新しい仕事先(脚本)
〇屋敷の門
千代「ここが今日から私が働く場所かあ。殿様のお子様のお屋敷で働けるなんて私は恵まれているわ。お父様に感謝しないと」
千代「気合を入れましょっ。お母様はこんなに良い着物をご用意してくださったし」
千代「トントン、失礼します。誰かいませんか」
侍女長「はーい、何方ですか」
千代「私、千代と申します。池田様のお屋敷で今日から働くことになりました。よろしくお願いします」
侍女長「よく来られましたね。お千代さん、宜しくね。私ははるよ。この屋敷の奥を取り仕切らせていただいているわ」
千代「よろしくお願いしますお春様」
侍女長「緊張しないで、楽にしてね。後この屋敷の主人である権三郎様のことは若様て呼んでね」
千代「はい、よろしくお願いします」
侍女長「まずは屋敷の中に入って」
千代「はい」
〇大きな日本家屋
千代は、侍女長に連れられて、屋敷の表玄関にやってきていた。
千代「わあーすごく大きいです。こんなに大きいお屋敷は見たことがありません」
侍女長「それはそうでしょう。若様が、殿より頂いたお屋敷ですから。本来ならば若様は江戸に住むのですが、特別な許可を頂いたのです」
侍女長「若様は養子入りが決まっています。その前に2年ほど自身の国下に帰るが良いと幕府が許可を与えました」
侍女長「聞けばこの件は若様が仲良くさせていただいている老中様がとりなしてくださったご好意だとか」
侍女長「殿も普段はお一人になられる国下にて自身の息子であらせられる若様と過ごせ、お喜びのようです。若様はよく外出なさられます」
侍女長「今も恐らく、殿について、統治を学ばれているのでしょう。いずれ控えられている婿入りに向けて。若様は大変優秀なのです」
侍女長「名君となられることは間違い無いでしょう。そんなお方にお仕えすることができるのですから、励みなさい」
千代「はい!」
侍女長「良いお返事ですわ。これから中で業務内容を伝えます」
千代「はい」
侍女長「入りなさい」
千代は、侍女長に連れられて、屋敷の奥まで連れて行かれた。
〇畳敷きの大広間
千代と侍女長は、屋敷の奥の、大きい広間にやってきていた。そこで、下女としての心得などを教えてもらうのだ。
侍女長「座りなさい」
千代「はい」
侍女長「これからこの屋敷で働く心得を教えます。心として聞いてください。破った場合は解雇もあり得ます」
千代「わかりました。よろしくお願いします」
侍女長「まず第一に重要なのは、若様の指示には従うこと、そして、若様が通られた暁には頭を下げることです」
侍女長「そして、次に重要なのは若様を魅惑しないこと。若様にはすでに婚約者がおいでです。若様は婿入りなさるのです」
侍女長「その話が破談になる事や、婿入りが無くなることは認められません。それ故に、若様には側室は作らないようにしていただきます」
侍女長「若様が側室を作られるのは婿入りの後に、奥様とお子を作られるの、若しくはなかなか出来なかった場合のみです」
侍女長「先方は分家といえど独立大名。揉め事は起こすべきではありません。分かりましたね。若様には絶対に魅惑をしないでください」
千代「はい、分かりました」
侍女長「若様が通られる時は絶対に顔を見せてはいけません。万が一にも若様が、恋をされてしまうのは認められないのです」
侍女長「これは殿の意向でもあります。若様に顔を見せることが許されているのは私などの50を超えた女中とご家族、そして乳母様のみです」
千代「はい」
侍女長「次に、休日や給金に関してです。給金は、毎月の最終日に渡します。物品で渡すものもあります。お仕着せは至急です」
侍女長「そして、休日を取る場合は20日以上前に届け出を出し、許可を得る必要があります。例外は基本的にありません」
侍女長「ただし、例外として、家族が死亡、病気になった家族がいる場合は特例として認めます」
千代「分かりました」
侍女長「勤務時間は、朝番の場合は、朝5時からです。そして、終了は5時です。昼番は朝8時から夜8時です。夜番は夜5時から朝5時です」
侍女長「それぞれのは交代で行います。基本的に夜番が1番少なく、昼番が1番多くなっています」
侍女長「また、各番には番長がいますので、割り当てを聞いたら、番長のもとに勤務開始10分前に挨拶に行ってください」
侍女長「番長が教えてくださります。また、割当は、木の板がありますのでそこに書いています」
侍女長「しばらくは先輩侍女の”あや”をつけますので、詳しいことはあやに聴いてください。あやがおしえてくれるでしょう」
侍女長「あや、入りなさい」
あや「失礼いたします。あやと申します。お千代さん、よろしくね」
千代「よろしくお願いします」
侍女長「これで説明は終わりです。分からなかったことはおあやに聞いてね。あとは最後にこの契約書にサインをしてください」
千代「はい、署名完了しました」
侍女長「これであなたも正式に女中の一人です。励みなさい」
千代「はい」
あや「お千代さん、寮の部屋に連れて行ってあげるわね。ついてきて」
千代「ありがとうございます」
こうして千代は、権三郎の屋敷で働き始めた。