決戦の日

危機綺羅

決戦の日(脚本)

決戦の日

危機綺羅

今すぐ読む

決戦の日
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇戦線のテント
勇者(──思えば、長い旅だった)
勇者(あとは魔王を倒すだけだ。どんな結果にしろ、明日で終わる)
勇者(緊張で眠れそうにない・・・二人はもう眠っただろうか?)
「戦士さん・・・準備は・・・」
勇者(僧侶の声? ・・・二人とも、起きてるのか?)
僧侶「勇者様にはバレてませんよね?」
戦士「もちろんだ。ここでバレたら台無しだからな」
僧侶「なんとか隠し通してきたんですから、明日まで気を抜かないようにしましょう」
戦士「ああ、勇者の驚く顔が目に浮かぶぜ・・・」
僧侶「それじゃあ、そろそろ寝ましょうか」
戦士「そうだな。勇者が起きてきたら大変だし」
勇者(やっぱり、そうなんだな・・・)

〇森の中
魔物「・・・」
勇者「──戦士? 誰と話してたんだ?」
戦士「うおっ!? え、いや・・・独り言だよ!」
勇者「いや、確かに誰かいたと──」
戦士「気のせいだって・・・ほら、僧侶も待ってるし戻ろうぜ!」

〇戦線のテント
僧侶「──順調です。このままいけばきっと」
勇者「僧侶?」
僧侶「え? ゆ、勇者様・・・起きてたんですね・・・」
勇者「今の魔力は──交信石を使ってたのか? こんな夜中に誰と・・・」
僧侶「これは、その・・・なんでもないんです」
勇者「なんでもないって、そんな・・・」
僧侶「あ、明日に響きますから! おやすみなさい!」

〇戦線のテント
勇者(──分かっていたさ)
勇者(ずっと一緒に旅をしてたんだ)
勇者(二人はもう・・・頼りにできない・・・)
勇者(さよなら──)

〇謁見の間
魔王「この城に侵入した人間は数えきれないが・・・」
魔王「一人で来たのは貴様が初めてだな」
魔王「仲間はどうした? 報告ではもう二人いるはずだが?」
勇者「お前が一番知っているはずだ」
勇者「僕に仲間はいない」

〇武術の訓練場
勇者「でりゃぁあああ!」
「素晴らしい太刀筋だ・・・」
「この年齢でここまでとは・・・さすが勇者様だな・・・!」

〇謁見の間
勇者「お前を倒す。その使命を背負った時から・・・」

〇大樹の下
子供「──おい、こっち来てみろよ!」
子供「なになに!?」
勇者「・・・」

〇謁見の間
勇者「僕はずっと、一人だったんだ」

〇児童養護施設
戦士「──なんで一人で行こうとするんだよ?」
戦士「世界を平和にするなんて、夢があるじゃねえか!」
戦士「俺にも手伝わせろよ!」

〇田舎の教会
僧侶「──ちょっと、まだ傷が治ってないじゃないですか!」
僧侶「どうしても行くなら、私も行きます」
僧侶「・・・勇者様のこと、放っておけませんから」

〇謁見の間
勇者「・・・」

〇武術の訓練場

〇戦線のテント

〇謁見の間
勇者「──お前を倒して、こんな使命は終わらせてみせる!」
「待ってください!」

〇謁見の間
僧侶「間に合ってよかった・・・」
戦士「まったく、俺たちを置いていくなんて無茶し過ぎだぜ!」
勇者「二人とも・・・!」
勇者「──なにしに来たんだ!?」
僧侶「なにって、そんな・・・」
勇者「もう分かってる。二人は魔王軍と通じていたんだろ?」
戦士「・・・知ってたのか」
勇者「否定、しないんだな・・・?」
僧侶「言い訳はしません。この計画には、魔王の協力が必要不可欠でしたから」
戦士「僧侶、やるんだな?」
僧侶「はい。始めましょう──」

〇黒背景
勇者(──光が!?)
勇者(光源を消した? まずい、これじゃどこから攻撃がくるか・・・!)

〇謁見の間
僧侶「ハッピーバースディ、トューユー」
戦士「ハッピーバースディ、ディア・・・」
「勇者(様)ー!」
「ハッピーバースディ、トューユー!」
勇者「・・・え?」
僧侶「勇者様、二十歳の誕生日おめでとうございます!」
戦士「いやぁ、サプライズ大成功だな!」
魔王「まったく、焦らせるでない・・・」
魔王「なんとか会話を繋いだが・・・我にアドリブをさせるな・・・」
僧侶「こっちも焦ったんですよ? 起きたら勇者様がいないんですから!」
戦士「ここまで走ってきたからな。服がびちょびちょだぜ・・・」
魔王「我だってほら、冷や汗で服が──」
戦士「いや、服着てないじゃん!」

〇謁見の間
勇者「なんで和気あいあいとしてるんだー!?」
僧侶「どうしたんですか? あ、いちごケーキは好みじゃなかったとか・・・」
勇者「そうじゃない! どういうことだ? 僕の誕生日!?」
戦士「おいおい、なに驚いてんだよ。今日はお前の誕生日だろ?」
勇者「驚くだろ!? 誕生日以前に魔王との決戦なんだぞ!」
戦士「そんなことより、産まれたことに感謝することが優先だろ!」
勇者「そんなこと!? 産まれた時からの使命なのに!?」
僧侶「それです、勇者様!」
勇者「え? ど、どれ?」
僧侶「勇者様は産まれた時から、魔王討伐の使命を背負っていました」
僧侶「物心ついた時から、訓練に明け暮れる日々だったと聞いています」
勇者「そ、そうだよ。だから魔王を倒して、こんな使命を終わらせようと・・・」
僧侶「そのせいで、まともに誕生日を祝われたことがないとも、おっしゃっていました」
勇者「・・・あの、それで?」
僧侶「──せめて、二十歳の誕生日は盛大に祝おうと決めてたんです!」
勇者「気持ちは嬉しいけど、時と場合を考えてくれよ!」
勇者「魔王との決戦なんだよ! 使命が終わってから祝えばいいじゃないか!」
僧侶「今日ぐらい、使命を忘れて楽しんでほしくて・・・」
勇者「決戦なの! 今日だけは忘れちゃダメなの!」

〇謁見の間
魔王「──そう責めてやるな。勇者よ」
勇者「ま、魔王・・・そうだ、なんでお前も協力してるんだ!?」
魔王「仕方ないだろう。娘の恋人の頼みだ」
勇者「・・・娘の恋人?」
戦士「ああ、俺がお義父さんに頼んだんだ」
魔王「ま、まだ矮小な人間からお義父さんと呼ばれる筋合いは・・・」
勇者「どんどん知らない関係が出てくる!」
勇者「──僧侶が交信石を使ってたのは!?」
僧侶「魔王城への到達と、勇者様の誕生日が重なるように調整してもらってたんです」
魔王「なかなか大変だったぞ・・・調整するために地形を変えたり・・・」
勇者「めちゃくちゃ計画的じゃないか!?」
僧侶「使命を最も意識するのは、それを達成する時・・・」
僧侶「そんな時に忘れるほど楽しめれば、きっと素敵な誕生日なると思ったんです!」
勇者「だから、忘れちゃダメな時なんだって!」
勇者「──ようやく、ようやく使命が終わると思ったのに」
勇者「魔王とは和解してて、すでに使命に意味がなかったなんて・・・」
魔王「安心しろ、勇者よ。なにもお前の使命がなくなったわけではない」
勇者「え?」
魔王「この平和協定は、貴様が二十歳の誕生日を終えるまでのものだ」
魔王「明日になれば、我と貴様は敵同士になる。そこで決着を着けようではないか」
勇者「魔王・・・!」
勇者「──わかった。今日だけは使命を忘れて、誕生日を楽しむことにするよ」
僧侶「勇者様・・・!」
勇者「ありがとう、みんな! 今日はきっと、忘れられない日になるよ!」

〇謁見の間
  そして、一晩が経ち・・・

〇謁見の間
勇者「魔王・・・誕生日の件は感謝する」
勇者「人生で一番楽しい時だった。本当に、使命を忘れてることができた」
勇者「──僕たちは、和解できないのか?」
魔王「それをするには血を流し過ぎた」
魔王「もしあるとすれば、象徴たる我の死をもって成す時のみ・・・」
戦士「お義父さん・・・」
魔王「矮小な人間よ──娘を頼むぞ」
戦士「・・・ああ、任せてくれ!」
魔王「──さあ、馴れ合いの時間は終わりだ」
魔王「勇者よ、背負った使命を終わらせてみせろ!」

〇黒背景
魔王「──なんだ!?」

〇謁見の間
魔物「ハッピーバースディ、パパ」
魔王「──なん、だと?」
勇者「その子から聞いたよ。魔王、今日はお前の誕生日だ」
魔王「しかし、今日は貴様らとの決着が・・・」
勇者「僕の誕生日だって祝ったんだ」
勇者「魔王の誕生日を祝うために、和平を結んだっていいだろう?」
魔王「・・・こんなことをしても、問題を先延ばしにするだけだ」
勇者「それでいいんだ・・・明日も明後日も、誰かの誕生日を祝えばいい」
勇者「そうやって、分かり合う時間を作ろう」
勇者「・・・すべての魔物を統治しているわけじゃないんだろ?」
魔王「確かに・・・わざわざ矮小な人間共を襲う連中は、我の統治下にはいない」
魔王「──だが、そんな事実を話しても納得できるわけがない。和解など不可能だ」
勇者「やれるさ」
魔王「どうして、そう思える?」
勇者「人間も魔物も、誕生日を祝えるんだから」

コメント

  • 優しい世界ですね!
    そうですよね、毎日誰かの誕生日を祝っていたら、決戦の日はこなくてすむんですよね。
    でも、勇者が裏切られたわけじゃなくてちょっとほっとしました。

  • ハッピーバースデー!
    優しい世界に泣きました。そしてまさかのパパ誕生日に腹筋が崩壊しそうです。

  • 勇者は仲間を信じられず、一人で戦おうとするところで、魔王に勝てるのか心配になりました。しかし、その心配もなくなりました。緊張感と緩和のストーリーでした。

コメントをもっと見る(6件)

ページTOPへ