第七話「純愛。だよ」③ 〜半径500メートル〜【破】(脚本)
〇街の全景
この夏は例年に比べ──
雨の日が多い
〇公園のベンチ
私は子供の頃から
雨が嫌いで
〇玄関内
ガムテ「よし」
ガムテ「行きますか」
けれど
あの日から──
〇中規模マンション
私は雨の日が
嫌いではなくなったような
〇ゆるやかな坂道
それはきっと
あの人のおかげ
〇開けた交差点
そんなふうに──
ひとり
思っている
〇スーパーマーケット
夜の帳が下りたら
『合図』だ
〇スーパーの店内
ガムテ「今日こそはッ──!」
ガムテ「あぁッ!?」
おっちゃん「ミラノ風カツ丼・・・新商品か」
半額戦線の猛者
瞬発力に特化したその骨格は──
猫科動物の如き前傾姿勢に変化している
ガムテ「返せッ!」
ガムテ「私の・・・ミラノ風カツ丼!」
おっちゃん「ふんっ」
おっちゃん「嬢ちゃん」
おっちゃん「ここは戦場だぜ?」
ガムテ「えっ!」
ガムテ「あっ!?」
おっちゃん「敵は俺だけじゃねえんだぜ?」
ナオトラ「おっしゃる通り」
おっちゃん「むぅ!?」
おっちゃん(後ろ斜め45度・・・まずい!)
『45°』
それは二日酔いの角度
ガムテ「ナオトラさん!」
ナオトラ「ふふっ、こんばんは」
ナオトラ「さぁ、いきましょう!」
ガムテ「はいッ!」
〇黒
〇スーパーマーケット
「・・・・・・」
〇街中の道路
ガムテ「何の成果も──」
ナオトラ「得られませんでした」
〇ゆるやかな坂道
ナオトラ「ふふっ」
ガムテ「また笑ってる」
ガムテ「敗北したのに」
ナオトラ「楽しかったから」
ナオトラ「それに」
ナオトラ「おかげで料理の腕も上がります」
ガムテ「あぁ〜」
ガムテ「カレー粉まだ残ってたかな・・・」
〇開けた交差点
あの日から
私の世界──
この半径500メートルの世界は
〇中規模マンション
心なしか
あたたかくなった
〇おしゃれなキッチン(物無し)
そんなふうに──
ひとり
思っている
ナオトラ「ガムテさん」
ナオトラ「今日はカレー粉禁止!」
ガムテ「えぇー!?」
ナオトラ「これ買ったの」
Anyone Can Cook
ナオトラ「ふふっ、余裕です!」
ガムテ「こういう料理本って」
ガムテ「動画とか見ながらじゃないと」
ガムテ「わからなくないですか?」
ナオトラ「わかるわかる!」
ガムテ「ぅ──」
ガムテ「きょ、今日は私やりますよ!」
ガムテ「私の方がまだ食べれるモノ作れるから」
ナオトラ「手出し無用!」
ナオトラ「食レポ準備して待ってて!」
ガムテ「・・・」
〇団地のベランダ
〇高層マンションの一室
ナオトラ「参鶏湯です・・・」
ガムテ「サムゲタン・・・」
ナオトラ「全部食べて?」
ガムテ「・・・」
ナオトラ「・・・」
万能薬:カレールゥ
ガムテ「これで」
ガムテ「救われる命があるから」
ナオトラ「・・・うん」
〇中規模マンション
「え・・・ウソ・・・」
「美味しい・・・」
「次回は絶対カレー禁止ね」
〇高層マンションの一室
ナオトラ「ふむ」
ナオトラ「まずい」
ガムテ「どんな味でした?」
ナオトラ「『苦汁(にがじる)』」
ナオトラ「って感じですね」
ナオトラ「ガムテさんの人生が凝縮されたような」
ナオトラ「陰惨な味がしました」
ガムテ「でしょうね」
ガムテ「それ」
ガムテ「青汁ですから」
ナオトラ「!?」
ガムテ「やーい、バカ舌」
〇団地のベランダ
「どうしてだよぉぉぉぉぉッ──!!」
「冗談ですってぇ──!!」
〇高層マンションの一室
ナオトラ「はい」
ナオトラ「仲直り」
仲直りの肉まん
ガムテ「自分は私のこと──」
ガムテ「好き放題ディスるくせに」
ナオトラ「え?」
ナオトラ「見たままを口にしてるだけですが?」
ガムテ「もういいですよ、それで」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「またディスろうとしてる?」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「ナオトラさん?」
ナオトラ「恋人は、いるの?」
ガムテ「えっ!?」
ガムテ「ちょ、え・・・」
ガムテ「なんですか・・・急に・・・」
ナオトラ「恋人・・・ですよ」
ナオトラ「そういう人は・・・いるんですか?」
ガムテ「あ・・・えと・・・」
〇並木道
恋人・・・
〇高層マンションの一室
ガムテ「・・・」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「あ・・・」
ナオトラ「ご、ごめんなさい」
ナオトラ「変なこと聞いちゃって」
ナオトラ「怖いよね?」
ガムテ「えっ」
ガムテ「いや、その・・・」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「あっ、そろそろ帰らないと」
ガムテ「え、もう?」
ナオトラ「うん」
ナオトラ「明日、早いの忘れてました」
ガムテ「そう・・・ですか」
〇中規模マンション
〇開けた交差点
ナオトラ「ありがとうございます」
ナオトラ「いつも送ってくれて」
ガムテ「いえいえ」
ガムテ「・・・ちょっと早かったですね」
ガムテ「タクシーまだ来てないや」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「ねえ、ガムテさん」
ガムテ「はい?」
ナオトラ「乗りませんか?一緒に」
ガムテ「え?」
ナオトラ「タクシー」
ガムテ「へっ?」
ガムテ「ナオトラさん・・・」
ナオトラ「わっちね、すごく楽しいんです」
ナオトラ「ガムテさんと──」
ナオトラ「あの家で一緒に過ごすと」
ガムテ「・・・」
ナオトラ「特別なことなんてなくても」
ナオトラ「どうして」
ナオトラ「こんなに楽しいんだろう。って」
タクシー(高いやつ)
ガムテ「あっ」
ナオトラ「だから」
ナオトラ「わっちの家でも──」
ナオトラ「ガムテさんと過ごせたら・・・きっと」
ガムテ「ナオトラさっ──」
踏み出そうとした足は──
半歩
たったそれだけで止まった
〇白
半径500メートル
一歩。踏み出してしまえば
その先は──
〇並木道
大切な思い出が──
ひとつも見当たらない
真っ暗な世界
〇開けた交差点
ガムテ「・・・」
ナオトラ「ガムテさん・・・」
ガムテ「よしてくださいよ〜」
ナオトラ「え?」
ガムテ「ナオトラさんのお家」
ガムテ「きっとすごいんだろうな」
ガムテ「億ションの〜、最上階の〜」
ガムテ「社長さんって感じでしょ!」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「なんか、いっぱいディスられそうだし」
ガムテ「今日はもう、これ以上ディスられたら──」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「うん・・・わかった」
ガムテ「あ・・・」
ナオトラ「ごめんなさい」
ナオトラ「今日は・・・変なことばかり言って」
ガムテ「ナオトラさん──」
ナオトラ「おやすみなさい」
ガムテ「あ・・・」
〇黒
ナオトラ「恋人は・・・いるの?」
ナオトラ「大切な人は──」
ナオトラ「いるんですか?」
〇開けた交差点
ガムテ「大切な人・・・」
着信 1件
ミオ
ガムテ「えっ」
ガムテ「・・・ミオ?」
〇洋館のバルコニー
〇黒