がってどうなる?」
鈴木「パンドラさんは僕と契約したんです。血の契約を」
鈴木「だからその力も、その命も僕は背負ってる」
ヴァイト「血の契約・・・・・・か。なるほど、通りでパンドラの割に弱いと思ったわけだ」
ヴァイト「魔王様からは警戒するように言われてたが、残念だね」
鈴木「・・・あなたは何を言ってるんですか?」
ヴァイト「ん?」
鈴木「知っているはずなんだ」
鈴木「錬金術師の力は未知数だって、だからパンドラさんを呪わなきゃって」
鈴木「そうなんでしょ」
ヴァイト「・・・・・・ふ」
ヴァイト「時間稼ぎがバレバレだよ」
ヴァイト「言ったでしょ? 僕はパンドラさんに用があるんだ君じゃない」
鈴木「魔王様にパンドラさんを連れてくるように頼まれた」
ヴァイト「な、なぜそれを・・・・・・」
鈴木「あなたは思ってるんだ」
鈴木「『こんな小娘にどうして魔王様が執着するんだって。僕も見てくれって』」
ヴァイト「お前っ・・・・・・!」
  ヴァイトが鈴木に近づきその首を締め上げる
ヴァイト「また薬の力か! 余計な事をペラペラと」
鈴木「うっ・・・・・・あ」
鈴木「かかったね」
ヴァイト「なにっ!?」
  鈴木は口に含んでいた薬を飲み干す
鈴木「焼き尽くせ! ドラゴンブレス!!」
  鈴木の声とほぼ同時に飛び出したのは炎の息吹
  それが目の前にいたヴァイトに直撃する
ヴァイト「うわぁぁ!!」
  鈴木の体はブレスを放った衝撃で投げ出され、地面を転がる
鈴木「はぁ、はぁ・・・・・・やった」
  鈴木は徐々に薄くなっていく意識の中
  安堵しながら炎をまとったヴァイトをみていた
  しかし
ヴァイト「はは、ははははは」
ヴァイト「油断したよ。君程度にやられるとはね」
  ヴァイトはゆっくり、しかし確実にその傷を癒していた

〇見晴らしのいい公園
  一方大吾の方は一輝と見合い、攻撃をなんとかいなしていた
大吾「一輝、目を覚ますんだ!」
一輝「・・・・・・・・・・・・」
大吾「俺はお前を傷つけたくない」
一輝「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大吾「頼む。どうして・・・・・・こんな事に」
一輝「・・・・・・・・・・・・だいご」
一輝「だいご・・・・・・さん」
大吾「一輝!」
一輝「すい・・・・・・ません」
一輝「こんな、こと、したくない・・・のに」
一輝「からだが、いうことをきかなく、て」
大吾「自分で身体を抑えられないのか?」
一輝「・・・・・・・・・・・・」
一輝「だめ・・・・・・です」
大吾「そうか・・・・・・」
一輝「でもこのまま、じゃ。だいごさんがうごけな、きゃ」
一輝「みんなが、かおり・・・・・・ちゃんが」
大吾「一輝・・・・・・」
大吾「そんな事はわかってる。だが、お前をこのままにしとくわけにはいかない」
一輝「・・・・・・凶器」
大吾「ん?」
一輝「かおりちゃんが・・・・・・つかっていた、ものが・・・あそこに」
  大吾が目線を向けた先には、先ほど一輝を傷つけた凶器が転がっていた
一輝「ぼくの・・・・・・ひだりかたをそれで、さしてください」
大吾「なにっ、どうしてそんな事を!?」
一輝「アイツの・・・・・・ちからは、ひだりかたからながれてきてるんです」
一輝「かおりちゃんも・・・・・・ほかのひとも、ひだりかたをみればわかる、はずです」
  大吾は一輝の左袖をめくりあげる
  そこには赤黒い模様が刻印されていた
大吾「これが・・・・・・操っていた力の正体だってのか」
一輝「だから、このもようをこわすん・・・です」
一輝「そうすればきっと・・・ぼくは・・・うぅ」
大吾「・・・・・・・・・・・・」
  一輝は涙を流していた
大吾「わかった」
  大吾は一輝の腹を蹴り飛ばすとその隙に凶器を拾う
  起き上がり再度突進してくる一輝
  大吾はその速度を利用し身を屈め、後ろに一輝を投げ飛ばす
一輝「う・・・・・・」
大吾(すまない一輝)
  大吾は倒れてる一輝に馬乗りになり、凶器を振り下ろした

〇見晴らしのいい公園
鈴木「な・・・・・・なんで」
鈴木(だめだ・・・・・・もう僕には・・・)
  鈴木の攻撃は直撃した
  しかし、その攻撃でヴァイトを仕留めることは出来なかった
ヴァイト「錬金術師・・・最底辺だと言ったけど」
ヴァイト「それは、改めないといけないね」
ヴァイト「それでも、僕には勝てない」
鈴木「・・・はぁ、はぁ」
ヴァイト「それが現実だ」
  ヴァイトの攻撃が目の前まで迫る
  しかし鈴木はそれを見て一歩も動く事ができない
パンドラ「バカ者!」
鈴木「え?」
  鈴木の身体が何かぶつかった衝撃で転がる
  鈴木を押し倒したのはパンドラだった
パンドラ「諦めるな」
パンドラ「お前もワシも・・・・・・まだ倒れるわけにはいかん」
パンドラ「錬金術師は、他の魔術師とは違う」
パンドラ「自身で想像し、どんな状況でも打開策を考えろ」
パンドラ「お前は・・・ワシと共に過ごして気づいた筈じゃ」
パンドラ「何かを成し遂げたいときに必要なのは技術や力ではない」
パンドラ「その想いの大きさが・・・強い薬を生み出すと」
鈴木「パンドラさん・・・・・・」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「いつも、パンドラさんは無茶ばっかり言うんだから」
鈴木「パンドラさんだって、ボロボロじゃないですか」
パンドラ「ふん。鈴木に心配されるほど・・・・・・やわではないわ」
鈴木「心配しますよ。だって僕らは一心同体」
鈴木「パンドラさんが死んだら僕も死ぬ・・・・・・そうでしょ?」
パンドラ「ふん・・・・・・よく、わかっておるな」
パンドラ「ならやる事は一つじゃ」
鈴木「ですね」
  パンドラが手を差し出し二人は手を取り合う
  その眼には炎が宿っていた

〇見晴らしのいい公園
パンドラ「ワシが何とかあやつを引き付ける」
パンドラ「その間にお前は回復と、もう一度魔力を使うイメージを作れ」
パンドラ「次の炎で・・・・・・確実に決めるんじゃ」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「パンドラさん」
パンドラ「なんじゃ?」
鈴木「パンドラさんって・・・・・・錬金術師の割に意外と肉体派ですよね」
パンドラ「余計なお世話じゃ」
パンドラ「では、行くぞ」
鈴木「はい!」
  パンドラが鈴木から手を離し
  地面を大きく蹴って走りだす
  ヴァイトは二人を笑みを作りながら見ていた
ヴァイト「君たちが何を考えてるか知らないけど」
ヴァイト「僕は面倒な事が嫌なんだ」
ヴァイト「だから・・・・・・そうだな」
ヴァイト「まず君から消えてもらうよ」
  そう言ってヴァイトも走り出す
  その速度はパンドラとは比にならず、一瞬で到着する
  鈴木の目の前に
パンドラ「鈴木!」
ヴァイト「またあの炎を出されたら面倒なんだ」
ヴァイト「さようなら」
  鈴木の目の前をヴァイトの手刀が迫る
鈴木(くそ・・・・・・ダメだ避けれない)
  鈴木にはその光景が一瞬スローモーションのようにも見えた
  自分に死が迫る感覚を鈴木は感じていた
ヴァイト「うっ・・・・・・」
  戦いの最中に響き渡る一発の銃声
  その弾丸はヴァイトの腹部に突き刺さっていた
ヴァイト「これは・・・・・・一体どこから」
大吾「ここだよ」
  その声と共にヴァイトの後ろに人影が現れる
ヴァイト「!?・・・・・・いつの間にっ!」
大吾「俺は・・・ずっとあんたの近くにいた」
大吾「あんたの隙を狙っていた」
大吾「鈴木君に向かって飛び出した時、あんたはもう他の事を気にしている余裕はなかった」
大吾「それが、俺にとってはチャンスだったんだよ」
ヴァイト「なるほど・・・・・・あの消える薬を使ったのか」
ヴァイト「だから気付かなかったって・・・・・・」
ヴァイト「僕が、こんなクソみたいな人間に」
大吾「クソみたいなって、その気持ちが油断に繋がったんだ」
ヴァイト「ははっ。それは滑稽だ」
ヴァイト「だが僕は、君たちのような非力な存在じゃない」
ヴァイト「こんな事でやられるワケないだろ?」
大吾「ああ、そんな事俺は期待してない」
ヴァイト「あ?」
大吾「お前みたいなでたらめな力を持つ奴を倒す事なんて、ハナから考えてない」
大吾「だから、チャンスは一発だけにした」
大吾「一発でやれなきゃアウトだ。俺は、お前を止める事だけ考えた」
大吾「常人離れした力のお前をな」
ヴァイト「止める、だって・・・・・・まさか!?」
鈴木「拘束の薬を・・・弾丸に?」
大吾「鈴木君、君のアイデアが役に立った」
  その言葉に続くように、ヴァイトの様子が変わっていく
ヴァイト「僕が、手玉に取られるなんてね」
ヴァイト「魔王様に顔向け出来ないじゃないか」
パンドラ「魔王は何を考えておるんじゃ。ワシを一体どうするつもりなんじゃ!」
ヴァイト「ふっ・・・・・・パンドラさんさ」
ヴァイト「君がここに居る限り・・・・・・この世界には災いが訪れるんだ」
ヴァイト「もう・・・逃げられない・・・・・・よ」
ヴァイト「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
パンドラ「それはどういう事じゃ、おい!」
  パンドラの問いに、もうヴァイトは何も答えられなかった

〇黒
  それから2日後
  鈴木とパンドラは自宅に戻り準備を終え
  大吾に挨拶を言うため病院に来ていた

〇綺麗な病室
鈴木「大吾さんすいません。少し遅れました」
パンドラ「大吾、調子はどうじゃ?」
大吾「よう、二人とも。相変わらずだな」
大吾「こっちはとりあえずは落ち着いた」
鈴木「そうですか。それは良かった」
大吾「やっぱり、あのヴァイトとかいうやつが元凶だったんだな」
大吾「ヴァイトが操っていた人たちはほとんど無事だ。意識もはっきりしてるし後遺症もない」
大吾「ただ・・・・・・」
鈴木「一輝さんと香織ちゃん・・・・・・ですよね」
大吾「ああ、一輝の方は傷が深くてな」
大吾「まだ、まともに動ける状態じゃないんだ」
鈴木「その、香織ちゃんの方は・・・・・・」
大吾「香織は・・・・・・まだ安定してない」
大吾「寝てる間はいいんだが。起きるとすぐに暴れ出して手がつけられない」
大吾「だから、俺がなるべく近くにいるようにしてる」
パンドラ「香織は・・・・・・ヴァイトの干渉を強く受けておった」
パンドラ「ワシや鈴木、大吾を誘導するために一番長く操られていた可能性が高い」
大吾「そうか」
大吾「まさか、俺の娘を利用するとはな」
大吾「本当に・・・・・・今でも悪い冗談だったら良かったと思ってるよ」
鈴木「大吾さん・・・・・・」
大吾「まぁ、俺は無事だったんだ」
大吾「まだ出来る事は沢山ある。落ち込んでる場合じゃねぇな」
鈴木「その・・・・・・大吾さん」
大吾「ん?」
鈴木「これ、どうぞ」
  鈴木が大吾に渡したのは、薬が入った瓶だった
大吾「これは?」
鈴木「精神を整える薬です」
鈴木「少しの水と混ぜて、熱を加えて蒸気にしてください」
鈴木「その空気を吸った人の怒りは静まるはずです」
パンドラ「ヴァイト・・・・・・アイツはなかなかの手練れだった」
パンドラ「ワシは奴の事を見くびっていた」
パンドラ「だが、それなら奴以上の力を錬金術が発揮するまで」
パンドラ「ワシと鈴木にかかれば治せないものなどない!」
パンドラ「大吾よ。大船に乗ったつもりでおればよいのじゃ」
鈴木「・・・・・・香織ちゃんはきっと僕たちのせいで巻き込まれたんです」
鈴木「僕たちが大吾さんを頼ったから、利用されてしまった」
鈴木「本当に、すいませんでした」
大吾「はっ・・・・・・」
大吾「若いやつが責任なんて感じてんじゃねぇよ」
大吾「俺は刑事だ。俺には市民を守る義務がある」
大吾「だが、今回お前たちが居なきゃ義務を果たす事は出来なかった」
大吾「だから感謝してる」
大吾「余計な責任なんて感じず、胸張っていけよ」
鈴木「大吾さん・・・・・・」
鈴木「本当にありがとうございました」
大吾「鈴木君、パンドラさんをしっかり見てやれよ」
大吾「俺と一輝ほどじゃないが、お前ら二人はいいコンビだからな」
パンドラ「大吾よ。鈴木はまだまだ未熟な弟子じゃ」
パンドラ「むしろワシが鈴木をしっかり見てやらんといかん」
大吾「あはは、そうかい」
  三人は互いの今後を応援するように、握手を交わした

〇マンションのオートロック
鈴木「これはっ・・・・・・!?」
パンドラ「どういう事じゃ・・・・・・何が起こっておる」
  二人は姉の元へ訪問していた
  自分たちの街に起きた出来事の報告と、これからについて
  鈴木は姉の力も借るため相談しようと思っていた
  しかし・・・・・・
  姉のマンションの様子は明らかにおかしかった

〇黒
  マンションの玄関が、無理やりこじ開けられたかのように破壊されていた
  エレベーターも破壊され、その機能を失っていたため
  鈴木とパンドラは階段を使い姉の部屋へ急いだ

〇マンションの共用廊下
鈴木「あなたは・・・・・・柊さんっ!」
柊「君は・・・・・・鈴木君か」
  柊は姉のマンション前に血だらけの状態で倒れていた
鈴木「その傷は一体どうしたんですか!? それに姉さんは──」
柊「分からない」
鈴木「分からない・・・・・・って」
柊「急に襲われたんだ」
柊「あれは・・・・・・同じ人間じゃなかった」
鈴木「なっ・・・・・・そんなっ!」
パンドラ「柊・・・・・・お前、一体何を見たんじゃ?」
柊「意思がないような・・・・・・そんな集団だった・・・・・・」
柊「肩に刺青が入ってて、暴力団かと思って僕は部屋に入れさせないよう止めてたんだけど」
柊「問答無用でボコボコにされてしまって・・・・・・」
鈴木(ボコボコなんてレベルじゃない)
鈴木(頭、口、腕、足、それに胴体からも血が流れてる・・・・・・ひどい・・・・・・酷すぎる)
鈴木「すぐに、救急車を呼びますから」
  鈴木が携帯を手に取り電話をかける
柊「ダメ、だった・・・・・・」
鈴木「え?・・・・・・」
柊「千花ちゃんの部屋に入られた」
鈴木「姉さんが・・・・・・居たんですか?」
柊「ああ・・・・・・」
鈴木「パンドラさん、柊さんを頼みます!」
パンドラ「鈴木、おい待て」
  パンドラが鈴木を制止しようするがその声はとどかない
  鈴木は考えるより先に身体が動いていた

〇綺麗なダイニング
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木(なんだ・・・・・・これ)
  千花の部屋は家具が散乱し、机が飛ばされ窓ガラスが割れていた
鈴木「姉さん!姉さんっ!!」
  鈴木が大声で呼びかけるが何の反応も返ってこない
鈴木「くそっ・・・・・・」
鈴木「ん?」
  その時、鈴木の目にある物が目に入った
鈴木「これって確か開発用の・・・・・・」
  それはゲームのパッケージだった
  鈴木が唯一会社で制作した思い出のゲーム
  その製品前パッケージがぽつんと床に落ちていた
鈴木「これ・・・・・・僕のだ」
  パッケージにはそれぞれの所有者が管理するため名札が張られていた
  その名札には「鈴木」と記載があった
鈴木(でも・・・・・・パッケージがどうしてここに、それにこのゲームは)
  鈴木にはこのゲームを千花の部屋に持っていった記憶がなかった
パンドラ「鈴木!」
  鈴木が思案している所に、遅れてパンドラがやってくる
パンドラ「これは・・・・・・千花はどうなったのじゃ」
鈴木「パンドラさん。実は・・・・・・」
パンドラ「なんだとっ・・・千花もやられたのか」
鈴木「やられたなんて縁起でもない事言わないでください」
鈴木「でも・・・・・・姉さんとは連絡もつかないし、部屋に居ない事は確かなんです」
パンドラ「なら一体千花に何があったというのじゃ」
鈴木「わかりません。ただ部屋には血痕がなかったので、柊さんのような酷い状況ではないと思うんですけど」
パンドラ「それが分かったところで、千花の場所が分からなければ意味ないじゃろ」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「もしかしたら・・・・・・分かるかもしれません」
パンドラ「どういう事じゃ」
  鈴木は落ちていたゲームパッケージの事をパンドラに説明した
パンドラ「・・・・・・なるほど」
パンドラ「だが、それをお前がここに持ち込んだ記憶はないんじゃろ」
パンドラ「となれば、安易に動くのは危険かもしれんぞ」
鈴木「分かってます」
鈴木「でもこのまま姉さんを放っておくことは出来ません」
パンドラ「・・・・・・・・・・・・そうじゃな」
パンドラ「では準備を・・・・・・」
  その瞬間
  鈴木のスマホからバイブレーションが発されパンドラの言葉を遮った

〇綺麗なダイニング
鈴木「おかしいな。マナーモードにしてた筈なのに」
  鈴木がスマホの画面を見ると、そこには見たことがない番号が表示されていた
  鈴木はパンドラを手で制止し電話に出る
鈴木「もし・・・・・・もし」
千花「創・・・・・・太?」
鈴木「その声は・・・・・・姉さん? 姉さんだよね!」
千花「ごめん、なさい」
鈴木「ちょっと・・・姉さん! 姉さんっ!」
「やあ鈴木君」
「いや、鈴木創太君だったか」
  電話口には姉ではない、くぐもった男の声が聞こえた
鈴木「・・・・・・あなたは?」
「名乗る程のものではない・・・・・・状況は分かってるね」
鈴木「姉さんを電話に出してください」
「それは出来ない」
「君は・・・・・・私と話してもらう」
鈴木「くっ・・・・・・」
  鈴木は携帯をスピーカーモードに変更した
鈴木「あなたは誰なんですか」
「それは答えられない」
鈴木「あなたは姉さんに何をしたんですか」
「それも答えられないが・・・・・・一つ言えるとすれば」
「君の大事な姉さんはまだ生きてはいる」
鈴木「こんな事をして、何が・・・目的なんです」
「話が早いね」
「私たちはパンドラさんを手に入れたいんだ」
鈴木「どうしてあなたもパンドラさんを知って」
「──それは今どうでもいい話だ」
「わかったね」
鈴木「・・・・・・」
「そこで一緒に聞いてる。パンドラさんにも是非聞いてほしい」
パンドラ「・・・・・・・・・・・・」
「今、門が開かれている」
鈴木「門?」
「そうだ。今はまだ一つだがいずれ世界中に門を広げ力を拡大していく」
「それにはパンドラさんの協力が必要だ」
パンドラ「ワシは協力などしないぞ」
鈴木「――パンドラさん! ちょっとっ」
「パンドラさん。君にとっても悪い話じゃない」
「君は錬金術師という唯一無二の才能がありながら外との交流は断ってきた」
「だが、力という物は誰が使うかでその価値が変わる」
パンドラ「ワシにはお前が力を持っていい人間だとは思えんな」
「今はまだそうかもしれない。だがいずれ時が来れば分かる」
「錬金術には可能性がある。だから私は・・・・・・君に繋ぐ鍵が欲しかった」
パンドラ「それが、千花だと」
「そうだ」
鈴木「・・・・・・・・・・・・そんな」
「・・・・・・門まで大人しく来ることだ」
「鈴木君の端末に情報を送っておこう」
「余計な詮索はせずにだ。分かったね」
鈴木「あ・・・・・・ちょっとっ」
  鈴木が何か言う前に、一方的に電話は途切れた

〇綺麗なダイニング
鈴木「姉さん・・・・・・」
パンドラ「鈴木、すまない」
鈴木「パンドラさんは悪くないですよ」
鈴木「悪いのは姉さんを誘拐した奴らです」
パンドラ「千花は必ず取り返す。必ずだ」
鈴木「電話の人・・・・・・パンドラさんの力を知ってるみたいでした」
鈴木「パンドラさんあなたは・・・・・・一体向こうの世界でどんな存在だったんですか?」
パンドラ「前も言ったじゃろ。ワシは最強の錬金術師だった」
パンドラ「だが所々記憶が曖昧な部分がある。それが何故かはわからん」
鈴木「僕はパンドラさんに何度も助けられてきました」
鈴木「パンドラさんは僕の稚拙なイメージを力に変える天才的な錬金術師だと思います」
鈴木「そんなすごい人が・・・・・・悪い人だとは思えません」
パンドラ「だが、ワシが記憶を完全に取り戻した時」
パンドラ「それによってワシが悪人だと分かったらどうする?」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「・・・・・・僕も連れて行ってください」
パンドラ「鈴木・・・・・・」
鈴木「僕だって、錬金術のれの字ぐらいは名乗れるくらいの自負はあるんです」
鈴木「パンドラさんがもし悪人だったとしても・・・・・・僕がなんとかします」
鈴木「短い間でしたけど・・・・・・僕たちはその、悪くないコンビだったじゃないですか」
パンドラ「コンビ・・・・・・か」
パンドラ「鈴木、分かっておるのか。あやつは間違いなくこの世界の人間ではない」
パンドラ「千花の事を鍵と言っておった」
パンドラ「先日の呪術師の件といい。何か大きな悪意が動いておる」
パンドラ「お前は頑張ってはいるが、今まではたまたま命が助かってきただけじゃ」
パンドラ「次はないと覚悟した方いい」
鈴木「それでも・・・・・・僕は行きたいんです」
鈴木「ゲームの業界に入ってやめて、配信者として生きようと頑張って来ましたけど」
鈴木「今は錬金術師の道もいいかなって思ってるんですよ」
パンドラ「ふん、バカ者が」
パンドラ「お前が錬金術師として大成するには少なくともあと5年は必要じゃ」
鈴木「分かってますよ」
鈴木「・・・・・・その時にはちゃんと姉さんにも見守っていて欲しいですから」
パンドラ「ああ・・・・・・そうじゃな」
  鈴木は携帯に送られてきた情報を見る
  パンドラと目を合わせ、手を差し出した

〇ゆるやかな坂道
  鈴木とパンドラは以前鈴木が住んでいたアパートへ来ていた
鈴木「まさか前住んでいた家とは」
鈴木「このアパートも・・・何かあったんですかね」
鈴木「電気が全くついていませんよ」
パンドラ「グチグチ言うな。それより、準備はいいのか鈴木」
鈴木「はい・・・・・・大丈夫です」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
鈴木(携帯に示されていた場所は僕が燃やしてしまった前のアパート)
鈴木(パンドラさんと初めて出会った思い出の場所だ)
鈴木(姉さんの家にあった、僕が持っていたはずの開発者用ゲームパッケージ)
鈴木(それは、パンドラさんがゲームキャラクターとして登場している物だ)
鈴木(この場所には、やはり何かがあったのかもしれないって。今はそう思う)

〇汚い一人部屋
パンドラ「なっ・・・・・・」
鈴木「これって・・・・・・」
  鈴木とパンドラを出迎えたのは懐かしの家の姿
  だがそこには明らかな違和感が存在していた
鈴木「荷物は全部片づけたはず・・・・・・それに部屋だって燃えたはずなのに・・・」
鈴木「こんな大型テレビ・・・・・・僕は持ってませんでしたよ」
鈴木「それにどうして、ゲームが起動してるんだ」
鈴木「僕たちは鍵を開けて入ってきたはずなのに・・・・・・」
パンドラ「見ろ、鈴木」
鈴木「え?」
パンドラ「窓が開いておる」
パンドラ「恐らくそこから出入りしたんじゃろう」
鈴木「でもここ2階ですよ? そんな簡単に出入りなんて・・・・・・」
パンドラ「その考え方は違うぞ鈴木」
パンドラ「出入りが出来ないのではない。簡単に出入りできる奴がここに来ているという事じゃ」
パンドラ「今までの経験で察しはついておるじゃろ」
パンドラ「普通の人間ではない何か・・・・・・」
鈴木「そんな・・・・・・じゃあ」
鈴木「パンドラさんのように、僕の家を媒介にして?」
鈴木「他の奴らもここから来ていたかもしれないってことですか」
パンドラ「・・・・・・・・・・・・」
鈴木「そう、ですよね」
鈴木「ここでパンドラさんと出会ってずっと過ごしてきたんだ」
鈴木「入口について、もっとよく考えるべきでした」
パンドラ「鈴木、あのテレビの中に広がる世界・・・・・・見覚えがある」
鈴木「やっぱり・・・・・・パンドラさんはあのゲームに関係あるんですね」
鈴木「そうですよ」
鈴木「僕がもっと本気でパンドラさんの事を調べていたら、このゲームの事を、部屋の事を気にかけていたら」
鈴木「そうすれば、姉さんが・・・色々な人が被害にあう事はなかったのに」
パンドラ「鈴木、過ぎた事を言うでない」
パンドラ「お前は・・・・・・十分良くやっている」
鈴木「・・・・・・・・・・・・」
パンドラ「いいか鈴木」
パンドラ「時間は前にしか進まない。戻る事はない」
パンドラ「だが人は戻る事を望むものじゃ」
パンドラ「変化を恐れ、挑戦せず、過去にすがる・・・・・・」
パンドラ「だが、お前は違う」
パンドラ「お前は常に前に進もうとしておる。ワシにはずっと・・・・・・そう見えていたぞ」
鈴木「パンドラさん・・・・・・」
鈴木「僕が前に進めたのはパンドラさんが居たからですよ」
鈴木「ありがとう、ございます」
パンドラ「さ、さぁ! さっさと行くぞ千花の事も心配じゃ」
鈴木「あ・・・・・・あ、はい!」
  鈴木が大型テレビのモニターに触れる
  その画面はなんの抵抗もなく鈴木の体を受け入れ通した
鈴木「パンドラさん、これから何が起きるかわかりません」
鈴木「僕の姉さんです。正直言うとパンドラさんを危険な目にあわせたくはありません」
鈴木「でもっ、僕はパンドラさんと一緒に行きたいんです」
鈴木「その・・・・・・一緒に姉さんを救ってくれませんか?」
パンドラ「ふっ・・・・・・何を言っておる」
パンドラ「お前も千花も・・・・・・今はもうワシの家族のような物じゃ」
パンドラ「ワシに任せろ」
鈴木「はい!!」
  鈴木とパンドラが手を取りあい
  テレビの中に飛び込んでいく

〇黒
  そこは現世でない未知の世界
  鈴木が思い描いていた世界
  二人にこれからどんな試練が待っているのか
  そして
  二人にこれからどんな試練が待っているのか
  まだ誰も知る事はなかった
  第1部 完結

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