盲目の神絵師

富士鷹 扇

エピソード3 第二神楽(脚本)

盲目の神絵師

富士鷹 扇

今すぐ読む

盲目の神絵師
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇黒
桜庭 りん(唯一の手がかりだった)
桜庭 りん(こずえちゃんと怪異の匂いが途切れた)
桜庭 りん(もう、助けられないの・・・?)
桜庭 りん(狗飼さん達はこれからも)
桜庭 りん(ずっと離れ離れに──)

〇田園風景

〇神社の石段
桜庭 りん(どうしたら・・・っ)
狗飼 みきお「・・・」
九曜「桜庭先生」
桜庭 りん「んぇっ」
桜庭 りん「な、なに?」
九曜「怪異とコズエ嬢の匂いを感じたのは、いつ頃からでしょうか」
桜庭 りん「えっと」
桜庭 りん「時計が見えないから正確には分からないけど」
桜庭 りん「多分一時間くらい前、だと思う」
桜庭 りん「その前後は全く匂いはしてなかったかな」
九曜「やはりそうですか」
桜庭 りん「時間で何か分かるの?」
九曜「あたくしの推測に、確信が持てました」
桜庭 りん「推測?」
九曜「ええ」
九曜「こずえ嬢を攫った怪異は」
九曜「この村が崇める神」
九曜「蝶番様で、まず間違いないでしょう」

〇黒

〇神社の石段
桜庭 りん「神様が、怪異?」
狗飼 みきお「マジかよ・・・っ」
九曜「この村に伝わる様々な伝承を紐解くと」
九曜「蝶番様は『異空間』を発生させ」
九曜「その『異空間』に漂う怪異であると」
九曜「推測する事ができます」
狗飼 みきお「蝶番様が・・・」
桜庭 りん「その異空間にこずえちゃんは閉じ込められているの?」
九曜「どちらかと言えば、迷い込んでしまった」
九曜「と言った方が正しいのかもしれませんな」
九曜「先生が怪異とこずえ嬢の匂いを感知したのが1時間前」
九曜「つまり、20時30分から21時30分の間のみ」
桜庭 りん「そうだね」
九曜「この時間帯は」
狗飼 みきお「第一神楽の最中か」
桜庭 りん 「第一神楽?」
九曜「夜つがい祭りでは」
九曜「大量の供物を蝶番様に奉納する為」
九曜「時間を分けて三度、神楽を行います」
狗飼 みきお「それが第一神楽、第二神楽、第三神楽だ」
狗飼 みきお「第一神楽は20時30分から」
狗飼 みきお「第二神楽は22時30分から」
狗飼 みきお「第三神楽は24時30分から」
狗飼 みきお「それぞれ1時間ずつ舞を奉納している」
桜庭 りん 「一晩で三回も舞いを踊るんだ・・・」
狗飼 みきお「五年前にこずえが神隠しにあった時も」
狗飼 みきお「神楽の最中だったな・・・」
九曜「異空間に居る蝶番様へ供物を捧げる為には」
九曜「異空間への扉を開かねばなりません」
九曜「それが──」
桜庭 りん「夜つがい祭りの神楽?」
九曜「そう」
九曜「神楽が蝶番様の『異空間』への『扉』を開く為の儀式だとすれば」
九曜「神楽が終わると同時に匂いが消えた事にも説明がつきます」
桜庭 りん「神楽が終わって扉が閉まったから」
桜庭 りん「匂いがしなくなっちゃったのか・・・」
狗飼 みきお「こずえは神楽で開いた『扉』を通って異空間に行っちまったと」
九曜「おそらくは」
桜庭 りん「でも、そういうことなら」
桜庭 りん「こずえちゃんを奪還するチャンスは」
桜庭 りん「まだ二回、残ってる?」
九曜「第二神楽、第三神楽が残っておりますからな」
桜庭 りん「まだ助けられる!」
狗飼 みきお「逆に言やあ」
狗飼 みきお「あと二回しかねえ・・・っ」
桜庭 りん「夜つがい祭りは今年が最後だもんね・・・」
桜庭 りん「そういえば」
桜庭 りん「蝶番様が異空間を発生させるだけの怪異なら」
桜庭 りん「飢饉の時に食料はどこからもってきたの?」
九曜「飢饉が起こった年より数年前」
九曜「豊作であったその年の収穫の半分程が盗難にあったと」
九曜「記録に残っております」
狗飼 みきお「飢饉を救った食料は、元々は村から盗まれた食料だったってことか?」
九曜「そう推測しております」
桜庭 りん「うーん?」
桜庭 りん「怪異が村の為にあらかじめ食料を貯蓄してくれて」
桜庭 りん「必要な時に配ってくれた?」
桜庭 りん「なんというか」
桜庭 りん「随分と『善い』怪異だね」
九曜「怪異に善悪はございません」
九曜「ただ、人間にとって『都合がいい』怪異と」
九曜「『都合が悪い』怪異がいるだけです」
桜庭 りん「だとしても都合がよすぎない?」
九曜「蝶番様を都合よく、使えるようにしたのでしょうな」
狗飼 みきお「あ?」
狗飼 みきお「誰かが便利に使っているってのか?」
桜庭 りん「誰が・・・」
九曜「当時の神主、そしてその子孫達以外におりますまい」
桜庭 りん「そうか・・・」
桜庭 りん「神楽で扉を開け閉めしているって事は」
桜庭 りん「神社の人たちは異空間の事を当然知ってる・・・?」
狗飼 みきお「なら、神主にこずえが異空間に迷い込んでいると話せば・・・!」
桜庭 りん 「出してくれるかも!」
九曜「無理でしょうな」
桜庭 りん「なんで!?」
九曜「蝶番様を使役できていたのは」
九曜「大昔の神主と、その子孫たちです」
九曜「現在の神主たちには不可能でしょう」
桜庭 りん「え?」
桜庭 りん「それは、どういう・・・」
狗飼 みきお「!!」
狗飼 みきお「ああ! くそ! そうか!」
狗飼 みきお「火事で・・・!」
九曜「そう」
九曜「この神社は、30年ほど前に一度火事で全焼し」
九曜「神主一族は全員亡くなっております」
九曜「そしてその際」
九曜「神社に保管されていた資料なども 全て焼失してしまいました」
九曜「現在、神社や祭りを管理している他所から派遣された神主は」
九曜「ほとんど何も知りません」
九曜「見よう見まねで夜つがい祭りを再現し」
九曜「不幸にも『扉』を開く事が出来てしまっているようですが」
桜庭 りん「はた迷惑な・・・」
九曜「こずえ嬢以外に神隠しにあった人物が居ない事を考えると」
九曜「扉を通る事は容易ではないのでしょう」
狗飼 みきお「そういや」
狗飼 みきお「こずえが消えたあの時」
狗飼 みきお「俺はその場所にすぐ駆け寄ったが」
狗飼 みきお「異空間なんか行ってねえ」
九曜「『扉』は一定の位置に留まっていないのやも」
桜庭 りん「目に見えなくて移動する『扉』・・・」
九曜「そして年に一度、神楽の間の合計三時間しか出現しない」
桜庭 りん「人が『異空間』に迷い込む確率はかなり低そうだね」
桜庭 りん「こずえちゃん、なんて不運な子なの・・・」
狗飼 みきお「あいつは昔から運が悪いからなあ・・・」
九曜「意図的に異空間への扉を見つけることはほぼ不可能」
九曜「しかし扉の匂いを辿る事が出来る先生ならば」
桜庭 りん「確実に扉の出現位置を特定出来る」
桜庭 りん「五年も一人で頑張ってるこずえちゃんを」
桜庭 りん「助けてあげなきゃね」
狗飼 みきお(もうすぐ、助けに行くからな・・・っ)
九曜「次の神楽まであと一時間弱ありますな」
桜庭 りん「今のうちに人を集めて」
桜庭 りん「大勢で異空間に突入した方がいいんじゃない?」
九曜「いえ」
九曜「扉が見えない以上、突入も脱出も非常に困難です」
九曜「人数が多ければそれだけ」
九曜「異空間に取り残されてしまう人が出る可能性が高まります」
狗飼 みきお「二次災害は避けてえな」
九曜「必要最低限の人数、つまり我々だけでの突入が理想的でしょう」
狗飼 みきお「・・・」
狗飼 みきお「なあ」
狗飼 みきお「今更なんだが、その、いいのか?」
桜庭 りん 「ん?」
狗飼 みきお「異空間への突入にも脱出にも」
狗飼 みきお「どうしたってあんたが必要だ」
狗飼 みきお「だから あんたにも異空間に来てもらわないといけねえ」
狗飼 みきお「命の危険だってあるかも・・・」
桜庭 りん 「気にしないでよ」
桜庭 りん 「転んでる所を助けて貰った恩を さっさと返したいだけなんだから」
桜庭 りん 「受けた恩は、出来るだけ早く返さなきゃ利子がついちゃうからね」
狗飼 みきお「・・・ありがとよ」
九曜「あたくしも」
九曜「是が非でもついてゆきますとも」
狗飼 みきお「爺さん、あんたはなんで・・・」
九曜「ふふ・・・」
九曜「怪異にあいまみえるチャンスなぞ」
九曜「滅多にございませんからな!」
狗飼 みきお「・・・」

〇黒
  ――第二神楽開始──

〇神社の石段
桜庭 りん「!」
桜庭 りん「怪異とこずえちゃんの匂い!」
桜庭 りん「扉が開いたんだ!」
狗飼 みきお「匂いはどこからだ!?」
桜庭 りん「さっきと全然違う場所!」
九曜「やはり移動していますか」
桜庭 りん「こっち!」

〇林道
桜庭 りん 「今だよ!」
桜庭 りん 「そこでふわっと跳ねて!」
狗飼 みきお「こうか!?」
桜庭 りん 「違う違う!」
桜庭 りん 「もっと昼寝の時の夢みたいにふわっと跳ねてよ!」
狗飼 みきお「分かんねえよ!」
狗飼 みきお「さてはあんた、教えるの下手だな!?」
桜庭 りん 「うるさいなあ!?」
桜庭 りん 「よく言われるよ!」
九曜「参りましたな」
九曜「予想より扉の移動が早いようで」
桜庭 りん「しかもふわふわ上下してるうえに」
桜庭 りん「けっこう小さいみたい」
狗飼 みきお「ぜえ、ぜえ」
狗飼 みきお「くそっ」
狗飼 みきお「全然扉をくぐれねえ!」
桜庭 りん 「狗飼さんの手が何度か扉に当たったりしてるんだけどなあ」
九曜「完全に体が扉を通らなければ」
九曜「異空間には行けないのでしょうな」
狗飼 みきお「馬鹿見てえに動き回る!」
狗飼 みきお「見えもしねえ!」
狗飼 みきお「触った感触もねえ!」
狗飼 みきお「オマケに完全に通らねえと意味がねえ!」
狗飼 みきお「そんな扉、どうやって通りゃいいんだよ!」
桜庭 りん 「・・・」
桜庭 りん 「ねえ」
桜庭 りん 「今、何時?」
九曜「23時12分ですな」
狗飼 みきお「あと18分で扉がしまっちまう・・・!」
桜庭 りん 「・・・」
桜庭 りん 「諦めよう」
狗飼 みきお「あ!?」
桜庭 りん 「小さくて動く扉の位置を」
桜庭 りん 「言葉で指示するのは難しいからさ」
桜庭 りん 「もう三人で行くのは諦めようよ」
九曜「・・・まさか」
桜庭 りん「私一人なら」
桜庭 りん「扉を通るのは簡単だよ」
桜庭 りん 「だって私には扉の場所が正確に分かるんだから」
狗飼 みきお「一人で行く気か!?」
桜庭 りん 「うん」
九曜「危険です!」
桜庭 りん 「知ってるよ」
狗飼 みきお「まて・・・!」
桜庭 りん 「待ってる時間なんかないよ」
桜庭 りん 「扉は・・・」
桜庭 りん 「ここ!」

〇林道
桜庭 りん 「・・・!」
桜庭 りん (ここが、蝶番様の異空間・・・!?)
桜庭 りん (今まで嗅いだことがない空間の匂い)
桜庭 りん (それに)
桜庭 りん (かなり近くに、怪異がいるね)
桜庭 りん (でも、私の侵入には気が付いていないのかな)
桜庭 りん (向こうの方でふわふわ空中に浮かんでるような・・・)
桜庭 りん 「!?」
桜庭 りん「九曜さん達の匂いがしなくなった!?」
桜庭 りん「扉がもうしまっちゃったの!?」
桜庭 りん「まだ時間じゃないのに・・・」
桜庭 りん「・・・っ」
桜庭 りん「分かんない事だらけだけど」
桜庭 りん「とにかく、こずえちゃんと合流しなきゃ」

〇古びた神社

〇林道
桜庭 りん「んぅ」
桜庭 りん「こっちだね」

〇古びた神社
狗飼 こずえ「うう・・・」
狗飼 こずえ「誰か、助けて・・・」
桜庭 りん「貴方が、こずえちゃんかな?」
狗飼 こずえ 「!?」
狗飼 こずえ 「え、わ!」
狗飼 こずえ 「ひ、人!?」
桜庭 りん「やあ」
桜庭 りん「助けに来たよ」
狗飼 こずえ 「う、うわああん!」
狗飼 こずえ 「ありがとお!」
桜庭 りん「よしよし」
狗飼 こずえ 「なんか、変な感じの場所に来ちゃって!」
桜庭 りん「うんうん」
狗飼 こずえ 「化け物みたいなのも飛んでるし!」
桜庭 りん「もう大丈夫だよ」
狗飼 こずえ 「も、もう、5日も!」
狗飼 こずえ 「ずっと一人でぇ!」
桜庭 りん「うんうん」
桜庭 りん「・・・?」
狗飼 こずえ 「もうぅ・・・!」
狗飼 こずえ 「5日もぉ・・・!」
狗飼 こずえ 「こんな場所に閉じ込められてえ!」
桜庭 りん「うん?」
狗飼 こずえ 「うあああんっ」
桜庭 りん「え、まって」
狗飼 こずえ 「うええん!」
桜庭 りん「ちょ、え、こずえちゃん!?」
桜庭 りん「5日?」
桜庭 りん「5日ってなに!?」
狗飼 こずえ 「うええ・・・え?」
狗飼 こずえ 「私がここに閉じ込められた日数ですけど・・・」
桜庭 りん「閉じ込められて5年経ったんだよね?」
狗飼 こずえ 「え、いえ」
狗飼 こずえ 「5年もこんな所に居たら死んじゃいますって」
狗飼 こずえ 「まだ5日しかたってないですよ?」
狗飼 こずえ 「ほら」
桜庭 りん「・・・ごめん、目が見えないんだ」
狗飼 こずえ 「そうなんですか!?」
桜庭 りん「スマホを見せようとしてくれたの?」
狗飼 こずえ 「はい・・・」
狗飼 こずえ 「カレンダーで日にち分かるし・・・」
桜庭 りん(嫌な予感がする・・・)
桜庭 りん「そ、そのスマホでは」
桜庭 りん「今は何年の何月何日になってるの、かな?」
狗飼 こずえ 「2018年の10月25日ですけど・・・」
狗飼 こずえ 「それがどうしかしました?」
桜庭 りん(5年前の日付・・・!)

〇黒
桜庭 りん(もし、こずえちゃんの言う事が正しくて)
桜庭 りん(彼女がここに閉じ込められて)
桜庭 りん(まだ5日しか経っていないなら)
桜庭 りん(この異空間での1日は)
桜庭 りん(現実の1年!?)
桜庭 りん(ここでは、365倍の速さで時間が過ぎるの!?)
桜庭 りん(・・・)
桜庭 りん(ここに来てもう5分は経ってる・・・)
桜庭 りん(365倍の速さで時間が経過するなら)
桜庭 りん(すでに1825分)
桜庭 りん(つまり30時間以上経ってる・・・!)
桜庭 りん(第二神楽どころか)
桜庭 りん(第三神楽も終っちゃった!?)

〇古びた神社
桜庭 りん「ど、どうしよう・・・!」
狗飼 こずえ 「?」
狗飼 こずえ 「どうしたんですか?」
桜庭 りん「ここから出る手段」
桜庭 りん「もう無いかも・・・!」
狗飼 こずえ 「んえ゛!?」

コメント

  • 脱出ですか。厄介な問題ですね
    蝶番様がどう出てくるか楽しみです
    そして絵師としての技量をどこで発揮するのかも!

  • 怪異に溢れていて、設定も凝っているし、人物もドラマチックですね‼
    魅力的なお話です。今は冒険ですけど、彼女がどういう絵を描くのかも楽しみです。まだまだ話は序盤なんでしょうね。
    時間の部屋というのが大変そそられました😃

  • こんにちは!
    一日が1年、ゾッとしますね😭
    説明へたに対してきれつつよく言われる!!がとても可愛かったです💕

コメントをもっと見る(8件)

成分キーワード

ページTOPへ