権三郎の考え(脚本)
〇屋敷の寝室
権三郎はショックを受けていた。今までは、あんなふうに拒絶してくる人間はいなかった。
それどころか権三郎の側室になろうとするものばかりだった。そのため、拒絶ということに慣れていないのだ。
権三郎の若い女中が顔を見せることが許されていないのも同じ理由だ。権三郎は、幼い頃から優秀で、狙われていた。
それを案じた権三郎の父、池田大炊頭継政が女性を遠ざけた。しかし、女性が遠ざけられたことにより、不利益も発生した。
例えば、権三郎は、身分が高い武家は受けるのが当たり前な閨教育を全然受けていなかった。それに、女性経験も少なくなっていた。
そのため、今回の千代に対する気持ちは初めてだった。しかし恋だというのは自分でわかっていて、言い寄ったが見事に振られたのだ
権三郎はショックだったが何も言わずに、忘れるために寝るしかなかった。そうでないと明日、警戒される可能性もあるからだ。
〇屋敷の一室
権三郎は次の日の朝になっても、千代と密かに接触する方法を考えていた。そして、告白を受けてもらおうとしていた。
権三郎はそのため、意識がそこにあらずのような状態だった。そこへ兼田三郎がやってきた。
兼田三郎「若様、おはようございます」
権三郎は兼田三郎の問いかけに気づいていなかった。
兼田三郎「若様!」
池田権三郎政隆「三郎、すまぬ、ボーっとしていた」
権三郎が最初気づかなかったことで、兼田三郎は、何かあるのではないかと感じ取っていた。
兼田三郎「若様、何かあったのですか。様子が変ですよ」
池田権三郎政隆「何にもない、気にするな」
兼田三郎「若様、言いたくないのは今でなくてもいいですが、後で絶対に言ってください。若様、私のことを信頼して欲しいです」
兼田三郎「私は養子入りの先でも、若様についていきます」
池田権三郎政隆「わかっている。そなたは我が側近だ。幼い頃からともに過ごしてきた」
兼田三郎「まあいいでしょう。今日の予定をお伝えさせていただきます」
池田権三郎政隆「ああ」
兼田三郎「まずは、土倉殿と合っていただきます」
池田権三郎政隆「じいか?それとも息子のほうか?」
兼田三郎「どちらもです。お二人共、こちらに来られるそうです」
池田権三郎政隆「そうか。じいに合うのは久しぶりだから楽しみだ」
兼田三郎「若様、悩みがあるのならば土倉殿に言われてはどうでしょう。土倉殿は幼い頃より若様に守役として仕えていたのです」
池田権三郎政隆「そうだな、考えておく」
兼田三郎「若様、次に剣術の鍛錬を行います。また、殿と共に、視察に行く予定です。それで今日は終わりです」
池田権三郎政隆「そうか」
〇屋敷の大広間
土倉弥兵衛が待っているところに、権三郎と兼田三郎が入ってきた。
土倉弥兵衛一秀「若様、お久しぶりです。また、ご機嫌麗しゅうございます」
池田権三郎政隆「じい、久しぶりだな」
土倉弥兵衛一秀「若様がご立派になられているようでじいはとても嬉しゅうございます」
兼田三郎「若様は、常に勉学に励んでおいでです。土倉様が心配なさることはないほどご立派になられました」
土倉弥兵衛一秀「兼田殿もお久しぶりですね。この老体が若様のおそばに使えることができなくなった中、よく支えられているのでしょう」
土倉弥兵衛一秀「爺にとっては若様が元気で成長している姿を見るのは楽しみですから」
池田権三郎政隆「そう言われて悪い気はしないな」
兼田三郎「若様、悩みがあるのでしょう。言われては如何ですか」
池田権三郎政隆「そうだな。三郎は席を外せ。私は爺のみと話したい」
兼田三郎「分かりました。失礼させていただきます」
そういうと、兼田三郎は部屋を出て、周りにいた護衛や小姓も一斉に去った。
土倉弥兵衛一秀「若様、悩みとは何でしょうか」