その『少女』は渋谷にて(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
蒼「お母さん! お姉ちゃんのお洋服貸して!」
蒼の母「あらあら、また? そろそろ「男の子っぽい」ものを······」
蒼「いいの! 早く貸してったら!」
蒼の母「······」
昔から、『可愛い』が好きだった。
キラリと光るハートのアクセサリーや、
ふんわりと風に優しく靡くスカート。
蒼「うん、やっぱり『可愛い』!」
どれもみんな、僕の『可愛い』の対象だ。
僕は、これで良いんだと思っていた。
好きなものを何の恥ずかしげもなく好きと言える世の中だと、純粋に、ただただ単純にそう信じ込んでいたのだ。
しかし、それは小学生に上がった頃だった。
蒼の母「どうしましょう あの子、まだ「女の子っぽい」ものが好きなの。もう小学生になるのに·······」
蒼の父「······まだ好きなのか。 でも周りを見てそろそろ気づくだろう、自分が「普通」とは違うってことに」
蒼の母「そうだと良いんだけど······ やっぱり、あの子は「変」だわ」
偶然聞いてしまった両親の会話により、僕が「普通」じゃないということを知った。
僕の『可愛い』は「変」。
「女の子っぽい」ものが好きなのは「普通」じゃない。
泣いている母と困った表情の父。
これ以上両親を失望させたくなかった。
だから······
〇黒
僕は、『可愛い』を閉じ込めた。
〇おしゃれなリビングダイニング
それからというもの、僕の口から『可愛い』が無くなり心底安堵したような両親。
もう二度と、「普通」じゃない子供にならないよう口癖のように「男の子っぽく」と僕に言い聞かせた。
蒼「あ、お姉ちゃんの服だ······『可愛い』」
蒼の母「ちょ、ちょっと蒼 何見てるの?まさかその服······」
蒼「いや、違うよ ただ懐かしいなぁって思ってただけ」
蒼の母「そう、良かったわ 良い?男の子は「男の子っぽく」よ」
蒼「そう······だね」
「蒼〜? ちょっとおつかい頼まれてくれない?」
蒼「あ、お姉ちゃん······ お姉ちゃんのとこ行ってくるね」
僕の『可愛い』はいつまで閉じ込められたままなのだろうか。
〇SHIBUYA109
蒼「わぁ、渋谷って初めて来た······ 人が沢山いて賑やかな街だなぁ」
姉におつかいを頼まれ、渋谷で買い物を済ますことにしたがその人の多さと建物の大きさに驚いた。
蒼(これだけ大きい建物が並んでるんだから、買い物なんてすぐ終わるはず 早く買って早く帰ろう)
蒼「最先端の流行やファッション、音楽、若者文化の街となっている······か」
事前に渋谷について調べていたが周りを見渡す限りその説明はあながち間違ってはいないことが分かる。
蒼「あの人、髪の毛がめっちゃ紫色······· あの人のリップは青色だ」
だけど······
たとえ渋谷だとしても、男の僕が『可愛い』を身につけていたら悪目立ちしちゃうかもしれないな。
〇渋谷のスクランブル交差点
蒼「······!」
蒼(今の······男性?だよね 一見女性に見えたけれど体型を服でカバーしているんだ!)
蒼「すごい!『可愛い』」
よく見れば男性だと誰もが分かるはずなのに、周りの人は一切気にしていない。
そして、その人も周りの目を気にせず堂々と前を見据えて歩いている。
ここなら、渋谷なら僕も······
蒼「『可愛い』を好きで良いのかな?」
高鳴る胸がおさえられなかった。
まるで奥底にしまわれていた宝物が何かの拍子にスっと出てきたような······
〇渋谷のスクランブル交差点
数年後
蒼「〜♪」
通行人「わぁ! すごい『可愛い』·······!」
通行人「······!」
最先端の流行やファッション、音楽、若者文化の街、渋谷。
好きを全身で表せる街、渋谷。
僕は······
『私』はこの街で、
好きと一緒に生きていくことを決めた。
しがらみに囚われず
好きなものを自由に表現出来る
この街が、自分が、
蒼「最っ高に『可愛い』!」
好きに生きる姿が本当にイキイキとしていて素晴らしいですね✨男の子だろうと、女の子だろうと、可愛いものは可愛い、好きなもの。そこには性別も何も関係ないのだと思います😌
いろんな人を受けいれてくれる街、それが渋谷の良さだなと思いました!誰が普通じゃなきゃダメなんて決めるんだろう、この子は自分に正直になれてよかった!
蒼くんが渋谷に着いて希望を持つところ、読んでいてワクワクしました。蒼くんがたまたま見かけた人から自由を受け継いだように、彼もまた誰かにそれを渡して、渋谷は人々が作る希望の街であり続けるのだという明るい感覚を抱けました。いつか蒼くんのご両親のような、身近で心配している人たちにも、そのままで大丈夫だと思える日がくるといいですね。