耽美のアルテ

胡林

第六話「純愛。だよ」② 〜半径500メートル〜【序】(脚本)

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〇黒
ナオトラ「愛の帳」
ナオトラ「下りる刻──」
ナオトラ「純愛のパワー」


〇渋谷の雑踏
  うん・・・
  わかってる・・・

〇駅のホーム
  わかってるけど・・・

〇雑踏
  他に・・・
  誰もいなくて・・・

〇洋館のバルコニー
ミオ「ガムテ」
ミオ「私たちもう──」
ミオ「別れたのよ?」
  ごめん・・・
  寂しいんだ・・・
ミオ「・・・」
ミオ「ガムテ」
ミオ「あなただって、気づいているはず」
ミオ「グラスに注がれたカクテル(恋)は──」
ミオ「飲み干してしまった」

〇高層マンションの一室
  もう2度と
  同じ物は味わえないわ
ガムテ「・・・」
  ガムテにもきっと──
  いい人が──
ガムテ「・・・そう、だね」
ガムテ「うん」
ガムテ「おやすみ」
ガムテ「・・・」
ガムテ「はぁ」
「何も見たくないやぁ」
  けど
  この沈黙が辛くて──
  何か気を紛らわせないと

〇撮影スタジオ
  経済トークバラエティ
  『カンブリア神殿』
司会者「本日のゲストはこの方ぁ〜」
  タイラ・ノ・ナオトラ
  カマクラ商事の新社長だぁ
司会者「ようこそお越しくださいました」
ナオトラ「いえ、こちらこそ」
ナオトラ「お招きいただき光栄です」
司会者「素敵な髪型ですね」
司会者「セットに半日かかるやつだぁ」
ナオトラ「3日かかります」
司会者「!?」

〇高層マンションの一室
「さぞや充実した毎日でしょうね」
「仕事に恋に──」
ガムテ「・・・」
ガムテ「羨ましい」
  きっと
  人生楽しいだろうな
ガムテ「あっ」
  そういえば
  今日は朝から何も食べてないんだ

〇おしゃれなキッチン(物無し)
ガムテ「あ・・・」
ガムテ「何も無いや」
ガムテ「はぁ」

〇中規模マンション
  会社を辞めてから──
  もう3ヶ月になる

〇開けた交差点
  仕事だけが取り柄だったのに──
  恋人のミオと別れてから
  全てがどうでもよくなって

〇渋谷の雑踏
  前に進まないと
  そう思えば思うほど──
  私は後ろばかり振り返ってしまう

〇街の全景
  家からの距離
  半径500メートル
  それが、今の私にとって
  世界の全てだった


〇スーパーマーケット

〇スーパーの店内
ガムテ「うぉぉ」
ガムテ(ちょっと遅かったかな)
  18時30分
  20時閉店のスーパーに於ける
  お弁当、お惣菜の
  半額値下げシールが貼られる時間帯である

〇白
  焼きそば (男の塩味) 67円

〇スーパーの店内
ガムテ「あったー!」
ガムテ「よし、今夜のご飯ゲット!」
ガムテ「あっ」
  私の手が触れたのは──
  焼きそばではなく
ナオトラ「あっ」
  女性の手だった
ガムテ「すみませんっ」
ナオトラ「こちらこそ」
ガムテ「あっ」
ガムテ(この髪型・・・)
ガムテ「・・・」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「・・・」

〇開けた交差点
ガムテ「はぁ」
ガムテ「あの人・・・テレビで見た」
ガムテ「なんで逃げたんだろ、私」
ガムテ「本当に情けない」
「もし!」
ガムテ「え?」
ナオトラ「あの・・・」
ナオトラ「どうぞ、コレを──」
ガムテ「えぇ?」
ガムテ「えっと・・・?」
ナオトラ「わっちが横取りしてしまったから──」
ナオトラ「申し訳なくて」
ガムテ「いやいや」
ガムテ「お気になさらず」
ナオトラ「あなたを見て、素直に思いました」
ナオトラ「経済的にも、精神的にも」
ナオトラ「見るからに困窮していそうで──」
ナオトラ「『かわいそうだな』って」
ガムテ「・・・は?」
ナオトラ「ね、だからコレを」
ガムテ「あぁ、そうですか」
ナオトラ「えっ!?」
ナオトラ「ちょ、あのっ!」

〇開けた交差点
ガムテ「なんて失礼なっ!」
ガムテ「・・・」
  『かわいそう』
  そう思って欲しくて──
  別れた恋人に慰めてもらおうとして
  こんなにも情けないくせに
  なんで腹を立ててるんだろう
「もし!」
ガムテ「え?」
「あ゛ぁ゛ッ!」
ガムテ「うわっ」
ガムテ「コケてるぅ」
ガムテ「・・・」
ガムテ「いい気味」
ガムテ「・・・」
ガムテ「はぁ」
ガムテ「・・・」
ナオトラ「いったたぁ」
ガムテ「大丈夫ですか?」
ガムテ「お怪我は?」
ナオトラ「あぁ、すみません」
ナオトラ「大丈夫っ」
ナオトラ「いっ!」
ガムテ「擦りむけちゃってますね」
ガムテ「これを・・・」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「よし」
ガムテ「後で、消毒した方がいいですよ」
ナオトラ「え、あぁ」
ナオトラ「ありがとうございます・・・」
ガムテ「それでは」

〇開けた交差点
ガムテ「うわわ!」
ガムテ「急に雨の勢い・・・」
ナオトラ「ふふっ」
ナオトラ「ビショ濡れ」
ナオトラ「ぺぷしっ」
ガムテ「あっ」
ナオトラ「さぶぅ」
ガムテ「・・・」

〇団地のベランダ

〇部屋の扉
「着替え、置いておきますね」
ガムテ「って」
ガムテ「何してんだろ、私」

〇高層マンションの一室
ガムテ「さすがにやりすぎかも」
ガムテ「お風呂まで──」

〇中規模マンション
「えぇっ」
「頼んでないけど・・・」

〇高層マンションの一室
  既視感のあるダンボール
ガムテ「ネットスーパー?」
ガムテ「んん〜?」
「はぁ〜、あったまったぁ」
ナオトラ「お風呂、頂きました」
ナオトラ「狭くて、ちょっと汚かったけど」
ガムテ「っ!?」
ナオトラ「着替えまで貸してくださって」
ナオトラ「スタイルに差がありすぎるから──」
ナオトラ「ちょっと胸が窮屈だけれど」
ガムテ「ぅ・・・」
ナオトラ「ありがとうございます」
ガムテ(悪気はない・・・と思いたい)
ガムテ「あの、ナオトラさん」
ナオトラ「はい?」
ガムテ「これ」
ガムテ「注文しました?」
ナオトラ「届いてたのね」
ナオトラ「はい。わっちが頼んだものです」
ガムテ「えっと、配達先を間違えてませんか?」
ガムテ「ご自分の家に届けるはずでは?」
ナオトラ「いいえ」
ナオトラ「ここでいいんですよ」
ガムテ「んん?」
ナオトラ「お礼です」
ナオトラ「わっち。天下のナオトラが──」
ナオトラ「手料理。振る舞って進ぜます」
ガムテ「ええっ!?」
ナオトラ「ふふっ」
ナオトラ「”腹ペコ・ぶさカワ犬”みたいな顔」
ナオトラ「『待て!』です」
ガムテ「えぇ・・・」

〇団地のベランダ

〇高層マンションの一室
ナオトラ「カレーです」
ガムテ「はぁ・・・」
ナオトラ「わっちは食べないので」
ナオトラ「全部食べて?」
ガムテ「えぇ〜」
ガムテ「いただき──」
ガムテ「あっ、そうだ」
ナオトラ「?」
ガムテ「カレー粉かければ」
ガムテ「なんでも美味しくなるはず」
ナオトラ「カレーですけど?」

〇中規模マンション
「あっ!正解!」
「カレー粉は正義でした」
「ナオトラさんも食べて!」
「カレーですけど?」

〇団地のベランダ

〇おしゃれなキッチン(物無し)
ナオトラ「綺麗に洗えました」
ナオトラ「ツルピカ」
ガムテ(大企業の社長さんに──)
ガムテ(皿洗いさせちゃった)
ナオトラ「ふふっ」
ガムテ(でも、なんだか楽しそう)
ガムテ「ナオトラさん」
ナオトラ「はい」
ガムテ「コーヒー淹れましょうか? (カフェインレス)」
ナオトラ「あぁ〜」
ナオトラ「わっちが知っているコーヒーから見れば」
ナオトラ「ただの『黒い液体』でしょうけど」
ナオトラ「いただきます」
ガムテ「・・・はぁ」
ガムテ(悪気は・・・あるなきっと)

〇高層マンションの一室
ナオトラ「ん」
ナオトラ「まずい」
ガムテ「そりゃまあ」
ガムテ「ただの黒い液体ですから」
ナオトラ「ふふっ」
ナオトラ「でも、なんだか楽しいですね」
ガムテ「・・・」
ナオトラ「ん?なにか?」
ガムテ「いえ」
ガムテ「羨ましいなって」
ナオトラ「え?」
ナオトラ「美人だから?」
ガムテ「そこは平均かな」
ナオトラ「え?」
ガムテ「楽しそうに笑うから」
ガムテ「人生楽しんでるからなんだろうなって」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「羨ましい・・・」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「わっちだって・・・」
ガムテ「え?」
ナオトラ「あっ」
ナオトラ「わっちだってね、色々あるんですよ?」
ナオトラ「嫉妬される苦労・・・ね!」
ガムテ「ははっ」
ガムテ「羨ましいです」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「・・・ふふっ」
ナオトラ「そうでしょ?」
ガムテ「はい」

〇中規模マンション

〇ゆるやかな坂道
ガムテ「雨、小降りになってよかったですね」
ナオトラ「ええ」
ナオトラ「でも、ゲリラ豪雨に感謝してます」
ガムテ「?」
ナオトラ「おかげで楽しかった」
ナオトラ「今日はすごく」
ナオトラ「楽しかったです」
ガムテ「そうですか」
ナオトラ「はい」

〇街中の道路
ガムテ「ナオトラさん」
ガムテ「その髪型」
ナオトラ「変ですか?」
ガムテ「似合ってます」
ガムテ「そっちの方がいいですよ」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「そう・・・ですか?」
ガムテ「はい」
ナオトラ「・・・」

〇開けた交差点
  タクシー(高いやつ)
ナオトラ「ありがとうございます」
ナオトラ「送っていただいて」
ガムテ「いいえ」
ナオトラ「・・・」
ガムテ「どうしました?」
ナオトラ「また・・・」
ナオトラ「また、わっちと・・・」
ガムテ「え?」
ナオトラ「・・・」
ナオトラ「ふふっ」
ナオトラ「また、半額惣菜の争奪戦」
ナオトラ「参加しようかな」
ガムテ「私は明日も参戦しますよ」
ナオトラ「ほんと?」
ガムテ「無職ですからね」
ガムテ「生命線です」
ガムテ「・・・」
ガムテ(情けなぁい・・・)
ナオトラ「じゃあ、また会える」
ガムテ「?」
ナオトラ「ふふっ、おやすみなさい」
ガムテ「おやすみなさい」
ガムテ「・・・変な人」
ガムテ「あはは」
ガムテ「あ・・・」
ガムテ「私・・・笑ってる」
  何を見ても──
  笑うことなんてできなかったのに
ガムテ「ナオトラさんのおかげ・・・?」
  ちょうど、いま
  私の立つこの場所が──
  家からの距離
  ”半径500メートル”

〇車内
ナオトラ「・・・」
  ナオトラさんは──
  500メートルより先へ

〇開けた交差点
  私の住む世界とは──
  違う場所へ
ガムテ「・・・」

〇街の全景
  ”破”へ続く──

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