番外編① キースの望郷(脚本)
〇走る列車
キース・フォスター「雨脚が強まってきたな」
霧生華清(きりゅうかせい)「列車が出てくれて助かりましたね」
霧生華清(きりゅうかせい)「危うく徒歩で山越えするところでした」
キース・フォスター「はは、面白いジョークだ」
霧生華清(きりゅうかせい)「え?」
キース・フォスター「何?」
〇岩山の崖
本当に徒歩で山越えしようとしていた──?
〇走る列車
キース・フォスター「ともあれ、このままなら次の街まで あっという間だな」
キース・フォスター「それまでゆっくりしよう」
キース・フォスター「島に戻ってきてからゴタゴタ続きで 疲れただろう?」
霧生華清(きりゅうかせい)「それではキースさんは休んでいてください」
霧生華清(きりゅうかせい)「自分が見張りを続けますので」
あれだけ闘っておいて、正気か?
キース・フォスター「・・・なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」
〇黒
(揺れが心地イイ・・・)
(ああ、ずいぶん遠くにまで来ちまったな)
(何故、俺はこんなところにまで──)
〇大樹の下
ダリル「マム!」
ダリル「見て! 大きなオレンジ!」
母親「うふふ、ダリルは呑み込みが早いわね」
母親「将来が楽しみね」
農園はダリルに任せるよ
ダリル「えー! 一緒にやろうよ!」
ダリル「兄ちゃんが採ったもの美味しいじゃん!」
母親「そうね、貴方はとても目がいい」
母親「ほんと父親譲りね」
違う
この目を鍛えてくれたのはマムだ
俺は決してダッドみたいにはならない
〇岩山の崖
父親「ここに古代パラディス文明の手がかりが・・・」
父親「フフ、フフフ・・・」
父親「ああ! 胸が高鳴る!」
父親「待っていてくれ! 遺物たちよ!」
考古学なんて何の役にも立たないじゃないか
〇大樹の下
母親「あら、ロマンがあるじゃない」
ロマンなんて腹の足しにもならないよ
どうせ探索するならトレジャーハンターがいい
一攫千金を狙える
ダリル「でも、ダッドのお話は楽しいよ!」
あんなもの、おとぎ話だよ
〇レンガ造りの家
父親「ただいま」
ダリル「ダッド、おかえり!」
ダリル「今回はどんな冒険をしたの?」
父親「フフフ、今回はね──」
父親「おっ、そんなところにいたのか」
父親「恥ずかしがらずにこちらへおいで」
母親「貴方に会えて嬉しいのね」
ダリル「兄ちゃん、照れてるの?」
そんなんじゃない
ダリル「素直になりなよ~!」
素直さ
今が一番──幸せだ
〇大樹の下
先日の東洋国への宣戦布告に伴い
本日、徴兵令が発せられた
満14歳から40歳までの男性諸君には
兵役が課される
国のため今こそ立ち上がるのだ
ダリル「なんで、戦争なんて始まったの?」
この島は世界中の植生が集中しているから産業が不安定なんだ
せめて資源を増やそうって魂胆なんだろう
ダリル「兄ちゃんも行っちゃうの?」
あと1年、戦争が長引けばね
なに、心配要らないよ
敗戦国相手だからすぐに決着がつくはずだ
ダリル「・・・やだ」
ダリル「やだやだやだやだッ!!」
ダリル「行かないで! どこにも行かないで!」
ダリルを置いて行かないよ
必ず守ってみせる
母親「二人とも、危ないから先に戻りなさい」
ダリル「マムは?」
母親「仕事が一区切りしたら戻るわ」
母親「それまでお友達と遊んでなさい、ね?」
ダリル「ねえ、ダッドは?」
ダリル「ダッドは戦いに行っちゃったの?」
母親「いえ」
母親「あの人は・・・サミュエル鉱洞に」
ダリル「どうして?」
母親「それは・・・」
幻覚を見てしまったのさ
ダリル「幻覚?」
母親「そんなこと──!」
そうじゃないか
〇洞窟の入口(看板無し)
こんな時に遺跡探索なんて正気じゃない
戦争が始まってから全然家に帰らないし
たまに帰ってきてもすぐに居なくなる
それもこれも『あの人』が来てからだ
一体ダッドは『あの人』と一緒に何を
探しているんだ?
一体何のために──
〇島
本日1960年9月1日をもって
『パラディス条約』が締結されました
両国間での争いを禁じるとともに
各国民の身の安全を保証いたします
〇屋敷の書斎
本条約に背くことは国際信義にもとる
行為とみなされ、即時に──
ダリル「ダッド、何を書いているんだろう?」
母親「二人とも、部屋に戻りなさい」
マム
ダッドに何があったんだ?
最近、様子がおかしい
母親「今になって怖くなっただけよ」
母親「いずれ徴兵されることは目に見えていたもの」
『あの人』が関係しているんじゃないか?
母親「『あの人』は・・・関係ない」
母親「じきに収まるわ」
〇草原
父親「二人とも!」
父親「今日も楽しい地質学の時間だ!」
ダリル「わーい!」
父親「そんなところにいないで近くにおいで」
ダッド、もう平気なのか?
父親「ん? 私はずっと調子が良いぞ?」
それならいいんだ
悪いことが起きなければ、それで──
〇山道
父親「降ってきたな!」
母親「この辺りは雨風をしのげる場所がないわ!」
母親「早くところトゥゾーリまで行きましょう!」
山賊「止まりな」
父親「うおっ!」
父親「危ないじゃないか!」
山賊「そいつはすまねぇ」
母親「貴方たちもトゥゾーリまで?」
母親「残念だけどこれ以上乗せられないの」
山賊「心配には及ばねぇさ」
山賊「目的地は──ココだよ」
父親「みんなッ! 逃げ──!」
山賊「一丁上がり、っと」
ダリル「うわっ!」
ダリル「いたた・・・」
ダリルッ! 後ろッ!
ダリル「え・・・?」
山賊「気づかせるなよ」
ダリル「た・・・」
ダリル「助けて──兄ちゃんッ!!」
ダリルッ!!
山賊「ぎゃあぎゃあうるさいね」
ダリル「にい、ちゃ・・・」
ダリル・・・?
ダリルッ!
山賊「残り1匹」
どうして・・・どうして、こんな・・・!
山賊「仕事だから」
山賊「じゃ」
〇黒
〇山道
山賊「な、ぜ・・・!」
アドルフ・フォスター少佐「よォ」
アドルフ・フォスター少佐「間一髪ってヤツ?」
あ・・・あ・・・
〇レンガ造りの家
遠縁の女性「今日から貴方と暮らすことになったの」
遠縁の男性「大変だと思うが私たちに任せなさい」
ありがとうございます
とても優しい
だが、この人たちの狙いは、きっと──
〇屋敷の書斎
遠縁の女性「これでこの家も農園も私たちのもの!」
遠縁の女性「あの子はもう要らないわぁ!」
「あっはっはっはっはっ!!」
ああ・・・やっぱり
〇レンガ造りの家
アドルフ・フォスター少佐「嫌なら施設に入れるように取り計らうぜ?」
要らない
裏があることくらい知っていた
アドルフ・フォスター少佐「だが、彼らには多額の借金がある」
アドルフ・フォスター少佐「いろんなところで恨みを買っているとも 聞くぜ?」
要らない
どれだけ悪人だろうと
いないより、ずっとイイ──
〇屋敷の書斎
おはよう──
これ、は・・・?
おじさん! おばさん!
・・・ああ
神様ってのは、なんて出来損ないなんだ
俺は、こんな場所でも良かったのに──
〇取調室
アドルフ・フォスター少佐「実行犯がわかった」
アドルフ・フォスター少佐「どうやら殺された二人は詐欺をやっていた みてェでな」
アドルフ・フォスター少佐「その被害者って話だ」
復讐・・・か
そいつは今、どこにいる?
アドルフ・フォスター少佐「錯乱の末、警官隊に射殺されたよ」
もう死んだ・・・のか
アドルフ・フォスター少佐「ああ」
アドルフ・フォスター少佐「見たところ共犯じゃなさそうだし」
アドルフ・フォスター少佐「君は晴れて釈放、というわけだ」
やっと家に帰れるのか
アドルフ・フォスター少佐「いや──家は差し押さえられた」
は?
アドルフ・フォスター少佐「殺された二人には多額の借金があってね」
農園も?
アドルフ・フォスター少佐「農園も」
アドルフ・フォスター少佐「君に残されたものは──何も無い」
・・・どうでもいい
早く出してくれ
アドルフ・フォスター少佐「送るよ」
〇草原の一軒家
アドルフ・フォスター少佐「到着」
何のつもりだ?
アドルフ・フォスター少佐「君の家だよ」
は?
アドルフ・フォスター少佐「どうせ帰る場所もないんだ」
アドルフ・フォスター少佐「辺鄙な土地だが野宿よりもマシだろう?」
野宿のほうがマシだね
アドルフ・フォスター少佐「つれないねェ」
アドルフ・フォスター少佐「独り身の話し相手になってくれよ」
アドルフ・フォスター少佐「そうだ!」
アドルフ・フォスター少佐「住み込みの家政夫として雇おう!」
気は確かか?
アドルフ・フォスター少佐「我ながら名案だな!」
いや、話を──
アドルフ・フォスター少佐「おっと、休憩時間が終わっちまったぜ」
アドルフ・フォスター少佐「では、健闘を祈る!」
あ・・・あいつ!
〇暖炉のある小屋
クソッ! 何故俺がこんな・・・!
あんな奴と一緒に暮らしてたまるかッ!
すぐに出て行ってやる!
〇草原の一軒家
〇草原の一軒家
〇草原の一軒家
〇草原の一軒家
アドルフ・フォスター少佐「坊主が来てからもう4年、か」
アドルフ・フォスター少佐「いなくなっちまうと寂しくなるな」
元より他人だ
寂しさなんて抱く道理がない
アドルフ・フォスター少佐「相変わらずドライだねェ」
アドルフ・フォスター少佐「ああ、すまん」
アドルフ・フォスター少佐「目の前で吸わない約束だったな」
好きにすればいい
あんたが勝手に取りつけた約束だ
ここは──あんたの家だよ
アドルフ・フォスター少佐「坊主」
ガキ扱いす──
アドルフ・フォスター少佐「ここは──お前の帰る場所だよ」
アドルフ・フォスター少佐「絶対に、捨てるなよ?」
捨てるも何も
はじめから俺に『帰る場所』なんてない
俺にあるのはマムに培われた、この眼だけ
〇城の会議室
商人「あんたの審美眼は素晴らしい」
商人「だが、うちでは雇えないな」
何故ッ!?
商人「あんたには学がない」
商人「せめて大学を出ていればねェ」
そうかい
もういいよ
他人に期待なんてしない
俺は俺のやりたいことをやるまでだ
〇砂漠の基地
探検家「いつまでこんなことをしているつもりだ?」
探検家「トレジャーハンターなんていずれ廃れる」
探検家「どうだ? 俺と一山当てないか?」
探検家「今にゴールドラッシュが始まる大穴さ」
探検家「あんたの観察眼があれば心強い」
お断りだよ
俺には夢があるもんでね
探検家「あんたはもう少し大人だと思っていたんだがね」
探検家「残念だよ」
どうでもいい
俺は必ずマムの農園を取り戻す
〇施設内の道
現場作業員「農園?」
現場作業員「見てのとおり工事中だよ」
現場作業員「ここはもうじき軍事演習場になる」
そうか
残念だ
俺は・・・何をやっているんだ
過去にしがみついて
マムの農園を取り戻したところで
何も取り戻せないってわかっているだろう?
〇豪華な部屋
真面目そうな好青年「過去を取り戻してほしい」
過去を取り戻してほしい?
ふざけるなよ
そんなことがまかり通るなら
俺の人生は──
ダリルたちの人生は何だったんだ
こんな依頼、受けてたまるか──
〇洞窟の入口(看板無し)
何故、俺はこんなところにまで・・・
過去は取り戻せない
死んだ人間は生き返らない
そんなこと、頭じゃわかっているのに
胸の衝動が認めちゃくれない
・・・はあ
全部、夢なら良かったのにな──
〇走る列車
「──スさん」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん」
霧生華清(きりゅうかせい)「到着しました」
キース・フォスター「・・・そうかい」
キース・フォスター「よし、出るとしよう」
〇西洋風の駅前広場
寒波の街
ナゥサ
キース・フォスター「ひとまず二手に分かれて情報収集といこう」
霧生華清(きりゅうかせい)「はい」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさん」
キース・フォスター「ん?」
霧生華清(きりゅうかせい)「やはり二人で行きましょう」
キース・フォスター「なに、問題ない」
キース・フォスター「何かあれば大声で知らせるさ」
霧生華清(きりゅうかせい)「いえ」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんが色仕掛けにやられないか 心配なので」
キース・フォスター「信用がないね」
霧生華清(きりゅうかせい)「冗談です」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんを守ると誓いましたし」
霧生華清(きりゅうかせい)「それに──」
霧生華清(きりゅうかせい)「キースさんの隣が一番安心するんです」
キース・フォスター「・・・ああ」
〇空
「そりゃまた、奇遇だね」