リアル・ミー!(後編)(脚本)
〇怪しげな酒場
宍倉銃砲店
綾「・・・」
綾「・・・」
宍倉「銃、分解終わったよ」
綾「ありがとうございます」
綾「すみません」
宍倉「なにが?」
綾「期待に応えられなくて」
宍倉「まあ、他の奴らは残念がるだろうが・・・」
宍倉「俺はカミさん一筋だからな。わっはっは」
綾「・・・」
宍倉「慣れねえ冗談は言うもんじゃねえか」
宍倉「はいよ」
綾「お、奥さん一筋じゃ・・・」
宍倉「違う」
宍倉「中に撃針が入ってる」
宍倉「銃を分解した時に記念に持って帰るんだ」
綾「記念・・・」
綾「私にとっては『お骨』みたいなものでしょうかね?」
宍倉「お互い、冗談は向いてないな」
綾「何でしょうね。この、言えば言うほど痛々しくなる感じ」
綾「この撃針、大切にします。きっとこれは」
綾「私の弱さの証だから」
宍倉「同時に強さの証でもある」
綾「・・・え?」
宍倉「弱さを認める。それは立派な強さだ」
宍倉「生きぬいてゆく、強さだ」
綾「適者生存・・・ですね」
宍倉「ああ。俺達猟友会も強くならないとな」
あるてみす主催第一回狩猟講座参加者募集
宍倉「イチから勉強しなおしだ」
綾「皆さんのプライドを傷つけないよう、東京から立派な講師さんをお招きしました」
綾「勿論姫子さんも辻さんも不参加みたいです」
宍倉「アイツらが偉い先生にモノ教わるタマか」
宍倉「あれから会ってるのか?」
綾「いえ。どんな顔して会えばって感じだし。それに・・・」
綾「これが私の、ここでの最後の仕事になると思うんで」
宍倉「・・・」
綾「今まで私は目を背けてました」
綾「目を逸らして理屈ばかりで」
綾「だから姫は凄いです。あの獣の目を美しいと思えるなんて」
宍倉「どうだろうな・・・」
綾「え?」
???「・・・」
宍倉「いらっしゃい」
???「フェデラルのサボッド弾、入った?」
宍倉「20番の3インチならな」
???「それでいいよ」
???「・・・」
綾「・・・こ、こんにちわ」
???「・・・」
???「ねえ、トラップの講座とかしないの?」
綾「罠ですか?今のところは・・・」
綾「ご興味、おありですか?」
???「鉄砲だけが害獣退治じゃないからね」
綾「た、確かに」
宍倉「はいよ」
???「はいよ」
宍倉「チッ、現金持ち歩けよ」
宍倉「この町でお前だけだぞ。カードだのスマホだので払うヤツ。嫌がらせか」
???「そんな事だから生き残れないのよ」
???「もっとも人には向き不向きってやつがあっから、しゃあねーか」
???「がっはっはっは!」
宍倉「女が大口開けて笑うもんじゃねえ」
???「・・・」
綾「・・・」
???「一緒に習う?トラップ」
綾「考えておきます」
???「まあ、向き不向きあっからね。無理強いはしねーよ」
???「じゃーな。オッサン」
宍倉「誰がオッサンだ」
綾「豪快ですね。あんな女の人もこの町にいたなんて」
綾「あの人もハンターさんですか?狭い町なのに会わないものですね」
宍倉「・・・?」
宍倉「姫子じゃねえか」
綾「・・・」
宍倉「・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
綾「ええええええええええええええええええ?」
綾「だ、だ、だだだだだだ・・・」
宍倉「『だ』が多い」
綾「だってオカッパじゃないですか!」
綾「一重じゃないですか!」
綾「イモジャーじゃないですか!」
宍倉「だから、いつも無理してんのさ。きっと」
宍倉「強く、美しい獣でいるためにな」
綾「・・・」
宍倉「俺に言わせりゃ、狼じゃなくて」
宍倉「『馬』か『鹿』だよ」
綾「・・・」
宍倉「最後の仕事って言ったか?」
宍倉「綾ちゃんの人生だ。それでもいい。ただ」
宍倉「綾ちゃんは姫子とは違う姿で、俺らの町と俺らの山で生きていける気がする」
宍倉「銃は向いてなくてもな」
宍倉「少なくとも姫子はそれを望んでる」
綾「姫子さんが・・・」
宍倉「これからもアイツの友達でいてやってくれ」
宍倉「たった一匹で頂に立つ狼の、友達に」
宍倉「ああいや、馬だか鹿だかの友達だ。ははっ」
綾「狼の友・・・」
綾「罠の勉強、か」
綾「恋は五年目、仕事は三年目、銃は一年目」
綾「罠は・・・1分目。なんちゃって」
〇森の中
市の職員「じゃあ。宜しくお願いします」
市の職員「いやいや。いつもすみませんね」
姫子「離れて下さい」
姫子「・・・」
市の職員「大神さんの腕は確かですからね~」
姫子「危ないんで下がってください」
市の職員「この鹿も運がいいですよね。ジビエの姫に送ってもらえれば苦しまずに・・・」
姫子「邪魔だから引っ込んでろっつってんだよ!」
市の職員「す、すみません。お願いします」
姫子「・・・」
姫子「・・・」
姫子「・・・」
『強くなりたいんです!』
『強く、美しく生きたいんです!』
姫子「そうね」
姫子「キミのように。強く。美しく」
〇空
Tobe!