迷子と一期一会

麦野 夕陽

読切(脚本)

迷子と一期一会

麦野 夕陽

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〇入り組んだ路地裏
うの「ここは・・・・・・どこだ・・・・・・」
  特大サイズのリュックサックを背負ったまま呆然とする。
  ここは東京、渋谷。人通りが多いことで有名な、はずだ。私はいつのまにか人気のすくない路地裏に迷い込んでしまった。
  普段は田んぼしかない土地に住んでいる私が、なぜ大都会にいるかと言うと「友人に会うため」それだけだ。

〇部屋のベッド
  数年前に上京した友人と連絡をとり、想像以上に盛り上がった。

〇入り組んだ路地裏
  その勢いのままに「久しぶりに会おう」と約束した。それは良い。大いに喜ばしいことだ。
  しかし「渋谷のハチ公前で良い?」との言葉に
  有名スポットだし田舎もんの私でもさすがにわかるだろうと、なめてかかったのがいけなかった。
うの(方向音痴・知らない土地・複雑な路線を考慮しないといけなかったんだ)
  余裕をもって夕方の待ち合わせにしていたはずが、すでに日が暮れかけている。あたりはだんだん暗くなってきた。
  半べそをかきながら、スマホの電源を連打する。
  非情にも赤い電池マークを示すだけ。一番頼りにしていたスマホの充電切れ。これが迷子のきっかけだった。
  モバイルバッテリーも持っていないという大失態。とにかく歩いて、道を聞けそうなお店や交番を探す。
  しかし人っ子一人いない。半べそがだんだん“半”ではなくなってくる。
うの(きっと今までの人生のなかで一番情けない顔してる)

〇入り組んだ路地裏
  すっかり暗くなった道を歩く。肩が痛い。
うの「リュックじゃなくてスーツケースにしとくんだった・・・・・・」
  友人を待たせている、心配しているだろう。そう思えば思うほど焦って足がもつれる。
  何もないところでつんのめる。転びはしなかったが、涙が一滴、コンクリートの地面におちた。
  がむしゃらに歩いていたが、とうとう足を止め、二滴目の涙がこぼれないようになんとか堪える。
  ふと、耳が音をとらえる。遠くから、リズムを刻むような音。
うの「音楽だ」
  疲れきった足で一歩一歩あるきだす。音の方向へ。
うの(道標はこれしかない)

〇ビルの裏
  音は近づくにつれて大きくなる。さらに若い男性のような声が混ざって聞こえてくる。
  無我夢中で歩いて曲がり角をまがると、その先に人が数人いた。しかし反射的に物陰にかくれる。
  安堵と緊張がごちゃ混ぜだ。道の先にいるのは3人の若い男性。
  風貌が、やや、ヤンキーちっくというか、ガラが、悪そうというか・・・・・・
  物陰にかくれたまま様子をうかがう。なにやらスマホから音楽をかけて身体を動かしている。
うの(あれは──ダンスだ)
  ガラス張りの建物を鏡代わりにして練習している。
  巧みな足さばきに思わず見入ってしまった。コンクリートの地面にもかかわらず一人がバク転する。
うの「おおぉ・・・・・・」
リク「何してんの?」
  後ろから突然声をかけられ、肩がはねる。振り返ると同じような風貌の男性がいた。
  気が動転し口をパクパク動かすが、声は出てこない。
???「おーい! おせーよリク!」
リク「ごめんごめん!」
リク「で、何してんの?」
  リクと呼ばれた男性は愉快そうに私にたずねてくる。思わず縮こまる。
シゲ「ん? なになにこの子?」
  私たちに気づいた3人もこちらに走ってきた。男性4人に囲まれ、チワワみたいな私。
うの「あ・・・・・・あの、み、道に迷って・・・・・・」
  沈黙がながれる。おそるおそる見上げると、男性が吹きだした。
シゲ「なーんだ! 早く言ってくれれば良かったのに! ファンかと思ったわ」
カイ「シゲの顔がイカついから怖かったんだろ」
  いやいや、とか、お前のズボンが派手なせいだ、とか、ワイワイ話している。
リク「どこ行きたいの?」
うの「ハチ公前です」
リク「え、じゃあ結構迷ったでしょ」
うの「ハイ・・・・・・スマホの充電が切れちゃって」
  私の言葉に「あ」と一人が何かを思いついたように挙手する。
ナオ「オレ、モバイルバッテリーある」
「おお〜ナイス〜」
うの「え、でも」
  私が言い終わる前に彼は荷物のもとへ走っていく。
カイ「えっとね、ハチ公まではこの道をギューンて行って、小さい看板があるところで右にシュンって曲がって」
「説明ヘタだな〜」
  コントのようなやりとりに私も笑ってしまう。
シゲ「まあ一緒に行けばわかるっしょ」
カイ「それな」
  え、と私の小さな声はかき消された。

〇入り組んだ路地裏
カイ「こっちの方が早いって」
シゲ「いや、絶対こっちが近道だから」
  私のポケットの中でスマホを充電させてもらいながら道を歩く。さっきの心細さはいつのまにか消えていた。
リク「リュック持つよ」
うの「いや悪いですよ」
  リクが、私からリュックを降ろす。
リク「うわ、重っ。こんなの持ってたの?」
ナオ「そんなに重いん?」
リク「あのね、人殴れるくらい」
  皆で声をだして笑った。

〇渋谷駅前
シゲ「ほーら着いた着いた」
  人通りの多い道に戻ってくると、すぐにハチ公前に着いた。
  モバイルバッテリーを返してお礼を言い、リュックを受け取る。やはり重かったが、肩はずいぶん軽くなっていた。
うの「ありがとうございました」
4人「おう! じゃ気をつけてな!」
  彼らは人混みのなかへ消えていく。
  怖そうな外見の彼らは、実はとても優しく楽しい人達だった。
  30分にも満たない出会い。
  旅は一期一会
  この渋谷でまた会えることを信じて。

コメント

  • 読んだ後、爽やかな気分になりました。
    一期一会って本当にあって、彼女もいい人たちに出会って良かったです。
    なかにはあやしい人もいますから。

  • たくさんのいろいろな人がいる渋谷でこのお兄さん達に会えたのはまさに不幸中の幸いですね!特に後にも先にも繋がりはしないけど素敵な一期一会だなと思いました!

  • 読後感が爽やかで素敵です。心細くて泣いてしまうのも、道端でダンスを始めるのも、夜ってみんな自由で、解き放たれていて、面白いですね。不安で凍える心が癒やされていく展開にホッとしました。旅先での夜の出会いって、独特でいいですね。彼らの優しさを主人公さんはお友達に話すんだろうなと思うと、想像で心が更に暖かくなります。

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