第3話 心はいつもバンを探して(脚本)
〇洋館の廊下
城の廊下──
ロイド様にエスコートされ、パーティー会場へと向かう。
エリカ(バン・・・)
〇大広間
ギィィ──
会場に足を踏み入れると、皆の視線がこちらに集中した。
ロイド「笑え。嘘でもいいから。 今夜は、お前のパーティーなんだ」
エリカ「え、ええ・・・」
エリカ(笑わなきゃ・・・ きっと、バンも見ているはずだから)
私はキョロキョロとバンを探した。
エリカ(バンはどこ・・・?)
やがて会場にはワルツが流れ始める。
ジャック「プリンセス、 ファーストダンスはどうか私と」
エリカ(バンがいないなら、ダンスも踊りたくない。 でも・・・)
エリカ「ええ、お願いいたします」
滅多に使わないカーテシーでお辞儀をする。
ジャック様の手をとり、バンの為に覚えたステップを踏む。
ジャック「とてもお上手ですね」
密着しているジャック様の言葉は耳に入らない。
エリカ(バンはどこなの・・・?)
キョロキョロと会場を見回す。
貴族「とってもお似合いだ」
貴族「ええ、うっとりしてしまうわ」
聞こえるのはそんな声ばかりで、
バンの姿はどこにも見えない。
ジャック「どうもありがとうございました、 プリンセス」
やがて曲が終わると、ジャック様はうやうやしくお辞儀をする。
ロイド「次のダンスは、私が」
エリカ「ええ・・・」
ロイド様に体を密着させると、彼はため息をついた。
ロイド「笑っていろと言っただろう」
ロイド「パーティーの主役は、お前なんだから」
エリカ(分かってる、わかってるけど・・・)
やがて2曲目も終わると、私はロイド様に口早に伝えた。
エリカ「私、少し疲れてしまったわ」
エリカ「休憩させてくださるかしら・・・」
エリカ(バンがいないなんて、耐えられない)
私は中庭へと逃げ出した。
ロイド「エリカ・・・」
〇華やかな裏庭
エリカ「バン・・・どこに行ってしまったの?」
その小さな独り言は、夜の風がかき消していく。
エリカ(きっと帰ってしまったんだわ・・・)
エリカ(私、バンと一緒ならって思ったのに・・・)
『私を王宮に連れてくる』
それが目的なら、バンは今ごろお屋敷に戻っているかもしれない。
エリカ(はぁ、私・・・まんまとはめられたのね)
???「プリンセス、こちらでしたか」
ジャック「泣いていらしたのですね」
エリカ「・・・」
ジャック「お気持ち、お察しいたします」
ジャック「いきなり王宮に連れてこられた上、 私か兄かを選べだなんて──」
ジャック「──無理な話ですよね・・・」
エリカ「・・・」
ジャック「泣きたいのなら、どうぞ このジャックが胸をお貸しいたします」
そう言って両手を広げたジャック王子。
エリカ(ジャック様はお優しいのね。 もし、その胸に飛び込んで泣いたら──)
エリカ(少しは気分も晴れるのかしら・・・)
???「抜け駆けとは、感心しないな」
ジャック「兄貴・・・」
ジャック「僕はただプリンセスを想って・・・」
ジャック「・・・僕はこれで失礼するよ」
ジャック「また後で、プリンセス」
ロイド「今夜は星が綺麗だな」
ロイド様にそう言われて、空を見上げた。
〇宇宙空間
涙で滲んだ空は、星が何重にも重なって見えた。
〇華やかな裏庭
ロイド「ふっ」
エリカ「え?」
ロイド「いや、そういう顔も出来るんだなと思って」
ロイド「まあいい。 落ち着いたら戻ってこい」
ロイド「主役がいないと、 パーティーも意味がないからな」
エリカ「ええ・・・」
ロイド「ああ、それから──」
ロイド「後で話がある。 部屋で待っていろ」
私が返事をする前に、ロイド様はパーティーに戻ってしまった。
エリカ(くよくよしてても仕方ないわ・・・)
エリカ(今は、もう少しだけ頑張るから・・・)
私はもう一度、空を見上げた。
〇宇宙空間
「だから、戻ってきて・・・バン」
私はそっと呟いて、
華やかなパーティー会場へと戻った。
〇大広間
それから私は、
張り付けた笑顔で挨拶に回った。
〇城の客室
部屋に戻ると、慣れない人混みとお酒のせいか、急に眠気がやって来る。
エリカ(バンがいれば、「お疲れさまでした」って 笑いかけてくれるのに・・・)
エリカ(それだけで、 疲れなんて吹き飛ぶのに・・・)
真っ暗なままの部屋の中、
冷たいものが頬を伝う。
エリカ(もう、寝てしまおう・・・)
そのままベッドにダイブすると、枕に頭を押し付けた。
エリカ(会いたいよ・・・バン)