シブヤの森

坂井とーが

シブヤの森(脚本)

シブヤの森

坂井とーが

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シブヤの森
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〇黒背景
  どうして人は
  すぐに死んでしまうのだろう──

〇渋谷のスクランブル交差点
渋谷実乃里「あ、あの人・・・」
???「っ──」
渋谷実乃里(具合が悪そう)
渋谷実乃里「あの」
???「!」
渋谷実乃里「大丈夫ですか?」
???「み、水を・・・」
渋谷実乃里「水ですね。どうぞ」

〇渋谷のスクランブル交差点
渋谷実乃里「え?」
渋谷実乃里「あれ?」

〇ボロボロの吊り橋
渋谷実乃里「とにかく交差点を渡り切らないと」
渋谷実乃里「って、えええええ!?」
渋谷実乃里「吊り橋の上!?」
「いたぞ!」
渋谷実乃里「!?」
男「トキワノミコトだ! 捕らえろ!」
手下「ハッ」
渋谷実乃里「え、何!?」
男「人間に化けても無駄だ!」
渋谷実乃里「!!?」
渋谷実乃里(何が起こっているの?)
渋谷実乃里(逃げなきゃ。でも、足がすくんで・・・)
「トキワ様!」
???「こっちです! 早く!」
  飛び出してきた見知らぬ少年が、私の手を引いてくれる。
男「待て!」
???「来るな! 吊り橋を落とすぞ!」
男「くっ。 退却だ!」
  男たちが反対側の岸へと戻っていく。
???「今のうちに逃げましょう」

〇けもの道
???「トキワ様。 なぜ戻ってきたのですか?」
渋谷実乃里「な、何を言ってるの?」
???「とぼけないでください」
???「女に化けても格好でわかります。 それが2000年後の服ですか?」
渋谷実乃里「人違いです! 私、普通の人間ですから!」
???「何!?」
???「じゃあ、トキワ様はどこだ!?」
渋谷実乃里「私に聞かれても・・・」
???「神々の力であの橋を渡れば、時を越えられるはずだ」
???「無事、未来に行かれたのだろうか」
???「そして入れ替わりに現れたお前は──」
???「2000年後の未来から来たのか?」
渋谷実乃里「・・・・・・」
渋谷実乃里「ええええ!?」
渋谷実乃里「まさかここって、弥生時代!?」
???「参ったな」
???「時を越えて彷徨い続けた人間は、やがて帰る場所を見失うという」
渋谷実乃里「!」
渋谷実乃里「そんなの、絶対にイヤ!」
???「すぐに谷を渡れば、未来に戻れるかもしれないが──」
???「奴らに邪魔をされるだろう」
???「一度俺の村に寄って、作戦を立てよう」
渋谷実乃里「ぐすっ」
???「おい、泣くなよ」
渋谷実乃里「だって・・・」
???「・・・」
???「俺はナギ」
???「お前のことは何とかしてやるから、心配するな」
渋谷実乃里「うん・・・ありがと」
渋谷実乃里「私は実乃里よ」

〇村の広場
渋谷実乃里「本当に2000年前の渋谷に来ちゃったのね」
ナギ「シブヤというのか、この土地は」
渋谷実乃里(渋谷は私の名字でもあるんだけど)
渋谷実乃里「誰もいないの?」
ナギ「・・・いたんだ」
ナギ「飢饉と争いで、みんな死んでしまった。 残っているのは俺だけだ」
渋谷実乃里「そんな──」
ナギ「珍しいことじゃない」
ナギ「日照りが続けば、作物は枯れる。 わずかな食べ物を巡って、争いが起きるんだ」
渋谷実乃里「もしかして、さっきの人たちも」
ナギ「ああ。 奴らは森の神の力を得ようと、俺たちの村を襲ってきた」
ナギ「よし」
ナギ「俺が派手な服を着て奴らを引き付ける。 その隙に、ミノリは橋を渡れ」
渋谷実乃里「それじゃナギが危ないよ!」
渋谷実乃里「出会ったばかりなのに、どうしてそこまでしてくれるの!?」
ナギ「別に」
ナギ「お前がどうなろうと知ったことじゃない」
渋谷実乃里「なっ!?」
ナギ「でも、お前の顔を見たとき、一瞬だけど」
ナギ「妹が帰ってきたのかと思ったんだ」
ナギ「だから──」
「見つけたぞ!」
「!?」
ナギ「クソッ」
男「トキワノミコトを渡せ!」
男「我々は神の力で、森を稲穂の海に変える!」
男「そして、人々が飢え死にしない世界を作るのだ!」
ナギ「やめろ! そんな世界はいつまでも続かない!」
ナギ「人の手で森の調和を乱せば、あとには不毛の大地が残るだけだ!」
男「ならば貴様は、許せるというのか!? 飢饉によって人が死んでいく、この理不尽を!」
男「俺は死んだ妻と子たちに誓ったのだ!」
男「誰も飢えず、誰も死なない世界を作ると!」
男「やれ!」
手下「ハッ!」
ナギ「チッ」
ナギ「ミノリ、行け!」
渋谷実乃里「っ!」
渋谷実乃里「ナギ、待ってて!」

〇けもの道
  私は走った。
  本当は逃げたい。
  争いのない、平和な未来に帰りたい。
  でも、走るのはここから逃げるためじゃない。
渋谷実乃里(ナギを助けられるのは、神様だけだ!)

〇ボロボロの吊り橋
渋谷実乃里「トキワノミコト!」
渋谷実乃里「お願い! ナギを助けて!」
  返事はない。
  揺れる吊り橋に足を踏み出す。
  その時、
渋谷実乃里「!?」
渋谷実乃里「あなたは──」
「ここにいたぞ!」
ナギ「く──」
  ナギは男たちに捕まり、腕を縛られている。
渋谷実乃里「ナギ!」
男「女はおとりだったか」
男「だが、ここまでだ」
男「神木への水脈を枯らしてひと月。 もう力は残っていないはずだ」
トキワノミコト「水ならば」
トキワノミコト「この子が分け与えてくれた」
手下「うわあああ!」
男「ぐ・・・」
男「て、撤退だ!」
渋谷実乃里「ナギ、大丈夫!?」
ナギ「なんとかな」
ナギ「トキワ様。 未来に逃げてくださいと、あれほど言ったのに」
トキワノミコト「未来に私の居場所はなかった」
ナギ「え?」
トキワノミコト「2000年後のこの地はね、灰色の石に覆い尽くされていたんだ」
ナギ「そんなことが──」
渋谷実乃里「・・・」
トキワノミコト「だけどその時代の人々は、豊かな暮らしを送っていた」
ナギ「!」
トキワノミコト「人々は飢えることも争うこともない」
トキワノミコト「シブヤとよばれるこの場所に、信じられないほど多くの人間が暮らしているんだよ」
ナギ「人々のためなら、あなたが犠牲になってもいいのですか!?」
トキワノミコト「──どちらが幸せなのだろうね」
ナギ「俺はイヤだ!」
ナギ「つらいこともたくさんあったけど、俺はこの土地――シブヤの森が好きだ!」
ナギ「トキワ様を犠牲になんて、絶対にさせない!」
ナギ「ミノリ、この種を未来に持って行ってくれないか?」
渋谷実乃里「これは?」
ナギ「トキワ様の御神木の種だ」
ナギ「たとえシブヤが石に覆われても、種さえあれば、森はきっと息を吹き返す」
ナギ「未来のシブヤに、トキワ様の居場所を作ってほしい」
渋谷実乃里「わかった。 約束する」
ナギ「ありがとう」
ナギ「さぁ、帰れるうちに、もう行け」
渋谷実乃里「うん さよなら、ナギ──」
  私はひとりで吊り橋を渡る。
  振り返ると、ナギが大きく手を振っていた。
ナギ「ミノリ! 俺はずっとこの森で生きていくよ!」
ナギ「今日から俺の名は、シブヤノナギだ! この土地の名を、未来に語り継いでいくからな!」
渋谷実乃里「!!」
  シブヤ。
  私の名字と同じ──

〇ボロボロの吊り橋
渋谷実乃里「ナギッ!」
渋谷実乃里「──元気で!」

〇渋谷のスクランブル交差点
  気が付くと、見慣れた交差点に立っていた。
  まるで森など初めから存在しなかったかのような景色だ。
  だけど私の手の中には
  小さな森が眠っている──

コメント

  • 遅ればせながら、読ませていただきました。
    なにこれ!面白すぎる!キャラクターが魅力的!好き!台詞回しレベル高っ!好き!(語彙力)

  • 物語が走り抜け、拉致されていました。有無を言わせない世界観、圧倒的。

  • もし続きがあるなら 見たい と率直に思いました

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